※お題01「03:鍵」「04:祝杯後の話」の続き。現代パラレル。芸能人。


その日、雑誌を捲っていた銀時はとっておきのネタを手に入れた。
メールで知り合い全員にまわしてやろうかと思ったが運良く話題の中心人物とTV局で擦れ違った。
「高杉くーん、晋ちゃーん」
「気色悪ぃ聲で話すな、銀時」
苛ついたような口調で返すのは稀代の俳優、高杉晋助である。
子役時代からの顔見知りなので今更遠慮も何も無い。
銀時は今日はこれからオフだという高杉の背に腕を回し雑誌を見せた。
見せたのはゴシップ雑誌の記事だ。
「ちょっとこれどういうことだよー、女と温泉行ったってぇー?」
ん?と高杉に問えば、高杉はその記事を一通り観た後、これか、とだけ言葉を漏らす。
「え?何々?一夜限りとか?どうみたって若そうじゃん、熟女好きだと思ってたのに宗旨替えした?」
「ちげーよ」
ぐい、と高杉が銀時の腕を振り払った。さも面倒臭いというような態度に追い打ちをかけるのは銀時の悪い癖だ。
「ヅラとかこれ見たら煩いんじゃねぇ?」
「ヅラはもう知ってる」
「え?何にも無かったの?」
桂なら騒ぎそうなものであったがどういうことだろうか、高杉の顔を見れば高杉はうんざりしたように喫煙スペースに入り煙草に火を点ける。銀時もそれに続き、喫煙スペースに入った。運良く今此処には誰もいない。
「ヅラどころか坂本も知ってンぞ、知らねーのはてめぇぐれぇだ、銀時」
「嘘!じゃ、お前これマジで?この子何よ?モデルとか?メイクの子とか食ったの?」
温泉で一泊とくればしけこんだに違いない、喰ってないなんてありえない。写真の後姿は明らかに高杉であるし、傍らの女の子は長い髪に浴衣を着ているのだ。何も無いと云えるような雰囲気では無い。
「モデルには違ぇねぇけどなぁ、」
「後輩とか?くそ、高杉!今度紹介しろよ!」
高杉は煙草の煙を天井に吹きかけるように上に向けて吐き出し携帯電話を弄った。
メールを打っているようだ。
「後輩にも違ぇねぇよ、でもお前会った事あるぞ」
「うそ!誰!?お通ちゃん!?」
「お通っててめぇんとこの事務所だろうが、うちの事務所じゃねぇよ」
「じゃ、誰!?」
気になる。あの高杉が此処まで関係を否定しない相手など今まで居なかった。これはいい加減本命なのか、どうなのかと銀時が高杉に詰め寄った矢先に喫煙スペースの窓が叩かれた。
「あれ」
高杉が指をさす。

神威だ。
モデルで、高杉のところの事務所で、高杉の後輩で、高杉の家に半居候している餓鬼。
「へ?」
「だから温泉だろーが、あいつと行ったんだよ、ちょうど空き時間があってよぉ、温泉って浴衣だろ、神威だって髪ほどきゃ後ろ姿は女と変わんねぇよ、おまけにその写真白黒だろうが、実際は俺と同じで男物の浴衣着てんだよ」
「・・・・・・」
云われてみると確かに。最もである。
神威と云われればそんな気がする。
「こんにちは、坂田さん」
「はあ・・・」
神威なる少年はモデルの出だけあって美少女でも通りそうなくらい顔の綺麗な餓鬼だ。
白い肌に長い髪もまたいけなかった。いつも三つ編みにしているが、確かに解けば雑誌にある写真のようになるだろう。
なんだ、詰まらない。つまり後輩と温泉に行った後姿をたまたま撮られただけなのだ。
「わかったわかった、んじゃお疲れさん・・・今度酒でもおごってくれや」
「お断りだ、さっさと手前も仕事しろ」
はいはい、と銀時は高杉と神威に手を振りながら喫煙スペースを出た。
銀時は今からバラエティ番組に出演だ。
全く、ガセネタとは莫迦らしい。道理で桂も落ち着いている筈だ。
無駄な時間を食ったと銀時は手にした雑誌をゴミ箱に突っ込んで廊下を歩く。
そしてはたと気付いた。

「あれ?にしても何で神威と温泉・・・」




「また温泉の話?」
「そうらしいな」
高杉が二本目の煙草を燻らせる。頂戴と強請っても家の中以外では高杉は決して神威に煙草を吸わせなかった。
TPOは弁えろということらしい。
些細な事でもそれはこの世界では命取りだ。
それに膨れながらも神威は手にしたペットボトルのお茶を口に含んだ。
たった今神威は撮影が終わったところで高杉と逢う約束をしていたのだ。
「良かったよね、また行こうよ、俺背中流してあげる」
「そりゃ、殊勝なこったな」
温泉にと強請ったのは神威だ。休みが無いとごちた高杉に無理に強請った。
このところ高杉は役作りに思うところがあったらしく少し不機嫌だったのもある。
神威は高杉の家に週の半分以上滞在してはいたが、逢う度に機嫌が悪ければ流石に気を揉むというものだ。
だから気分転換に何処か行きたいと駄々を捏ねれば、実際に気分転換になったらしく高杉はスランプから脱したというわけだ。
神威と高杉は今のところ肉体関係は無い。
それでも高杉に甘えれば身内に弱い高杉は神威を甘やかす。
その勢いのままに温泉で口付けをせびれば、ついに口付けは許された。
続きは高校を卒業したらと云われて、目下神威は卒業式を迎えるのを指折り待っている最中である。

「高杉、今日は焼き肉食べたい」
「またかよ・・・」

神威の台詞に高杉は呆れたように云い、それから地下駐車場に置いてあった車のキーを回した。


06:ゴシップの真相

お題「温泉」

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