直刀と連絡がつかない。
何度かメールをしているが当然のように返事は無かった。
止むなく片付けなければならない作業があって
青山の方へ来たが直刀とのことに直哉は
苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

こうなる予定ではなかった筈だ。
なのに止まらなかった。
予定外の行動だった。
でもそれでも恐ろしく心地良い交わりだった。
最初からそうであったかのように、
まるでひとつだったかのように、そんなことすら思える
交わりだった。
一度手にして仕舞えばもう手放すことなど出来そうにもない。
けれどもこの予定外の状態をどう打破していいのかも
わからない。
しかし今直刀を手放すことは直哉の悲願達成に係わる、
早計だった、とあの時の自分を叱咤してやりたい。
けれどもまた同じ場面に出くわせば同じことをして仕舞うのも
想像がついた。
直哉は舌打ちをしてそれから弟の携帯の番号へとかけた。
コールはする、が、電話には出ない。
仕方無い、と立ち上がり、家へ向かう、
家に居てくれればいいが、
多分、いないだろう。直哉の思う通りであれば
あの弟は家にはいない。

そして予想に違わず
がらんとした家には電気も点いておらず、
誰もいなかった。


「出て来い」
「いやー面白い見物だった!」
にやにや笑う男を一瞥しながら
直哉は苛々した様子を隠すことも無く
その赤い視線を向けた。
「何処に居る?」
「彼?ちょっと遠くへ行ったよ」
「場所は?」
「それ教えたら面白くないよね?」
揶揄するようなもの云いに手近にあった時計を投げるが
あっさりと避けられる。
「自分で見つけなきゃ、」
ロキはそのまま再び闇に融ける。
ヒントは在った。
遠くだ。ちょっと遠く、と何世紀も飽くほど顔を見た男は云った。
ならばあそこだろう、と直哉は時刻を確認して家を飛び出した。


時折鼻を啜りながら
電車に飛び乗った。
荷物はちょっとで何も考えずに、
ただ大阪行きの新幹線に乗った。
無性に帰りたかった。
たった三年しか生活していなかったけれど
自分の街だと呼べる場所へ、
母が馴染んだように、自分も当たり前のように馴染んで仕舞った
場所へ帰りたかった。
( これでどうするかわからんかったら死のう )
通天閣から飛び降りて死ぬのもいい。
スカイビルだっていい。
とにかくこの人生に終わりを告げよう、
滅茶苦茶に混乱する頭でどうにか決めたのはそれだけだった。
莫迦らしいっておもうかもしれない。
そんなことで、って思うかもしれない。
でも俺は本気だった。
どうしていいのかわからないくらい混乱してて、
縋れる人も相談できる人もいなくて、
こんなこと誰にも話せない。
直哉に、直哉にどうしていいか訊くのも怖かった。
直哉の口から答えを訊くのが恐ろしかった。
だから自分で歩く為にどうにか大阪に足を向けたのだ。
ぐずぐずと時折涙を流しながら
それを拭いて、そして大阪に着いた頃には
夕方だった。
懐かしい、ちょっと離れていただけなのに無性に懐かしい街だ。
何時間か、2時間以上は歩いたと思う。
とぼとぼと歩いていてふと足を止めた。
ぼんやりその看板を眺めていたら不意に、そうしようと思えてきて、
いざ足を踏み出そうとした。
その時肩を掴まれた。

「直哉・・・」


いつだって
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