※パラレル。八尾比丘尼の人魚の肉ネタ。お題04「10:噫、お前のその言葉だけで」「11:振り返れば」の過去話。


不老不死というような夢物語が現実に存在するなどと当初は思ってもいなかったし、ましてそれが己の身の上に起こるなんてかつての己では想像もできなかっただろう。けれども五百年余りの時間を越えて仕舞えばあれほど激しかった悲哀も、憎しみも、何もかも過ぎ去って仕舞った。攘夷戦争中に不意に人魚の肉を口にして仕舞った高杉晋助にとって、五百年という時間の流れはあまりにも早く、そして永かった。
そしてまたその中で神威という同胞を得たことだけが己の救いなのだろう。
永遠を一人彷徨うことも無く、高杉はこの孤独な永遠の中で幸運にも、同胞を得た。
最もその同胞は五年前に些細なことで口論になり、高杉がそのまま乗る予定だった船を降りて仕舞ったことから空港で喧嘩別れしたっきりである。それでも高杉にも情報網はあるので相手が何をしているか程度の情報はあったが、結局今更あのことを謝るのも癪であったし、神威も追いかけてこなかったので、意地を張ったまま現在に至っている。
この五年で高杉は表向きいくつかの仕事を偽名で持っており、今は商談で賭博場が多くひしめく星に降りていた。
いつものように、前時代の笠を被り刀を差し着物という出で立ちであったが、実際の所は違う、高杉は皮膚の下に埋め込んだ生体チップによる視覚カーテンで一見すると高杉に姿は商談に赴いたフォーマルな出で立ちの天人である。皮膚下の生体チップは今や全宇宙規模でごく普通の当たり前のものだ。これで通信や個人認証まで行っている。少しグレードアップすれば簡単な食糧の組成も可能であった。
五百年前には想像もつかなかった世界だ。今や宇宙中にネットワークが網羅し、常に新しいショートカット(ワープ生成の道筋)は発見され宇宙は拡大していっている。
高杉はいつものように偽名のチップを装着し、プレミアムと呼ばれる種類のホテルにチェックインした。この星に降りるときはセキュリティ上の都合もあって泊まるホテルは一流と決めている。いくつもの偽名と役職を持ち、莫大な資産を持つグループの創設者であり、今も尚影でグループを牛耳る高杉としてはそのぐらいの配慮は必要であった。そしてこれは不老不死であるが故に、同じ場所に長く留まれない高杉が見付けた生き方であった。時間だけは無限にある。その時間を高杉は味方に付け宇宙一と云われる財を築きそしてこの永遠を渡ることを覚えた。
慣れたホテルなので常ならば扉を潜るだけで生体認証可能だ。既に高杉のチェックインは済んでいるのだが、今日は商談の指示を出す為にフロントに寄った。部屋付きの係りの者を呼びつけても良かったがそれも億劫であったしフロントで二、三指示すれば充分であったので、そうしたのだ。
そこで、目があった。
鮮やかな珊瑚色の髪に、青い眼、生体チップの視覚カーテンのロックはお互いが反応すると互いの視点だけ直ぐに解除されるように設定してある。つまり他の者から見れば高杉も神威も全く違った別人に見えたが、互いのエリア内に入ると神威と高杉の視点では過去のままに戻る。
まるで変わらないその姿。
今や伝説となった夜兎の王。

「あり?」
「てめぇ・・・」
神威である。
つらつらと同胞のことを考えたりもしていたが、まさかの再会である。
五年ぶりに、空港で別れて以来の出逢い。
あれから一度も連絡をしていなかった。
何か聲をかけようかとも思ったが、有無を言わさず高杉が神威の手を掴む。
係りの者が何事か聲をかけてくるが知ったことか。
高杉がエレベーターに乗れば最上階のスウィートのロックが外され部屋に自動で移動する。
そのまま、神威をエレベーターに押し込んで何か云う前に、口付けた。
「・・・っ、久しぶりだと情熱的・・・」
「黙れよ、クソ餓鬼」
角度を変えて口付ければ神威もノってきたのか、観念したように高杉を壁に押し付けて舌を絡めてくる。
それだけでぞくぞくした。
エレベーターが指定の階に到着し、もどかしさを抱えたまま部屋に雪崩れ込む。
性急な様で神威に床に押し倒される。
神威が高杉の衣服を乱暴に乱し、それから身体を弄ってくる。
「ふっ・・・」
素肌が晒されぞくりとした。
思えば久しぶりだ。
不老不死になってから、生殖反応はあるものの、種は死んでいるので、子孫を成すことは不可能である。
こうして戯れに興じることもあったが、神威と喧嘩別れしてからは稀に衝動を覚えて女と寝ることはあったが行為自体は久しぶりのことだった。
「ウワキしてないか調べてあげる」
「誰が浮気だ、このっ、っ」
高杉が抗議する前に神威の指が慣れた手付きで触れてくる。
高杉の何処が弱いのか熟知した行動だ。
だからこそ堪らなくなる。
「アッ、!」
「慣れた俺の方がイイんだよね、俺もご無沙汰だし、恋しい古女房って感じ?」
「誰が古女房だ、クソ餓鬼ィ・・・」
「クソガキなんて俺のこと呼ぶの高杉くらいだよ、ちょっと年上だからって、こんだけ生きればチャラでしょ?」
冗談では無い。高杉にとって神威はいつまでもクソガキだ。
ぐい、と脚を割り開いてくる神威に高杉は悲鳴をあげた。
「て、めっ、行き成り・・・!」
無理だ、と逃れようとするが神威が許さない。
「ちょっと痛いけど再生するでショ、俺ももう我慢きかないから一回死ぬくらい覚悟して」
一度本気でヤリ殺されたことがある。
高杉も神威も不老不死だ。傷は直ぐ様再生するし、死んでも生き返る。神威はそもそも夜兎であるのでその再生能力は高杉の比では無い。
「やめ、っ」
やめろと云う前に神威が押し入ってくる。
同時に切れた感覚がして、マジでこの餓鬼殺すと誓った。
けれども力で押されれば駄目だ。
神威が慣れた手付きで高杉のものに触れ、そして高杉の中を揺さぶればあとは悲鳴しかあがらない。
その悲鳴が嬌声に代わるまで神威は高杉を揺らし続けた。
そして神威は五年ぶりに高杉の中で長い放蕩を終えた。

「マジで、殺しやがって・・・」
「御免、本当に我慢が効かなかった」
高杉がエロいのが悪いという言い訳をする神威の頭をとりあえず殴る。
「腹上死なんざ御免だ・・・」
しかも自分がヤられて死ぬのだから最悪である。
夜兎の力で本気で嬲られれば死ぬに決まっている。
思えばこの餓鬼は最初に高杉が不老不死だと気付いた時に、心臓を抉って見せた餓鬼なのだ。
性行為で死ぬくらいは慣れたが、矢張り勘弁願いたい。
頭が真っ白になってイったのか逝ったのかわからなくなるのは嫌だった。
「俺的には高杉の上で死ぬとか浪漫だけど」
「・・・なんで俺達五年離れてた?」
「忘れたよ」
はあ、と溜息を吐く高杉に神威はあっさりと言い放つ。
正直今思えばどうでもいい内容だった。
互いに意地を張った為に五年も離れていたが、いざ五年振りに遭ってみればこれだ。
双方で盛り上がって仕舞ってもう朝である。
ほぼ二十時間以上こうしていたのだからそれを考えるとぞっとする。
商談のことを思い出したがもう動くのも億劫なので神威に、別の理事に連絡させた。
甲斐甲斐しく高杉の世話をやくフリをしながらも如何わしい手付きで触れてくる神威の手を叩き落としながらも高杉は愛用の煙管に火を入れる。
「それも久しぶりだ」
「ただの煙草だろうが」
「アンタもずっと変わってない、俺の好きなままだ」
明け透けに云う神威の素直さに高杉は息を吐く。
「これだからクソ餓鬼は・・・」
「餓鬼って酷いなぁ、俺これでも宇宙で一番強いんだよ」
そんな風に云う神威に手を伸ばし口付ける。
さらさらと零れる珊瑚色の髪も青い眼も昔のまま、ずっと変わらずその眼は高杉を映す。
変わらない、あの時から神威は変わらず此処に在る。
高杉にとって神威はいつまでもクソ餓鬼だ。
手癖が悪くて本能のままに生きていて、これが至上最強なのだから性質が悪い。

「てめぇはいつまでも俺にとっちゃクソ餓鬼だよ、神威」
俺の為に人魚の肉を食べたクソ餓鬼。
食べたら死ぬかもしれない肉を食べた、莫迦な餓鬼。
云ってはやらない。云うものか。
それでも、お前だけだ。
( お前が俺の光だ )
死ぬこともできず、永遠を渡るこの生の地獄の中でもたらされた、ただ一つのもの。
苦しみに生きる高杉の為に同じになった、たった一人の男。
その男に口付けながら高杉は珍しく笑みを洩らした。
「お前なんざ、クソ餓鬼で充分だ」


08:莫迦で愛しい
唯一の同胞。

お題「五年ぶりの再会」

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