そうか、直哉はホモやってんや、と思ってから
些か直刀のこの兄に対する認識が変わった。
食事を終えてからびし、と立ち上がり、
ほな、後は若い二人にまかせてーなんて見当違いの言葉を
放って直刀は二階の自室へダッシュした。
それを見送ってから、ホストことロキは溜息を吐く。
「いいの、あれ、絶対誤解されてるよ」
「別に云うほどのことでも無い」
「ふうん、何か面白い子だね、今度の子は」
直哉はノートパソコンをぱたん、と閉じて
ロキを睨んだ。
「手を出すなよ」
「わかってるよ、今日逢ったことさえイレギュラーなんだ、
僕は手を出さない」
君の『彼』への執着にも似た愛は知っているつもりだ、とロキが
揶揄するように云う。
フン、と直哉は鼻で哂いロキを見遣った。
いつの時代からか古い付き合いではある男だ。
「まあ君がゲイなのはあながち間違いでも無いかな」
「お前もだろう」
「長く生きてるとね、そうなるんだよ」
「まあそれは否定しない、だがお前とは無いな」
お互いに、とロキは哂い、そしてフ、と空間に融けるように消えた。

それから5月になってゴールデンウィークが来て、
そういえば小学生の頃なんかは東京に住んでいると云っても
行く場所は限られていたし、子供同士で渋谷や原宿になんて行く筈もなく、
大抵は保護者同伴だったし、思えばあまり繁華街的な場所で
遊ばなかったな、ということでお上りさんよろしく
東京の繁華街を謳歌した。
引っ越す前は六本木ヒルズなんて無かったし、
この3年で様変わりした風景にあれやこれやと騒ぎながら
柚子や篤郎と遊んだ。
直哉から貰う(というか直哉が両親から預かっているお金だ)
お小遣いでそれなりに遊べたし、最近では
バイトは( 何故か直哉が成績を理由に赦してくれなかった。欠点取ってへん
ねんからええやん )
禁止されたけれど
直哉の仕事を、と云っても簡単な書類の整理だけれど、それを手伝ったりして
お小遣いが増えたので財布の具合は大丈夫だった。
そんな理由でお財布事情も解決してそのお金で高校生らしい遊びをして、
それから期末が来て、あっという間に夏になった。
それがこの時代の最後の夏になるなんてその時には思ってもみなかった。
夏休みに入る頃にはこの生活にもすっかり慣れて、直哉ホモ疑惑は
そのまま何もツッコまず、あのマグチというホストもそれっきり
現れなかった。
直哉とは適度な距離で近くも無く遠くも無く、
部屋を出れば廊下を挟んで二歩、直ぐ目の前に直哉の部屋があるけれど
戻って来てから一度もその部屋には入ったことが無い。
用があれば扉をノックする。
そうすれば直哉が部屋から出て来て宿題やら課題やらを
教えてくれた。
相変わらず小学生の時から変わらない便利なウォーキングディクショナリーな
兄貴である。
従兄とはいえ一応戸籍上は兄の頭が此処までずば抜けていいと返って弟が駄目になるもの
である。多分。
余所を知らないからわからないけれど少なくとも直刀はこうして
欠点を取らない程度の頭になって仕舞ったのだ。( ええもん、気にせえへん )
と一方的に自分の頭の出来を直哉の所為にして
直刀はぼすん、と自分の部屋のベッドへとダイブした。
部屋にもテレビはある。
リモコンを押してチャンネルを回しても対して面白い番組も無い。
時刻は朝の10時で、
洗濯物を干して掃除機をかけて、軽い朝食を摂って
二階の自室に戻ってきたところだった。
直哉は昨日から帰っていない。
明日帰るとメールがあった。
今日は一人である。
暇なので何処か遊びに行こうかな、とも思うが既にまだ朝の10時だというのに
茹だるような暑さに誰かに連絡するのも億劫な気分だった。
煩いだけのテレビを消してそれから二度寝しようと目を閉じる。
けれどもその前に、ふ、と目を開けた。

( そう云えば・・・ )
随分ご無沙汰である。
夜中まあこっそりはしていたが16歳健全な男子としては
そういった欲求はあるものだ。
簡単に云うとまあマス掻きなのであるが、
直哉の手前越して来てから数度しかやっていない。
朝起きたらやってしもた、なんてことは嫌なので
溜まったな、とふと思い出した時に本当にこっそり
直哉が居ない時を見計らって抜いていた。
正直に云えば新しい学校生活や直哉との生活に緊張していて
あまりそちらに気が回らなかったのも事実だ。
けれども最近やっとこの生活にも慣れてきて
だからそういったことに気が回る余裕も出来た。
いつもは夜中こっそりするのだけれど
今はまあ、昼(というかまだ朝)だけれど
直哉はいないし問題は無いだろう、
ということでこっそり隠していたエロ本、
( 隠し場所は云うなや、大抵の男の子の部屋にはあるもんや )
を取り出してそっと自身に触れた。


真夏の真昼に
prev / next / menu /