「    、、、、っあああああああっ」

悲鳴はもうただ悲鳴で言葉になんかならない。
裂かれるような痛みが奔って、
直哉が羅刹の腰を掴み深く奥へと入って来る。
その衝撃で今度こそ羅刹の理性は飛んだ。

あとはもう何がなんだかわからない。
どんなに嫌だ、やめてくれと叫んでも
懇願しても直哉の動きは止まらない。
痛くて、凄く痛くて、こんな激しい痛みは初めてだった。
骨を折られるよりも屹度痛い。
だって、骨を折られても我慢できるけれど
これは我慢出来ない。
なのにやめてくれない。
酷い、人でなしの兄は泣き叫んで聲が擦れている
羅刹におかまいなしで何度も何度も中に吐き出した。
「っ・・・あ、、、あああ、」
もう聲なんて堪えてられない。
痛みに涙が止め処無く溢れて、完全に自失した状態だった。
びゅく、と血と吐き出したそれが混じったグロテスクな
液体が尻から溢れ前も後ろも腹まで汚している。
直哉はそれを時折指で掬ってべちゃべちゃと羅刹の身体に
なすりつけた。
何か印でもするかのように何度も何度も何度も、
揺すられながら、酷い痛みがそれは本当に痛みなのかどうかも
もう判らなかったけれど、最後に熱いものを腹の中に感じた時に
意識が遠のいた。気持ち悪かった。


「・・・」
目が醒めた時酷くだるかった。
身体が重い。指先ひとつ動かせそうに無い。
目も重かった。
額に当てられているのはたぶん冷えピタで、
直哉がやったのだろう、酷く喉が渇いて呻き聲を上げると、
す、と冷たい手が頬に当てられた。
信じられないくらい優しい手つきで、
「喉が渇いたか?」
いつもの兄だ、いつもの優しい直哉だ。
こうして羅刹が病気になった時はいつも傍に居て
甲斐甲斐しく世話をしてくれる兄の手だ。
広い実家の屋敷は独りで寝ているとさびしい。
病気の時は特に寂しかった。
だから直哉が傍に居てくれるといつも安心できた。
直哉はさっきのことが嘘みたいに(でも嘘じゃない)
優しささえ潜ませた声色で羅刹を呼ぶ、何故かわからないけれど
懐古と焦燥と混乱と、怒りと色んな感情が混ざって涙が出た。
ぽんぽん、と優しく直哉の手が羅刹を撫でる。
そして羅刹の身体を起こして冷えたポカリを飲ませて呉れた。
その手つきはいつもの直哉なのに、どうしてと
羅刹は再び泣いた。
直哉は根気良く羅刹の頭を撫ぜ続け、羅刹が眠るまで
ずっと傍に居た。


ぼおっとする。
ぼんやりと覚醒してきた意識に羅刹は眼を開けた。
先程よりはずっと気分がいい、
今が何時かわからない、
時計を探そうと辺りを見回せばベッドサイドにあった
デジタル時計が8時を指した。
8時っていつの8時だろう、朝なのか夜なのかそれさえも曖昧だった。
ちゃんと綺麗にしてくれたらしい真白なシーツの上に
陽の香のする掛け布団がちゃんと羅刹に被せられている。
身じろぎをして気付いた。
「起きたか」
そんな時に計ったかのように現れるのがこのろくでもない
兄である直哉である。
「・・・おい、直哉」
まだ聲がいがいがする。
でもこれだけは云っておきたい。
羅刹は、ん、ん、と何度か喉を鳴らしてから叫んだ。
「何でまだ俺は縛られているんだ!?」
「何だそんなことか」
つまらん問いだな、と直哉はむかつく鼻哂いをする。
(もうこれ略して「むかっ鼻」でいいんじゃねぇかな)
直哉は手にした食事らしきものをサイドテーブルに置いて
説明を求める羅刹に機嫌が良さそうに笑みさえ浮かべながら答えた。
「だってお前、俺がそれ解いたら殴るだろう?」
「当たり前じゃねぇか、このド鬼畜変態ホモ野郎」
即答した従弟に直哉は肩を竦め、それから食事を羅刹に近づけた。
オーソドックスなミートソースパスタだ。
「腹が減ったろう?」
喰え、と出されたそれをどうやって食べろというのか、
手を縛られているのだ。
睨めば直哉は気色の悪い笑顔でフォークをパスタに突き立て
器用にくるくる回して、あーんと羅刹に差し出した。
げろ、と吐き出したい、そんなリアクションがしたい。
でも直哉の赤い眼はまだ怒りを宿したままで
それはこの状態がまだ続くのだと暗示した。
羅刹は黙ってそれを口にする。
直哉は「いい子だ」と満足そうに口端を歪めて
そして二口目、三口目と羅刹の口に食事を運んだ。
全部をあっさり食べ終われば直哉は良くできましたと云わんばかりに
羅刹の頬を優しく撫ぜた。
それから何かを云う前にまた羅刹の身体を弄り始める。
もう一度羅刹は嫌だ、と云った。
でも直哉は赦してはくれない。
「もうしない、直哉を困らせることなんかしない」
絶対にしない、じじいの云う事もきく、そう云っているのに
兄の手は止まらない。
「爺さんの云う事なんか聞く必要は無いさ」
いいか、羅刹?と直哉は云う。
子供の時から羅刹を云い諭す時の決まり文句だ。
「お前は俺の云うことだけきいていればいい」

ぞくりとする。
兄の赤い目が昔から好きだった。
ちょっと変わっていて恰好良く見えた。
でも今は
( こわい )
酷く怖い、地獄の深淵を見ているみたいで怖い。
引き摺られたらもう戻って来れない気がする。
でも羅刹は抵抗できない。
縛られていなくても抵抗なんてできるわけない。
蛇に睨まれた蛙だ。
否、うわばみだ。
うわばみに丸飲みにされるような感覚だった。
何故、と羅刹は思う、
どうして自分なのか、
直哉にとってきっとこれは自分でなくてはいけなくて
他の誰にも代わりはきかないのだと察した。
こうした動物的勘は昔からいい。
だから本能的に悟った。

 直哉は羅刹でないと駄目なのだ。

何がかはわからない。
性的な行為のことかもしれないし、
もっと精神的な面かもしれない、
でもこの兄は確実に弟を同じ場所へ引き込もうとしている。
そんな予感がした。
自分の云うことだけをきいていればいいという直哉が恐ろしい。
これなんて性的暴行?と羅刹は自虐的にツッコんだ。
ツッコんだところで別の場所に実際にツッコまれようと
しているのだからもう洒落にもならない。
ひどい暴力だ。
直哉の指が舌が羅刹の全身を這う。
まるで蛇が身体の上を這いまわっているみたいな
気持ち悪さだ。
一切の抵抗を許されず羅刹は再び兄を受け入れさせられる。
先程の痛みを思い出して羅刹は絶叫したくなった。
でも先程より容易く直哉は羅刹に入ってくる。
にゅるにゅるとした感じはローションか何かだろうか、
酷く滑りがいいそれが肌を伝う度に云いようの無い感覚が
羅刹を襲った。
「・・・っあ、、ぁアっ!」
びくん、と身体が慄える。
それが何なのかわかった。
自分だって女の子と経験したことがある。
(そう思うとせめて童貞は卒業していて良かったと
泣きたくなった。バックバージンはこの変態に取られたからだ)
「ひぅ、、、っ」
ぬるぬると直哉のもので中を擦られる度に
鳥肌が立つ、痛い筈なのに突き入れられる度に、
パア、っと全身に鳥肌が立った。
「感じているな」
快感だ。
これは快楽だ。
「はっ、は、あぁ、、」
ひどい、
ひどすぎる、
何が悲しくてこんなところで、縛られたまま
足をおっぴろげて兄貴に犯されて喘がなきゃいけないんだ?と
羅刹はまた泣きたくなった。実際泣いたし啼かされた。
「あふぅう、、、っっ!」
涎を垂れ流して酷いくらいの暴力的なセックスの快感に
揺らされて、直哉はコツを掴んだのか的確に
羅刹の弱いところばかりを攻め立てた。
前を指で擦られ、後を直哉に突かれて
そのあまりの快感に何度意識を飛ばしたかわからない。
声なんてさっきも枯れかけていたのだから
もう出ない。
あ、あ、と揺らされればどぷりと薄くなった己のものが
シーツに染みを作った。
直哉は化けものだ。
散々やったくせしてまだ元気だ。
どうなってるんだお前のナニは?と問い正したい、
でもナニは確実に自分の中を掻き回していて、
羅刹は再びイキそうになる。
「我慢するな」
耳元でいやらしく舌を這わせながら
気持ちいいだろう?とさも当然のように哂う男を
殺してやりたい。
直哉を殺して自分も死んでしまいたい。
「い、や、、」
いやだ、と羅刹は呻いてそしてもう一度
意識を沈めた。


04:うわばみが這う
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