※現代パラレル 「お疲れ様でしたー」 ADから上がる聲に皆一斉に聲を上げた。 劇場版『銀/魂』のクランクアップだ。 各々に集まり緊張から解放されたことに皆安堵の息を吐いた。 長らくTVドラマで放送していた作品だったが映画化は初めての事であったし期間的にも撮影はハードだったのだ。 「お疲れ様」 ふいに差し出されたタオルに高杉は顔を上げた。 神威だ。モデル出身の神威は最近人気の若手俳優である。 その神威と既に子役の頃から芸能界に居るいわゆる大御所のような存在の高杉では雲泥のキャリアの差があったが、ひょんなことから二人で音楽ユニットを組むことに成るに至り、その上事務所も同じなので高杉もそれなりにこの後輩を可愛がっていた。 それに神威の物怖じしない様も高杉は気に入っている。 「出番今回多かったもんネ、高杉サン」 「俺も普段はゲスト扱いなんだがな」 高杉が煙草を咥えると直ぐ様近くのスタッフの一人が高杉の煙草に火を点ける。それがごく自然に行えるのが高杉晋助という男だ。 「俺はいっぱい高杉サン視れたから楽しかったけど」 「うるせぇよ、そんなものを見る前にてめぇの振りを覚えろ」 覚えろと云われているのは台詞や演技では無く、踊りの方だ。モデル出身の神威は演技をしても何処までも神威であったし、踊りも得意では無い。けれども大御所の高杉と組むことになって周りが焦った。マイペースな神威にマネージャー業も兼任している阿伏兎は頭を抱えたものだ。 「大丈夫だよ、高杉サンが教えてくれれば」 俺、出来るよ、と神威が笑みを浮かべれば今度こそ呆れたように高杉は溜息を吐く。 「高杉はこの後どうするの?」 高杉と神威が呼び捨てにしても高杉は怒らない。名前で一度呼んだことがあるがそれは流石に図々しいと一笑されて仕舞ったので今はこうして可愛い後輩の立場に甘んじているのは神威の計算であった。 「あー、銀時達と呑みに行く」 「桂サン達も?」 「どーせ打ち上げでそのうち合流するだろうよ」 「ふぅん」 面白くない、と神威は思う。 今仕事の上でもプライベートでも高杉に一番近いのは自分だと云う自負が神威にはある。 時間の許す限り高杉の家にも押しかけ半ば居候している状態なのだ。 高杉は泣きついてくる後輩を家の外に追いやるような男では無い。 一見冷酷そうな男だったが、内側に入れば案外高杉は身内には甘い。 其処に付け込んで神威は高杉に近い位置を手に入れた。 事務所ではあの高杉の秘蔵っ子とさえ言われているのだ。 けれどもその神威にも入れない領域がある。 高杉のいわゆる同期にデビューした三人だ。坂田銀時、桂小太郎、坂本辰馬・・・この三人の中には神威も入れない。 それが神威には歯痒かった。 元々芸能界なんて興味が無かった。たまたまモデルをしていたらいつの間にかそういう方向に話が進んだだけで、別にモデルだっていつでも辞められたし執着も無い。ただ気が向いたからとしか神威には云い様が無い。 けれども仕事で出遭ったこの高杉晋助という男に神威は惹かれた。 それからだ。仕事に対する態度を変え、下らないとさえ思っていた音楽も覚えた。 振りだって、最初は覚えていなかったが、阿伏兎が高杉と完璧に息の合う踊りを手本として神威に見せてからは覚えたのだ。 阿伏兎にだけそんな良い想いをさせるのは癪だったし、高杉の隣に立ちたかった。高杉の傍は息が楽になる。 だからこそ、神威は覚えた踊りをまだ覚えていないと言い張って、ああ見えて真面目で面倒見の良い高杉にせがんで個人的に稽古をつけて貰っている。 「どうした?浮かねぇ面だな」 「別に、高杉にはわからないよ」 「阿伏兎が待ってるだろ」 「待たせておけばいい」 どうせ高杉は神威を置いて行って仕舞うのだ。 目敏く神威の姿を見つけた神楽が近付いて来てそれもまた神威には煩わしい。 神威と神楽は兄妹では無い。子役から役者をしている神楽は神威より芸歴が長い所為かよく神威に対して先輩面をするのも相手をするのが面倒になる理由であった。おまけにその背後には沖田総悟まで居る始末だ。 「カムイ!おつかれー!」 「うるさいよ、神楽」 じゃれついてくる妹役の神楽をあしらいながら神威は高杉に目線を遣る。 こんなことで逢瀬を邪魔されるのは癪だ。 神威だって、仕事が詰まっている。こうして高杉と話すのも久しぶりのことなのだ。 それでもこの業界に居るのは全て高杉と繋がる為だった。 行って仕舞う高杉の背中に縋るように神威が手を伸ばせば、何かを投げられる。 「・・・っと」 慌ててキャッチすれば鍵だ。 高杉の家の鍵。 「これ・・・」 神威が何かを云う前に高杉が坂田や桂達に合流しながら云った。 「先に帰ってろ」 ああ、と神威は思う。 これだからやめられない。 乾いた唇を舌でぺろりと舐めて、挑発的な色気を振り撒く男と目線を交わす。 それだけで身体がぞくぞくして、神威は笑みを漏らした。 「俺、貰った物は返さない主義なんだ」 返事の代わりに片手を上げる高杉に、今度こそ神威は叫びたい気持ちを抑え、とりえあず目の前の神楽をあしらいながら、ゴシップにそのネタを売ろうとする沖田を叩き潰すことにした。 03:鍵 |
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