※お題01「01:従兄弟と踊る」の続き。現代パラレル。従兄弟設定。教師高杉と生徒で従兄弟神威。


組を継がないと云ったのは高杉であり、その穴を埋めるために年下の従弟である神威が香港から来日したのは当然の流れであった。
その為高杉は神威を監督する為に、けじめで一度は出た高杉本家の敷居を再び跨いで神威と同居する羽目になっている。
高杉組の頭とは云っても神威は未だ学生であったし五年も日本を離れていたのであればこちらの作法も覚束ない。
元々は高杉が継ぐ筈だったものを押し付ける形で神威に明け渡したのだから仕方無いとは云えたが、そんな従弟の面倒を見るのも高杉の仕事であったし、曲りなりにも高杉は教師であり、神威はその生徒である。
故に高杉と神威の距離は近い。
どのくらい近いかというと足でその頭を小突く程度には近い。
「おい、起きろよ、神威」
高杉が煙草を吹かせながら神威の米神を狙って踏めば寝汚い従弟が眼を醒ました。
ちなみに神威は全裸である。
高杉は既に身形を整えてネクタイを締めている最中だ。
シーツの皺や辺りに飛び散る衣服から何があったのかは云わずもながであったが、高杉はこの従弟と寝るのを許容している。
否、組を神威に押し付けたと云う負い目があるから強請られれば受け入れていると云うのが正しかったが、それでも主導権を握っているのは高杉だ。
「眠い」
「うるせぇ、さっさと起きろクソ餓鬼」
「もー、夏休みじゃん、好きなだけ寝させてよ、それで晋助も此処に来る、もっぺん天国見せてよ」
高杉の足を抱き込もうとする神威の腕を交わし高杉は従弟の頭を踏みつけた。
「痛いって・・・何時だと思ってんの・・・」
もそり、と神威が動いて枕元に放りだしていた携帯を手に取る。
「八時・・・夜じゃないよね・・・」
もう一度寝ようとする神威の髪を鷲掴み高杉は神威の学校の制服を投げる。
昨晩、身の回りの世話をさせている若い者に用意させておいたものだ。
「着ろ、朝飯が食いたかったら起きろよ」
高杉が煙草を吹かせながら神威が自室に使っている和室を出ようとするので漸く神威が身を起こした。
「もー、晋助、夏休みだろ、ゆっくりしたら?」
「俺ぁ教師なんでな、働かないといけないんだよ」
「それは晋助の事情でショ、俺に何の関係があるの?」
下着とズボンを穿いてベルトを探して腰に回しながら神威は問うた。
放っておくとこの男は直ぐに糸が切れた風船のように何処かへ行って仕舞うので、高杉を己のものにしたい神威としては頂けない。眠かったが、高杉がわざわざ神威を起こした理由が知りたくて神威は高杉の後ろへと続いた。
「補習あんだろ」
「補習?」
「プリント渡したぞ、宿題もな」
「嘘・・・!」
そんなものとっくに記憶の彼方だ。
「今日は午前中、俺の現国と、古典と、数学」
「うげー・・・」
顔を顰める神威に高杉は笑みを洩らす。シャツを羽織った神威に煙草を強請られたので一本渡してやった。
家の中でなら仕方ない。どうせ今更である。ただし学校では高杉は喫煙の一切をこの神威に許可しなかったが。
「俺古典苦手なんだよねー、計算も」
「古典は仕方ねぇとして計算はどんぶり勘定ばっかしてるからだろ」
自業自得だと云えば神威は一層顔を顰めながら煙草の煙を燻らせた。
「俺の現国はわざと落としやがるしな」
そうわざとだ。
神威はわざと悪い点を取っている。そもそも学校の授業でまともに出ているのもまともに聴いているのも高杉の受け持つ教科くらいであるというのに神威はテストになるとわざわざ悪い点を取った。
小テストの点は悪くないのに、だ。
わかりやすいこの従弟のアピールに高杉はやや呆れながらも好かれることに悪い気はしない。
神威の頭を撫ぜながら高杉は車のドアを開けた。
「じゃあ、晋助、午後は?午後から俺と出掛けてよ、夏休み、観光とか連れてって、ってゆうか俺とデートして」
「ばぁか、仕事は他にもあンだよ」
「えー、仕事って何さ」
不満げに云う神威を無視して朝食用にと用意させた重箱を高杉は受け取り後部座席に無造作に置いた。
どうせ放っておいてもこの従弟が勝手に食べるだろう。
「ねー、本当、晋助、似合わないって、教師なんか辞めてさっさとこっちで遊ぼうよ、日本で凌ぎが苦しいならさ、親父のとこ戻って抗争でもなんでもしようって、香港はいいよー、やりやすいし、神楽だって喜ぶよー」
妹の名前を出して神威が高杉の気を引いても駄目だ。
高杉はそんな神威の頭をもう一度撫ぜてそれから車のアクセルを踏みこんだ。
「で、結局午後からなにがあるの?会議?」
「あー・・・部活の顧問引き受けた」
高杉のその言葉に神威は吹き出した。
煙草の灰が飛び散るのも気にならない。
「え、うそ!晋助が!?部活!?似合わなさすぎるでショ!何部!?」
「代理だ、担当が胃潰瘍で入院したんでな」
「だから何部!?」
信じられない、と云うような聲を張り上げる従弟の問いに酷く居心地が悪そうに高杉は車の窓を開けながら云った。

「剣道部・・・」
爆笑する従弟の聲をBGMに車は夏の朝を駆け抜ける。
そしてその数日後、神威が剣道部に入部を果たし、全国制覇をすることになるとはその時の高杉には想像もできないことだった。


09:夏の朝に。

お題「ホームワーク」

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