次の日は矢張り最悪だった。
ゴムをして貰ったおかげで、トイレとの交友会はお開きとなったが、矢張り痛いものは痛い。
辛いものは辛い。
あの後大和は、稲葉をベッドに運ぶことも無く、かろうじてケットだけはかけてくれたが、大和も部屋から退出する様子も無く、結局稲葉はそんな大和に文句を云う気力も無くてうつらうつら致したソファで眠った。汚れたところを拭う程度の甲斐性はあったらしいが、大和は途中何度か席を立って、石鹸の香りを稲葉が夢見心地に感じたことから風呂に入ったのだろうと思う。どうせなら稲葉も風呂に入れてくれればいいのに、その甲斐性は大和には無かったらしい。ただ夜中、ずっとパチパチとパソコンのキーボードを弄る音だけが響いた。
次に目が覚めたのは珈琲の香りでだった。
「朝?」
「まだ寝ていていい、それとも何か食べるか?」
珍しく大和がくつろいでいる。ワイシャツにスラックスだけでネクタイもしていなかった。
もそりと稲葉が身体を起こしてみれば、リビングのローテーブルの上に珈琲とサンドウィッチとフルーツサラダ、そしてスープがあった。
稲葉の分も勿論用意されている。
ただいつもと違うのは稲葉の部屋のリビングに大和が居ることと、そしてこの場所で大和が食事を採っていることだ。
「寝てないの?」
「朝方少し眠った」
「此処で?」
「そうだ」
「部屋に帰ればいいのに」
そう稲葉が云えば大和は少し困ったように眉を顰めた。
「帰り難かったのでな」
云われて、稲葉もぼわ、となる。
顔に熱があがるのがわかる。稲葉からすれば男同士でセックスなんて絶対するもんじゃないし今後やりたいとも思わない。けれども素直にこういじらしいことを云われればぐらつくものだ。相手が男でも弟みたいでちょっと可愛いなと思っている身としては大和は多少なりとも可愛いと云えた。決して其処に恋愛感情は無い。多分。
「今日は休んでいい」
「いいよ、出る、半分寝てるかもだけど」
もそもそとケットに包まっている稲葉が机の上のサンドウィッチに手を伸ばした。
そんな稲葉の姿が小動物が木の実を強請るようで、今までそれに対して何も思わなかった大和だがこれはちょっと可愛いと思った。稲葉と接するとその殆どが初めて遭遇する感情であるので、大和は毎度自分に驚くことになるのだがそれを知るということが嫌いでは無い。勿論、可愛いと思ったことは稲葉には秘密だ。
「珈琲は?」
「ミルクと砂糖、疲れてるから」
稲葉の要求に大和は頷いてから甲斐甲斐しく皿を取りやすい位置に置いてやり、珈琲をカップに注いだ。云われた通り少し甘めで作る。稲葉は普段ブラックだ。大和もそうであったが、胃が荒れるので疲れている時は時折甘くする。稲葉の好みの甘さが分からないので普段大和が好んでいる甘さにして出した。稲葉はそれを受け取り一口啜る。
「美味しい」
そう云われれば嬉しくない筈が無い。大和は笑みを漏らしながら、食事を続けた。
幸福な時間というのを生まれて初めて味わった気がする。
否、これが幸福なのだとその時大和は初めて知った。


あれから多少の歩みよりはあったのかもしれないと稲葉は思う。
大和とのことだ。
不本意ながら二度目のセックスをして仕舞ったが今回は合意だ。同情でも無く、どちらかというと友愛の。友人として考えるとこの行為は随分間違っていたが、どう軌道修正したものか稲葉にはわからない。矢張り大和との距離感が上手く掴めないのだ。肉体的な距離感は置いて。けれども寄せられる好意は嫌いでは無いし、稲葉のことを知りたいと、そういう時だけ十七歳の世間知らず全開で寄って来る大和を稲葉は嫌いでは無い。
未だに稲葉とセックスをしたいという点だけが不可解ではあったが概ね、関係は良好であった。
だからそれは不意のことだった。
最近は局内にお互いが居れば共に昼食を採るようになった。稲葉にとっては朝食兼昼食のいわゆるブランチであったが、時間があれば一緒に食べるようにしている。局長室で共に食事を採るだけのことであったがそれが案外悪くなくて、大和が今日は何を作らせただとか、稲葉が今度はあれを食べたいだとか、まず互いにある食生活の溝を埋めるように話をするようにもなった。
大和の部屋の檜風呂に朝から浸かって贅沢気分を味わったり、或いは大和が、下らないと云いながらも稲葉の映画鑑賞に付き合ったりと、いい感じだと思えるような、友人付き合いが出来ている気がする。
だから今稲葉の部屋に珍しく早く上がった大和が居たとしても不思議では無いし、リビングでくつろいでいても何ら深い疑問は無い。
稲葉にしてみればあれ、今日夕飯約束してたっけ?程度のものだ。
現に大和は夕飯を用意させていたし、今日はお好み焼きにしてみたと、明らかにお好み焼きが乗る様なお皿では無い雅な皿に美しく伊勢海老と帆立が盛られた絢爛豪華なお好み焼きを稲葉に振舞った。デザートはたこ焼きだった。
「・・・・・・で・・・・・・」
で、と稲葉が問うた。
目の前の光景に物申したかったから大和に問うた。

「何コレ・・・・・・」
「ローションだ」
お願いだからやり遂げた顔で云わないで、ドヤ顔で云わないで、と稲葉は眩暈を覚える。
「何故ローション・・・・・」
「お前がこの間云ったのでどういうものかと・・・」
「わー!わー!云うなよ!つかなんで持ってくんの!?何処で用意したのコレ!?」
目の前にはローションのボトルだ。色とりどりのボトルには匂いの有る、無し、いちごの香りから、食べられるローション、果ては業務用まで各種取り揃えてある。ジプスの何処にこんなに種類が揃っていたのか、或いは集めさせたのか稲葉は頭を抱えたくなる。
最早稲葉は大和共々、未知の物を眺める眼だ。侮蔑の意味で。
「医療班で貰って来た」
眩暈がする。今なんと云ったのか大和は。
「なんて云ったの?」
「ボディローションかと問われたので、セックスで使うものと答えたらこれを寄越した」
わからないから全部持ってきたと、しれっと云い放つ大和を殴りたいと稲葉は思った。五発くらい。
「ラブローションですね!ええわかります!じゃねーよ!これで俺が医務室に○ラギノールでも貰いに行ったら決定的じゃねーか!明日から外歩けねーよ!」
やっぱり十発くらい殴るべきだ。
「既にお前だと話しているが?」
大和は既にゲロっていた。
あああああああ、と稲葉は悲鳴を上げる。もう死にたい。何この子、何でそんなことゆってんの?やっぱ殺す?殺すしかない?お前を殺して俺も死ぬと云えば大和が喜びそうなので稲葉はなんとか踏みとどまった。実に理性的である。
「じゃあお前は、透稲葉とセックスをするのでローションというものを下さいと云ったわけか!?」
「近いな、だいたいそんな内容だ」
「恥ずかしくて死ねるよ俺が!」
「俺は恥ずかしくなどない」
近頃、大和は時々プライベートな時に自分を「俺」と云うようになった。変な言葉を教えているようで心苦しかったが稲葉の真似をしてみたいという大和は正直に可愛いので、そう云われればくすぐったいような気持ちになる。今は殺意だけれども。
そして稲葉はまたしても大和に余計なことを云って仕舞ったのだと悟った。
前回致した時に確かにローションが無い、と云った。ゴムだけでは矢張り苦しかったからだ。挿入される方の身にもなってみて欲しい、そもそも稲葉は女では無いのだから自分で濡れないのだ。痛いに決まっている。唾液や自分の出した精で滑らせても少しはマシになる程度であるからローションがあるに越したことは無いが、そもそも大和と寝るのはあれきりという話だった筈だ。
「使わないからな」
「何故?」
「しないって云ってるの、お前と」
「俺が不満か?」
俺がと云われればちょっと格好良くてくらっとくるが生憎稲葉は女子では無い、男子である。くらっとはしたが不満はおおいにあった。少し絆されている気はするが其処で頷いてはいけない。
「不満だよ、今のまんまでいいじゃん、別に、俺は大和と上手くいってると思ってるよ」
「ローションを使いたい」
「一人でやれよ、俺を巻き込むなよ、にっちゃにっちゃ遊んでろよ!」
大真面目に云われて稲葉は頭を抱える。
こう見えて大和は頑固であったし、力も強い。
やりたい事はやり遂げる男だ。やらなくていいことも!
だからこそ稲葉は参った。
「痛いからいやだからな」
「痛くしないように努力する」
「いや絶対痛いから」
「ローションを使えば楽になるのだろう?」
「そういう話してるんじゃなくて・・・・・・」
そもそも何故セックスをするしないの話になっているのか、ローションを使う使わないじゃなく、そもそも何故稲葉が大和とセックスをしなくてはいけないのか、甚だ疑問である。
裏を返せば大和が稲葉としたいだけなのだ。
二度も許せば味を占めたか、畜生。と稲葉は胸の内で毒づく。
稲葉は大和を多少なりとも甘やかしている自覚はあったが、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。
此処最近の稲葉との情事で大和は着実にいらない知識を蓄えていっている。
「どうやって使うんだ?」
やや浮き浮きとした調子で問われて稲葉は盛大な溜息を漏らした。

それからもする、しないで、揉めること一時間と少し。
稲葉は手持ち無沙汰になって目の前のローションのボトルの蓋を開けた。いちごの香りの奴を。
ちょっと珍しかったし色物っぽいし、一番稲葉に近い位置におかれていたのがそれだったので他意は無い。
別に大和とする為ではない。ただこの堂々巡りが退屈になってきたので目の前にメモ帳があればボールペンでぐりぐりと線を描くような暇つぶしと同じ感じでそのいちごの香りのするローションを掌に零してそれから滑るそれを手で伸ばした。
稲葉は手遊びのような感覚で右手左手とローションが零れない様に伸ばす。零れ落ちる前に片手で拾う。大和はそんな稲葉の行動を何も云わず見つめていた。
然程量は出していないので直ぐに滑りが悪くなる。徐々に固くなってきて、手の動きを止め少し放ってみればカピカピになる。
乾いた、へばりつくような感じが気持ち悪くて、その上足元を見れば取りこぼしがあったらしく靴下を履いていない足の甲にローションが付いている。稲葉は水で流そうと洗面所に向かった。
ついでに足に着いた分もシャワーで流そうと思い稲葉は洗面所で手を洗った後、浴室へ向かう。
スリッパを脱いでジーンズの裾をあげて裸足の足にシャワーから出る湯をかけた。
不意に背後の気配に気付いて、稲葉が口を開く。
「なんで着いてくんの?」
「稲葉が何をするのか興味があってな」
興味があって、という大和の様は真実興味なのであろう。手には新しいローションボトルが握られていることから稲葉はウンザリとした表情をした。ちなみに今大和が手にしているのは、はちみつ味だった。食べられると謳っているローションである。
「流してる」
「水分を含めばふやけるのか、面白いな」
心底面白そうに云う大和に少し苛ついて、稲葉は大和が手にしていたローションボトルを奪った。
「そんなに知りたいなら自分で使ってみればいいだろ」
ローションを掌に出して、稲葉が大和のその顔面に向けてローションを投げた。
投げたことに他意は無い、天下の局長様を貶めようとかそんなことを考えたわけでも無い、どちらかというとお前何莫迦ゆってんの?と子供がどろんこを投げる感じだ。誓って云うが稲葉に他意は無かったが、まずいと思った瞬間にはそのローションの塊は大和に到達していた。避けてはくれなかったらしい。
べちゃ、と嫌な音がして、ぼとり、とローションの塊が大和の顔を滑る。
あ、やりすぎたな、と稲葉が思った時には既に遅し。
「やったな、稲葉・・・・・・」
大和はいっそ爽快なほどの壮絶な笑みを浮かべてそのまま自分の顔から零れ落ちるローションを掬い稲葉に投げた。
べちゃり、とそのはちみつ味のローションが稲葉の顔にかかる。ちなみにちゃんとはちみつ味だった。食べても大丈夫な素材らしい。
稲葉はそれを無言で掬い、手にあったローションをありったけ掬った。
あとは言わずもがな、稲葉と大和はローション対戦を繰り広げることになる。
端からローションを相手にかける。こすり付ける。立ち上がろうにも浴室の床が滑って上手く立ち上がれない。
それは大和も同じようで、時折滑っては稲葉に向かってローションを投げていた。
どれくらいそうしていたのか、掴んでは投げ滑るものを相手に擦りつけて、それの繰り返し。
莫迦みたいだと思いながらも必死で、子供の頃のように夢中になっていて気付いた。
「おい、大和・・・・・・」
「何だ?」
「何故お前のものが俺に入っている・・・・・・!」
確かに途中からおかしかった。
肌を弄られ、滑る衣服が邪魔でどちらが脱ぎだしたのかもわからない。大和を見れば酷い有様で、顔と髪にべったり乾きかけたローションがついていて、衣服もボタンは飛ぶは、乱れるはで酷い有様だ。
かく云う稲葉も状況は同じで、ただ違う点は時折大和の指が稲葉の肌を触って、あ、とか、ん、とか聴きたくも無い聲をあげて仕舞ってわき腹をなぞられいつの間に剥いだのか、ジーンズは半分下ろされていて、あらぬところに滑りを感じたと思ったら、大和が既に臨戦態勢で先端が稲葉に入っている状態だ。
「たしかにすんなり入ったな」
切れてもいない、と冷静に云われて稲葉は叫びたくなった。実際叫んだ。
「俺やらないって云ったよね、何してくれてんの!?」
「私はやると云った、ローションが使えて満足だ」
「お前の満足度の話をしてるんじゃないだろ、人の話訊けよ、っうあ、」
思わぬ角度から動かれて稲葉の口から悲鳴が洩れる。
実際には大和が動いたわけでは無い。稲葉が床のタイルの上に散ったローションのぬかるみに滑って体内に不本意ながら穿たれたままの大和を刺激したのだ。
「苦しいか?」
ん?と優しく問われてもちっとも嬉しくない状況である。
あ、あ、とびくびくと稲葉が身体をしならせば大和が楽しそうに微笑んだ。
「苦しいだけでは無いな、稲葉」
いなは、と云われて、稲葉は非常に嫌なことに気が付いた。
確かに苦しいだけでは無いのだ。痺れるような感じが身体の奥にある。
「苦しいだけ、だろ、」
「嘘つきめ」
ぐ、と身体を押されれば稲葉は更に悲鳴をあげる。
「あ、あっ、」
「認めろ、稲葉、本当は気持ち良くなってきたんじゃないのか?」
酷く意地の悪そうな顔を大和がしている。
「ちげーよ、莫迦、うあっ」
「良くなってきたと認めるまで追い詰めてやる」
そこからは悪夢だった。
後で思い出すと多分この最上階から飛び降り自殺できるくらい稲葉は羞恥で死ねる。

「あっ、う、くぁッ、」
稲葉が吐き出すこともできずにけれども泥濘の中で、ぐちゅぐちゅとローションなのか互いの精液が入り混じった何かなのかとにかくそういったぐちゅぐちゅとした物を混じらせて大和に揺らされれば、芯からの疼きが止められなくなり、痛みや苦しさだけでない何かを感じる。流石に固くなっているのは中に入った大和のものだけであったが、普段なら痛みで萎えている筈の稲葉の物も僅かに固くなっていた。
確かに感じているのだ。女の子とセックスする時にたまに女の子が触ってくれている時のような快感がある。
滑りが大和の動きを助けているのか或いはもう三度目になるから大和がコツを掴み始めたのか、とにかく大和に動かされその不埒な指がローションと共に肌を滑れば稲葉はたまらなくなって、悲鳴を上げた。
「いっ、あっ、ああ、っ」
否、これではもう嬌声である。
恥ずかし気もなく浴室でタイルの上で、悲鳴を上げて稲葉は今大和に揺らされているのだ。
身体だけでなく魂そのものを揺さぶられているような感じがして稲葉の目から涙が溢れた。
「いいか、稲葉」
「っ、よくなっ、い」
よくないに決まってる。こんなの認めるわけにはいかない。
子供の遊びみたいな延長でまた大和に犯されて、まして気持ちいいなど思っているなんて断じて認めるわけにはいかない。
けれどもじくじくと身体の芯は痺れ、もっと動いて欲しいと強請るような動きをする。
腰を擦りつけるように、大和に催促するように揺らせば、大和はごくりと唾を飲み込んだ。
「っ、く、あ、っ、アッ!」
「稲葉、」
掠れる聲で大和が云う。
耳元で或いは舌を絡ませながら欲しがって欲しいと大和が懇願する。
最初の時と同じような必死さで、欲しがってくれとあの大和が願うのだ。
本当は願いたいのは稲葉の方だ。現にやめてくれと大和に懇願している。けれどもいつもこうしている時、優位にいる筈の大和の方が劣勢に見える。
指を絡めて、互いのものなのかローションなのかわからないものでぐちゅぐちゅになって、大和の顔を見れば稲葉が最初にかけたローションが大和の綺麗な髪と顔面を汚していて、莫迦みたいだ。
笑えて来る。
たまらず、稲葉は無性にこの欲しがってほしいと懇願する男の為に欲しがってやりたくなった。
別に大和が欲しいわけでは無い。ただ、そうしたいと一瞬魔が射した。射したのだと己に言い聞かせて、もどかしく足に絡んでいたジーンズと下着を脱ぎおろす。
「はやく、しろよ、」
恥ずかしくて堪らない。大和は驚きで稲葉を凝視した。「早く、」ともう一度掠れる聲で稲葉が云えば今度こそ思いもよらぬ性急さで大和が再び深く押し入ってくる。
「ひあっ、待っ、あっ」
「待てない、」
待てという言葉もきかずに大和はぬかるむ中で稲葉を求めた。
がんがんと揺らされて体制を整えようにも泥濘に足と手を攫われてどうにもできなくてあがくように動けば手足が滑ってその助けもあって深く大和が押し入ってくる。それがたまらなく衝撃的で、稲葉はあっという間に追い詰められ、頭の中が真っ白になった。
「出、る・・・ッ」
「くっ・・・」
大和にキスされた瞬間、舌を絡めながら暴発すると稲葉は思った。はちみつ味のそれを感じながら、萎えていた筈の稲葉のそれは達した。腹に感じた熱さとそしてまた中に出された感覚が稲葉を襲って、一瞬のブラックアウト。

次に目を覚ませばぼんやりと水の流れる音がする。
うとうととしたい感覚をどうにか堪えて稲葉が目を開ければ湯船に浸かっているようだった。
「大和・・・」
「気付いたか」
大和は身体を洗っているようで、髪に付いたローションを落とすのに躍起になっている。
まだ泥濘が取れないのだろう。
改めて大和を見る。思えば裸を見るのもこれが初めてだ。
想像した通り、かなり引き締まっていて、綺麗な身体だった。
少し長めの髪が色っぽいとどうでもいいことを考えて其処で稲葉が我に返った。
「いや、ないだろ」
「何が?」
「そもそもムードもへったくれも無いし、お前やったらぽいだし、ピロートークの一つも無いってお前の子作りじゃないだろうが、つかなんで中出ししてるの?俺嫌って云ったし!」
「ゴムは気に入らんのでな」
ローションは気に入った。と云ってのけるのは俺様局長様大和様だ。
「いや俺、やらないって云ったよね!」
「途中からは乗り気だっただろう」
「違えよ!」
「早くしろ、と急かしただろうが」
「ぎゃー!もう忘れろよ、早く終わって欲しかったんだよ!」
あああああ、聴こえませんー!と云っても大和は満足そうに笑みを浮かべたままだ。
「なんだかんだで稲葉は俺を受け入れるし、付け入る隙が多いな」
寝技に持ち込めば簡単だと云ってのける大和に向かって稲葉はすっかり中身を無くした空のローションボトルを投げた。


06:やられたら
やり返す、その結果
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