何が起こっているのかわからなかった。
しかしそれがやばいことであるというのはわかる。
羅刹は今までに見たことも無いほど怒っているらしい
冷静な筈の従兄を見た。
整った顔はいつものままなのにその不思議な赤い眼は
確かに怒りと憤りを宿していて、かつてこれほど
兄を怒らせたことがあるか一瞬過去を振り返ったが
矢張り無かった。
怒られるのならいい、所業を責められるのもいい、
態とだ、態と羅刹はこの生活を送っている。
祖父に怒られようと例え勘当されようとそれもいい、
そうすれば羅刹は一門を継がなくても済むのだから
その方がいいに決まってる。
でもそうじゃなかった。
祖父ではない、代わりに直哉が酷く怒っている。
そして今羅刹を組み敷いている兄はいつもは大抵のことは
赦してくれる。それなりに優しくそれなりに放任な兄の筈だ。
それでいて羅刹の行動には逐一気を配るような面もあった。
それが鬱陶しくもあり、また反面それに縋りたくもある。
幼いころからそうだったように羅刹は直哉の手をいつも
探して仕舞う。
それが厭で、酷く嫌で、嫌悪したのは羅刹だ。
己のそういった弱さが赦せないくせ、問題を起こしては
直哉以外の引き取りを拒否する。直哉の手を求める。
そんな矛盾を抱えたまま、とりあえずこのまま直哉と離れれば
こうした己のどうしようもない部分をなんとかできると思っていた。
直哉から離れればこれ以上こんな矛盾に悩まされる必要は無い筈だった。
でもそれを赦さないのは直哉だったのだ。
直哉の方だった。あの兄が、この莫迦な自分を、羅刹を、
自分から離れるのを赦さないなんて考えたことは無かった。
放っておくのだと思っていた。
時には兄らしく忠告をする、呆れて諭す、さっきみたいに殴られるのも
兄弟らしいといえばそうだ。
でも、それとは屹度違うのだと羅刹は悟った。

己が思うより遙かに直哉は己に固執していたのだと
そう確信した。
( だっておかしいじゃないか )
クラブで遊んでいたら兄に殴られ、無理やり連れ戻され、
実家に連れていかれると思ったら直哉の家だ。
アパートの重たい鉄の扉が閉まり鍵をかけられる音がしたときに
やばいと思った。
そのまま床に転がされて二回殴られて(頭がくらくらする)
ベッドに引き摺られた。
制服を破られて、ネクタイでしっかり両腕はベッドのパイプに
固定される。これだけでどんだけやばい状況か流石の自分にもわかる。
何をされるのか確信が無いだけにこの兄が酷く恐ろしかった。
「離せよ」
それでも精一杯兄を睨む。
直哉はいつもみたいにフン、と鼻を鳴らして、
それから羅刹の髪を思いっきり引っ張って
頬を叩いた。
唇を噛み締めるのを忘れていたので口の中を切って仕舞った。
思ったより勢いよく口端から血が流れる。
直哉はそのまま、ぐい、と羅刹の髪を引っ張って、
そしてその血を舐めた。
「やめろ」
「いくらでも騒いでいい、この部屋の防音は完璧だ」
「直哉、」
「正気を失わない程度にはしておいてやる」
お前の意思が必要になるからな、とわけのわからないことを呟いて
それは開始された。

「ふ、、っ」
びりびりに破られたシャツはもう使えないだろう、
制服のズボンはみっともなく剥ぎ取られ、
直哉は自分にセックスをするつもりなのだと悟った。
「やめろって、」
身体を冷たい手で弄られぞっとする。
彼女とするのでもない、相手は男でしかも直哉だ。
有り得ない、気持ち悪い。
なのに何度云っても直哉は止まらない。
身体を動かそうにも両腕はベッドに縛られていて動かないし、
脚は直哉に乗られているからびくともしない。
「そんな趣味があったのかよ、変態」
そう罵れば直哉は馬鹿にしたように羅刹を見下した。
そしてそのまま羅刹の下着の中に手を入れる。
あ、と聲を洩らしそうになるのをどうにか堪えて
羅刹は直哉を睨んだ。
精一杯の虚勢だ。
勿論見透かされている。
弄られれば反応するのが男の性だ。
誰の手だって健全な16歳だったらそうなる。
例え正気を疑う従兄の手であっても反応はする。
ぐちゅ、と聴きたくもない音がして
それから速くなった指の動きに(残念ながら直哉の手は酷く上手かった)
ついに我慢できずにものの数分で羅刹は吐き出した。
下着の中だったからどろどろして気持ち悪い。
べちゃりとした羅刹の下着を見て直哉は再びあのむかつく鼻哂いをして
それから羅刹の身体をうつ伏せにしてぐっしょりした下着を
取りはらって床に投げた。
「離せ・・・!もういいだろ」
こんな屈辱ってない。
何が悲しくて7つ年上の従兄弟に、しかも男に縛られながらこんなこと
されなきゃならない?縛りとか何のプレイかっつーの、
SMにはまだ早い(と思う)文句を云おうと背後の直哉に振り返ろうと
したところで羅刹は悲鳴をあげた。
「ひっ・・・」
指だ、直哉の指が其処を触っている。
なんに使うかは想像できるよな、男同士だからって
何も挿れなくていいと思う。百歩譲って自分がゲイだったとしても
(やっぱり譲れない、普通に彼女が居る身だ、千歩譲っても自分はノンケだと
云い張りたい)
挿入は無いだろう、其処は出すところであってインするところじゃない。
そう云いたいのに、ぬるぬると(きっと先程羅刹が吐き出したものが
直哉の指に絡んでいるのだ)したぬめりが其処をしつこく弄って
「力を抜け」と低い聲で云われたら、予想外だったのか自分のお莫迦な
身体は力を抜いて仕舞った。おいおいなんで其処で力を抜くんだ、と
叫びたいけれどやっぱりそれも出来ない。
ぬるんとした指が羅刹のあそこに入って来て、それが酷く気持ち悪くて
吐く、と云えば「吐け」と云われる。ここはお前のベッドなんだよな、と
どうでもいいことを考えながら羅刹はその蹂躙に耐えた。
ぐっと指に力が入る、嫌な汗が沢山出てる。
身体が自由だったらきっと直哉を目一杯殴ってる。包丁持って追いかけたって
許される筈だ。だってこんな酷いこと、ない、あんまりだ。
ぬるぬるとした指が中に入ったり出たりしてそれが気持ち悪いし、
こんな状況にやっぱり自分は混乱して情けなくて悔しくて涙が出てきた。
直哉はまるで気にせずぐちゅぐちゅと中を何本かの指で掻き回して
満足したのか指を抜いた。
息を吐く間もなく背後に当てられたものに背筋が凍る。
直哉の固く起立したものだ。
それは嫌だ、
どうしても厭だ。
「いやだ、」
掠れる声で云う。
直哉は黙ったままだ。
そのまま、ぐ、と力を入れて先程まで指で掻き回していた中へ入れようとする。
「いや、、だ、、、直哉、、、!」
それだけは嫌だ、首を振りながら羅刹は懇願する。
幼い頃のように、駄々を捏ねる子供のように、
でも自分はもう子供じゃなくて、コウコウセイで、直哉を酷く怒らしているらしくて
それで、そんでもって、駄目だもう説明できない。
「怖い、、、」
それでも肩を慄わせながら泣く。懇願する。
みっともないけれどでも自分はこんな状況に充分混乱していた。
軽く何かが飛んでいた。こんなに怖い思いをしたのは初めてだ。
だって信じられるか?自分の兄貴みたいな男が今自分にナニ当てて
中まで入ってこようとしてるんだぜ?怖くて当たり前だ。
だから昔みたいに、去年までそう呼んでいたように、
「兄さん、、、っ」そう懇願した。
直哉は黙ったまま羅刹の背中を優しく撫で(撫でる手だけは優しかった)
それから無言で一気に押し入った。


03:怒り心頭
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