感極まったのか告白したことで
つっかえが取れたのか、
直刀はそのまま泣きだして、それを宥めながら
直哉は弟を連れてホテルへ向かった。
泣きだした直刀が落ち着くのを待っていたらかなりの
時間が経って仕舞っていて、もう帰れそうにない。
そのまま適当に移動して、手近なホテルへチェックインをして
顔を洗って来い、と直刀を促して
それからこの破天荒な弟を落ち着かせて
話し合う為に適当な店に入った。
何が食べたい?と訊けば「お好み焼き」と云われたので
鉄板焼きもやっている店をチョイスした。
メニューを見せてそれから「好きな物を頼め」と云って
そして直刀はウーロン茶を一気に飲み干してから、
「お代わり、ほんでからこの伊勢海老乗ってるやつ」
と指をさした。
( 一番たかいの、って注文したかってん )
弟の内心はいざ知らず、直哉はそんなものが食べたいのか?と
呆れながらもそれをオーダーした。
それから、この世で俺が機嫌を取るのはお前だけだなどなんだの
と云い聞かせれば、弟は「あのマグチさんとホモってたんちゃうん?」と
言葉を返す、呆れて閉口するがこうなって仕舞っては釈明するしかない。
「それは誤解だ、本当に古い知り合いで」
「ほんま?」
「あんなの全然好みじゃない、お前に比べればミジンコみたいなものだ」
ロキが居れば若干酷いな、と傷ついた風を装って哂いそうな言葉を吐いて
どうにか直刀を宥めてそして漸く直刀が、うん、わかった。
と直刀なりになんとか納得してくれたらしい。
そしてホテルに帰って直ぐに直刀をベッドへ押し倒した。

「なあ、なんでまたこんなことになってるん?」
「直刀、お前は普通じゃない人生になったと云ったな?」
「ゆった」
「では俺が必ずお前に普通じゃない人生を提供してやろう、
芸人になるより遙かにそれを凌駕する人生だ」
一年後の話だ。
だが直刀は未だそれを知らない。
揶揄するように、真実を含めて云えば、
直刀は真っ直ぐに直哉を見た。
その視線にくらくらする。
真っ直ぐに寄越される澱み無い視線はいつだって
変わらない。
いつの時代も変わらなかった。
「それって良いことなん?」
ほら核心を突く。
いつだってこの弟は直哉の真意を理解しない癖に核心を突いた。
「それはわからんな、だが普通じゃない人生なことは確かだ」
肌に指を這わせながら髪に口付けを落とす。
直刀は、よくわからん、とだけ小さく呟いて、
それから、「スんの?」と直哉に問うた。
「駄目か?」と返せば、弟は、困る、と少し目を逸らして云う。
それに煽られて、激しく唇を貪ればあとはもうどうにでもなれだ。
何度も生を繰り返しても若さという情動には勝てない時もあると
直哉は学習した。
この弟とのセックスは気持ち良すぎる。
もう手放すことなど不可能だ。
触れて仕舞えばあっという間、
落ちたのは自分だった。

東京へ帰っても変わらない。
弟が夏休みなのをいいことに
散々交わった。
仕事の遅れなど後で取り戻せる。
時間さえ勿体無いと云わんばかりに
直哉と直刀は互いの行為に溺れた。
「ふ・・・ぅ、」
洩れる切なげな聲に直哉はそろそろ限界か、と
揺さ振りを激しくする。
今週に入ってからは一度だけ青山の仕事場に行ったが
あとはずっとこの家の直哉の部屋に直刀を引きこんで籠りっぱなしだった。
特に何も無い部屋だ。
直刀の部屋のように年頃の青少年らしいものに溢れているわけでもなく、
パソコンが何台もあるだけの部屋だ。
内装もシンプルで、特に本や雑誌があるわけでもない。
パソコンが雑多に置かれている以外は何も無い部屋だった。
「あっ」
達しそうになるのを寸でのところで止める。
このところ直哉の中で我慢させるセックスが流行りらしかった。
「あ、アア、無理、、っ」
弟がびくびくしながら限界を訴える。
けれども解放しない。
己のものが我慢させればさせるほど締め付けられる。
それが得も云われぬ快楽を生んでぞくぞくする。
「云えるだろう?」
直刀の痴態に煽られ聲が擦れる。
直刀は直哉とのセックスの心地良さに溺れる反面
これだけは恥ずかしかった。
直哉は直刀に何かを云わせるのが好きだ。
だから快楽を徹底的に教え込まれた後は
絶対に直刀におねだりをさせる。
それが恥ずかしい。
恥ずかしいのにどうしても云わなければ直哉は
望む快楽を与えては呉れ無かった。
何故直哉がそうさせるのか直刀にその真意が測れる筈も無い。
ただ云われるままに、
「お願いだから、欲しいから、直哉の入れて、掻き回して」と
死ぬほど恥ずかしいセリフを吐く。
直哉はそれに満足したように、そこからさっきまでの
焦らしプレイは何だったのかと云うほど激しく直刀を求め出した。
達する瞬間に深いキスをされる、
それだけがいつも酷く優しくて心地良いのだと漠然と思った。

「直哉はなんで俺とスるん?」
ぽつりと枕元で呟いた弟の髪を撫でる。
撫でれば弟は心地良さそうに喉を鳴らした。
昔から、自分はこの弟のそういった部分を好んでいた。
以前あの男が話した通り自分は、少なくともここ最近の生を送る自分は
真性のゲイだと云ってもいいくらい同性嗜好になっているのは否定はしない。
けれどもかといって直刀をどうにかしようとは思わなかった。
想像の内ではどうにかもしたが、それでも実際には手を出さなかった。
手を出した今と成っては言い訳にもならないが。
この年の離れた弟を少なからず直哉なりに可愛がっていたつもりだ。
直刀は直哉がさっぱりわからないと云うが、それは直哉にも云える。
直刀は読み易い反面土壇場で何をするのかわからない点がある。
現にこうなってから大阪へ家出したり死ぬと云ったり、芸人になると云ったり
全く読めないのは確かだ。
しかし二つ云えることがある。
直哉と直刀の身体の相性は死ぬほどいいということ、
そして直哉は昔から直刀のお願いに限りなく弱かった。
生まれついての弟属性なのだ。
何気なく、これ教えて?これどうなってんの?と問われれば
他の者なら嫌悪するところだが、つい直哉は直刀の力になって仕舞う。
それが直刀の為にはならないとわかっていてもどうしてもそういった部分で
甘やかして仕舞った。
云うなれば直刀には天然おねだり属性の天賦の才があると云ってもいい。
だから直刀に欲しがられると直哉、つい頑張って仕舞う。
男としての矜持もあったが、こうして日常的なことでも、
セックスでも求められれば頑張って仕舞う兄心であった。
そんな兄の心理など微塵も知る由の無い弟は呑気に欠伸をして
眠い、なんて云ってごそごそベッドのマイポジションへと移動して仕舞う。

そんなつれない背中を向けた直刀を引き寄せたいと云う衝動に駆られて
手を伸ばしたところで不意に直刀が呟いた。

「俺引っ越した時少しは寂しかったん?三年もおらんくて良かったんかな?」

それは甘えのような、少し甘さを含んだ問いだ。
恋愛をしていると錯覚するような問いだった。
その甘さにくらくらしながら直哉は直刀を引き寄せて腕に閉じ込める。
直刀が両親と引っ越して良かったかどうか、
そんなの決まってる。
直刀が子供のころから直哉をどう思っていたのか察してはいたつもりだ。
引っ越すことが決まって何処かほっとした様子の直刀に
思うところが何も無かったかと云えば嘘になる。
直哉はやや間を開けてそれから答えを口にした。

「お前は俺を性犯罪者にしたかったのか」
ほっとしたのは直哉も同じだったのだ。
少なくとも12、3の弟を犯さずには済んだ。

「今もあんまかわらんけどな」
弟の言葉は黙殺することにした。


強請らせたい男
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