明楽が棚の中からタオルを見つけてお風呂から上がっても直哉はまだ仕事をしていた。
物凄い速度でプログラムを打っている。時々煙草を吸いながら、あ、灰が零れると明楽が思った頃に漸く直哉はその手を止めた。
改めて明楽はこの従兄が大人なんだと思い知る。そしてその従兄の生活の一面を見た気がしてちょっと驚いた。
確かに直哉が十四から二十二歳になるまで明楽の家で一緒に暮らしていたが明楽は直哉を避けたし、兄弟と云っても明楽の感覚ではあくまで親戚が家で一時的に住んでいた・・・程度の感覚だ。それに明楽にとって直哉は鼻持ちならない従兄でしかない。だからこんな風に一心に仕事をする様を見せられるとちょっとどきっとする。
直哉は煙草を灰皿に押し付けてから、冷蔵庫に向かい中からミネラルウォーターを取り出して明楽に投げた。
「うわっと・・・」
慌てて明楽がそれを受け取れば直哉は別に冷蔵庫からビールを取り出してプルトップを開けて一気に半分くらいまで飲み干した。
二十三歳と十六歳の違いを思い知った気分だ。もうじき十七になるけど。
最も二十歳を超えていたとしても明楽はミネラルウォーターくらいしか飲まないだろうが。
明楽は偏食だ。飲み物にもそれは顕著に出ていてお茶の類を一切飲めない。あの苦味が嫌いだった。
甘い飲み物もあまり好きでは無い。かろうじて飲めるのは百パーセントのジュースくらいで基本的に明楽は水しか飲まなかった。
菓子類もあまり好まないので引き籠りになっても劇的に体形が変化するようなことは無かったが食べる量が少なくなった所為で以前より貧弱になって仕舞った。成長期の身体にしては些か情けない事態である。
「学校はどうするんだ」
来た。
父さんに云われるようなそれ。
基本的に明楽の父も母も明楽に甘い。不登校になった明楽が苛められたのではないかと心を痛めて好きにさせているくらいだ。実際少し嫌なことはあったが苛められたと云う程でも無い。ただ明楽は努力することが空しくなっただけだ。なんとなく学校に居るのが嫌になった。誰かと関わりたい癖に関わるのが怖くなった。色んな事何もかも嫌になった。
だから四月に合計で七日間学校へ行ったきりもう三ヶ月以上学校に行ってない。
来週からは夏休みで、結局明楽は学校へ行かず仕舞いだ。テストだけは進級したければ受けなければいけないがそれも億劫になっていた。
「県外の寮制の学校に入れるという話もある」
直哉が今回明楽を外に呼び出したのはこの為だ。
伯父である明楽の父に相談されたのである。岬家において直哉の信頼が厚いので相談されたものの、どう考えても今の直哉と明楽の関係では直球で明楽に云っても無駄だろう。だから直哉はわざわざ今回のような騙し討ちのオフ会を設定して明楽との場を設けた。
「別にいーよ、どうでもいいし、直哉には関係ない」
「関係無くは無いだろう、従兄とは云えもう戸籍上では兄になってる」
「俺は直哉が兄貴なんて認めてない」
直哉は少しの沈黙の後、煙草に火を点けた。
「学校、行けよ」
「行かない、俺が学校行かなくて直哉になんか困ることでもあんの?」
こうなると明楽は頑なだ。直哉は失敗したかな、と内心思った。
明楽は扱い辛いのだ。ネット上では素直だが、リアルではこうだ。直哉には反感しかない。
それが明楽のコンプレックスに因るものと直哉も頭では理解していたが、明楽が抱えるコンプレックスに関して直哉にはどうにも出来無い。自分であることを偽れないのは直哉も同じだ。
「行くと約束しろ」
云えないことがある。直哉には明楽が絶対に必要だ。
何の為にこうしてきたのか。従兄弟として生まれたこの機会に直哉には成さねばならないことがある。
だからこそ、その為には明楽には都内に居て貰わなければ困る。
県外の学校に行かれたら困るのだ。来年の夏の為に。
「いやだ」
嫌だと、生意気なことを云う明楽に直哉も苛つく。
昔からそうだ。直哉は明楽に嫌われている。
どれほど直哉が明楽を想おうと、どれほど明楽を按じようと報われはしない。
「行け」
「やだね」
直哉はいよいよ痺れを切らし、明楽に近付いた。
「行くと云え」
それにどきりとしたのは明楽だ。
あの直哉が怒気さえ潜ませて明楽の目の前にいる。思えばこの従兄とまともに向き合ったのは一緒に住んでいた頃以来のことで、それだって明楽はいつも直哉を避けていた。この間の法事のようなアクシデントはあってもそれでも此処まで直哉に近付いたことは無い。
「やだ・・・っ」
急に直哉に手を掴まれて明楽は叩かれると思った。
だから目を閉じた。
来るべき衝撃に備えようとした身体の反射だ。
なのに・・・。

( 嘘だろ・・・ )

キスだ。
キスされている。
あの直哉に、明楽が、キスされている。
「〜〜〜〜〜っ!」
どんどんと明楽がどうにか直哉を叩けば直哉は明楽から唇を離した。
「ななななななななんてこと・・・っ!正気か直哉!」
「正気も何も至って正常だ」
直哉が何でも無いことのように云うのでつい明楽も流されそうになるが違う。其処は流されるところじゃない。
いくら明楽が世間に疎くてもそのぐらいのことはわかる。
口をぱくぱくさせて明楽が慄いていると直哉は「どうだ?行くか?」と言葉を続けるので明楽も、かっとなった。
「おまっ・・・男同士で、従兄弟だぞ・・・!」
「それがどうした、ほらさっさと行くと云え、じゃないともっとするぞ」
勝ち誇ったような直哉の顔に明楽はかちんとする。
こうなれば売り言葉に買い言葉だ。
「云わない」
明楽が云った直後、何の躊躇いも無く直哉がまたキスをしてきた。
それならば直哉の唇を噛んでやろうとしたら今度は直哉の舌が明楽の口の中に入ってくる。
口の中に男の舌が入ってくるんだぞ!従兄の!直哉の!
訳が分からなくて明楽がパニックに陥った。けれども直哉の目をみれば確信犯で、あの意地の悪い顔だ。
だから明楽は我慢した。
絶対云うものかと思う。普通なら異常なことをしているのにその筈なのにその時明楽は負けたくない一心で云ってはならないことを云って仕舞った。NGワードである。これが明楽の今後を決定付けるとは知らずにNGワードを云って仕舞ったのだ。

「そんなことしても無駄だぞ!俺は何されても云わないからな!」
その言葉にかちんと来たのは直哉だ。
「何をされても?」
「云わない!俺は直哉なんかの云うこときかない!」
「ほお、」
直哉の聲が低くなる。
それがスイッチだなんて明楽は思わなかったし、勿論その時直哉も本気になるとは思っても居なかった。
この小心で友達のいない弟は直ぐに折れると思ったのだ。脅しをかければ直哉の云う通りになると慢心していた。
けれどもこの程度では駄目らしい。
直哉ははっきり言ってこの従弟に対してどうこうしようとかどうこうしたいとか一切考えたことが無い。
でもその時スイッチが入った。
思い知らせなければならないと直哉のS的なスイッチがオンになった。
直哉は煙草を灰皿に押し付けそれからそのままぐいと明楽を引っ張ると明楽をベッドに投げ出した。
「っわ、」
驚いた明楽は簡単によろめく。それを想定した上で直哉は明楽の肩を軽く押せば明楽はベッドに倒れた。
「云っておくが、」
云っておくが、と直哉は警告する。これが最後通告だ。
「行くと云った方が身の為だぞ」
明楽は直哉を睨み、そして云った。

「嫌だ」

明楽が云うやいなや、直哉が明楽に圧し掛かる。
それに抵抗しようとするが如何せん体格差がありすぎる。明楽はインドア派で引き籠りだ。直哉もインドアな職業の癖に明楽を易々と捉えた。長身の従兄の体格は思ったより良くて、運動でもしているのか確り筋肉もついているところが明楽にとっては憎らしい。
「やだったら嫌だからな!」
明楽の強情も此処までくれば眩暈がするほど愚かだ。
直哉は唇を噛み締めてから「莫迦が」と云って明楽の衣服を剥ぐ。
「っにすんだよ!変態!」
「変態で結構、二学期から学校へ行くか?」
「行かない!」
明楽の返事を確かめると直哉は明楽の露わになった平らな胸元へ手を滑らせる。
「っ・・・!」
びくりと明楽が震えた。
それを目端で直哉が確認して喉を鳴らす。
小心で直ぐ怯える癖にこの従弟は頑固だ。
「もう一度聞くぞ、明楽」
アキラ、と直哉が云う。
「学校へ、ちゃんと行け。それから、俺の所で運営の手伝いをしろ」
社会勉強もかねて、と直哉が云う。
その上からの物言いに明楽は意地になった。
明楽は云った。云ってはいけないことを云って仕舞った。

「い・か・な・い!どっちも絶対いやだからな!」

云うや否や直哉は迷いなく強い力で明楽の腕を片手だけで抑え込み、明楽のジーンズを下着ごと下した。
流石に其処までされるとは明楽も思っておらず焦る。
「おい・・・まさか・・・」
嫌な予感がする。
直哉は明楽を見てゆっくり口端を上げると躊躇無く露わになった明楽自身へと手を伸ばした。
「わーーーー!ちょ!直哉・・・!」
それに悲鳴を上げたのは明楽だ。
こんなの、嘘だろ、あり得ない。
さっきまでのは売り言葉に買い言葉だ。
それでキスでもまだいい。明楽は許せる。
でもこれは洒落にならないだろう。
少なくとも明楽は従兄にナニを触られる趣味は無い。
勿論従兄である直哉もそんな趣味は無かったが。
だから明楽は簡単に折れた。強情な癖に折れる時は早い。それが小心たる明楽である。
「行く!行くから!ちゃんと学校行くから!なんなら今すぐ行くから!」
待った!と明楽が直哉を止める。直哉は明楽をその冷たい眼で見下ろしながら云った。
「行くんだな、二学期から、テストも受けるな?」
「受ける!受けます!ちゃんと学校行くからこれ無し!無しな!」
貞操の危機を前に明楽のプライドは紙よりも薄い。
行きますと宣言したんだからこれで大丈夫だと油断した明楽もいけなかった。
この性悪な従兄の性格を知り尽くしている筈なのに、間違えた。
油断した。
「俺のところへバイトは?」
「それはやだ!と、とにかく放せよ・・・!」
直哉が明楽の上に影を作り云ったのだ。

「悪いがもう、遅い」

もう一度降ってくる口付けに明楽の悲鳴は飲み込まれた。
ちょっとでもこの直哉をイイ奴だと思った自分が莫迦だった。
明楽は心底この男にのこのこ着いてきたことを後悔した。
そして後悔というのは先に立たないから後悔というのだと身を以て知った。

「・・・っ!や、やだっ、あ・・・」
直哉の指で明楽自身を擦られて、只でさえ他人に触られたことなんて無いのにそれが従兄の手でなんて悲しすぎる。
ウホッ、いい男!なんて云えないレベルだ。だってこれリアルなんだぜ?
直哉の指が明楽を刺激して明楽は堪えきれず既に一度吐き出している。
なのに直哉は止めなかった。
お仕置きと云わんばかりに明楽の抵抗の一切を封じて直哉は明楽を追い詰める。
口にするのもおぞましい場所に直哉が指を入れながら明楽のものを擦っていてその刺激に明楽が泣いた。
「っ、痛っ、いたい、直哉っ」
「痛いだけか?」
耳元で低く直哉に囁かれて明楽はぞくりとした。
抵抗は一切封じる癖に直哉の手付きは丁寧だ。ゆっくりと既にどのくらいの時間やられているのかもわからないが直哉は明楽を溶かすように追い詰める。
「痛いだけだって・・・っあ・・・」
中と前の両方を刺激されて明楽はいよいよ泣いた。
だってこんなの知らない。
こんなの明楽の知らないことだ。
直哉は明楽の耳を舐めながら厭らしく明楽を困ったところに追い込んでいく。
まるで狼を前にした兎の気分だ。
ぐぐ、と中に指を増やされて直哉に前を強く握られれば堪えきれず明楽はまた達した。
「あっ・・・!」
「はしたないな、初めてでこんなになるのか」
酷い。こんなのって無い。
初めても何も他人との接触が明楽にとって初めてだ。幼稚園同士の慣れ合いでは無い。
従兄にこんなことされて平気なわけが無い。しかも直哉は男だ。
明楽も男で、こんなまさかのBL超展開、明楽は望んでない。
吐き出したものを直哉が指で遊ぶようにねちゃねちゃとさせてそれが一層明楽の羞恥を煽った。
もう腕を直哉に抑えられていないのに抵抗する気力さえ無い。
「三本入ったぞ」
ぐちゅりと音のする中は明楽の吐き出したものを直哉が指に絡めているので水っぽい。
腹の上に明楽が出したものを直哉が掬ってそれをあらぬ場所から直哉の指で全部中に入れられて、また直哉に前を苛められると駄目だ。
「も、もうや、ヤダ、出ない・・・」
「出るだろ?」
「もうヤだ・・・っ、ヤだって・・・直哉・・・っ!」
ごめんなさいと云いたくなる。とにかく謝ってでもなんでもこの状況から逃れたい。
直哉は喉を鳴らしながら明楽を追い詰めた。
指で聲で、その舌で、いつだって直哉は明楽を叩きのめす。
後ろから直哉に抱き込まれて足をみっともなく開かされて、指で中を弄られて、前を触られて、また勃ってくる自身に明楽は泣きたくなった。痛いほどに追い詰められているのに、また欲求が湧いてくる。嘘だ。こんなの。普通じゃないのに、めちゃくちゃ感じている。
「いい子だ、明楽はいい子だよな」
いい子だよな、と直哉に云われて明楽は懸命に頷いた。
動いて欲しくないのに中を刺激されれば明楽は震える。
「あっ・・・っく!」
ぐちゅぐちゅと中を掻き回されて、前への刺激は緩やかなのに、駄目だ。またイって仕舞う。
「あっ、ナオ、ナオヤっも、許してよぉっ!」
泣きながら明楽が訴えれば直哉が明楽の耳尻を食みながら囁いた。
「なら考えろ、明楽、此処に」
此処に、と直哉が明楽の中にある指を掻き回す。
ばらばらに指を動かされて明楽は悲鳴を上げた。
「っあ、あっ、アアッ!」
「此処に俺のを挿れるか、来週から此処で運営の手伝いのバイトをするか、どっちがいい?」
「あっ、ッ・・・!」
「どっちがいい?」と優しく、意地悪に直哉が問う。
明楽は泣きながら答えた。
挿れるって何だ?何を?朦朧とする頭で明楽は必死に考えた。
挿れるだなんて冗談じゃない。
だから必死に答えた。直哉の望む答えを最も直哉が望む形で。

「行く、イクからぁ!」
「いい子だ」

直哉がぐ、と明楽のものを強弱を付けて擦って中の指を入口近くに抜いては入れての動作を繰り返す。
二度目に指を動かされた時に明楽はイった。びゅくびゅくと自身の精をはしたなく吐き出した。
三回も直哉にイかされて、指をあらぬ場所に入れられて、ついに明楽は陥落した。
そして思い出す。昔直哉に怒られた時にごめんなさいを百回云っても許してもらえなかったことを。
お尻を散々打たれていい子にしますと誓ってやっと許してもらえたことを今更思い出してももう遅かった。


04:
ごめんなさいを百回
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