※[ 02:予想外な始まり ][ 04:予定外の出来事 ][ 05:想定外の携帯電話 ]続き。美大生高杉さんとチャラい神威の現代パラレル。


神威とのセックスは高杉を狂わせた。
何せ上手いのだ。経験的に云っても同じ男として負けているつもりは無いが、神威のそれはホストなんてチャラい仕事にチャラい理由で付くだけあって上手い。要するに神威はそんな生き方をしてきたのだ。遠回しに以前訊いてみたが、中学の時に父親と喧嘩して家出をしたきり一度も家には戻っていないらしい。ハーフであるらしいのだが、高杉が危惧した不法入国では無かった。けれどもその父親との家出問題があって神威は身分証の一切が無いのだそうだ。けれどもなまじ顔が良いだけあって色んな女の家を転々とし、それから今のホストの店に入った。そして高杉に会うまで複数の女の家を渡りながら適度に遊べるほどに働いていたのだそうだ。
将来設計も何も無い神威の刹那的な生き方に眩暈がするが、高杉とてそれほど確りと将来設計をしているわけではないので苦言は云わない。云わないがそんな神威に呆れたのも事実だ。一度父親と和解して身分証の類だけは確りしろと云ったのだがのらりくらり返事を寄越すだけで一向にその気配は無い。余程酷い喧嘩をしたのだろうが、このまま何年か神威と過ごすことにでも成れば流石にそのあたりを清算するように働きかけねばならないと、微妙に神威を織り込んだ人生設計をしつつある近頃に高杉は僅かに溜息を漏らした。
漏らしたがそれも一瞬のことだ。
「・・・っ、あ」
神威とのセックス中に考えることでは無い。しかも神威のしてきたセックスは女に依存する生活の為に奉仕する技巧が多い。今も高杉のものを舐めながら中を的確に指で刺激してそれだけでも高杉はどうにかなりそうだった。
「あ、くっ」
ぶるりと高杉が慄える。それだけで絶頂が近いことを悟ったのか神威が愉しげに眼を細めそして高杉のものを一際強く啜りながら中を深く指で弄られたその瞬間達して仕舞う。
「・・・ッ!」
どうにか聲は堪えたが神威の攻め手はそれでは緩まない。更に高杉を煽るように、或いは吐き出した残滓の全てを出そうとするかのように再び指で刺激を加え、気付いた頃には慣れた神威のものが高杉の中を蹂躙した。
初めの頃は挿入の度に痛みと緊張が奔ったものだが既に同居生活をしてから半年近くともなれば身体の方が先に慣れて仕舞う。
一週間のうち高杉が徹夜のバイトでも無い限り殆ど毎日しているのだから当然であったが、神威はセックスの際も病気の類に気を付けているのか或いは女相手に孕ませない為の習慣なのかきちんとコンドームを装着し事後のケアも行った。そうして非常に遺憾であるが神威によって開発された高杉の身体はあっさりと神威を受け入れテンポの良い己を追い詰める神威のリズムに呑まれて仕舞う。早々に飽きると思っていたのに益々深みへ嵌るようなそのセックスに高杉はいつも追い詰められ、焦らされ、喘がされる。
ずるいのは神威が耐えることに強いということだ。今までどんなセックスを行ってきたのか、男として一度訊いてみたい気もするが兎に角神威は我慢強い。結局高杉を煽るだけ煽って、限界だと思っても達することもさせずに焦れた高杉が「イかせてくれ」と懇願するまで追い詰める。そしてその末に果てた高杉を再び抱き揺さぶりながら隅々まで神威に触れられるのだ。
厭だとも云いたい。最中には散々死ねだのクソだの罵っているが結局身体が負ける。神威に与えられる快楽のままに善がり狂うのだから男としての面目も立たない。立たないがこの関係に嵌っているのも確かだった。
「疲れた?」
「厭だと云ってもヤる癖によく云う・・・」
恨み言のように高杉がダブルベッドの上で神威を受け入れながら云えば神威は「当然」と言葉を述べる。
「だって俺がモデルをやるかわりにあんたを犯すんだから、これは契約の内」
その通りである。かと云って同棲は高杉の予定にはなかったし、神威の手管がこれほどなのも高杉の想定外であった。
想定外であったが一度受け入れた以上仕方ない。神威は高杉にとって現在最も描きたいテーマそのものだ。神威ほど理想的で描き甲斐のある人間に未だ高杉は出遭ったことが無い。様々な表情、角度、色彩、目線、その全てが神威には価値がある。だから仕方ないのだ。求められれば拒めない。
高杉は舌打ちしながらも莫迦に整った神威のその綺麗な顔を引き寄せ先を促した。
どうせ明日からは泊まり込みでバイトだ。ならば今のうちに精々愉しむのが大人ってもんだ。
神威に突かれ、その激しさに息を呑みながらも高杉はその熱に溺れるように理想のモデルの背に縋りついた。



その二日後の夜バイト先に神威が顔を出したのは止むを得ないことである。
徹夜でディスプレイデザインをし設営の時間が会場の都合でずれた為帰れなくなったのだ。
仕方ないので神威に与えた携帯に連絡して着替えを持って来るように頼んだ。
その場に万斉が居たのが事の契機である。
「晋助、そやつはもしや・・・」
「ああ、云ってなかったか、こいつが神威だ、俺が世話してる」
にこにこと笑みを浮かべる神威の手をがしっと万斉が握り「これだ!」と叫んだのは云う間でも無い。
こうなるのが想像できていたから敢えて云わなかったのだが顔を見られては仕方無い。
何せ神威の美貌は圧倒的だ。規格外に整ったそれは誰しもが見惚れるほどである。
「アイドルなどに興味はござらんか!?拙者新しく男性ユニットをプロデュースしようかと・・・!」
神威にのめり込むように語り出す万斉に神威はやや困った顔をしながら応じる。
「うーん、アイドルとかはちょっと・・・」
なら、と万斉は言葉を足した。この逸材を前に諦めるという選択肢は万斉には無い。
「ならばせめてモデルだけでも!ポーズを撮って写真に撮るだけでも!」
「えー、それってエロいの?」
下卑たものを神威は想像しながら問うたのだが万斉は首を振った。
「そんな安売りは致さんで御座る!これほどの逸材はもっと高くプロデュースするべきでござらんか!」
最早誰に云っているのかはわからないが、高杉はその様を溜息をしながら見つめた。
ちなみに高杉に初めて遭った時も同じことをこの男は云ったのだが高杉が徹底的に断ったので実現はしなかったのだ。
その縁で万斉からデザイン関係のバイトを斡旋してもらっているのだが、断ると思った神威が意外にあっさり頷いた。
「まあ写真くらいならいいかな、俺ホストしてるけど大丈夫?」
「そういう路線で売り出すでござる!」
意気揚々と話がまとまりあっさり契約書が作成され、そして翌日には撮影し、神威の初のモデルの仕事は二ヶ月後には雑誌に載った。
載った途端、爆発的な人気が出た。雑誌の発売日から事務所には電話が鳴りつづけ、そしてその頃高杉が卒業製作として発表した神威の絵が何処からかメディアに洩れて結果的に神威も高杉も有名になって仕舞ったのだ。
神威はモデルとして、高杉はアーティストとして、其々に有名になり、それを聴きつけた高杉の叔父が卒業と共に高杉の独立を促し高杉は青山に事務所を構えることとなる。
その流れがあっという間のことであり、一瞬の出来事のように過ぎ去って仕舞った。
二年経った今では神威はモデルとしての地位を確実に固めており、そして高杉もまた様々な分野で仕事に携わることとなる。



「いい加減部屋でも借りたらどうだ?」
「そういいつつ鍵返せって云わないじゃん」
帰宅した神威を一瞥しながら高杉はイーゼルに置いたキャンバスに向かっている。これは仕事とは無関係であったが、描きたいので時間が出来た時に筆を足しているのだ。
神威は今日は長野でロケだったらしい。
モデルとしては大成しているであろう今や誰もが羨む人気絶頂のモデルだが神威は基本的にメディアに出ない。
滅多に露出しないという事務所の、即ち高値で神威を売りつけるという手法を取った万斉の目論見は成功し、神威の人気はより火が点いた。紙媒体や広告媒体でのみの露出が返って神威の不思議な魅力を引き立てたのだ。
高杉が神威に惹かれたように、だ。
その上神威は海外ロケもNGである。本人が「えー、日帰りできないなら行かない、俺モデル辞めて高杉の事務所手伝うからいいよ」と次の就職先を提示して仕舞った為、事務所もぐうの音も出ないのだ。これでは無理強いもできない。故に神威はどんなに遅くなっても高杉の家に帰宅した。後に一度だけ奇跡的に海外ロケが敢行されたがそれさえも成立した理由は高杉が仕事で海外に行ったのでそれに神威が同行したついでにロケ班も同行したという有様である。ちなみにその写真は前述したことから非常に価値が高く、知らずに神威は己の価値を上げているのだが、その人気ぶりに海外のメディアが取材を申し込むほどであった。俳優への転身も囁かれてはいるが本人は演技力が無いので却下と云っているので今後も有り得ないだろう。
広告媒体の仕事も万斉の設立した事務所が用意するので結果的に神威と高杉は共に仕事をすることが多い。勿論神威を最初に見出したのは高杉でありその魅力を百パーセント見出せるのも己だという自負が高杉にはある。
そしてデザイナーとモデル、共にセットで多大な人気を誇るようになって仕舞ったのだ。
ちなみに神威の父親とは神威のモデルデビューがブレイクした後に高杉が苦心して一度ホテルで会わせて和解させた。
チャラい生き方の子供も子供なら親も親である。
「これ親父」
「何してるンだよ」
「傭兵」
「日本で!?何処でだよ!?なンだよ、そんな馬鹿げた話!」
その後SNSで『中東なう』と記載を見付けたので今頃中東でドンパチしていることだろう。
その息子はというと今も変わらず高杉の家の居候である。
「寝るか?」
傍らの神威に高杉が問う。時刻は夜中の二時だ。
長野でロケをして帰宅した神威はもそもそとコンビニで買い求めたおにぎりを食べ始める。
「Hは?」
したいと云われたが高杉は首を振った。
此処のところ仕事で疲れているのは神威の方だ。
「明日は午後からだろ、俺も徹夜が続いてんだ、起きてからでもいいだろ」
「ウン、じゃあこれ食ったら寝る」
神威は神威だ。初めて遭った時から変わらない。
モデルになってもプロになっても、駄目ホストでも、いつも変わらない。
高杉にとっての理想の被写体。
程無くしてダブルベッドの上で直ぐに寝息を立てる男の顔を見ながら高杉は鉛筆を動かした。

手にはクロッキー帳。
その中にはいくつもの神威のラフとそして寝顔がある。
描くか随分悩んだのだが結局高杉は筆を取った。
これは高杉の秘密だ。
誰にも公開するつもりはないそれ、クロッキーの中の男はいつも幸せそうに眠っている。
安心しきったように、此処だけが己の場所だというように、神威は高杉の傍らに居る。
その寝顔を描きながら高杉はその幸せに知らずと微笑んだ。


09:門外不出のクロッキー

お題「旅行」

ゆめのテクニシャン神威だと正統派BLになったヨ!という話でした。

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