暫定的に拠点としている其処は魔王城と呼ばれている。 旧世界で云う六本木ヒルズと云われた場所だ。現在ミツルを中心に据えて魔王軍として直哉達は軍を展開している。勿論戦う相手は天使であった。神の勢力と戦う為に魔王軍は在る。 人間には手を出さないというルールを徹底して、逆に人間サイドから仕掛けれれば相応の力を以って応えるつもりだった。 直哉は居住区の最上階のペントハウスに居を構えている。 主は勿論弟であり王であるミツルだ。 直哉が部品の調達を終え帰宅した時ミツルの匂いが違うことからミツルがシャワーを浴びたのだと知れた。 自分がいない間に無意味にミツルがシャワーを浴びるとも思えない。 だからミツルが何処で何をしていたか、想像に容易かった。 カイドーだ。ミツルはあの二階堂征志という青年と寝ている。 それに対して何も思うところが無いかと問われれば否定は出来ないが、それでも直哉はカイドーの存在を許容した。 ミツルと肉体関係を持つ相手は殆ど掴んでいる。 寧ろミツルとカイドーが寝ていると知ったからこそカイドーを魔王軍に誘った。 カイドーがミツルと寝ることは織り込み済みである。 勿論それだけでなくミツルはあの油断ならない悪魔、魔王に名を連ねるロキとも寝ていたわけだがそれは流石に直哉の予想外で少々面食らった。 いくらなんでもあんまりだ。 よりにもよってロキとだ。しかもロキはそれをこれ見よがしに直哉に自慢してくるから性質が悪い。さっさと殺して仕舞おうとあらゆる方法での殺害計画を実行しようとしたところでロキの口から更に意外な言葉が洩れた。「凄く良かったけど最終的に僕がネコだった・・・」とロキは云ったのだ。 これを聴いた直哉の心中は複雑である。どう答えていいのか言葉を失った。 ミツルがロキを攻めたのもそうだがあのロキが受けいれる方に回ったかと思うとなんというかもう、どうでもよくなった。正直考えたくも無い。 色々萎えそうであったし実際直哉のそれは萎えた。 以降とりあえずロキの自慢は聞き流すことにしている。 とにもかくにもミツルは尻軽だ。直哉も確かにミツルを想像して散々他所で抜いてきたが、そろそろいい加減ミツルとの距離を詰めてもいいのかもしれないと直哉は思った。 しかし現実にはそう上手くいかない。 ミツルは相変わらず直哉をかわすのが上手い。この二年そのことだけに従事してきたのだから当然と云えばそうだったが直哉を知り尽くしている分、いくら何千年分以上の知識が集積した 直哉の手管でもミツルには通じなかった。性格は早々に変わるものでは無いのだ。 人類最古の人間であってもミツルには読まれていた。創世の時代からの知識は多分泣いている。 その駆け引きがそれなりに直哉にとって心地良いものであるのも確かだったが、ミツルはいつも寸前で直哉の手から逃れる。 そんなことを繰り返しながらも着々と天界の軍勢と戦いそしてそれは突然訪れた。 「ミツルが―どうしたと・・・」 間が悪かった。天使には充分に直哉は注意を払っていた。 ミツルは魔王であったし、今この世で神と同等の力を持つ唯一の存在だ。 だから早々にミツルを倒せる筈も無い。ミツルと対等に戦えるのはもはや神しかいないのだ。 その油断がこうなった。ミツルが狙撃されたと聴いた時、直哉は全身が凍った。 ―人間だ。ミツルを倒して神に媚を売ろうとする一部の勢力が魔王軍のエリア、つまり山手線の内側に侵入した。普段人間が侵入しても悪魔は気にしない。 ただ襲うなと悪魔達に命令していたのも裏目に出た。 今にして思えばこれこそが天使側の誘導であったのかもしれない。 ミツルは完全に油断していたし、それと同時に、共にいた篤郎も気付かなかった。 これがカイドーであれば、直哉であれば気付いたかと思うと歯噛みする。 狙撃手に気付かなかったのは直哉の警備の落ち度だ。ミツルにも篤郎にもその危険を促さなかった。 実際悪魔を使役できる自分達には危険が及ぶことなど殆ど無いのだ。 当然油断していた。失念していた。魔王になったとは云えミツルの身体はまだ人間のそれだ。 いずれは魔王の力で不死にもなったが今はまだその時期では無いと直哉が判断していた為、本当にただの人間の身体だった。常にミツルに控えている悪魔達は天使には警戒しても脆弱な人間などは歯牙にもかけない。完全にミツルの身辺はガラ空きだった。狙撃手からすればこれほど狙いやすい獲物もいないだろう。 しかしミツルは寸前で気付いた。自分をターゲットしている赤いマーカーに気付いた。 ミツルだけなら無傷であっただろうが、篤郎にもその赤いマーカーが付いていると悟った時、ミツルは篤郎の前に踊り出たのだ。 血だらけのミツルを見た時、直哉は激昂した。全身の血が沸騰するかと思った。 直ぐ様ミツルに駆け寄ろうとするが、其処で足を止める。 ( それは俺のものだ )怒りで我を忘れそうになる。忘れそうになっているのに直哉は不自然なほど冷静にミツルの状況を受け止めた。 ミツルの肩から腕にかけてべっとりとした血がついている。 咄嗟に身辺の悪魔がミツルを癒したが、ミツルは力がまだ上手く使えない。 直ぐに再生、とはいかずある程度魔法で自然治癒を促して様子を見ることになった。 ミツルは篤郎を責めない。むしろ巻き込んですまなかったと謝っている。 取り乱す篤郎を宥め、直哉は怒りに呑まれながらも、しかし逆に酷く冷静な様子で配下の悪魔達に狙撃手を捕らえさせた。自白なども必要無い。調べれば直ぐわかることだ。 悪魔め、と罵る人間を尻目に、直哉はミツルを篤郎にまかせて、その場を去らせた。 直哉は怒っていた。怒りに身を焦がし、このまま世界さえも滅ぼせそうだった。 しかし外向きは限り無く冷静に見えた。直哉は何も云わずに「それ」を見下ろす。 何の感慨も無く、直哉は手を翳し「それ」、つまり狙撃手の頭を潰した。 ( 誰にも渡さない ) ミツルを傷つけていいのは己だけである筈だ。ミツルをこの世で得られるのは直哉だけだ。 ミツルの奔放さを直哉は愛しているからこそ、ミツルの身体を手にできなくても良かった。 けれどももう駄目だ。傷ついたミツルを見た時、直哉は限界を悟った。 ( ミツルを俺の物にする ) あれを自分の物にする。そうしなければならない。そうしなければ空気のように当たり前にある 存在を失って仕舞う。これでは何のために世界をこうしたのかわからない。 恐らく今部屋に帰れば傷ついたミツルを直哉は戸惑い無く犯すだろう。 しかも最も酷い方法で傷を抉りながら犯すだろう。 それだけは避けようとなけなしの理性を動員して、直哉は代わりにこの事態を引き起こした 原因全てを始末してやろうと非情な笑みを洩らした。 首謀者一味が遺体で発見されるまで半日も要らなかった。 気付いた時、ミツルは右肩の違和感から自分の身に何が起こったのか状況を思い出した。 既に此処はミツルの部屋だ。直哉か誰かがミツルを運んだのだろう。 それからずっとミツルはベッドの中だった。 ―仕舞ったな、とミツルは思う。 直哉を刺激して仕舞った。帰ってこないところを見ると一応気を遣ってくれているのだろうと 推測できるが、それでもこれでミツルが直哉を回避するのが難しくなる。 ミツルが狙撃されたと知った時、直哉は咄嗟に駆け寄ろうとした。 しかし寸前で踏みとどまった。それは怒りに我を忘れていたからだ。返って直哉の非情で冷徹な部分が表に出た。直哉の本性が出たのだ。直哉は本当に怒っている時ほど冷静で冷酷になる。 怒りに呑まれながらもただ冷静に状況を分析して、原因を徹底的に追い詰め壊す。 想定できる最も残酷で非情で合理的な方法で直哉は目的を果たす。 あれではもう、ミツルの襲撃を指示した人間は終わりだろうな、とミツルは他人事ながらも少し可哀想な気持ちになった。恐らく首謀者から支持者まで全滅だろう。直哉は事の経緯を一切ミツルに説明せずにただ「もう片付いた」とだけ云った。だから想像が付いた。 直哉は一度決めたら容赦が無い。 篤郎にも悪いことをした。あれから酷く心配して篤郎は毎日ミツルの部屋に顔を出す。 外見の傷自体は治っていたが見かけだけでまだ中は治癒途中だ。ミツルは破壊に長けていても治すのはあまり得意では無い。特に自分の力と人間の身体の部分のバランスが上手くとれなくて傷を治すということにはもう少し練習が必要だった。感覚さえ掴めれば簡単に出来るのだろうが、ミツルにはまだその感覚が上手く掴めない。狙撃されたのは右肩だったが筋をやられていたので再生まで時間がかかっている。少しづつ力を取り戻してやっとコップを握るくらいのことは出来る様になった。 ( この力に早く慣れないと )とミツルは自省する。 使えれば万能の力でも人間の身体を保ったままではまだ難しい。直哉は少しづつ慣らしてから天使との全面戦争に備えるつもりのようだったがまたこんな事態が起こらないようにミツル自身が気を付ける必要があった。 あれから直哉は仕事詰めだ。魔王軍のエリアには既に強固な結界が張られ天使どころか普通の人間ですら入れないようになっている。 直哉は魔王軍全体のセキュリティレベルを上げたのだ。 出入りが自由だったミツルの部屋の前にも常に護衛の悪魔が配置されている。 篤郎達にも護衛を付けたというから徹底しているだろう。 そんなことをつらつらと考えながらミツルがベッドに伏せっていると直哉が顔を出した。 珍しい。こうしてまともに顔を合わせたのは四日ぶりだろうか。その前も三日程会っていなかったから久し振りだ。一応帰ってきてミツルの隣で寝てはいるらしかったが、いつもミツルが寝入っている時間帯を狙って帰ってくるらしくミツルは気が付かなかった。普段のミツルなら気付きそうなものだったが今はマリから飲むように云われている薬の所為で眠いのだ。 「直哉」 「具合はどうだ」 「ん、大丈夫だよ、そろそろ寝て無くてもいいと思うんだけど」 いい加減ミツルは退屈だった。しかし直哉はミツルを部屋から出さない。許可しない。 一度こうなって仕舞っては直哉に逆らえる筈も無く、またミツル自身油断していた後ろめたさもあってこうして直哉の溜飲が下がるまで大人しくしている。 「仕事はいいの?」 「ああ、今日は終わりだ」 直哉はあれから怒りはあるものの少し落ち着きを取り戻した。 ミツルの傷が見かけよりも深く無いのと痕が残らないとわかったからだ。 痕など魔王の力でいくらでも消せたが一度でもミツルが他人に傷をつけられたかと思うと直哉としては気分の良いものでは無い。 筋を痛めた所為で上手く手が動かせない不便さはあったがあと数日もすればそれも解消されるだろう。 ミツルの怪我の見通しが明るくなったので直哉は落ち着いたのだ。 直哉は煙草の火を点け、ミツルの居るベッド脇に座った。 ( あ、不味いな )―直感的にミツルは悟る。 直哉は仕事が終わって、今此処に居る。ミツルの状態が良くなってきて、部屋からは出られない。 ―つまり直哉はミツルを抱こうとしている。それがわかった。 ミツルがこうなった以上、直哉は今までの様に許して呉れるとは思わなかったが、直哉の目がミツルが思っていたよりずっと真剣なのでミツルはどうにか直哉から逃れる方法が無いかその明晰な頭で考える。 「無駄だぞ、ミツル」 「何が・・・」 そんなミツルの胸の内を見透かしたように直哉は煙草を燻らせながら云い放った。最後通告だ。 思わずミツルの声が上擦る。やばいな、と思いながら少し後ずさった。 直哉は冷静な様子で煙草の煙を吐き出し、灰皿を手にして煙草の火を消した。 そしてミツルの居るベッドに上がってくる。 「俺はお前を抱くことにした」 「もう少し待って」 じりじりとミツルは壁際に追いやられる。あ、と思った時には直哉がミツルの上に居た。 「もう待った」 ( ああ、駄目かも ) ぞくり、と鳥肌が立つような感覚にミツルは攻められる。 直哉の赤い眼は本気だった。秀麗な直哉の整った顔がミツルに近づいてくる。 今回ばかりは駄目かもしれない。 本命とは寝ない、そう決めていた。だって直哉と寝たらミツルは変わって仕舞う。 だから直哉とは寝ないと決めた。なのに身体も心も直哉ばかりを求めている。 直哉も同じようにミツルを求めているのに互いに身体を交わらせたこともキスさえしたことが無い。 ただ穏やかに共に同じベッドで眠り、その呼吸を感じる。 それだけで幸せである筈なのに、情欲が互いの胸を焦がす。 欲しいと、いつでも思っている。直哉もミツルも互いが欲しくてたまらない。 もしあの時狙撃されたのが直哉であったのなら恐らくミツルも直哉と同じことをした。 同じ怒りに苛まれ、相手を殺しただろう。直哉もミツルもお互い似た者同士なのだ。 そういうところは兄弟なのか全く同じ性質を持っている。 だからミツルは直哉を責めることは出来ない。 「生理中なんだ」 「それでもいい」 「腕が痛いから嫌だ」 「俺はする」 「実は性病にかかってて」 「それがどうした」 いつもみたいに、直哉は気を逸らしてはくれない。 仕方無いな、と呆れた顔で直哉は去ってくれない。 ( 駄目だ )ミツルの声が慄える。 どうしよう、直哉は本気だ。 直哉に圧し掛かられる。強い力で抑え付けられる。 肩に痛みが奔ったけれど直哉はミツルを逃がしては呉れない。 溶かされる。飲み込まれる。 直哉に、全部、直哉の物になる。 ミツルの唇が慄える。 直哉は驚くほど優しい顔をして、それからミツルと直哉の距離がゼロになった。 「散々待たせたんだ、ゆっくり楽しもう」 直哉の宣言にミツルの身体に甘い痺れが奔った。 09:崩れ落ちる |
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