※阿伏兎→威高です。 阿伏兎にとって高杉晋助という人間は鬼門である。 鬼門であるからして極力近寄りたくないのが現状だ。 幸いにも上司は高杉にゾッコンで手放す気配も無いので阿伏兎が進んで距離置き、上司にはなるべくあちらに通って貰って、こっちには来ないように仕向けることで鬼門を回避するのは成功したかに見えた。 そもそも高杉は阿伏兎を悪戯に揶揄うことを好んでいる節がある。これに上司である神威が加われば最悪のコラボレーションだ。 そういうことは戦場で別の方向に発揮すべきだと阿伏兎は思っている。 故に阿伏兎は高杉晋助を鬼門に設定し徹底的に避けていたのだ。 「・・・・・・」 避けていたのに出会うのは最早必然である。 云っておくが狙った訳では無い。断じてない。 そもそも此処は地球でも無ければ春雨でも無い。 巨大なワープゲートのあるパスステーションに程近い宿での出来事だ。 神威は食事にと他の連中と出ていたし、阿伏兎は事後処理での大規模のデータ送信で基地局のサーバー使用を申請するのとその他武器弾薬、食糧の発注をやり終えて、珍しく一人部屋を取れたのでこのままエロビデオでも見ながら酒を呷ろうとしていた所である。 ( なんで・・・居るかな・・・! ) 広間を過ぎてエレベーターに乗ろうとしたところで出遭って仕舞った。 「よ、よお・・・」 高杉はにやりと口端を歪めると阿伏兎の前を過ぎて「ちょっと来い」と先を歩いて仕舞う。 従う義理は無いのでそのままエレベーターに乗り込もうとしたところで奴が振り返った。 「来いよ、阿伏兎」 ( それで何で付いて行っちゃうかな・・・! ) 泣きたいのは己である。 己の意思薄弱さである。 高杉の有無を言わせぬ物言いと態度に阿伏兎は弱い。 そもそも俺様タイプに仕え慣れている所為か阿伏兎にとって矢張り高杉は鬼門だった。 その上高杉の様子はどう見ても只ならぬ様で、明らかに誰かと寝てました、という雰囲気を引き摺っていて一人で歩かせるのが躊躇われた。日ごろから神威が口にしているが、高杉は眼を離すと直ぐ誰かを誑し込むからいけないとかなんとか、弱くて脆弱な種族だから護らないといけないだとか、そういうのを聴かされているだけに高杉を放っておくことが阿伏兎には出来ない。 過保護だとは思うが、そもそも高杉の周りの人間は皆高杉に過保護なのだからこれはこの男のデフォルトなのである。 全く罪な男である。 けれどもそんなふらふらした男に名前で呼ばれると付いて行っちゃうのが男である。先にあるのが碌でも無いこととわかっているのに 、この男の振る舞う酒とそしてこの男を肴に酒を呑むという優越感が阿伏兎を刺激した。 ああ、チクショウ。 高杉が慣れた様子で部屋に戻るとどうやら一人らしい。 途中高杉の護衛が何人か居たがフロアを丸ごと借りているのか扉の前には誰もいなかった。 「おい、脱げ」 「は?」 高杉に促されて部屋に入るなりこれだ。 開口一番にこれだ。 何のことか全く阿伏兎には理解できない。 それを察した高杉がもう一度低い、よく通る聲で述べた。 「着てるモン脱げっつってんだよ」 「いやいやいや、そういうつもりはねぇんだよ」 「どういうつもりだよ」 ずい、と高杉が阿伏兎に近付いてくる。 だからそれ以上近付くなって、ムラムラするから! 阿伏兎が顔を背けながら厭だと云えば高杉が意地の悪い笑みを浮かべて云った。 「てめぇの義手見せろっつってんだよ」 「は?え?」 「餓鬼が最近てめぇが義手付けたって云ってたからよぉ、地球産なんだろ?何処で発注した?」 あ、成程、そういうことか。 単純に興味らしい。 止む無く息を吐いてから腕を捲るが、全体を見せるには遠い。これでもいいかと見せれば高杉がそれをしげしげと眺め指で検分するように触った。 感覚は、無い。 感覚は無いのに高杉が無機質になった己の腕に触れる度に失くした腕がぞわりとするようで、妙な心地になる。 「根本どうなってる?」 「あ、ああ・・・」 仕方無いので脱いでやる。そして根本に付いている留め具のロックを解除して腕を外して高杉に渡せば高杉は更にそれを検分した。 「イイ出来だ」 「江戸一の職人だとかに頼んだんだよ、地球産はイイもンが揃ってらぁ、少し感覚は遅れるが、それでも生身に劣るって感じはしねぇな」 「へぇ」 裏返したり接続部分を確認したりと高杉は興味津々だ。 結局出された酒と、肴にと出された数々の食事に阿伏兎は屈した。 ( 卒がねェんだもんなー・・・ ) あの団長がどっぷり惚れるわけである。 当の高杉は胡坐をかきながらも阿伏兎の腕の検分だ。 小柄な男だったが、矢張り妙な色気があっていけない。 この男を肴に酒を呑むのは美味いが、既にこの男絡みで二度もヌいたことがある身としては目の毒だ。 針のムシロである。 ( 抜いちゃったしよ・・・ ) はあ、と溜息を吐きたい。 いっそのこと、三度目の正直ってやつで本番をしては不味いか。 ( 不味いだろ・・・ ) そんなことをすれば阿伏兎の命が無い。 止む無く眺めるだけにするが、無暗矢鱈とこんな男を放りだしている鬼兵隊もいけない。誰かが張り付いておくべきだろう。 そもそもひらひらした服なんか着て、夜兎ってぇのは本能に忠実なのだから、野生の獣と同じだ。 ひらひら動くものに自然と目が行く、男なんざにこれっぽっちも興味も無いし、まして身体が反応するなど有り得ないがこの男に限ってはそれが通じない。色気だとか艶気だとか、目線がエロいだとか、胡坐かいたところから見える脚とかちらちらする太腿だとか、もういい加減にしろっつうくらい、やばい。 ( 勘弁してくれよ・・・ ) その癖一番堪んねぇのは眼だ。 誘うような眼、全てを見透かしているような眼、地獄を知った眼だ。 途方も無く遠い彼岸に達した眼、死んでる癖に、怨嗟の炎を宿した美しい眼。 脆弱な種のくせに、そんな途方も無い眼をした男を阿伏兎はこの男以外に知らない。 だからこそ、手を伸ばしたくなる。 この男の駄目なところは其処だ。 全てを呑みこむほどの絶望を孕みながらも、この男を視ていると悲しくなる、切なくなる。どうしても手を伸ばさないといけないようなそんな気になる。ただ色気があるだけならいい。一発でも二発でもヤって、団長のイロだから手が出せないっていうなら、似たような女を見付けて発散させればいい。でも駄目だ。 この男は世界中どこを探しても他にいない。それほどの価値を見出して仕舞う男だ。 現に、阿伏兎は己の失くした腕をひとつこの男に触れられているだけで失った筈の感覚が蘇るようにぞくぞくとしているではないか。 ( 畜生・・・たまんねぇ・・・ ) 叶うのならこの男を組み伏せて、犯したい。 団長を受け入れているのなら阿伏兎だって可能だろう。 それに高杉はそういう意味で阿伏兎を誘っているのだ。 それがわからない阿伏兎では無い。 神威のものでなければ阿伏兎はとっくにこの男とヤっていた。 それが一度きりだろうが、何度もだろうが、必ずヤっていた。 神威がこの男に溺れるように同じ意味で溺れただろう。 己を穿って欲望のままに中に注いで、孕むわけでも無いのに、それをシたくなる。 脚を掴んで開かせて、己を懇願させて屈服させたい。閉じ込めて犯しぬいて、強請らせたいという悪趣味な欲が湧く。 未だに神威がそれをしないのが阿伏兎には不思議なほどだ。 けれどもあの神威でさえ高杉は手を焼いているのだ。 この男は不味い。この男に手を出したら破滅だ。 ( だから危険なんだ・・・ ) 迂闊に本能に呑まれてはいけない。 高杉は危険だ。 手を出してはいけない。 いけないと思うのに、ふと気付けば高杉の顔が驚くほど近くにあった。 「感覚はあンのか?」 「ねぇな、痛覚機能も付けれるらしいが、俺にはいらねぇから切った」 「てめぇのナニ触ってもわかんねぇってか」 ごくり、と喉を鳴らす。いっそのこと三度目の正直でヤっちまうかという欲望がもたげる。 あ、ヤベ勃ちそう。 多分ちょっと固くなってる。 「あんまり寄るなって・・・」 だから不味いのだ。だから不味い。 こんなところを団長に見られでもしたら・・・。 「帰って来ないと思ったら裸でナニしてんの?」 咄嗟に殺気に気付いて避けなければ危なかった。 ゴッ、と床に亀裂が入る。 振り返れば神威だ。我らが団長サマである。 「いや、違うから!これ違うから!俺ちょっと義手見せてただけだから!」 「いいカラダしてやがる、神威てめぇもこんくれぇになれよ」 高杉は何処吹く風で酒を呷りながらも野次を飛ばすのだから堪らない。 「違うからね!これ違うから!ちょ!高杉てめぇもちったあ、味方しやがれ!」 阿伏兎の悲鳴虚しく、神威は殺しの笑顔のまま阿伏兎に向き直った。 「鳳仙の旦那も腕なんかじゃなくてもぎ取ればよかったんだ」 「取るって何をぉ!?俺のチ○コ!?」 「その汚いのを俺が毟ってあげるよ」 さようなら阿伏兎、こんにちは阿伏子! このままカマザイルに、って冗談じゃねぇよ! 畜生!やっぱりてめぇは・・・! 「鬼門だ・・・!」 阿伏兎の悲鳴虚しくその日、宿の床が崩落した。 17:三度目の正直、ならず! ちなみに高杉の口添えで阿伏子になるのは回避できました。 |
お題「長針と短針」 |
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