「嫌だ・・・」
震える声で撫子が云う。
今撫子は世界の王になった男にベッドに押さえつけられ、圧し掛かられている。
見上げた大和の顔に表情は無い。それにぞくりとした。
それは恐怖だ。恐怖以外何者でも無い。
けれども大和は撫子の抗議に少し目を細めただけで、撫子が恐れていることをやってのけようとする。
「君は先ほどから厭だとしか云わない。私がそれほどに厭か?」
「そんなの・・・っ」
手袋を外した大和の指に胸の突起を弄られて撫子は唇を噛んだ。
そしてそれから逃れようとあらん限りの力で大和に抵抗する。
足をばたつかせ、大和が近づくと噛みつく、大和はそんな撫子の子供じみた抗議を冷静に受け止め、寧ろ撫子を煽るようにポジションを崩さないまま近づいたり遠ざかったりした。
直に体力が無くなって撫子がぐったりと崩れ伏す。けれども悔しそうな顔で大和を見上げ現状を思い知る。
抵抗は無駄だ。一切の抵抗は無駄なのだ。撫子はそれを悟り、唇を噛んだ。
大和はそれを見つめながらそっとその頬に触れる。
もう噛みつく気力も無いのか撫子は大和にされるがままだ。
「離せよ、大和」
「やっと大人しくなったな、君はそのくらいでいい」
それが可愛いと大和に言葉を足されて撫子は、かっとなる。
何処まで人を馬鹿にすればいいのか、この男!
再び撫子が腕を動かそうともがくが、ぴくりとも動かない。いつの間にか大和がベッドサイドに撫子の腕を縛る服を固定したらしかった。
撫子に圧し掛かったまま大和は下肢の衣服に手をかける。薄い大和の綺麗な眼が撫子を見下ろした。
「・・・っ」
「惹かれていると私は指摘した。事実そうだろう?撫子」
「そんなこと・・・」
「違うと言い切れるか?君は私を恐れている」
図星だ。その通りなのだ。撫子は大和が怖い。
「それが何故だかわかるか?」
「知らない、そんなの、離せよ、大和!」
大和が撫子を覆う下肢の衣服を剥ぎとった。
元々撫子が着せられていたのは病人用の衣服だ。脱がすのは簡単だった。
「私に惹かれて、私のものになるのが怖いからだ」
大和が近付く、撫子は唇を戦慄かせた。
いやだ、やめて欲しい、触れないで欲しい。
「いや、だ」

―暴かないで欲しい。
「それを暴いてやろう、」

大和に組み敷かれ、抵抗すらできずに貪られる。
その感覚に撫子は慄えた。
「・・・っく、」
いやだ、こんなのおかしい、どうして、そう思っても大和がその手を止める筈も無く、悔しそうに唇を噛む撫子を大和が愛しそうに指で撫ぜた。
大和はベッド脇に置かれていた傷用の軟膏を手に出し指に絡め撫子を見つめる。それから何も云わずに、撫子に覆い被さった。大和によって撫子は足を開かれ、あろうことか口にすることも躊躇われる場所に大和が指を這わせた時に、撫子は悲鳴をあげた。
「・・・・・・っう、あ、」
「痛いか?少し我慢しろ、傷付けたいわけではないからな」
「・・・っ・・・」
それなら止めて欲しい。こんなこと、こんな莫迦なこと、こんなことをしなくても撫子は大和に全てを取られている。生活も、行動も此処に閉じ込められて出ることすら叶わないのに、何故こんなことをしなくてはいけないのか、大和の望みは支配だ。撫子を今恒久的に支配することが大和にとっては大事なのだと、撫子はそう思っている。だからこそ力で撫子を意のままにする。
こわいと感じた。最初からそうだった。けれども確かに惹かれてもいた。
大和の云うことが事実であるからこそ撫子は悔しいのだ。
こわい、撫子はこの男が怖い。
何処か果てしなく遠くまで撫子を追いやって仕舞いそうで怖かった。
「あ、うっ・・・!」
指が抜かれ、ぐ、と大和の昂りを押し付けられて撫子は大和を見た。
「私を見たな」
「大和、やめろ、」
震える聲で撫子が云う。大和はそれに目を細めて、それから、何も云わずに撫子を貫いた。
「うあああああ、っ、っ、」
言葉にならない痛みが撫子を襲い、頭が真っ白になる。
けれども大和の暴挙は止まず、撫子が痛みに慄えシーツに顔を押し付けるのを見届けた後で、ゆっくり動き出した。
「・・・っ、く、痛ぅ・・・っ!」
「撫子、」
「あ、ぅっ、」
痛い、痛い筈だ。
確かに撫子はそうだった。確かに大和に惹かれていた。
それは否定できない事実なのだ。
大和が怖いと思ったことも、それと同時に惹かれていたことも。
確かに大和に最初から惹かれていたけれど決してこんな意味じゃない。
その筈だ。
こんなこと撫子は望んでいなかった。
だからこそこの状況に怒りがこみ上げる。
悔しくて悲鳴を上げるものかと撫子が唇を噛む。
大和はそんな撫子の怒りを無視して淡々と撫子を追い詰めた。
「・・・っ、あっ」
痛い、痛い筈だ。
痛いのに、なんで、なんで。
「やめろ、っ、っ」
ぞくぞくする。鳥肌が立つ、どうしようもない痛みの中で、他のものを拾って仕舞う。
厭だ、こんなの嘘だ。
「好いんだろう?撫子」
「・・・・・・っ!」
なのに無理矢理やられて感じている。
大和に指摘されて撫子は死にたくなった。
いっそ死のうと舌を噛もうとするが、それすらも大和の突き上げにより無駄に終わる。
「あ、っ、あああっ、」
身体は反応していない、痛いだけで、達せる筈もない。
けれども確かに痛み以外のものが撫子にある。
痛い、痛いのに、身体は悲鳴を上げているのに満たされている。
「・・・くぅ、っ」
「お前は私のものだ」
ああ、これだ。と撫子は思う。
ずっとこわいと思っていた峰津院大和、この男だ。
力で奪い、抗うことすらできず、今撫子に痛みを与えているというのに、何故、どうして、どうしてこんなに。
「いやだ、」
揺らされて、もっと深くと突き上げられて、くらくらする頭で、悲鳴を上げる口で、屈辱と痛みの中で、撫子は今初めて大和が好きだと自覚して死にたくなった。
最初から、最初から撫子は大和を好きだった。
だからこわい。
こわいから触れられたくない。
だから逃げた。
なのに、大和は暴く。
そんな撫子のどうしようもなく脆い箇所を大和は暴いた。
「あっ、あああっ、うあ、っ」
大和に吐き出されて、そして更に揺さぶられて、今度は撫子の快感を煽る動きをされて、大和の指で自身を擦られ、反応を示す自身に撫子は泣いた。
こんなにも強烈で強い感情を誰かに向けられたのは初めてだ。
戦慄く、暴かれる恐怖に唇が震える。触らないで欲しい、ましてこの男は仇の筈だ。
撫子に残った友人も、身体も何もかも、最後の想いの一欠片さえ大和は奪うのだ。
それにどうしようもなく撫子は震えた。
涙が溢れる。わけがわからない、こわい、触れられて満たされる自分が嫌だ。
怖いのは、そう、自分なのだ。
大和に触れられることで変わる自分が許せない。
「あっ、あああっ!」
大和に勃ちあがった自身の先端を指で引っ掻かれてついに撫子は達した。
涙も聲も枯れ果てて、後に残ったのは、無様な自身と暴かれた肉体、大和はそれを見下ろしながら、撫子の拘束を解き手短に衣服を整え「また来る」と部屋を後にした。
置き去りにされた撫子は白い何も無い天井を見上げ茫然とする。
そして、茫然とする頭で思った。
一体何が間違っていたのだろう?
大和の手を取らなかったことなのか、或いは大和を恐れたことなのか。
それとも、最初から大和などにも会わずあの災害の中死んでいれば、良かったのだ。
好きだった。
好きだった。間違いなく撫子は大和が好きだった。
だから恐れた、そして逃げた末に全てを失った。
好きだった。本当に好きだった。
撫子の自覚した想いは既に、行き場も無く、ただ沈黙の中で死んだ。


03:一番許せないのは自分かもしれなかった
prev / next / menu /