世界は戻った。 何事も無い日常に戻った。 けれども一つだけ違った。 生きようと、一緒に居ると云ったのに、あの日から直哉はいない。 姿も見つからず、直哉は何もしていない、誰もそれを知らないのに、直哉は消えた。 両親が直哉の捜索願いを出したのはそれから一週間経ってからだった。 「一緒に居るって云ったのにね」 季節はもう冬だ。 本格的な冬に成り始めていて、今年は特に寒いのだと云う。 雪が先週から降り始めて、いつもよりずっと寒い冬だった。 学校は当たり前だけれど始まって、もうじき冬休みだ。 夏は遠い出来事のようで、今でも篤郎達とあれは夢だったんじゃないかと話すほどで、全ては遠い幻の様だった。 直哉は清夏と世界を天秤にかけて結局清夏を取った。 あの時直哉の手を取っていれば直哉は消えなかったのだろうかと清夏は思う。 直哉の手を取りたかった。取りたくて、一人にしたくなくて、でも直哉の手を取ったら終わりだと思った。 清夏は人でなくなる。ベルの王になり、魔王として力を揮っただろう。 どうしても、それができなかった。でも直哉を一人にも出来なかった。 だから世界を戻すと云った。戻す。その代わりに残りの全てを直哉に捧げるのだと誓った。 「なのに、直哉はいない・・・か」 混乱の中、世界を戻した。 皆蜃気楼みたいに集団幻覚を見たことになった。何も無かった。誰もあれが本当にあったなんて思っていない。 清夏はベルの王の力を手放して、世界を戻した。 ハルの歌で、世界は戻った。 終わってから振り返れば其処に居た筈の直哉がいなかった。 悪魔たちが皆消えて仕舞ったように、直哉の姿が無かった。 メールも電話もした。 でも何も繋がらなくて、直哉の家にも行った。 其処に誰もいなかった。 まるで初めから誰もいなかったみたいに、空家になっていた。 その時清夏は愕然とした。 自分のしたことに慄いた。 直哉が消えた。 間口にもメールも電話もした。けれど彼も矢張り悪魔なのか、どうしても連絡がつかなかった。 今でも日に一度は、直哉や間口の携帯にメールを送る。宛てのないメールだ。 届きもしないのに、そんなことをして仕舞う。 日常に戻った。当たり前だけれど学校へ行って、それからバイトをして、父や母に会って、そして直哉を探す。 植物の世話をしながら、清夏は一人ずっと待っていた。 清夏の人生をもらうと、直哉は云ったのだ。 だから直哉は戻ってくる。 そう思っている。 そう信じないと、清夏は自分のしたことが正しいと思えなかった。 直哉を失うとわかっていたら、清夏はこんなことしなかった。きっと出来なかった。 「外のプランター見てこないと・・・」 今は冬に強い植物に入れ替えているけれど時折みてやらないといけない。 スペアキーを入れた緑色のプランターには何も植えなかった。直哉がいつ帰ってもいいように何も植えなかった。 だから毎日清夏はプランターの鍵を確認する癖がついた。 直哉が戻っていないか、ある時ふとした瞬間に、玄関の鍵が開いていて直哉が戻るかもしれない。 でも直哉はいない。プランターには冷たいスペアキーが埋まっているだけ。 そっと雪を払いながら清夏は薄着のままいつものようにプランターに手を伸ばした。 いつものように。 「風邪を引く」 抱き締められた。 抱き締められた瞬間、誰だかわかった。 わかって仕舞った。 「・・・うん」 涙が、零れる。 「寒いだろう?」 「・・・うん・・・」 涙が、溢れて止まらない。 「清夏?」 囁くようにその人が云う。 「俺さ、ずっと思ってた。ずっとずっと思ってた。莫迦みたいにずっと、」 ん?と優しい聲で、その人が清夏を抱き締める。 暖かい、暖かい腕を掴みながら清夏は聲をあげて泣いた。 「戻って来ないのは俺が世界を戻したからじゃないかって、俺の全部をあげても足りなかったのかもって・・・」 「悪かった、事後処理をしていた」 言葉にならない。 本当を云うと駄目だと思ってた。 もう会えないと思ってた。 清夏が間違えたから、だから駄目なんだって。そう思ってた。 「・・・直哉・・・!」 「泣くなよ、清夏、お前に泣かれたら、矢張り死んだ方が良かったと思って仕舞う」 「いやだよ、直哉は死なない、俺が離すもんか、もう絶対・・・」 「なら泣くな、お前の人生全部貰いに来たんだ」 「うん、うん、直哉・・・」 あげる、あげるよ全部。 ぎゅう、と直哉にしがみ付いて清夏は云った。 直哉は呆れるだろうか?そんな清夏を子供だと云うだろうか。 けれども直哉は清夏を抱き締めて、昔、子供の頃したように、瞼にキスを落とした。 「直哉に、あげるよ」 それで、直哉が一人にならないなら、それでいい。 それでいいんだ。 こんなキスは初めてだった。 何の欲も無い、ただの優しいキスは初めてだった。 「厭か?厭なら、やめる、別にゆっくりでもいいんだ」 「変なの、強引じゃない直哉なんて直哉じゃないみたいだ・・・」 くすくすと笑いながら清夏が云えば、直哉は憮然とした顔をした。 「俺はそんなに横暴な人間か・・・心外だな」 「ふふ、冗談だよ」 清夏が笑えば、直哉は困ったように、泣きそうな顔をして清夏の髪を撫ぜた。 「好き、好きだよ、直哉。俺ずっと考えてた。だから直哉とセックスするのはいいんだ」 「お前はいつかきっと後悔する」 「しないよ」 「するさ、お前は俺に残りの人生を全て寄越すと誓ったんだ、死ぬまでお前は俺のものだし、俺はお前に浮気を許すほど寛容な男じゃない」 「世界と天秤にかけて俺を取ったから?後悔してる?」 直哉が清夏に圧し掛かってきて、唇が重なった。 深く、舌が絡むキスだ。何度もされたそれ。 直哉が酔っぱらって、したそれ。 「しない、俺はそれでかまわない、今一時でも、今生でお前を得られるのなら世界を棒に振ってもかまわない。俺も結局は人間だということだ・・・」 清夏は直哉に手を伸ばした。そして自分から直哉の口に舌を絡める。 直哉の衣服がもどかしくて、コートを剥いで、上着を脱がせた。 「・・・おじいちゃんになってもきっと好きだよ」 「・・・っ、」 ぴり、とした痛みが首筋に奔って清夏は聲を漏らした。 直哉だ。従兄で兄でもある直哉が今清夏の首を舐めていて、噛まれた。 まるでマーキングのようなそれに清夏は、思わず悲鳴を上げる。 「痛いか?」 「・・・へいき・・・」 平気と清夏がどうにか答えれば直哉が喉の奥で「く、」と笑う。それが莫迦にされた気がして清夏は口を開こうとしたけれどもそれは叶わなかった。 衣服はとっくに脱がされている。 恥ずかしいけれど、お互いを知る為だし、今後セックス無しの人生を送るとは清夏も直哉も思っていない。 そんな清い生き方の展望は清夏にも直哉にも無い。 だからいずれ来ることだ。けれども清夏は動揺した。 直哉はどうか知らないが、清夏は当然男が初めてだ。男同士でこういうことをすると直哉とのことがあるまで考えたこともなかったし、想像すらしたことも無い。ましてそれが自分の兄だ。直哉が、あの綺麗な顔の直哉が今清夏の平たい胸を指で弄りながら舌で食むなんてこと想像できる筈も無い。でも現実はどうだろう?直哉は帰ってきて、今こうして清夏を組み敷いている。 想像以上にくらくらするそれに清夏は眩暈がした。 聲を堪えるのが精いっぱいなのに、清夏が堪えているとわかった途端、直哉は意地悪にもそこばかり嬲ってくる。 指で引っ張ったり、舌で舐めたりして、意地悪に赤い眼が清夏を見て、そんなにされたら駄目だ。 駄目に決まってる。 「あっ・・・」 思わず上擦った聲を清夏が洩らせば、直哉が満足そうに唇を歪ませた。 「そうだ、そうやって啼いてろ、清夏」 「いじ、わる、っ」 ちゅう、と直哉に胸の突起を吸われて清夏が身を捩る。けれども直哉は酷く機嫌が良さそうに清夏のそれを吸った。 「俺の清夏だ」 そう云われるとじわりと熱くなる。 胸も、下肢も、直哉の指がそろそろと清夏の下着に伸びてきて、あ、と思った時には直哉の指が既に下着の中にあった。 「つめたい・・・」 「直に熱くなる、」 我慢しろ、と云われて、それだけでぞくぞくと鳥肌が立つような感覚が身体中を走る。 部屋は適温の筈で、寒くない筈なのに、清夏は全身を震わせた。 直哉が、直哉に触れられて、肌を舐められて、それだけでももう泣きたいくらい恥ずかしいのに、直哉はその先へ行こうとする。 でもいい、これは清夏が選んだことだ。直哉がずっと遠くに行って仕舞うよりいい。 「直哉、直哉は死なないの・・・?」 「死ぬ、俺も人間だから死ぬさ、ただ、俺は死んでもまた生まれて、その記憶を持っている」 噫、そうだ。 いつか、彼が云っていた。 ロキと云った。魔王ロキ、人間の名前を間口さん。あの人が清夏に訊いたではないか。 そういう人間が居たらどうする?と。それは直哉だ。直哉のことだった。直哉は永遠にそうすることを定められている。 「ごめん、ごめん直哉、直哉は俺なんか選ばなくてもよかったんだ、だって、直哉はまた生まれて死んで、俺が死んだら直哉はまた一人になる・・・」 「それで構わない、お前が今生を俺に呉れるならそれでいい、俺は慣れているんだ、なら今生お前が与えられるだけでも充分に幸せだ」 幸せだ、と直哉は云う。 「全部あげても足りないよ・・・」 「足りるさ、清夏、お前がそう云ってくれる限り、俺は満ち足りる」 「直哉、」 「もう黙れ、こっちに専念しろ」 追いつかないと、いけない。直哉に。直哉に全部あげてもきっと足りない。 もし願えるのなら、清夏はずっとこの先直哉を一人にしたくない。 でも兄は、一人でいいと、今清夏が居ればいいと云う。 清夏は泣いた。 全部あげる。全部あげるから、どうか直哉が一人になりませんようにと泣きながら願う。 「好き、直哉、好きなんだ」 「俺もお前を愛している。これ程に愛した者はいない。お前だけだ、お前だけが俺の安息だ」 ぎゅうと、清夏が直哉にしがみ付くようにすれば直哉は清夏の下肢に触れた。 触れられれば、固くなるそれ。 宥めるようにキスを落とされて、直哉は清夏を追い立てた。 「あっ・・・っぅ」 追い立てながらも直哉の長い指が清夏の中に入ってきた。 一本だ。その一本でも圧迫感がある。それに何より恥ずかしい。 恥ずかしい。でも直哉を止めることは清夏には出来ない。 あげると云ったのだ。だから清夏の全部は直哉のものだ。 こんなに恥ずかしいことでも直哉を想えば何でもない。 直哉がしたいなら何をしてもいい。 「怖いか?」 こわい、怖いに決まってる。 でも清夏は首を振った。直哉は清夏のその態度に目を細める。 清夏だ。これこそが清夏。直哉の為に全てを投げ出した弟。 ずっとこうして清夏に欲情するのも愛も憎悪も清夏がアベルだからだと思っていた。実際清夏は直哉にとってアベルであり清夏である。けれども違う。今ならはっきりと断言できる。 清夏がアベルだから惹かれた。アベルだから憎しみも欲情も覚えた。弟だから。 でも違う。今は清夏だからだ。 直哉のことを直哉でしかないと云った。カインもアベルも関係ないただの直哉と清夏として、直哉は清夏を愛している。記憶の無い哀れな弟、自分が殺したと云えばこの弟は直哉を恐れるだろうかと何度も思っていた。けれども清夏は直哉を受け入れた。直哉の為に全てを捧げたのだ。 その途方も無い愛に直哉は折れた。 今生清夏が手に入るのなら永遠に孤独でも構わない。 愛している。清夏だけを愛している。他に何も要らない。 「慣らすが、痛かったら云え、なるべく善処する」 「・・・っ、うん、」 ぐ、と指で清夏の中を直哉が押せば、清夏は喉を反らした。 男同士ですることに直哉は清夏ほど抵抗は無いが、初めてはなるべく優しくしてやりたい。 最もそれは直哉の理性が持つ限りの話だ。 こんな清夏を前にして、理性が保てるのか直哉にはわからなかった。 なるだけ優しくしてやろうと、それだけを決意して、直哉は清夏を暴いた。 「ひっ・・・あっ・・・!」 びくりと清夏の腰が揺れる。 当たり前だ。本来受け入れるべきでは無いところに侵入されているのだから当然と云えた。 直哉は指で慎重に清夏の中を探った。優しく爪を立てないように。 その間も我慢する清夏に口付けて、そこかしこにキスをして、辛抱強く直哉は清夏を解した。 「お前に触れられるなら俺はこの先永遠に孤独でも構わない」 「直哉っ、なおっ・・・いっ、あ、」 直哉が入ってくる。ゆっくり、でも確実に清夏の中に手早くゴムを装着した直哉が入ってきた。 痛い。痛くて、でも、それだけじゃなくて溶ける感じ。 なんだか泣きそうだ。実際涙が溢れてきた。 清夏の眼から止め処なく涙は零れる。 直哉はそんな清夏の頬を撫ぜて優しく眼尻に口付けを落とした。 「清夏、俺の清夏」 俺の清夏だと云われる度に清夏の目から涙が零れた。 自分には、清夏には直哉にあげられるのは自身くらいで、残りの人生くらいで、だから直哉をせめて今幸せにしてあげたい。なのに直哉にされるばかりで何も返せない。それがもどかしい。 「直哉っ、俺、いいんだ、俺はいいんだ、もっと痛くても、平気、」 平気だという清夏が直哉は愛しい。 「黙ってくれ、これ以上煽るな、出来るならお前を気持ち良くしたい」 互いの唇と唇を深く合わせて、あとはなし崩しだった。 直哉が動き出して、清夏は舌を直哉に吸われながら翻弄されるしかない。 「っ、ぅ、んっ」 口付けの合間に端から涎が零れる。 下肢にからは痛みとは別の快感が溢れていて自身からは先走りが漏れて、きっと恥ずかしいことになっている。 でもそれでも良かった。直哉と今此処にいることが清夏にとって奇跡のようなものだ。 直哉がそれを奇跡だと感じるように。 ちゅう、と直哉に咥内を吸われて、息苦しくて、なのに直哉はまた舌を絡めてきて、歯の裏の歯茎を直哉の舌で撫ぜられれば駄目だった。びくびくと身体がのた打ち回り、その都度、中にある直哉が痛みとは別の感覚を清夏にもたらして、それが酷い快楽だと清夏が気付いて一層身悶えた。 「っ、ひ、ん、っ・・・アアッ!」 イキそうだ。 このままだとイって仕舞う。 まさか。そんなの、あるわけない。 初めて中に挿れられてイクなんて、そんなの恥ずかしすぎて駄目だ。 でも敏い直哉は清夏がイキそうなのだと気付いたのか、攻め手を強めた。 「やっ、直哉、待って、まっ・・・」 「イけ、清夏」 「やだっ・・・」 両手で直哉を押し退けようにも下肢を掴まれてはそれもままならない。 止めとばかりに直哉に勃起した清夏自身に触れられれば駄目だった。 「あっ・・・もっ・・・イクっ・・・!」 イクだなんて普段云うわけない。そういう言葉を清夏がセックスの際に云うことはなかった。 なかった筈なのに頭が真っ白になる。嘘だろ、と思いながらも清夏は直哉の前で、直哉に挿入されながらイった。 びゅくびゅくとあられもない姿で吐き出して、目の奥が衝撃を受けたようにちかちかする。 なのに酷い快感が続いていて、じんとした痛みがあるのに、疼くように清夏の中が収縮するのがわかった。 「っく・・・」 その締め付けに、清夏、と直哉が囁くように低い聲を漏らしたのもいけなかった。 上げるまいと思っていた嬌声が清夏の口から洩れる。 「あっ、やっ・・・なおっ、なおやっ・・・!」 ぞくぞくする。止まらない。箍が外れたように、喘いで仕舞う。 直哉はそんな清夏の状態を理解したのか意地の悪い笑みを浮かべて、一度ぎりぎりまで引き抜いてから、また強く清夏の中に押し入った。深く抉られれば、涙と共に、いろんなものが溢れてくる。 駄目だ。こんなの駄目。駄目になる。 「清夏、さやか、俺の物だ、お前は俺の・・・っ」 ぞくぞくとした快感が、身体中に広がって、直哉に自分の物だと云われる度に言葉にできない衝撃が清夏の身体を奔る。 「あっ、アアッ、やっ・・・やだっ」 いやだ、こんなの恥ずかしい、自分が自分で無いみたいで厭だ。 なのに身体が云うことをきかない。まるで清夏の身体じゃないみたいに直哉に溺れていく。 「清夏、っ」 「ひあ、ああああっ!」 駄目だ、直哉が低い聲で達した瞬間、またイって仕舞った。どぷりとしたものが清夏の腹に吐き出される。 下肢はべとべとで、直哉がずぷずぷと蕩けた清夏の中から自身を抜いて、窮屈そうにゴムを取り外し、直哉自身を出した。 その直哉の出したものもゴムの中から清夏の腹の上に垂れて混ざる。 そのぐじゅぐじゅとそれが垂れる様が清夏の劣情を一層煽った。 「イったな」 「・・・・・・っ!」 恥ずかしい、死にたい。穴があったら入りたい。 勿論入れられたのは清夏であるが。 だってこんなの、初めてだ。 清夏は初めてだ。男同士なんて、まして相手は直哉だ。 セックスはする。セックス無しで直哉と生きるなんて清夏も思っていない。もう十七なのだ。 そのぐらいはわかる。 なのに直哉との初めてでこうなるなんてこれから先を思うと清夏は眩暈を覚えた。 もっと、クールにできると思っていた。 実際清夏が今まで付き合ってきた彼女達はそれなりに大人だったし、その彼女達は大人のセックスを清夏に教え、清夏自身も下手では無いつもりだ。少なくともそんな風な態度を取られたことは一度も無い。でも直哉を前にするとそんな清夏の細やかな矜持やテクニックなど無意味だ。 流石に直哉は伊達に生きているわけでは無い。 直哉だからこんなに感じるのか、或いは直哉のテクニックが凄いのか清夏にはわからなかったが、清夏はどうしようもなく直哉のそれに煽られたし、さっきまで目の前の直哉のものが清夏の中に入っていたなんて考えただけで眩暈がする。 直哉は涼しい顔をして清夏の中が傷ついていないか指で確かめていて、それがまた清夏には恥ずかしかった。 「なおっ、直哉・・・っ」 「どうした?」 平然とどうしたと直哉に問われて清夏は頭がくらくらとする。 どうにか直哉から腰を引いて、大丈夫だと告げた。 「もっ、平気だから、自分でできるから・・・!」 何ができるのが、何ができないのか、清夏はこの場を逃れたいばかりに必死で、支離滅裂な言い訳をする。 「そうか、大丈夫か」 直哉は冷静に、少なくとも冷静に思える聲で清夏に云った。 「なら平気だな」 平然と云ってのけるそれが何なのか清夏が理解する前に、直哉に押し入られたのは失敗だった。 「あっ、もっ、なおやっ・・・」 抵抗して腰を引けば積極性の現れと取られたのか直哉は機嫌が良さそうに喉を鳴らした。 それで清夏は思い出す。子供の頃遊んでいると直哉は優しく遊んでくれたが、時々こうして笑うことがあった。 そういう時は決まって直哉は清夏に意地悪をしたのだ。 「やだって、も、終わりっ」 「終わりなものか、俺のものだろう?清夏」 「っ、あっ・・・アアッ」 ずぷり、と中を揺すられて清夏は嬌声を上げた。 悲鳴では無い、甘さを含んだそれ。 いやだ、恥ずかしい、こんなの。 直哉の上に乗せられて、腰を掴まれて、直哉の唇が近づいて、それこそ隙間なんて無いみたいに深いキスをして。 ああ、溶けると思う。 ぐずぐずに溶けて、直哉と混ざる。 「ひっ、うっ、もっ、イク、イっちゃ・・・!」 「いい子だ、清夏」 清夏は諦めて直哉の首に手を回し、今度こそこの快楽に溶けることにした。 09:冬の夜のつづき |
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