※「01:明るい家族計画」続き。パラレル。高杉が夜兎で神威と高杉が兄弟設定。家族話。


その日晋助が降り立ったのは地球だ。
シャトルを降り立てば出迎えの者が整列して待機している。
夜兎としては極めて異例であるが晋助は夜兎として初めて監察機構に所属している。晋助の所属する組織は只の監察機構では無い。所謂宇宙の権力やパワーバランスを高度に政治的な側面から調整する機関なのだ。戦争さえも操作できる組織、殆どの権力が集約する特権機構、それがエリート街道を驀進する晋助を取り巻く環境である。
夜兎は滅びに瀕した種族だ。宇宙最強と云われるだけの力を持ち、夜兎にはあらゆる嘘も策略も通じない。殆ど全てを力で押し潰せるからだ。だから夜兎には表も裏も無い。理性と本能ならば本能を優先させるが故に夜兎は戦場に流れる。その力を存分に揮う為に。そして戦場で同族と向き合えば嬉々としてその戦闘本能に身を委ねより強いのはどちらかを決めるため殺し合う種族だ。その上日光に極端に弱いという致命的な弱点がある。種としては破綻したそれ。長い進化の中で夜兎はそういった生き物になって仕舞った。その夜兎を保護し守り種を存続させることが今のところの晋助の役目である。
晋助は夜兎の中でも珍しく理性と本能では理性の方が踏み留まる男であった。
故にこうして巨大な権力機構にも呑まれることも無く切れる男として着々と地位を上げている。
「お疲れ様です!」
晋助に頭を下げるのは護衛にと配された地球の真選組という組織の者だ。
今回地球に来たのは幕府との銀河間貿易協定における調停の仕事だ。内容で揉めてはいるが締結させなければならない。
地球との貿易で利益を上げたい銀河連盟と開国したものの軽んじられている地球では些か分が悪いが、星を食らい尽くすような協定は監察機構とて本意では無い。地球は資源が豊富でまだまだ発展途上の星だ。きちんと整備して然るべき処置をしないとあっという間に食らい尽くされて滅んでしまう。相手が折れずに結局協定が結ばれず戦争が起こったり、不利な条件ばかりを呑まされて滅んでしまった星の例がいくつもある。そうならない為に両者の間に入って調停をするのが晋助の役目なのだ。
何より地球の資源を求めているのは銀河連盟だけでは無いということだ。
それを知らしめる為にも専横を許すようなことはさせない。その為の介入なのだ。
それがわかっているからこそ地球も晋助への配慮は手厚い。
案内された車に乗り込み晋助は手にした端末を立ち上げた。
「ホテルを手配しています、まずはそちらに・・・」
「ああ、ホテルはいい」
「は?」
は?と止まったのは真選組の山崎という男だ。
「・・・とおっしゃいますと・・・」
「会議は明日だ、今日は好きに過ごす」
「では何処か観光にご案内致しましょうか?」
気を利かせて懸命に言葉を紡ぐ山崎に晋助は端末に表示した地図を見せた。
「此処に行きたい、妹が居るんでな」



その日万事屋は騒然とした。
何せ突然現れた色男が居候娘の兄だというのだ。
「銀ちゃん、これウチの晋助アル」
「神楽ちゃんのお兄さん・・・マジで?」
「マジだ」
真選組を引き連れて何事かと思いきやお兄様のご来訪である。
現在お兄様は万事屋のソファにお座りあそばせた上に煙管を燻らしておられた。
「ウチのが世話になってるらしいな、親父から聴いた」
「本っトに食費がかかって仕方ねぇよ、どうなってんのあんたの妹さんー」
ついいつものノリで銀時が口を開けばお兄様が鋭い眼光を銀時に向けた。
政府のお偉いだか宇宙のお偉いだか知らないが、神楽の兄は所謂エリート、キャリアであるらしい。
「食費か、そうだな、ならこれでどうだ?」
ぽん、と表示されたのは金額だ。
ちゃんと地球の物価を調べたのか、決して多すぎるわけでは無いが、神楽の食費を考えればこれで充分である。
定春の分も踏まえて切り詰めればこれで銀時と新八も食べられるほどの額だ。
「ちょ・・・!えええー!お兄様ええーーー!?」
「毎月決まった日に口座に振り込んでやる、番号教えろ」
「神楽ちゃーん!お兄様凄いよ!お兄様神だよ!」
「ウチの晋助は甲斐性がバリバリあるアルよ。我が家のサラブレッドね、強い上に高給取りで頭も良くておまけにイケメンアル、晋助が居る所為でワタシ他の男に見向きも出来ないアルヨ」
「もう俺、このまま神楽ちゃんと暮らしてお兄様に養ってもらうー!お兄様と結婚するー!」
「云っとくが神楽が成人するまでだからな、けじめだ」
銀時の言葉に的確なツッコみをいれつつ、晋助はゆっくりと煙管を燻らせソファから立ち上がった。
「何か欲しいものあるか?お前携帯まだ持ってなかったっけな、買うか?」
「嘘!買ってくれるアルか?兄ちゃんサイコーアル!」
善は急げと兄に抱き着きながら神楽がはしゃぐ。
成程、確かにイイ男だ。何よりこれから毎月神楽と定春の食費が浮くだけでも有り難い。
常々男に対して辛口評価な神楽であったがその原因がこの兄だと知った銀時達であった。



「晋助、写メ撮ってみたいアル!一緒に映るネ!」
「別にいいが、緊急用に家族のアドレス転送するから登録しとけよ」
「わかったアル!」
ぴろーん、と音を立てるピンク色の携帯は神楽に買い与えたものだ。
最新式でも良かったが夜兎用モデルを取り扱っている店舗は地球では少ない。
型落ちのものばかりであったがなにせ夜兎モデルは頑丈である。並大抵の力では壊れないので宇宙一安全な携帯と云われるほどだ。
晋助の使っているものはタブレット型であったが神楽の物は少し古いタイプしかなかった。
新しいのを他所で買って送るか?と晋助が問うたが神楽がこれでいいと云ったので購入したのだ。
定額プランで契約して己のカードで落とすようにする。
先日父と通信をした時に携帯のことを云っていたので晋助が買い与えると云ったのだ。
昔から神楽は晋助が何かを与えた時は酷く喜んだが今もこうして買い与えた携帯を嬉しそうに操作している。
メールを打っているらしかったがその宛先が誰かなど晋助には知る由も無かった。
「次は何処へ行くか?」
「じゃあ、服!下着とかちょっと無いアル・・・銀ちゃん達にはそういうの云いにくいし・・・」
兄ちゃん一緒に見てくれる?と問われれば頷くしかない。何せ赤ん坊の頃から神楽のオムツを替えたのは晋助である。今更だ。
「俺が一緒でも見辛いなら誰か女友達か俺の秘書にでも見繕ってもらうか?」
一応年頃の娘として配慮してみるが神楽は首をぶんぶんと振って兄ちゃんに見て貰いたい、と云うので晋助は次の行先をショッピングモールに指定した。ちなみに足は真選組の御用車である。
「その後一緒に甘い物でも食べるアル!」
「まるでデートだな」と晋助が云えば嬉しそうに妹が笑うので満更悪い気はしない。
餓鬼も色気づく歳になったかと些か感慨深く思いながら晋助は神楽の望むものを選ぶ為に下着屋へ向かった。
その時、地球の大気圏外にあった宇宙船に一通のメールが届くとは知らずに。
「あ・・・直通にメールだ・・・」
「直通ってぇことは家族関係か?」
阿伏兎が問えば神威が訝しげに画面を操作する。
何故訝しげかと云うと晋助ならば名前が表示されるし、癪だが父でもそうだった。
だから誰のアドレスかわからなかったのだ。
開いてみて神威は盛大に顔を歪めた。
「げ・・・あいつ・・・!」
メールには写真が添付されている。
兄だ。神威が愛してやまない兄と生意気な妹が共に映っている。
兄を見れて嬉しいと思う反面メールの文面に神威が切れた。
「・・・今から晋助と下着選びアル、ざまぁクソ兄貴m9(^Д^)プギャーwww・・・」
次の瞬間神威が地球に降下したというのは云うまでも無い。

「神楽てめぇ・・・上等だ、クソ餓鬼ィ・・・」
「フハハハハハハ!莫迦神威!晋助はワタシとデート中アル!」
まるで魔王の戦いであり台詞は完全な悪役の会話であったが、この二人はこれが通常運行である。
下着屋で神楽の下着を選んでいたら神威が突如店のガラスを割り乗り込んできた。
ちなみにこの遣り取りをしている隣で晋助は神楽に選んだ必要な可愛らしい柄の入ったいくつかの下着の会計と共に店に弁償代を支払う作業を行っている。
「いいから手前ら、行くぞ、飯食うだろ」
慣れた様子でその処理をする晋助の様は見事であったと、後に供をしていた山崎は語った。



「皆ずるいよー、いやぁ、お父さん遅刻しちゃったね」
久しぶりと料亭に顔を出したのは星海坊主である。
晋助が用意させたという料理の数々を神楽と神威は競いながら食事を只管胃に運んでいた。
供をしている真選組の者にも振る舞われたと云うのだから晋助の懐は深い。
「おう、親父」
「晋ちゃん久しぶり、相変わらず美人だねぇ、そのどっしり構えたところなんか死んだ母さんそっくりだ」
でれでれと己の子供たちの前で鼻の下を伸ばしているがその男もまた宇宙最強の一人と云われる賞金稼ぎであった。
晋助が酒を差し出せばいそいそと隣に座り星海坊主が猪口で受け取る。
久しぶりに家族が揃ったので星海坊主としては嬉しい限りである。
ただし下の息子と娘を除いて。
「うるせーハゲ、晋助の隣に座ろうなんざ百万年早いアル!」
「黙れよブス、お前こそ俺の晋助に下着買わせて何考えてんだよ?マセ餓鬼、あとハゲは死ね」
「酷い!」
これも通常運行であった。
育て方を間違えたのか次男と娘は兄である晋助に対して異常な程愛情を抱いている。
己こそが晋助の伴侶なのだと言い張って聴かないのだ。
神威など早々に子供を卒業して仕舞い、さっさと大人になって晋助に相応しい男になると家を出て仕舞ったし、一度は娘に云われたい大人になったらパパと結婚する、なんて言葉もウチでは晋助に変換される。
賞金稼ぎと云う職業柄たまにしか帰らない身で偉そうなことは云えないが気付けばこうなっていた次男と娘を見て将来を危惧した父である星海坊主が晋助に自立を勧めたのも現在の晋助の地位に大いに影響しているのであった。

「今日何処泊まるの?晋助」
「銀ちゃんとこ泊まればイイアル!」
「悪ぃが明日は仕事だ、ホテルを用意されてる」
「じゃあ俺も・・・」
「じゃあパパも・・・」
「じゃあワタシも・・・」
いそいそと着いて来ようとする家族に晋助はやや溜息を漏らしそれから神楽には釘を刺した。
「お前は帰れよ、もう遅いからな、誰かに送らせる」
神楽の髪にそっと手を置いてやればむくれながらも神楽は頷いた。
こういう時は駄々を捏ねても兄を困らせるだけだとわかっているのだ。
真選組に妹を送らせるよう頼み、それから父と弟に晋助は向き直った。
「お前は何処かに宿取ってるだろ」
晋助が煙管に火を点けながら神威に問えば神威は肩を竦め頷く。
「まぁね、俺も仕事で地球にはよく来るし、今日は阿伏兎達も降りてきてるから」
「なら宿に帰れ」
「やだ」
「・・・親父は宿は取ってないだろうから俺のホテルに部屋があるか訊く」
「流石晋ちゃん!本当よくできた息子だよね」
歓声を上げる父の禿げた頭を叩きながら神威が不満を露わにした。
「いやだよ、晋助、俺何ヶ月晋助に会ってないと思ってるの」
「神威・・・」
神楽と違って神威は聞き分けない。自分の我を通す弟だ。
「じゃあ親父は俺の宿使えばいいだろ、ほらキーあげるから」
父の胸に宿のキーを押し付け神威が縋るように晋助を見れば晋助は折れた。
これに弱いのも確かなのだ。
年の離れた妹は可愛い。が、弟はどうだろう?この世に兄しかいないのだという様の弟を放っておけないのは晋助の方だ。
この弟に縋られると滅法弱い。実際に神威がどれほど己に会えないことを不満に思っているのか知っているからこそ晋助は強く云えない。神楽はいい。自由を求めて、夜兎の在り方に疑問を抱いて地球に降りた。けれども神威は違う。宇宙を放浪し海賊に身を窶しているのも強さを求めるだけでは無い。何より晋助の為だ。
父である星海坊主に似て同じ髪色を持つ晋助がいつか禿げるのでは無いかと危惧した神威が宇宙中を巡って育毛剤と増毛剤を探し回っているという莫迦げた理由ではあったが全てが大真面目に晋助の為なのである。
故に晋助はこの弟に弱かった。
「だそうだ、親父、今日は神威の云う様にしてやってくれ」
晋助が云えば父は分かった、また連絡すると頷き部屋を後にする。この家では決定権は基本的に晋助が持っているのだ。
そして車に乗ってホテルに到着し、その部屋で神威は兄を抱き締める。久しぶりに感じる兄の香りに神威は堪らない心地になる。

「キスしても?」
「駄目だと云ってもお前はするんだろう?」
茶化すように晋助が云えば神威は頷く。
「うん、するよ、俺にはそれが全てだからね」
舌を絡めるように交わす口付けに、久しぶりの逢瀬を実感しながら、交わした先から伝わる熱に呑みこまれた。
兄弟だ。実の兄弟。
けれども晋助はこの弟が愛しい。そして弟もまた兄を愛している。
晋助にとっては弟でも神威にとっては最初から、生まれた時から、晋助と云う存在を識った時から晋助は己の唯一の男である。
「ねぇ、いつか全部頂戴」
この弟に頂戴と乞われれば頷くしかない悪い兄だと自嘲気味に己を哂いながら互いの夜は更けていく。


15:続・明るい家族計画


「あのー、この宿相部屋かな・・・?」
「ちょ!誰―!?このおっさん誰―!?」
一方、神威の宿では、団長である神威が戻ってくると待機していた阿伏兎が突然現れた星海坊主にとりあえず叫び声を上げた。

お題「明るい家族計画2」

menu /