朝だ。
気付けば朝。
明楽はぼんやりと目を覚ましてそれからそれが自分の部屋で無いことに驚いた。
驚いて身を起こそうとしても身体がぴくりとも動かない。
左腕の痺れた感覚に明楽が今度こそ意識をはっきりと浮上させてそれで漸く此処が何処で今がどういう状況なのか思い当った。
直哉だ。
昨日直哉が明楽を抱き締めたまま寝落ちして結局明楽もそのまま寝て仕舞ったのだ。
だから今も明楽は直哉の腕の中だ・・・。
「・・・っ!」
ばっ、と身体を起こそうとするがそれも叶わなかった。
せめて今の時間を確認しようと明楽がもぞもぞ動いていると、狼を起こして仕舞ったらしい。
「なんだ?」
「時間を・・・って直哉・・・!」
低い掠れた聲は寝起きの直哉だ。
明楽は驚いて顔を上げると驚くほど、本当に腹が立つけれど毎回見惚れるほど顔の整った従兄の顔が近くにあった。
「六時だ」
「朝の・・・?」
「それ以外で六時なものか、寝過ごしたな」
八時間くらい寝たのかと直哉が意外な聲をあげる。
明楽は知らないが直哉の睡眠は基本的に三時間程度だ。
いくら疲れていたとはいえ明楽を抱いて寝るとクーラーの寒さと明楽の温度でちょうど良い心地でつい寝過ごして仕舞った。
そもそも明楽は抱きやすいサイズで直哉の腕にすっぽりと収まって仕舞うのもいけない。
「なら離せよ、直哉」
「どうしてこうなってる・・・俺は寝たんだろう?」
意地悪に直哉が問えばたちまち明楽が顔を真っ赤にして言い訳をする。
「これはっ・・・お前が勝手に俺を抱き締めただけで、俺は嫌だったし、腕から出られなかっただけだから・・・な!」
いいから早く退けよと明楽が顔をあげれば直哉と目が合った。
それがいけない。
しどろもどろ言い訳をするのに、駄目だ。
直哉は明楽の言い訳を心地良さそうに聴いて、それから・・・。
「だからっ、早く退いてよ・・・」
蕩けるように笑った。
駄目だ。溶かされる。こんな顔ずるい。
直哉に抱き締めらたまま、こんな顔されたらどうしていいか明楽にはわからない。
どきりとする。
どきり、としたけど・・・明楽は急に我に返った。

「・・・固いものがあたっています」
「朝だからな」
しれっと直哉が云う。明楽は身を固くして更に現状を訴えた。
「徐々に固くなっています」
「朝だからな」
逃げようとする明楽を直哉が逃がす筈も無い。がしっと明楽を抱き込んで直哉はその可愛い耳を食んだ。
「嫌だって!明るいし・・・!」
「朝だからなー」
何をされるのか流石の明楽にもわかる。
こんなこと朝からされてたまるか。明楽は直哉の腕を抓りながら懸命に直哉を引きはがそうとした。
直哉から見れば子猫が狼の腕の中から逃れようとしているようなものだ。
可愛いが意地悪のひとつもしてやりたくなる。
それにこの抱き枕は心地良いのだ。
「朝からそんなことすな!」
「そんなことって?」
わざとらしく直哉が云えば明楽は耳まで真っ赤にして直哉を突っぱねる。
「ううううるさい!変態直哉!」
「明楽」
あきら、と直哉は優しく従弟を引き寄せる。
そして明楽がわなわなと唇を慄わせている隙に、その口にキスをした。
何度も啄むようにバードキスをして、明楽が顔を真っ赤にして何も云えなくして、そして直哉は云った。

「夜まで待てない」

直哉に足を掴まれジーンズを脱がされる。
昨夜はするかと身構えたのに朝されるとは思ってもみなかった明楽は慌てた。
「やだっ、やだって、直哉!」
厭だと云ってみる。だってこんなの朝からすることじゃない。
恥ずかしい。カーテンの隙間から朝の光が漏れているだけに居た堪れない。
こんなの、できるわけない。
嫌だと懸命に明楽が云えば直哉は益々意地悪になる。
ちなみに明楽は気付いていないがこの場合の嫌は『朝なのが嫌』なのであって『するのが嫌』では無いのだ。
そういう意味でどっぷり直哉の術中に嵌っている明楽であった。
だから直哉がしたいと云えば明楽は駄目だ。
水洗トイレで流されるかのごとく、流される。
その上直哉の手付きは一級だった。何時の間にかさっさと明楽の衣服を脱がせて下半身を露わにして朝から元気な其処に指を這わせている。その手付きが直哉の癖に優しいからもっといけない。
錯覚しそうになる。
何を錯覚するって?そりゃそんなの深く考えたら駄目なことだ。深く考えたら明楽は打ちのめされてしまう。
直哉は明楽に意地悪な男でいい筈だ。意地悪で陰険な従兄。こういう時だけ優しいなんて卑怯だ。
「やだっ、明るいから、いやだ!」
必死に明楽が訴えれば直哉はなんだそんなことか、と明楽に云った。
直哉は明楽と違って昨日スーツの上を脱いだだけでシャツとスラックス姿だ。
それがまたいけない。
いつもの直哉っぽくなくて、明楽の拒む聲が小さくなる。
恥ずかしいのに、嫌なのに、直哉は屹度する。それを明楽は身を以て知っている。
これから来るそれに、こわいのか期待なのかわからない疼きが明楽に奔った。
「明るいから嫌なのか」
「だってこんなの朝からすることじゃ・・・直哉?」
直哉は明楽の言葉を聴くやいなや床に落とした昨夜のネクタイを拾った。
「な・・・直哉?」
嫌な予感がする。
そしてこの嫌な予感はきっと当たる。
だってあの直哉だ。
嫌味で陰険な性悪直哉だ。
案の定直哉は逃げようとする明楽の腕をがしっと掴んで、それから手にしたそのネクタイで明楽の目を目隠しした。
「明るくなければいいんだろ」
「そーゆー意味じゃなーい!」
ぎゃああああ、と明楽が喚くが直哉には無駄だ。
直哉はあっさりと明楽の動きを封じ込めて朝から明楽を貪った。

「っ、あ、っぁ!」
はあ、と明楽から息が漏れる。
直哉に目隠しをされて両腕を一括りに直哉に掴まれて明楽の中心を弄られれば簡単に陥落する自身に呆れた。
呆れたが目隠しされてる分何処に触られるのかわからず緊張して明楽の身体は震える。
感じやすい明楽のそれに直哉は機嫌を良くした。
「見えない方が感じるか?」
意地悪だ。直哉は本当に。
「そんなことっ・・・ひあっ!」
直哉が明楽の胸を抓れば明楽の身体がぴくん、と跳ねる。
その様が可愛くて直哉は其処を苛めることに徹した。
舌で嬲って、時折食んで、或いは指で抓って捏ね回して、明楽はその度に慄えか細い悲鳴を上げる。
それを見越して直哉が下肢に指を這わせれば駄目だ。
明楽は簡単に崩れる。
「あっ、ああ、だめ、駄目だ、って・・・」
んん、と腰を震わせ明楽がびくつく。
直哉は本格的に明楽を苛める為に足の間に割って入り明楽の膝を抱えるようにした。
明楽の腕の拘束は解いてももう明楽は直哉に抵抗できない。
あとは溶かされるだけだ。
「此処を弄られて挿れられるの好きだろう?」
好きだろう?と問えば明楽がびく、と慄えた。
こわいのと期待と、ごちゃまぜになったそれ。明楽のそれが見えて直哉は哂う。
ならば期待に応えてやろうと自身の指にたっぷりとローションを垂らして明楽の中に宛がった。
直哉は前戯に時間をかける。とにかく長く時間をかける。明楽がごめんなさいと啼くまでそうする。
そうしてどろどろに意識を溶かしたところで挿入をして落とすのだ。
直哉のセックスはそういう類のものだったが他人を知らない明楽が他と比べられる筈も無く、直哉に付き合うしかない。
ゆるゆると指で舌で散々中を弄られて腰を揺らしてお強請りしてやっと許されることに明楽は慣らされて仕舞った。
そもそも強情な癖に直ぐ陥落するのが明楽の莫迦なところだ。
意志薄弱というか、ぺらぺらのプライドなのだ。自尊心が高いくせに直ぐ折れる。だから引き籠りになるのだ。
直哉からすれば明楽のそれは可愛いが、愚かさ故の愛らしさでもあった。
「いい子だろ、明楽」
いい子。と云われれば明楽は弱い。
直哉の指が入りやすいように身体を開いて仕舞う。
まだ直哉との行為は三度目であるというのに既に明楽は直哉に慣らされている。最も三度目と云っても二度目が徹底して長すぎた結果の賜物であったが。
「あう・・・っ」
ふるふると慄えながらも明楽は直哉の云う通り足を開き、一体今自分がどんな痴態を従兄の前に晒しているのか明楽はまるで気付いていないのだろう。明楽はいつだって自分の危うさを理解しないのだ。その上今は直哉が目隠しをしているから明楽には気付ける筈も無い。
健気にも見える明楽の動きに直哉は満足しながらも明楽の中に抜き差ししている指を増やした。
根本を抑えながら舌で舐めて明楽自身を追い立てるのも忘れない。
「やっ・・・あ・・・なおやっ!」
舌足らずな聲で明楽に直哉と云われれば直哉の腰もぐんと重くなるが、直哉は我慢する。
獲物は溶かしてから責めるのが直哉の主義だ。そういう意味で明楽の『陰険で性悪』という直哉の例えは実に的を得ていたのだが得てして周りは明楽と直哉では直哉を信用するので世間的には直哉は完璧な人間である。残念ながら。
そして明楽はその従兄にがっちりホールドされてしっかりと追い詰められていた。
「あっ、あああっ、やっ、出る!」
でる、と明楽が云って呆気なく精を吐き出して仕舞う。
直哉は明楽の腹にまき散らされたそれを戯れに舐めながら更に震える明楽の中の指をぐぐ、と動かした。
「欲しいか?」
欲しいか?と問う。明楽は勿論首を振る。
だがそれは直哉が許さない。
耳元で低く囁いて明楽を追い詰める。
「明楽、どうして欲しい?」
どうして欲しいと云われて困ったのは明楽だ。
どうもこうもまたしても直哉に追い詰められて、朝から一体ナニをしているのか。もう泣きたい。啼いてるけど。
なし崩し的に追い詰められて、これじゃあまるで自分も変態の仲間入りしているみたいで明楽は恥ずかしい。
恥ずかしいことをわかって欲しいのに直哉はもっと恥ずかしいことを明楽に云わそうとしている。
でも明楽は云って仕舞う。それを云っちゃうのが明楽だった。さらばぺらぺらのプライド。
つくづく直哉好みの明楽であった。

「欲しい、からっ、直哉の挿れて・・・!」
いれて、と明楽が直哉にお願いする。目隠しされたまま直哉にあられもない姿を晒して。
直哉は大いに煽られて喉を鳴らし、それから明楽の中の指をゆっくりと引き抜いてからゴムを装着した自身の先端を明楽に宛がった。
「良く出来ました」
ご褒美と云わんばかりに直哉は明楽を褒める。思えば明楽は子供の頃から直哉に褒められたことなど無いものだから褒められれば嬉しい。それが性行為だけだなんて本当最低だけれども、嬉しいものは嬉しい。
何処までが直哉の計算なのか。果てまた全部直哉の計算なのか、とにかく明楽はすっかり直哉の囲いの中で好い様にやっぱり啼かされて、お強請りまでして仕舞うのだ。ある意味天然って恐ろしいがその天然にいろんな意味でしてやられているのは直哉の方であるのでどっちもどっちであった。
「痛っ、あ・・・!」
ゆっくりと挿入される直哉のそれに明楽は身を固くする。
この瞬間だけはまだ慣れない。前回散々やられたけれどやっぱり最初は痛いのだ。
なのに直哉は優しい。ゆっくり丁寧に溶かすように明楽を根気よくあやす。
「いい子だ、もうじき楽になるからな」
優しく直哉に手で顔を撫ぜられれば明楽は我慢するしかない。
酷い圧迫感をやり過ごして、はあはあと浅い息を漏らして、全部入った頃には明楽の眼尻から生理的な涙が溢れた。
「・・・っ」
「苦しいか?全部入ったからな」
いい子だと、直哉が明楽にキスを落として、明楽を宥める。それがあまりにも優しいものだから、明楽は我慢できる。
苦しい筈のそれに甘ささえ感じるのだ。
明楽が直哉のそれに慣れた頃に直哉は動き出した。
「あっ・・・ひ、あ、っ・・・」
ぐぐ、と中を押されて退くの繰り返し。
たっぷり五分ほどそれをされて直哉が明楽自身に再び指を這わせてくれば明楽は痛みの中に快感を拾い始めた。
「・・・アアッ!」
「此処か、わりと浅いな」
ぐ、と押された箇所を圧迫されれば駄目だ。
明楽は頭が真っ白になるような感覚に襲われて、それから一気に流された。
「っ・・・アッ、アッ・・・直哉ッ・・・!」
びくびくと背を反らせながら自身から先走りを漏らす。
追い詰められているのに真っ暗なのがいやだ。不安になる。
「やだっ・・・直哉!」
「何が嫌なんだ?」
好い癖にと直哉が其処を小刻みに刺激するので明楽は上手く言葉を紡げない。でも嫌だ。駄目だこんなの。
だから必死で口にする。
「や、やだっ・・・!おれっ、なおやの顔みたい・・・!」
顔を見たいと明楽に云われて直哉の動きが止まった。
一瞬止まってそれから酷く機嫌が良さそうな聲で、うっとりするようなくらい優しい響きで直哉は云った。
「俺の顔を?」
「あっ、みたい、直哉・・・っこれ、外して・・・!」
明楽が必死にネクタイを外そうとするが上手く外れない。それに直哉が明楽の腕を掴んで動きを封じて仕舞った。
やだ、と明楽が抗議の聲をあげる。
「誰の顔が見たいんだ?お前の『カイン』か?」
意地悪に問う。意地悪なのは直哉の専売特許だ。
オンラインゲームで明楽があれほど慕っている『カイン』それだって勿論直哉だが、明楽の態度には雲泥の差がある。だから直哉は意地悪を云うのだ。これでカインがいいと云われたら目隠ししたまま一日犯してやろうかとさえ直哉は思っているが、その点では明楽は心得ていた。無意識にだが、明楽はちゃんと直哉のツボを心得ている。
「いじわる・・・!」
「俺は嫌味で陰険で性悪で外面だけがイイ男だからな」
ぐ、と明楽の中を突いて激しく揺らせばいよいよ明楽は追い詰められた。
口をぱくぱくとしてもうイキそうな顔だ。それに直哉は煽られる。射精はコントロールできるが今すぐ放ちたくなる。
「な、なおやの、直哉の顔みたい・・・!」
お願いだからぁ!と明楽が叫べば直哉は乱暴に明楽を覆うネクタイを取り払い明楽に口付けた。
それから激しく中を突いて、イク。
「・・・っ!っ・・・!」
飛ぶような感覚だ。
けれども心地良いそれ。
「明楽、俺の、俺のだ」
「あっ・・・う、や、またイク・・・!」
駄目だと叫ぶ明楽の生意気な口を封じて直哉は行為に没頭した。
揺らして落として、強請らせて、自分だけだと云わせて、絶頂に導けば明楽はあっさりと直哉に陥落する。
「やっだ・・・もう・・・やだって・・・!」
「生意気云うなよ、明楽、欲しがったのはお前だ」
明楽の所為にする。
欲しがらせたのは自分の癖に直哉は明楽の所為にする。
自分の所為にされた明楽は堪ったものでは無い。
恥ずかしい。こんな恥ずかしいことを強請って、直哉を求めて。
求めたことによって明楽は直哉を意識せざる負えない。
直哉しかいないのだと云わせられればいよいよそんな気になって、明楽は泣きながら直哉を強請った。

「あっ・・・も・・・そこやだぁ!」
「嫌だ嫌だと云う口には仕置きをするぞ、明楽」
びくんと跳ねる明楽の背に指を這わせながら直哉が云えば明楽は白旗を振った。
「イイから・・・気持ちいいからぁ!」
「じゃあもっとしような」
「ちがーう・・・!」
時計を見れば八時だったが、直哉はそれを無視して行為に溺れた。
可愛い従弟に泣きながら強請られれば応じるのが男である。
夜まで待てなくてした結果、明楽は夜まで意識を失った。


08:夜まで待てない
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