※お題01「01:従兄弟と踊る」とお題02「09:夏の朝に」の続き。現代パラレル。従兄弟設定。教師高杉と生徒で従兄弟神威。


高杉が顧問を受け持ったのは剣道部だ。
担当の教師が胃潰瘍で入院して仕舞いその間の代理であった。
つまり夏休みいっぱいだけという条件だったのだ。
その高杉の部活指導に着いてきたのは神威である。
高杉と神威は従兄弟だ。早くに亡くなった高杉の父の代わりにその兄であった神威の父が高杉を養育した。
しかも家系は筋金入りの極道である。神威の父は早々に大陸へのパイプを繋ぐ為に日本を出て仕舞ったが高杉は父の残した組を継がなければいけなかった。けれども最終的にそれを拒み教師の職に就いたのは高杉である。組を取り潰すことも出来ないので止む無く高杉の代わりとして香港から従弟の神威が日本入りした。そして高杉の指導する高校へ入学し教師と生徒、従兄弟という関係を築いている。その従弟というのが曲者である。傲慢な強さを持ち大抵の出来事は力で解決できると思っているような餓鬼だ。その餓鬼を指導するのが高杉の役目であった。

「そもそも何で剣道部に・・・」
高杉が半ば呆れながらも神威の足首に触れれば少し熱を持っていた。
「だって晋助が剣道部の顧問するっていうからさ、それにちょうど大会に出る面子の棄権者が出たし、それなら俺が出ようかなって」
そう剣道だ。
神威は部活に顔を出す高杉の後に続いて何食わぬ顔で剣道部に入部したばかりか、試合にまで出て仕舞った。
たまたま欠員が出たのでその代理参加であった。剣道をまるで知らない神威であったが、運動神経だけは抜群に良い。
その類稀な反射神経を武器に神威はみるみる勝ち抜いて仕舞った。
欠員の補充であったので参加は団体戦のみであったが、圧倒的に神威が勝ちぬけて仕舞うので剣道界に舞い降りた新星なんて噂されるほどである。途中何度かルールの認識の違いもあったが、その点はなんとかクリア出来た。
万年初戦か二回戦敗退の部がまさかの優勝争いに食い込むなど流石の高杉にも想像出来なかった事態である。
「足ちゃんと出してみろ」
袴から覗く神威の足を見れば無茶な動きをした所為か熱を持っている。
その人間離れした動きで以って勝って仕舞うのが神威の驚異的なところであったが、優勝争いにまで行くとは思ってもみなかった。
既に神威は部のヒーローである。
「痛みは?」
「別に痛くは無いよ、平気。ちょっと疲れたけど」
高杉は冷却スプレーを取出し神威の足首からふくらはぎに向けて噴射する。
そしてテーピングで足首を固定させてそこから神威のふくらはぎを指で揉み始めた。
神威の症状は思ったほど酷くは無い。捻挫でもしているかと思ったが大丈夫そうだ。今は酷使した筋肉を解してやる方がいいだろう。
ゆっくりと指で揉みほぐしながら高杉は神威にスポーツドリンクを飲むように指示した。
水分が不足して熱中症にでもなれば大変である。
他の部員にも各々にその指示を出して高杉は別室で神威のケアに努めた。
一時間の昼食休憩の後は決勝戦である。
神威は高杉のマッサージを受けながら朝出る時に組の者が用意した重箱を取り出した。
神威の為に用意された昼食は三段ある。大人の軽く三倍を食べる神威にしてはやや少量であるが運動をするので食べすぎるなと高杉が釘を刺した為であろう。その弁当を凄い勢いで神威は掻っ込みながら高杉のするままに足を委ねる。

「こういうの、いいよね」
「あン?」
高杉が訝しげに神威を見れば勝ち誇ったような顔で神威が高杉を見下ろした。
「だってさ、晋助がマッサージしてくれるなんて最高、剣道とかどうでもいいけどこれは良かったかな」
「此処まで来たんだ、どうせなら勝て」
「勿論」と神威は口端を上げる。
高杉が神威の両足のふくらはぎを揉み終わり仕上げに上からテーピングをすれば終了だ。
「俺も晋助のマッサージしたいな」
「顧問に労いか?お前が?」
高杉が煙草を取出し火を灯せば神威は愉しそうに喉を鳴らす。
その指がスーツを着た高杉の太腿からその上に伸びた時に高杉はその不埒な指を叩き落とした。
「性感マッサージは頼んでねぇよ」
「ちぇ、イイと思ったのに」
「あと五分で体育館に移動だ」
「はぁい」と神威は立ち上がり身体を慣らす。そのしなやかな動きは若木のようで高杉には眩しい。
高杉は煙草を灰皿に押し付けドアを開け外に向かう神威の背中を叩いた。

「瞬殺できたら考えてやる」
何を?と問う神威に、高杉は視線を意味ありげに神威に投げ、そして「性感マッサージ」と言葉を出した。
「よし、瞬殺!」
気合も充分おまけに土産は高杉自身だ。神威が優勝旗を持ち帰るのは確実だろう。
「待っててよ、高杉センセイ」

教師と生徒、おまけに従兄弟同士、こういう関係はどうかとも思いつつ、高杉は内心苦味を覚えながらもそれが厭では無いのだとその背を見つめながら笑みを漏らした。


17:つまり一本勝ち

お題「マッサージ」

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