※お題01「03:鍵」と「04:祝杯後の話」お題02「06:ゴシップの真相」の続き。現代パラレル。芸能人。


神威の本業はモデルである。モデルであるからしてそれなりに忙しいが、本来なら忙殺される程忙しくは無い筈だ。
しかし最近メディアに露出することが多い。事務所の方針で俳優に転向させたいようだった。
モデルならよくあることだ。そもそもモデルを専業でするのは少数派である。
神威もその例に洩れず、バラエティ番組に出たりドラマに出たりと忙しくなっていた。
別にどうでも良い仕事だった筈だ。元々歩いていたら聲を掛けられただけ。
マネージャーである阿伏兎の云うがままに仕事をしていただけ。
けれども同じ事務所の先輩である高杉晋助に出逢えたことは神威にとって僥倖であった。
ひょんなことから神威と高杉が音楽ユニットを組むことになった経緯から神威はこの業界に別の意味を見出していた。
高杉晋助という得難い存在を知ったからこそ神威はこの業界に残る為に面倒な仕事も引き受ける。
そしてなんとかほぼ同棲にまで持ち込んだのだ。
これも神威の苦労が実った瞬間である。
目下幸せな筈だ。神威は高杉と同じ時間と空間を共有できている筈だった。

「そもそもクリスマスもまだだっていうのに正月番組とか何も目出度く無いし」
不機嫌極まりない神威に苦笑いを浮かべながら宥めるのは阿伏兎だ。
そう、正月番組の収録である。クイズだったりどっきりだったり、そういう企画系の番組だ。
確かにクリスマスも来ていないのに収録と云われてもさっぱりだが、この業界はそういうものである。
そもそも神威はモデルなのだからまだ寒い時期に夏服を着たり、暑い時期に秋物を着たりするのは普通のことなのだからわかっている筈だが、氷点下まで下がっている神威の機嫌降下の原因はどうやら、このところどころかクリスマスも高杉と過ごすことができない点にあるらしい。
このままだと仕事を放棄しかねない勢いだ。
現に神威は不機嫌そうにゴミ箱を蹴飛ばしている。
( ああ・・・限界かねぇ・・・ )
阿伏兎が息を吐きながらどうにか朝に手を回していた連絡が漸く鳴った。
携帯画面に表示される『高杉』の文字に神威はぴくりと反応し光の速さで通話を押す。
「もしもし・・・どしたの?」
そもそも高杉からの連絡など珍しいのだ。
基本的に連絡は神威からである。連絡無精の神威がこれほどマメになるというのだから阿伏兎からすると信じられないが、驚くことに神威は高杉に関してのみマメさを発揮した。
そもそもそうしないと高杉が離れるというその一点に尽きるのだが、神威の努力あってこその現在の関係である。
そして神威の機嫌が降下しているこのタイミングで高杉からの連絡は阿伏兎が裏から手を回して神威の様子をあちらに伝えた効果である。褒めろとは云わないが感謝くらいして欲しい。
『終わったらハワイ』
「へ?」
『連れてってやる、正月くれぇ空いてンだろ』
「・・・行くっ!絶対行く!」
『じゃあもうちっと頑張れよ、色男』
ぷつん、と電話が切れるあたりは高杉らしいが、高杉とて今は収録で台湾に行っている筈だった。忙しい合間を縫って電話をしてきてくれただけで奇跡である。先程の機嫌はどこに行ったのか、神威はシャキーンと効果音が付くくらい元気に立ち上がり、そして「っしゃ!」と気合なのか歓声なのかがあがりまるで別人のように、その綺麗な顔に笑みを乗せて阿伏兎にスケジュールを尋ねてきた。



怒涛の収録ラッシュを乗り越え辿り着いたのはリゾート地である。
高杉と四日間ずっと一緒だ。仕事も無いのでずっと!
天国である。ハワイ万歳。
あの後の全ての収録を神威は乗り越えた。いつもにこにこ芸能人の鑑である。
それも偏にこの休暇の為だ。
高杉とずっと居れるなんて滅多にない。お正月万歳。
もうずっとお正月でいい。永遠に続け俺の正月!
浮かれる神威だったがホテルでばったりあった人物にその浮かれ気分は消沈した。
高杉の友人である。
坂田銀時と桂小太郎、そしてがはは、と背後で笑う坂本だ。
「ダヨネー・・・ハワイって御用達だよネー・・・」
結局いつもと同じである。
どうせこのあと部屋で飲んでどんちゃん騒ぎだ。
それを想像すると神威はげんなりした。
高杉と二人きりだと浮かれていた自分が莫迦みたいだ。
そもそもなんで皆ハワイなんだ、お前らいつも来てるなら他所へ行け、グアムとか何処でもいいから他所へ行け。
「俺、部屋から出たくない・・・」
一気にむくれる神威に高杉は笑みを浮かべる。
こうした素直さが高杉の周りには無い。だからこそ絆される。
そもそもこうして同じ部屋を取って一緒に来るという意味を神威は失念しているらしい。
「そう拗ねんな、後でヤらせてやるから」
高杉の言葉に神威は、ばっと顔を上げる。
既に高杉は前を歩く銀時達に続いている。
聞き間違いでなければ、高杉は今トンデモないことを口にした。
物凄いことを口にした。
「っしゃー!」
ぐ、とガッツポーズをする神威の若さに高杉は背中越しに笑みを浮かべる。
餓鬼なんざちょろい。その餓鬼に絆されているのは自分なのだが可愛いものは仕方ない。
甘やかしているという自覚はあるが、そもそもそのつもりで来たのだから今更だ。
神威の機嫌は今限りなく良い。だだ上がりだ。
ハワイ最高、お正月最高、此処は間違いなく地上の楽園。


08:天にも昇るこの気持ち!

お題「ワーカーホリック」

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