※お題03「01:明るい家族計画」「15:続・明るい家族計画」お題04「08:駄目になるのは多分」続き。
夜兎パラレル。高杉が夜兎で神威と高杉が兄弟設定。家族話。

神威が夜兎の特区に顔を出したのは艦の整備もあったが、夜兎特権を行使できる書類の更新の為でもあった。
神威の兄である晋助は夜兎の中では異例の存在だ。非常に優秀で力だけでなく頭も良い。多くの夜兎は定住せず流れの者となる。そして大抵賞金稼ぎに成るか、海賊などのならず者になって力を求め渡り歩く、そんな夜兎の中では珍しく、というか史上初めて神威の兄である晋助は、それを取り締まる側、つまり管理する側に回った。
これが夜兎にとって僥倖だった。晋助は宇宙最強の種族である夜兎が瀕滅種であると精密に調査し、またその保護に努め、多くを渡り歩く夜兎に有利な権利を獲得し、そしてついに母星を失って久しい夜兎に第二の故郷とも云える夜兎特区を恒星ステーションの中に設置したのだ。神威にはわからなかったが、夜兎というのは存在が希少でありまた一つの存在が星を揺るがすほどの脅威でもある。それをバランス良く管理する為に様々な優遇措置が夜兎に与えられたらしい。神威が夜兎特権という書類を持っているのもその為だ。夜兎だからといって好き勝手できるわけでは無かったが、同盟に加盟している星では免税措置や滞在期間の延長措置、また保険の加入、滞在理由に関わらず一部超法規的な措置が取られる権利を行使できるという魔法のアイテムである。
よくはわからないがあったら便利という認識も神威にもある。また久しぶりに兄に会えるのではないかという淡い期待もあって神威は特区に立ち寄った。
阿伏兎は義手の調整をするとパーツ屋に行って仕舞ったし、師団の部下達も艦の整備が終わるまでそれぞれ思い思いに過ごしているだろう。この艦の整備が終わり次第直ぐに神威は急ぎの任務があるので立たねばならない。
兄も今や自身の部署を持つほどのキャリアである。あまり会う暇が無く、いつも聲の遣り取りばかりだ。
地球に居る妹や父はどうでもよかったが神威にとって晋助だけは特別だった。
兄弟である。実の。年の離れた兄はいつも神威と神楽の面倒を見て留守がちな父と早くに死んだ母の代わりだった。
その兄に堪えきれないほどの情欲を覚えたのは精通を覚えて直ぐのことだ。
当時は夜王鳳仙の元で神威は師事していた。十二だった。
その頃には既に神威は晋助を兄では無く伴侶として見ていた節がある。
わからぬままに、惹かれるままに兄に手を伸ばし、兄の優しさに甘えたのは神威だ。
優しい兄が神威を拒めぬのだと知って触れた。
どうして良いのかわからぬまま神威は本能で兄に触れた。最後まではどうしても出来なかった。
晋助は神威にとって、兄であり恋人であり神威の唯一の男だ。

「居た」
神威を見るや入口の護衛が晋助の執務室に通した。
神威が特区に来ると話は通っていたらしい。
「久しぶりだな」
神威に書類を出すように晋助が促して促されるままに渡せば、兄は事務的な動作で更新作業をし、兄の署名を追加する。通常は署名など無くても特区の印があれば十分であったが、海賊業に精を出す神威に対しての保険なのだろう。神威になにかあった時の為の後ろ盾として兄の署名をわざわざ追加したのだ。
「うん、久しぶり」
兄に会えば、神威の胸はざわざわする。
あれ程会いたかったのに、触れるのに戸惑う。
いつも、そうだ。幼いころからいつもそう。
神威はこの兄に触れて己のものにしたいという欲求を持ちながらも壊して仕舞うことを恐れている。
年を経て己の力が強くなるにつれ、夜兎の本能なのか、兄を奪って己だけのものにしたい衝動に駆られ、その都度押さえている。
己は兄を、晋助をどうしたいのか、強く、賢く美しいこの兄をどうしたいのか、いつも迷いが神威の中にあった。
「長居はできるのか?」
兄の問いに神威は肩を竦め首を横に振った。
「そう云いたいけど、残念、任務で艦の整備が済んだら出ないといけない」
「そりゃ難儀だな、艦の方に色々贈っといたから後で部下にもわけてやれ」
気の利く兄である。こういう卒の無さが兄がこういった権力の坩堝でも上手くやれるのであろう。夜兎とは思えないほど晋助はそういった機微に気が付く。
「有難く頂くよ、晋助は忙しい?」
「俺も会議に出なけりゃならん」
そう、と神威は返事をし、立ち上がり端末を終了する兄の手を掴んだ。
本能的な仕草だ。晋助を引き寄せ壁に押し付ける。
唇が触れるすれすれで神威は身体を止めた。
兄と眼が合う、その瞬間、神威は我慢できずに兄に口付けた。
「・・・っ」
激しく、唇を合わせ、己の舌を絡め、情熱の全てを傾けながら神威は晋助を貪った。
最初こそ抵抗する素振りを見せた兄であったが、目を閉じ観念したように、或いは晋助もそれを待っていたと錯覚するような熱さで口付けに応える。
まるでこの世界にふたりだけしかいないようだ。
本能のままに神威が弄り始める。
( もう、駄目だ )
いつも、駄目だ。
この兄を前にすると神威は駄目になる。
兄しかいらない、晋助だけが神威は欲しい。
その濡れ羽の髪も、碧の眼も、静かな聲も、身体も全てが欲しい。
( 駄目に、なる・・・ )
晋助の身体を弄り、下肢の下履きに手をかけたところで神威の端末が鳴った。
その直後に晋助の端末も鳴る。

「・・・時間切れみたいだ・・・」
はあ、と吐息を洩らし神威が端末を確認した。
艦の整備の終了だ。
「俺も時間切れだ」
会議の時間ということだろう。
それを無視できればどれだけ良いか、或いは此処で踏みとどまったからこそまだ神威は晋助の弟であり続けられるのか。
兄は何も云わない。
神威が邪魔だと云って呉れればいっそのこと楽だった。
けれども兄は決して神威を邪魔だとは云わない。
云わないから期待する。
この兄を押し倒し、身体の全てを想うままに貪って、求め合えればどれほど良いか。
しかし、それは今では無い。今では無かっただけの事。
いつか、神威は兄を犯すだろう。
そして兄はそれをきっと受け入れるのだろう。
( 俺達は駄目になる )
駄目になる。互いに惹かれるままに駄目になる。
それは堪らなく甘美で、そしてまた酷く陰鬱な崩壊だ。
それでも神威は笑みを浮かべる。

「じゃあ、また」
「ああ、また」

また今度。
次に遭えば今度こそ駄目になるのか、或いはまた焦れるのか。
この身を焦がすような恋情に、激しい欲望に悶えながらも、互いに往く。
何故兄弟なのか、何故こう生まれて仕舞ったのか、何処へ行き着いても兄弟の行く末は地獄だ。
一方は陽の射す地獄を、一方は殺戮の地獄を往きながらも、想うのは互いのことばかり、そしてまた互いに狂うのだろう。
笑みを浮かべ、何でも無いことのように次の約束を交わしながら。


17:共依存の
地獄の中で

お題「続続続・明るい家族計画」

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