※若干スカトロ有。ご注意下さい。


最悪だ、と思う。
羅刹は今一度自分の状況を思い返して
最悪だと呟いた。
何故なら従兄弟に、兄弟同然に育ってきた兄とも呼べる男に、
縛られて嬲られて犯されて散々酷いことをされて
気絶して、それから目を覚まして
トイレに行きたいと云ったらこれだ。
何故風呂場なのか、と問う前にシャワーを浴びせられる。
最悪なこの状況に羅刹は眩暈がした。
こんなところで出せと云われても出るものも出ない。
挙句直哉様監督の前でだ。
( 俺は囚人か、お前の奴隷かっつーの、 )
「ふざけんな」
「ふざけてなどいない、さっさと済ませろ」
「こんな状態で出るか」
直哉はフン、と鼻で哂ってから
おもむろに羅刹の肩を掴み、羅刹が咄嗟に身構えて
ひるんだところですかさず足首を持ち上げた。
「犬みたいにすればいい、出ないなら手伝ってやる」
「ばっ・・・」
莫迦にするな、と叫ぼうとして羅刹は止まった。
直哉が問答無用で穴に(何の穴とか言うな)
何かをツッコんだからだ。
「ついでにこっちも綺麗にしてやる」
「ぐあ、」
酷い圧迫感に腹に痛みが奔る。
何処からもってきたのかホースだ。
温い水が体内に押し寄せてきて、それが逆流しそうだ。
どのくらい堪えただろう。
痛みは限界を超えていて、
堪えようとしてついに堪えきれず羅刹は吐き出した。
簡単に云えば浣腸である。
ついでに胃にあったものも吐いた。
殆どは胃液ばかりで酸味が口の中一杯に広がる。
下からも上からも吐瀉物を巻き散らして
数度むせ込んでから、最悪だ、と羅刹は唇を噛みしめた。
直哉が臭うな、と云いながらも何事もないように
羅刹がぶちまけたそれを片付ける。
そして茫然として動けない羅刹にシャワーを浴びせ、
ボディソープで羅刹の身体を洗い始めた。
隅々まで洗おうとする手つきは子供のころ一緒に風呂に入ったのとは
全然違う動きだ。
小さな頃は一緒に背中を流しあったものだが、
そんな手つきでは無い、到底無い、
明らかに意図された動きに
羅刹は息を呑んだ。
「いい加減に・・・」
「お前も気持ち良くなってきた頃だろう?」
見透かされている。
最初の怖さが嘘みたいになってきた。
ずっと昔からこんな不毛なセックスをしたきたような感じだ。
許せない筈なのに、羅刹は直哉に云われるままに
尻を持ち上げた。
従順に、従順な振りをする。
でないとこの兄はもっと酷いことをするだろう。
最初の痛みや先程の排泄の屈辱など塗り替えてしまうほどの
ことを屹度する。
それが怖くて羅刹は直哉の云うままに振舞った。
直哉は「いい子だ」と目を細め羅刹を貪る。
風呂場の床の冷たさが酷くリアルだった。


それからのセックスはもっと酷かった。
何度も絶頂へいかされてそこから突き落とされる。
きもちわるい、反吐が出るくらいきもちわるい行為である筈なのに
ちょっと気を抜けば病みつきになりそうな快楽があった。
随分といらぬ場所を開発されたものである。
気付けばどのくらい時間が経ったのか、
直哉は何処にも出かける気配が無く、
羅刹が起きたら食事をさせて、セックスという名の暴行をする。
「いま、何日?」
「お前が知る必要があるのか」
直哉はベッドサイドのペットボトルを取り蓋を開けて水を呑んだ。
溺れるようなセックスの合間の小休止というところだ。
「学校、行きたいんだけど」
普段なら行かない、でもこんなことずっとされるくらいなら
行った方がいい、行きたい。此処から逃げだしたい。
「行く必要があれば俺が決める」
全ては直哉の思うままだ。
排泄さえも直哉の前だ。
もう死にたい。
目の前のド変態を殴り殺してから俺も死にたい。
今なら怒りと羞恥で簡単に死ねる筈だ。
それでもまだ羅刹が羅刹でいられるのは羅刹である所以であったし、
直哉が羅刹の意思を尊重する節があるからだ。
自由は与えない癖に、羅刹の我儘はきく。
そんな兄の態度に底知れぬ恐怖と怒りを覚える。
そうだ、羅刹は怒っている。
最初からこの兄と同じように怒っているのだ。
それでも従順に直哉に従うのは、反抗した後の怖さと
此処から出られない怖さがあるからだ。
羅刹を何処までも支配しようとする直哉の横暴が
我慢ならなかった。
「直哉、お前を殺してやる」
「云ってろ」
直哉はむかっ鼻(覚えてるか?むかつく鼻哂いだ。あのフン、って鳴らすやつ)
をしてそれからまた羅刹を押し倒した。
活動再開だ。
元気な直哉のものをしゃぶらされて、
すっかり開発された穴には何処で手に入れたのか
イカガワシイ玩具を挿れられて、快楽に落とされながら
それでも羅刹は懸命に直哉に奉仕した。
啜りたくもないものを啜り、満足気な兄のご機嫌を取る。
これは賭けだ。
直哉が隙を見せるか、それとも羅刹が壊されるかの、


そしてその隙は案外早くやってきた。
イイコに過ごしてから一週間。
縛られているのは変わらない、ベッドに寝っ転がったままだった。
でも最初の頃よりも待遇はいい。
暇だと、叫べば直哉が下僕のようにベッドまでテレビを運んできた。
お腹が空いたと叫べば、食事が出される。
セックスをして眠る以外は直哉はパソコンで仕事をしているようだった。
今も熱心に画面に向かって何かを打っている。
そんな直哉の姿をベッド越しに見つめてから、
羅刹はその背に話しかけた。
「煙草ねーの?」
直哉は煙草を吸う。持っている筈だ。
「ターバーコー」
と叫べば、「うるさい」と直哉は画面から目を離さずに
答えた。もう一度懲りずに煙草コールをすれば
今度はこちらを向く。
だから上目使いで羅刹はおねだりをした。
「別に何もしねーよ、真っ裸で縛られてるんだぜ?
煙草くらいいーじゃん」
「・・・」
直哉の冷たい目が暫く羅刹を捉える。
羅刹はもうひと押しした。
「俺、イイコにしてるだろ、直哉」
直哉は観念したように羅刹に自分の煙草の箱とライターを投げた。
そして直ぐ画面に目線を戻す。
ベッドに落ちた煙草はJPSだ。黒い箱がなんとも云えない。
お前はバンメンか、と内心ツッコミながらもこれがエコーなんかだったら
笑えないのでまあ直哉らしい煙草と云えばそうなのかもしれない。
半分以上入ってる煙草にとりあえず有難がりながら羅刹はライターで火を点けた。
「あー、生き返るー」
実際久しぶりだ。この監禁生活で禁欲はしてないけれど禁煙はさせられていた。
高校生が吸ったらいけないとかこの際内緒にしていて欲しい。
何せこれが欲しかったのだから。
羅刹は徐に火を自分を縛っている紐に当てた。
(最初に縛れた羅刹の学校のネクタイはもう外されていて別の丈夫な紐に
気付いたら替えられていたのだ)
ビニールの焦げる匂いがする。肌を焦がす様さえ気にならなかった。
匂いに気付いたのか直哉が振り返る。
でも遅い。
「羅刹、お前、、」
「有難うよ、直哉」
そのまま自由になった手を振りおろした。
直哉の身体が壁に飛ぶ、
一発くらいで死にはすまい、
直哉はああ見えて身長がある分(何せ俺よりも一頭分がデカイ)ガタイもいいし結構丈夫だ。
当たりがよかったのか運よく直哉は気を失っているようだった。
起きないうちに、と手早く羅刹は部屋の隅に追いやられていた
制服のズボンを拾い、それからシャツやなんかは破られてしまっているのと、
この際下着は諦めて、適当に散らばっていた直哉のシャツを借りる。
それから直哉の財布を上着から抜き取って、ついでに先程投げて貰った
煙草とライターも拝借した。
もう一度殴っておこうか、と思うが、起きられたら厄介だ。
次はきっと鎖で縛られるだろう。
だから羅刹はさっさとこの部屋を出ることにした。
腹が立つし苛立ちは収まりそうにない。
でも今はこの兄の元から逃げるのが先決だった。

久しぶりに出た外は夕方だ。
何日経ったのかはわからない。
そうだ、携帯もあの莫迦変態兄貴に折られて捨てられたんだった。
じくじくと手が痺れている。
けれども怒りの方が勝って殴った手の痛みも暫し忘れた。
それから手にした煙草に火を点ける。
もう忘れたい。こんな莫迦なこと忘れたい。
あの直哉が、どうしてあんなことをしたのか、
( 吐き気がする )
くらくらする、怒りで我を忘れそうだ。
あのまま直哉を殴り殺していたかもしれない。
( その方が )
その方がきっともっと
( ずっと楽だった )
其処まで考えてから、羅刹は首を振った。
そして慄える手で煙草を口元へ運びゆっくりと吸う。
それだけで頭の芯が徐々に落ち着いていった。
( もういい )
( もう忘れる )
( 直哉なんて忘れる )

Don'tLockBackAgain.だ。
振り返らない。
( 俺はそれでも前へ進む )
直哉はいつまでもあのままでいればいい。
俺は違う、と自分に言い聞かせて羅刹は雑踏へ消えた。


一瞬気を失っていた。
気付いたのは扉が閉まる音を聴いてからだ。
( 油断した )
くらくらする頭を左手で支えながら現状を確認する。
羅刹は出て行ったらしい。もう戻っては来ないだろう。
「クソ・・・障害罪に、窃盗か、」
油断した、この一週間はすっかり大人しくなって
直哉の云う通りに振舞っていた。
直哉とて完全に油断をしていたわけではない。
だからこそ縛っていた紐は風呂の時以外は外さなかった。
しかし羅刹は虎視眈眈とこの機会を狙っていたわけだ。
我が弟ながら油断ならない。
「まだ躾足りないようだ」
まるで手負いの獣だ、と直哉は羅刹をそう表現した。
何処までも群れに馴染めない手負いの獣、
直哉しか同胞はいないというのに、何処へ逃げるというのか、
また糸が切れて仕舞った。
今度は鎖で雁字搦めにした方がいいのだろうか、
そうすれば弟は直哉の元から離れられまい、
( しかし、それは )
自我が崩壊しては意味がない。
自我を失くすのは簡単だが、羅刹自身に選択させなければ
直哉の設計した未来へは辿りつけない。
だからこそどうやってあの弟を縛ればいいのか、
直哉は明晰な頭脳をフル回転させた。
あの弟は屹度もう二度と直哉の部屋へは現れまい、
だが捕えることなど他に方法はある。
自分でなくてもいいのだ。
最終的に選択するのが直哉の目指す場所であればそれでいい。
( それに、 )
と直哉は思考する。
「一度この快楽を識れば、早々に抜けれまいよ」
眼を閉じ薄ら笑みを浮かべた。


05:手負いの獣
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