「・・・っ」 抵抗は虚しく、直哉は柔道だかなんだか人体を知り尽くしているらしくあっという間に司の動きは封じられて仕舞った。 「ね、ねぇ、マジで?」 「マジだ」 大真面目に直哉に見下ろされて司としては及び腰だ。これは夢だ。夢であってほしい。 「魔王としてはエンリョしたいかなー・・・」 「なら俺を配下の悪魔に命令して排除させればいい」 しれっと云う直哉が憎らしい。 「できないって知ってるくせに・・・」 今や司以上に人類と天使と悪魔とのバランスを取るのに必要不可欠なのは直哉だ。 直哉の交渉能力があってこそ、世界は未だに混乱の中にあっても争いは勃発していない。 「ならいいだろう、兄弟仲良く親睦を・・・」 「親睦をベッドで深める兄弟が何処にいるーーーーー!」 「・・・ふ・・・っ」 ぞわりとする。直哉の舌が首筋を這ってそれから逃れたいのに何時の間にか肌蹴られたシャツに指を入れて直哉が司の平らな胸を弄っているのだ。 抵抗虚しく直哉はどうしてもすると聴かず、司はこんな辱めを受けている。 しかも力加減が絶妙で此処最近疲労が溜まっていた司には覿面であった。 ( 嘘だろ・・・ ) キモチイイ・・・。 衝撃的な事に、直哉が触れる度に司の身体がびくびくと揺れ、身体の熱があがる。 胸なんか特にそうだ。平たい胸に直哉が触れるだけで堪らなく感じる。 「う・・・や・・・何、でっ」 衝撃に顔を歪める司に直哉がしたり顔で攻め手を進める。 この半年近くご無沙汰だったのだいい加減我慢の限界である。それにそろそろ時勢も落ち着いてきたし、各国首脳の莫迦共もどちらに着くのが得か悟ってきた頃合いだ。漸く人心地つけるようになったのだから直哉の用意は万全である。 滞在場所のホテルは借り上げたし、至る所に護衛の悪魔を配置し、結界を張った。今なら核兵器を突っ込まれても持ち堪えられる。 そして漸く鬱憤を晴らすための舞台を整えたのだ。この状況で獲物を逃がすつもりなど毛頭無い。 司は知らないが、司が弱いのは首筋と胸だ。同時に責めればあとは簡単なのである。 司の身体を本人の預かり知らぬところで知り尽くしている直哉だからこそ出来る芸当であった。 徹底的に司の弱い処を攻めて身も世も無く喘がせたい。 以前の司とのセックスは緩やかなものが多かったが、今の司のどことなく生意気な様を見ていると直哉的には組み伏せて屈服させたくなる。そして己だけだとこの司に乞わせたい。 弟に無体をする直哉は罪深いだろうが、直哉に云わせれば司こそ罪深かった。 あんな選択をして、直哉の手を取った癖に直哉の云う通りにはしないと云う、そして神と談話すると云い出した。 そんなことを云ってのけた司に憤りはある。以前の司なら決して云わなかったことだ。直哉を按じてはいたが、司は最終的にいつも直哉の云う通りにした。なのに今の司はどうだ?直哉の云うことは聴かぬと云いながらも直哉の手が無いと世界一つ御しえない。 その癖直哉が手を貸すと安心したように、酷く嬉しそうに笑うのだ。 最初こそ何処かでこのクソガキを御してやろうと思った。けれども今はどうだろう、直哉はただ司の笑顔の為に司に手を貸している。 望みと云えば直哉の望みを叶えることだったあの弟が、全く別の人間になり、そして世界を変えた。 誰の為でも無く、未来の為に。 どれほど辛苦の道であろうとも、進むと決めた。 その強さは今までの司には無かったものだ。直哉の与えたもの以外を『司』が選択するなど考えられない。 けれども、それに憤りを覚えながらも、悪くは無いのだ。 或いはかつての『弟』ならそう云っただろうことを、この司は云う。 何でも無いことのように。 ( いつも、いつもお前は・・・ ) 何処までもお前なのだ。 司は知ることの無い過去の司、弟の魂はいつだって儚そうで、雄々しく強い。 それは暗闇に射す光のようにきらきらと輝いている。 「俺から離れるなよ、司」 出なければ見失って仕舞う。 この暗闇に射す光を。 「うあっ、ああっ」 何時の間にか蕩かされて指で散々前も後ろも解されて、頭がぼうっとしてきた頃に直哉が入ってきた。 いたい、痛い筈だ。 一度本当に直哉にヤられるんじゃないかと怖くなってネットで検索したけれど(家のパソコンだと直哉に張られているので、恥ずかしながら学校でだ。こっそり履歴は削除した)そんなの痛いに決まって居るし、普通一般的にだいたいのゲイは最後までやらないらしい。BLはファンタジーなのだそうだ。 最後までやらずに気持ち良くなるのをヴァニラセックスと云うことまで知ってしまった、俺の純情を返してほしい。 そんなことよりまず病気のリスクが高いし、よしんば病気が無くても痛いに決まってる。 慣れると(なんと上級者は慣れるとヨクなるらしかった・・・信じられないことに!)イイらしいけれど、それでも痛い筈で。 「アッ、うそっ、あッああっ」 「イイだろう?」 なのに・・・今直哉に入れられて、司が想像よりも痛みを感じないことにショックだった。 なんだろう。頭をこう、がつんと殴られた感じ、くらくらするようなそんな感じで、嫌な予感が司に過る。 「何、でっ」 身体が反応する。直哉に触れられて嬉しくてたまらないというように。 そう・・・つまりそういうこと。 司は、前の司は直哉とそういう関係にあって、挙句、上級者並みに直哉とのセックスに慣れていた。 それに尽きる。 「莫迦ぁっ!!」 「それは褒め言葉として受け取ろう」 どういう兄弟なんだよ、と司は叫びたいが、どういう兄弟かってこういう兄弟である。 夢で見た司は何処か寂しそうで優しい雰囲気がしたけれどいくら優しくても此処まですることないんじゃないかと司は思った。 結論から言うとすごく良かった。 気持ち良かったのだ。屈辱的だが。 最中に結局「もっと」だとか強請って仕舞ったような気もする。死んで仕舞え俺。 「だから気持ちイイと云っただろう」 ぐい、と中に挿入したまま身体を揺らされて漏れるのは想像もしたくない自分の甘ったるい声だ。 「ふ、うあっ、アアッ!」 ぐぐ、と抉られて達して仕舞う。 「はっ・・・」 直哉の熱い吐息がまた色っぽくていけなかった。 びくびくと揺れる身体のままに直哉に腰を振りたくって、それから三度もヤって仕舞ったのだ。 「俺もう死にたい・・・恥ずかしい・・・穴があったら入りたい・・・」 「俺のはお前の穴に入ってるがな・・・」 「死ね、変態!莫迦ぁっ!」 「よしその元気があるなら、もう一ラウンドだ」 「うそ、だろ・・・ひっあああああッ!」 ・・・再び莫迦兄貴に頂かれたというのは云う間でも無い。 * 眠る司を前に直哉はその髪を掻き上げる。 司の指が直哉の指に触れた。意識はとっくに落ちている筈だが無意識の行動なのだろう。 ( 噫・・・同じだ・・・ ) 彼の癖だ。司だ。これは司なのだ。 司の癖だけは以前と変わらない。 直哉が愛し手塩にかけて育てた司、今の司とは別の司、消えて仕舞った弟。 けれども、これも司だ。どれも直哉の弟だ。 愛していた。それと同じだけ憎しみもあった。いつでも直哉の胸に有りつづける憎らしくも愛しい最愛の弟。 歪んでいるのは己だと直哉はわかっている。司のように何もかも赦して仕舞えるような人間では直哉は無い。 決して無い。 直哉が仮に司と同じ状況で魔王になれと云われたら直哉は司と同じ選択はできないだろう。 己の望みが、怒りが叶わぬのなら世界を更地にして仕舞えるのが直哉という男だ。 けれどもこれは違う。 赦す生き物なのだ。 優しくも強い、直哉には無い光を秘めた者。 憎くもあり、愛らしくもある、手放せない唯一の者。 「お前は俺のものだ」 生まれる前から、己の弟だ。 その頬に触れ、そして今こそ確信する。 ( 結局憎しみより愛が勝る、俺も人間か・・・ ) 「全く、お前は手がかかる。いつもいつもお前は忘れる。どの時代でもそうだ。こうして今生きている時でさえ・・・」 いつもいつも、お前は忘れる。 そして俺が追いかける。 そうして創世の頃から繰り返される追いかけっこだ。 掴んだと思えばお前は直ぐ逃げる。 「なおや・・・?」 「いいんだ、司、眠れ、お前に安らぎがあらんことを、」 司再び寝入ったのを確認して直哉は唇を落とした。 駄目な兄、そうなのだろう。 司が云うように直哉の生き方は救いようが無い。生き方は変えようが無い。 ( でもその為のお前なのだろう ) 不完全な直哉の為に司が居る。アベルが在る。 忘れても、忘れても、いつも居る。 お前は傍に居続ける。 ( それでいい、お前こそが、俺の救いだ ) 司は気付かないのだ。司こそが直哉の光であると。 眠る司を腕に抱きながら直哉は笑みを浮かべた。 「その分、俺がお前を愛するさ」 07:夜の太陽 |
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