* 既に廃墟と化したビルの一角に直哉は居た。 予め用意していた設備でそれなりに快適に過ごせる。 車に十分なバッテリーとガソリンも積んであったので さして問題も無かった。此処以外にも数ヶ所こんな場所を確保している。 辺りは己の契約悪魔に守らせてあるので心配は無かった。 カタカタと持ちこんだノートパソコンを操作する。 傍受用のプログラムに修正を施しながら自分を、じ、と見つめる背後の 悪魔に視線を投げた。 「君は世界を滅ぼしたいのかな、それとも存続させたいのかな」 「愚問だな」 悪魔の男に答えを返す。 「俺が成したいことは悪魔のお前が知っての通りだ」 「どうかな?人間は嘘を吐くしね」 「悪魔も嘘吐きだろう」 「ふふ、そうだねぇ、君は人間にしては素晴らしいよ」 エクセレント!と悪魔が云う、手の叩き方がわざとらしかった。 わざわざ人間の姿をして現れるあたりこの魔王は明らかにこの状況を 楽しんでいるのだ。 「ねぇ、ナオヤくん、知ってるかい?」 悪魔は楽しそうに喉を鳴らした。 「初恋は実らないと云うよ」 * 四日目が過ぎ五日目に直哉に再会した。 戦って勝てば教えると云う、 その言葉に愕然とする。 そしてその果てに与えられた答えに、 魔王に成れという言葉に、今まであった痞えが取れた。 ( 噫、そうか、) ( 直哉は俺にこれをさせたかったのだ ) 「ベルの王になれと俺に云うのか」 「そうだ」 「その為に巻き込んだのか」 「そうだ」 「柚子や篤郎も?」 「そうしなければお前は動かない」 ああ、そういうことか、 お前は俺が憎いとかそんなじゃないんだ、 俺は大事な駒、俺はお前に取って持ち物だった。 直哉の道具だった。 道具にしか過ぎなかった。 だからすっきりした。 今までの葛藤の何もかもどうでも良くなった。 「俺はその為に要ったんだな」 「他に何が或る」 「そう」 直哉は待っていると言葉を残して行った。 * 六日目、 選択の時まで僅かだった。 決別を決めたのは直哉のあの言葉の為だ。 「世界が終っても俺は多分どうでもよかった」 「雪風?」 篤郎と柚子に向かって云う。 「俺は終わっても良かった」 「でも」と雪風は足した。 「俺は直哉の思う通りになんかせさない 俺が直哉の思うような世界を止める 行こう、ハルとジンさんのところへ」 「戻そう」と皆で誓った。 そして決別する。 直哉と、直哉の全てと、 必要とされていたのは道具としてだ。 憎しみですらない、自分は直哉のモノなのだ。 だったら、モノだって思い通りにならないことを直哉に証明してやる。 世界はお前の思う通りにならないということを教えてやる。 それが唯一の復讐だった。 嫌いな直哉、自分の居場所を取った直哉、 そして道具として自分を利用しようとした直哉、 だから、 「それが答えか」 「俺は元に戻す、こんな在り方間違ってる、 お前と俺の関係が間違っているように」 お前と俺の関係が間違っているように、という言葉に 直哉は眼を細めた。 そして「如何にも」と続けた。 「その通りだ、それでどうする?」 「ジンさん達と世界を戻すよ」 六日目の晩、直哉に別れを告げる為に寄った。 最後に云っておきたかった。 直哉に一矢報いてやるつもりだった。 お前の思い通りになどならないと、今度は俺がお前を捨てるのだと、 そのつもりだった。 「お前の好きにすればいい、雪風、お前の望むように造ればいい」 「造る?俺は戻すんだ」 「否、違うな、見た目は戻ったように思うだろう、しかしその世界は 一度崩壊している、間違いなくお前が再構築した世界になる、 ベルの王の力でな」 「戯言を、」 くだらない、また戯言で俺を騙そうとする。 直哉はいつだってそうだった。 本当のことを云わない、はぐらかす、 そして気付けば直哉の意のままだ。 だから今度こそ直哉の思い通りになんてならない。 不意に直哉の顔が近付いた。 「なに・・・を・・・」 ふ、と直哉の眼が細められ、一瞬の出来事だった。 あ、と思った時には唇が触れていた。 咄嗟に突き放した。 何をした? 直哉は俺に? 唇が・・・ さ、と顔を赤らめ直哉を睨む、 「え?」 けれども居ると思った先に直哉は居なかった。 何処にも存在が消えたように直哉は居なかった。 辺りを窺っても直哉は居ない、 結局直哉を見つけられないまま、ジンの元へ向かい、 そして俺達全員の力を合わせてバ・ベルを倒した。 ベルの王の力を使い、悪魔をハルの歌で戻した。 呆気ないほど一瞬の出来事だった。 悪魔は消え、そして世界は戻った。 何も無かったように人々は集団幻覚を見たことにされ 試練は去り、悪魔も天使も何処にも居なくなった。 あの七日間が嘘のように無かったことにされた。 そして残った人々は現実へと帰り、俺は直哉と決別した。 決別 |
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