結果から云うと何も無かった。
大和とは何も無かった。
温泉で何かあるんじゃないかと実は少し身構えたのだが、拍子抜けするほど何も無かった。
大和は始終機嫌が良さそうにしていて、夜にはお酒も入って、淡々とけれどもいつもより色んな話をして、そして夜更けにそのささやかな宴会もお開きになった。尊も気持ちよくなって、月が綺麗で、ご飯が美味しくて、温泉があって、卓球もして、大和が居て、布団が敷かれていると云われててっきり大和と同じ部屋だと思っていたら別の部屋だった。
大和とは何も無かった。何かあっても困るが、それにキス以外のことなど大和は男なのだから尊には想像もできないけれど、甘い言葉も、キスも、本当に何も無く温泉旅は終わった。

帰りの船で尊はぼんやりとしている。
朝食は勿論とびきり美味しかった。あんなに美味しいご飯を食べたのは生まれて初めてと思うくらい美味しいものだった。大和とこうして食事をすることも再会してから増えたが大和の食べ方はとても綺麗だ。躾が行き届いているというか育ちの良さが滲み出ている。だから尊はいつも気が引ける。尊とて食べ方が悪いわけでも無いし、比較的器用に物事をこなす方ではあったが、大和と比べるとまだまだだと思い知らされる。だからそういう時いつも思う。大和の隣に並んでも恥ずかしくないようになりたいと尊は思う。恥ずかしくてそんなこと大和に云うことは出来なかったが、要するに尊は大和と過ごす時間が好きなのだ。
こうして短い旅が終わって仕舞うことを惜しいと思うくらいには、大和と過ごす時間が得難いのだと思っている。
「もう帰るのかぁ、なんか勿体無いね。もうちょっと居たいなぁ」
ぽつりと呟いた尊に大和は驚いた。
楽しかった。尊とは何も無かったが大和も十分に楽しんだつもりだ。けれどもまさか尊がこんなことを云うとは思ってもみなかった。だから思わず大和は口にしてしまう。胸の内にある期待を。云うまいと思っていた言葉を口にして仕舞う。僅かに掠れた聲で、大和は云って仕舞う。
「では・・・もう一泊するか?」
驚いたのは尊だ。まさか大和がこんなことを云うなんて思わなかった。
尊が大和を見つめていると困ったように大和が近づいてくる。
そして次の瞬間にはその唇が尊に降ってきた。
( キスだ )
唇が離れた後に大和は尊を見ずに云った。
「帰ろうか」
本当は帰すつもりだった。何もせずに、何も云わずに。でも尊の口から惜しむような言葉を聴いて仕舞えば大和の決意は呆気なく崩れ去る。つい、誘って仕舞った。もう一泊するか、などと愚かなことを、期待して仕舞った。まだ駄目だと大和は思っている。それに尊が望むなら一生そんな関係を望むつもりも無い。けれども尊の優しさを見せられるとぐらついて仕舞う若さが大和にもあった。
動揺を押し隠しながら大和は船長に出航命令を出す為に尊に背を向け歩き出す。
けれども歩き出す大和の背中に、予想外の言葉が投げられた。
「もう一泊・・・しようかな」
「・・・尊、意味をわかって云っているのか?軽々しくそんな発言をすべきでは無い」
煽っておいて何だが、大和はまさか此処で尊が頷くとは思わず聊か混乱した。
「わかるって何がだよ」
「先程のキスの意味がわからないわけでも無いだろう?私が君に抱いている感情のことだ」
何もせず帰すつもりだった。尊との関係を急く必要も無いと思っていたから徐々にで構わない。受け入れて貰えなければそれでもいいと大和は思っている。尊の好意と大和の好意のベクトルが違うことは明らかなのだからそれも仕方ないと思っていた。
「わからないよ」
わからない、と尊は云う。大和は矢張り何も伝わっていないのだと唇を噛んだ。けれどもそんな大和に尊は言葉を足す。
「俺、そんなのわからない、キスの後に何があるのかも、だってそんなの全然わかんない、でも、」
でも、と尊は顔を上げる。
そして意を決したように云った。

「それなら大和が教えてくれればいいだろ」

大和はその後の仕事の予定の全てをキャンセルした。
ベッドルームに尊を置いて方々に連絡をする。船もあと一日居ると伝え沖合に停泊させた。食事の手配をさせてから、再び大和は尊の元へ戻った。
「尊、確認するが本当にいいんだな?」
「・・・わかんないよ、そんなの・・・」
「わからないと云われたら私は出来ない。それならするべきでは無いことだ」
「・・・わかんないけど・・・俺は大和を知りたいって思う」
迷いながらも尊は大和に追いつこうと必死だった。
何故だかいつもそうだった。大和の手を取りたいと思っていた。だからこそ尊はどうなるかわからないけれど大和の求める先が知りたいと思ったのだ。
もう大和は何も云わずに尊に口付けた。
拒絶されたのならその時止めればいいことだ。止められる自信は無かったが其処は理性で抑え込むしか無い。大和は尊に激しく欲情している自分を自覚して自嘲気味に笑みを浮かべた。
尊はわかっていない。これがどういう行為なのか想像できていない。けれども知りたいと云う。
本当なら、止めるべきなのだ。大和は尊に触れるべきれは無い。少なくともまだその時では無い。
それでもこの目の前の誘惑に大和は抗えなかった。
ずっと触れたくてずっと欲しかった。この腕に収めたかった尊が居る。
大和は尊への想いを自覚してからも女を抱いた。それは酷く冷めた子孫を残すための義務的な行為だ。稀に愛情を育む男女もあったと聴くが峰津院の血筋の中では稀な方である。大抵は霊力の高い女と契り、何人か子供を産ませ、その中で一番霊力が高い子供を嫡子として認知する。それが峰津院の遣り方だ。代々そうである。大和とて例外では無かった。ただしその義務さえ果たせば愛人を持つのは自由だ。故に大和はそれが普通だと思っていたし、それ以外の生き方を知らない。愛人を持つことすら考えたことも無い。
けれども、大和は尊に会って仕舞った。
誰にも抱かなかった恋情を、愛情を、欲情を大和は尊に対して抱いている。
口付けて舌を咥内に這わせれば尊は息を上げた。
その息さえも飲み込むように大和は深く尊に口付ける。
苦しさから身を捩る尊をベッドに押し倒して、後はもう勢いのままだった。

「・・・っ・・・う、」
尊が上擦った聲を上げる。
大和はそんな尊を見下ろしながら、尊の衣服を乱した。
尊の細い腰が露わになって、風呂場では共に裸で過ごしたというのに、性的な行いになるとそれが忽ち匂い立つような気がして大和は頭がくらくらと酩酊したような心地になった。
尊は尊で既に息も絶え絶えである。
頷いてみたものの大和は驚くほど手際よく尊を押し倒し、衣服を剥いでいく。衣服を脱がされている間もここかしこに大和の指が尊に触れてどうしようも無い気持ちに尊は駆られた。
心臓がどきどきして、汗が出て、顔中に熱が集まる感じだ。
そう、多分今尊は恥ずかしいのだ。
必死で頭がいっぱいいっぱいで、でも大和の望む先が知りたくて、必死にそれに追いつこうとして、ぐるぐるとする頭で尊は大和の成すがままになっている。
尊は戦慄く唇でなんとか大和に必死であること伝えようとするのだが、大和は大和で常より明らかに冷静さを欠いていた。どうしてこんなことになっているのか大和の頭の奥でずっとシグナルが鳴っている。それでも止められない。尊が何を求めているのかが分からず、大和は露わになった尊の薄い胸に指を這わせながらその喉を焦りさえ含ませて舐めた。
「っあ、」
あ、と尊が聲を上げて身体を跳ねさせる度に大和は煽られる。
これで拒絶されたら止めるしかない。大和はそうしなければならない。けれども止められるだろうかとも大和は思う。性のコントロールなど大和には造作も無いことの筈だ。大和はいつだって冷静であることを求められている。けれども今尊の痴態を前にして大和はそれが難しいとはっきり感じた。
「尊、好きだ」
すきだ、と大和は必死で告げる。願わくば拒まないでくれと思いながら大和は尊の肌に指を這わせ、尊を暴く。
「っ・・・うあ、」
胸を触られると女でも無いのに尊は堪らず聲を漏らした。
何が、起きているのか、尊の頭は今起こっている出来事に頭が追いつかない。
大和が頭上で好きだと云う。今までに無い、いつもの余裕なんてまるで無い聲で、綺麗な顔を歪ませながら、尊に好きだ、と告げている。
触れられて、初めて好きだと云われて、尊はこれが何なのかはっきりと自覚した。
( 俺、大和とセックスしてるんだ )
大和は、尊が好きだった。その意味が尊にはよくわからなかった。キスをされても、それは漠然としたものだった。けれども今初めて大和に触れられてそれがセックスだと尊は思い知った。
大和のそれがはっきりと肉欲が伴ったものであると理解したのだ。
それを自覚すると尊は途端にこの行為が怖くなる。いやだ、こわい。本能的に身体が震える。それが恐怖なのか別の何かなのかわからなくて、尊はぞわりとする身体に戦慄した。
大和を見れば、見たことも無いくらい必死で、好きだと尊に繰り返す。
こわい、やっぱり駄目だ。いやだ。そんなこと、できるわけが、無い。
けれども大和を見ると、あまりに必死で、尊も、大和も多分今頭の中がごちゃごちゃでいっぱいいっぱいで、傷付けたくなんてなくて、泣きそうなくらい一生懸命で、尊は混乱する頭でどうすればいいのか必死に考えた。いやだと云えば大和はきっとやめるだろう。やめて仕舞うだろう。それでいい。それでいいじゃないか。そう思うのに、身体は煽られて、尊は泣きたくなった。まるで今世界に二人しかいないみたいで、必死に相手に好きだと伝えて、そんな想いがいっぱいあって、そう思うと尊はすとん、と腑に落ちた。
まあいいか、と思って仕舞った。
怖い、怖いに決まってる。だって大和は男だし尊も男だ。どうなるのかなんてわからないけれどきっと怖くて痛いに決まっている。女の子の初めてだって痛いというのだから、そうなのだろう。けれども尊は、それでもいいと思った。
そう思って仕舞った。何故だかわからない。尊にはそれが上手く理解できない。けれども、それでもいいと思った。
大和を誘ったのは尊の方だ。それが何なのかわからなくても、後で後悔しても、受け入れるべきだと思った。
「大和、っ、俺、恥ずかしい」
耳まで今尊は赤くなっている。堪らなく恥ずかしい。
こんな風に誰かに、大和に全てを曝け出して、衣服も殆ど着ていなくて、こんな風に触れられて、もうそれだけで心臓がばくばく云って、息があがって、あまりの恥ずかしさに涙が零れそうだ。
「すまない、尊」
すまないと大和は謝る。何に対しての謝罪なのか尊にはわからない。
「何を・・・」
謝っているのかと大和に問おうとした瞬間、尊の身体が跳ねた。
大和が尊の下肢に、正確には固くなり始めている尊のものに触れたのだ。
いつの間に、ジーンズが下されていたのか、尊は慌てて引きあげようとするが大和がそれを許さない。
「尊、」
「・・・っ、大和・・・ほんとに・・・?」
下着越しに指を這わせられて尊は気が遠くなりそうだった。
思わず本当にする気かと大和を見れば大和は上着を脱いで尊に圧し掛かってくる。
「本気も、本気だ。尊、拒んでくれるなよ」
尊の返事も訊かずに大和はその薄い綺麗な目に確かな欲望の火を揺らめかせて尊に口付けた。大和の深い口付けに尊は息を呑む。まるで奪われているような錯覚に身を捩っているうちに大和の長い指が尊の下着の中に入ってきた。
「・・・・・・っーーー!」
びくびくと尊の身体が跳ねる。大和に直接的に自身を握られて、あまつさえ指と手のひらで往ったり来たり上下に擦られれば尊の熱は一気にあがった。
ぞくぞくとするその感覚がもう否定できないくらいの快感だと自覚して尊は堪らなく恥ずかしい。唇が戦慄いて言葉が出ない。最も口は既に大和の唇で封じられていたのだから言葉が出ないのは当然であったが、どんどん尊の物が固くなって、水音が響いて、煽られて追い詰められて、がちがちに固くなって、腰が動いてイキそうになった時、大和の唇から尊は解放された。
「あっ、ああっ・・・!」
突然唇を離されたので尊は聲が抑えられない。大和にされるがままに尊は悲鳴を上げた。
「尊っ」
たける、と大和が呼ぶ。それが堪らなくて、尊は泣きたくなった。
「も、ほんとっ・・・駄目だって・・・」
だってそんな風に触られたらイってしまう。誰かの手で、他でも無い大和の手で達して仕舞うなんて恥ずかしくて死んで仕舞える。
イクから離してくれと、尊が息も絶え絶えに大和に云えば、大和は一層尊の昂りを指で嬲った。
裏筋から、袋まで、ゆっくりと撫ぞられ、先端のカリの部分まで強弱を付けて不埒な指がそれを行き来して何度か触れられればもう駄目だった。
「イってくれ、尊、」
「っ・・・うあ、っ!」
低く掠れた大和の聲で云われると駄目だ。全てが暴発したように尊は達して仕舞う。
びゅくびゅくと、尊は己のものを吐き出した。はあ、と荒い息と共に汗が落ちる。下肢を見ればどこもかしこもぐしょぐしょで、汗と、自分が吐き出したものと、それが混じった汁と、あまりのことに恥ずかしくて尊はシーツに顔を伏せた。大和の顔なんてとても見られない。
けれども尊は此処で大和の顔を見なくて正解だった。だって大和の顔を見ていたら間違いなく尊は帰ると云ったに違いない。
大和は尊の痴態に千切れそうな理性を総動員して、この後どうするべきかをその大変出来の良い頭で目まぐるしく考えていた。
女をどう抱いていたのか、否、女のことなどどうでもいい、そんなもの尊と大和との間にあるべきものでは無い。女ならば濡れるが尊は男であり濡れる筈も無く、どうするべきか大和も下調べはしていたが実地経験が無い。とりあえず濡らさないと挿入は出来ない。本来挿入すべきで無い場所に挿入するのだから無理かとも思ったが調べればどうやら慣れ次第では可能らしかった。最初なのだから、ただ尊を気持ち良くするだけでいいではないかと、大和は心の隅で思う。けれども此処でやらなければ、後が二度と無いかもしれない。ならば抱いて仕舞えという気持ちもあった。理性と本能との一瞬のせめぎ合い。そして、大和はシーツに顔を伏せる尊をいいことに、尊の足を掴んで、四つ這いにさせた。
「ちょ、大和・・・なに・・・あっ・・・!」
此処からは尊の予想外である。最早未知の領域であった。男同士のセックスなど尊は経験が無い。経験どころか尊は女の子とさえ最後まではやったことが無い。高校二年まで付き合っていた彼女とはそういうことも少しはあったが結局最後までしないまま受験を機に別れて仕舞った。その上大和は男であるし、尊の思考が追いつかないまま、尊がされる側になっている。
「なるべく慣らすから少し我慢してくれ」
「あっ・・・」
その後の衝撃ったら無い。大和が尊の本来なら排泄に使われる場所を舌で舐めたのだ。
尊は混乱して口をぱくぱくと戦慄かせた。身体が強張って、必死で尊の太腿に置かれた大和の手首を掴むのに大和は止めるつもりが無いらしい。ちゅく、ちゅくとそこを舐められれば感じたことが無いほど強い快感が尊の身体に奔った。
「ひ、っ、く、うあ、きたないっって・・・」
止めてくれと掠れた聲で尊が訴えても、大和はそれを止めなかった。
「汚くなど無いさ、尊の身体だ」
「ちがくて・・・っく、ぁ」
必死で尊は聲を抑える。聲なんて恥ずかしくて上げられるわけが無い。大和の舌は入口を突いたり舐めたりして、それだけでまた先程達したばかりだというのに尊の中心が熱くなった。大和の舌が、あの涼しい顔で、大和が尊のあらぬ場所をねっとりと舐めていて、それに抗えないほどの気持ち良さが尊の中にじわじわとせり上がってきた頃には大和の指が尊の中に添えられていた。
「痛いか?尊」
「あっ・・・うあ、わかんな・・・っ」
どちらかというと気持ち悪い。異物感がある。
大和もひとまず一本指を入れたもののどうしたものか悩んだ。締め付けはかなりある。挿入すべきでは無い場所に入れているのだから当然であったが無理にすれば尊の中が割けて仕舞うだろう。それは避けたい。だからゆっくり慣らすべきだと、押し出そうとする尊の中の肉を大和は唾液を含ませて優しく探るように指で中を撫ぜた。
「っ・・・う・・・」
尊は尊で泣きそうだ。というか既に泣いている。恥ずかしくて、何がなんだかわからなくて、あらぬ場所を大和に舐められながら指で中を掻き回されている。嬲るように、舌で突かれ、舐められて指で掻き回されて、正気だったら尊はこの場から逃げ出したに違いなかった。それでも止めて欲しいとは思わなかった。どちらかというと早く終わってほしいのが本音だ。
大和は注意深く中を探り指を二本、三本と増やす。質量が増して、いっそう異物感が強くなった時に尊が聲を上げた。
「っうあ、!」
びりびりとした感覚に尊は身を捩る。
大和は指を動かしながら尊の変化を敏感に掴んだ。
( 成程、これが前立腺か・・・ )
どうすれば快感を得られるのか、下調べをしている時に探したものだ。確かに女でも奉仕の際にそういうことをしようとする者も居た。大和はそれを一笑して見下したものだが、実際に触れてみると尊の変化からして此処を重点的に触れれば、そのうち此処で快感を得られるのだろうとわかる。未だその感覚に尊が追いついていないが、指の関節が曲がるくらいの場所、入口の近く、男の性行為はどちらかというと浅くした方がいいとはこのことだったのだと大和は得心した。
「尊、」
「あっ、あぅ、なに・・・」
はあはあと息を上げる尊の顔には汗で前髪が張り付いている。それを優しくかき分けながら大和はその青い透明な目の端に口付けた。
「挿れたい。駄目か?」
いれたい、何を、そんなの決まってる。
尊はぞわりと背筋に悪寒が奔った。これが悪寒なのかさえもうわからない。全身が熱くて、足が震えて、大和の指に絶えず中を探られて、時折大和の指が中を掻き回すとどうしようもないような、漏らして仕舞ったような感覚にぶるりと尊は全身を震わせ泣いた。
「あっ、うあっ、」
「挿れたい」
じゅく、と大和の長い指が再び尊の駄目な場所を抉って、ぐにぐにと動かされて、たける、と耳元で云われたら駄目だった。何もかもが尊の元から崩れ去る。何が崩れる?一体何が崩れると云うのか。
何がかなんてわからない。尊には少しもわからない。多分常識とか理性とかそういうなけなしのものが尊の足元から崩れ去る。
もうわからない。挿れる?何をだ?大和のを?そんなのできるわけない。できるわけがないのに、欲しいと、挿したいと大和に囁かれれば駄目だ。足は既にがくがくとしていて、崩れ落ちそうで、中を掻き回されて、慣らす為に入れた大和の唾液が尊のものにまで伝って、びくびくと尊は慄えた。もう、わからない、挿れたいというのならそうすればいい。早くどうにかして欲しい。
尊は夢中で首を振った。承諾の意思を大和に示した。大和は尊の背に優しく口付けを落とし、尊に充分に昂った己を宛がう。
「っ・・・」
「出来る限り力を抜いてくれ、優しくしたい」
懇願するように大和に云われて尊は必死で身体の力を抜こうとする。けれども上手くいかない。大和のものが尊に当たっている。にゅる、とした熱いものが先程まで指で苛められた場所に宛がわれている。それだけでもう駄目で、正気でなんかでいられなくて、どうせなら今すぐ死んでしまいたいとさえ尊は思った。
そんな尊に反して大和は可能な限り優しく尊をあやすように背中を摩りながら口付けを落とす。そしてゆっくりと尊の中に大和のものを収めた。流石に全部は無理だ。ぐぐ、と力を入れて、ゆっくりと大和は自身を尊に沈めた、尊をあやしながら途中まで、それだけでも尊の息が詰まるように、ひゅうと洩れて、大和はそれを宥めながら根気強く尊の背を摩った。
「尊、好きだ、好きなんだ」
「うっ、あ、大和・・・っ」
尊の身体ががくがくとする。大和の熱いものが尊の体内に穿たれて脈打っている。
セックスだ。これはセックスだ。紛れも無く、今尊は大和と身体を交わらせて、大和のものが尊の中に入っている。
そう思うとカッ、と尊の身体が熱くなった。
大和が尊の様子を確認しようと少し身体を動かしたのもいけない。
もう尊は聲を抑えられなかった。シーツを掴み必死にそれをやり過ごそうとする。
「あっ、いっ、ああッ、あッ!」
「・・・っ!」
これに驚いたのは大和だ。大和が僅かに動いただけで尊の中に収めた大和自身がきつく締め付けられて思わず達してしまいそうになる。
かろうじて堪えて息を整えてやり過ごしたが、尊には辛いようで、苦しそうに息を漏らす。
「あっ、ふ、」
「辛いか、尊」
「んっ、へいき、っ」
嘘だ。尊は大和に嘘を吐いている。シーツにしがみ付いて、必死に身体を支えて、大和の手が無ければ尊は崩れて仕舞うに違いない。
それでも尊が平気だという。そのいじらしさが大和の胸を打った。
好きだ。尊が好きだ。堪らない。その細い体も、芯の強さも、美しい瞳も、やわらかい髪も、聲も、何もかも全て。
「尊っ」
大和は尊の腰を掴んで小刻みに身体を動かした。
止めてやりたい。本当なら止めるべきだ。けれどももう止めれそうに無い。あれ程求めていた尊が目の前に居るのだ。止められる筈が無かった。それならばせめて早く終わらせてやりたい。
「あっ、あ、アアッ!」
「少し我慢してくれ、」
掠れる聲で大和は懇願する。せめて尊も少しでも感じられるように、半分萎えていた尊のものに手を這わせ、先程手淫したように、手のひらと指を使って尊を追い上げる。
「あっう、あ、やまと、っ」
「っ、尊、ッ」
ぐちゅぐちゅと、どこもかしこも身体中、どちらのものともつかない体液にまみれていて、何処までが自分なのかもわからなくて、大和の動きが激しく尊を追い詰めて、尊は大和のもので中を擦られながら、尊自身を大和に慰められて、ぎゅうと、大和に芯を握られて、徐々に尊のものが硬くなって、聲など押さえていられなくて、そこにあるのが確かに快感だと尊が知った時、尊のものが大和の手によって固さを取り戻した瞬間に大和のものが尊の中で弾けた。
「うあっ、ぁ、」
「っく、」
掠れた大和の呻く聲、放たれた熱。それがどうしてか尊を満たした気がして、もう一度大和が緩やかに尊を揺らし、強く中心を握られ擦られた時についに尊も我慢できずに到達した。
「・・・っ」
びくびくと身体を逸らせ、シーツに己のものを吐き出して、それでも尚、到達の余韻があって、酷い快感で、イキっぱなしのような漏らした感覚に泣きながら、尊は倒れた。
もう何も考えられない。
必死で、頭の中が真っ白で、遠のく意識の中、尊は大和の腕を掴んだ。
大和はその時尊が何を求めているのかがわかった気がした。
「尊」
口付けたキスは多分今までで一番甘い。
大和とのキス。絡み合うように、唾液を絡ませてゆっくりと口付けられるそれは甘さを以って尊に染みわたる。
尊は今度こそ、綺麗に糸が切れるように意識を失った。


08:満たされるような
失墜
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