華弥がまた行方を眩ました。
どういう方法を使ったのか、監視カメラに記録されている姿は確かに華弥だ。
先日大和が用意させた衣服を着て、大和が確かに手元に置いていた筈の華弥の携帯電話を手にし、華弥は揚々と逃亡した。
「廊下には映っていますが階下に移動した形跡はありません、恐らく転移したかと」
「・・・・・・至急探せ、全局員に通達しろ、手が空いている者は情報収集しろ」
「は、しかし、他の作戦に支障が・・・・・・」
「黙れ、華弥が何処に流れても戦争が起こるぞ、そんなこともわからんのか」
失礼しました、と局員が頭を下げたのを尻目に、大和はもう一度華弥の映った監視カメラの映像を巻き戻す。
カメラの中の華弥は至って自然だ。
まるでちょっとそこまで、というような仕草で、恐らく廊下には監視カメラがあると承知の上で姿を見せ、そして消えた。
最も華弥の部屋には強力な結界が張ってある。転移などの魔法を使おうものなら直ぐ様大和が感知したが、その為に華弥はわざわざ廊下に出たのだ。だから気付くのが遅れた。
大和の生活は基本的に不測の事態が無い限り規則正しい。食事中も昼間は仕事をしていることが多かったがそれでも決まった時間に華弥に食事を届けに行っていた。それが仇を成したのだ。華弥は大和の行動パターンを正確に把握できた。そしてこのフロアは大和と華弥しか入れない。入口に見張りも居ない。それほど強固なセキュリティがあったからこそ大和は華弥を簡単に軟禁できた。
けれども華弥は大和が昼食を運ぶまでの四時間の間に忽然と消え失せた。
「部屋の開錠コードも変更済だ、携帯を取り戻したところで開く筈が無いのに、いつの間に・・・・・・」
菅野に調べさせた結果、矢張り華弥自身が開錠している。どういう裏技を使ったのか大和には予想もつかなかったが、どちらにせよ今は華弥の居場所を探すことの方が先決だ。
局員の手前「戦争」などと云ったが実際そうなるかはわからない。五分の確率というところだ。
大和が華弥を手元に戻したいだけである。職権乱用とも取れたがどのみち今この世界の理において大和に意を唱えられる者など華弥以外には存在しないのだ。華弥、華弥、と大和は想う。狂おしい程求めて止まない男、簡単には手に入らない男だ。華弥が女であればもっと簡単であったのにと大和は思う。子を孕ませてしまえば終わりだ。華弥自身がそれをどう思おうと関係無い。大和の遺伝子が華弥のものと交ればそれでいい。けれども華弥は男であり、魅力的ではあるが手が付けられないほど、暴力的で気紛れな男だった。
大和は今、冷静に怒りに震えている。酷く冷静に華弥を追い詰める方法を探しながら、一方で激怒もしていた。
「再び私の手を逃れるとは、」
四時間も前に移動したのでは、既に相当遠くにまで逃れるだけの時間がある。
華弥の力があれば全世界何処にでも逃げ場はあった。
「クソ、急げ、志島の組の監視は何と云っている?」
「動きは無いとのことです。華弥様が行かれた形跡はありません、魔力探知にも反応無し」
その程度のことに頭が回らない華弥では無い、頭が良いことが証明されて好ましくはあったが、華弥を敵に回すことほど厄介なことも無い。わかってはいたが華弥の周到さに大和は舌打ちした。



「で、また逃亡したのかお前」
「まあそんな感じ」
「連絡無かったのは大和が華弥の携帯を取っていたんだな」
「俺が二台持ってるって多分知らないし、同じ機種の同じ仕様にしてるからな」
「そういや気に入ってるって云って買ったのに直ぐ失くして、結局買い直した後に戻ってきたんだよな、二個持ちしてたのか」
「一個は名義違うからさぁ、わかんなかったんじゃない、国家機関でも」
セプテントリオンの時にアプリはダウンロードしてあったから悪魔も使えるし、と華弥は云う。
つくづく油断ならない幼馴染であると思いながら大地は華弥を見た。
「まあ来てくれて助かった、こっちはお前が持ってろ、本体に使用している形跡が三十六時間なかったら鳴るから」
その時は適当に迎えにきてよ、と簡単に華弥は云う。華弥に携帯を渡された大地はそれに肩を竦め、はいはい、とおざなりに頷いた。
「大和が持っていたやつもそれで回収したのか」
「まあね、一台はずっと部屋に置いてたからいつでも出れたんだけど、」
「また迎えに来ると思うぞ、大和」
「だから志島には行かない、迷惑になるし」
「どうすんだよ」
「さあ?少し追いかけっこでもしようかな、大和のところは居心地は良いけど退屈だ」
大和と一触即発の空気になっているというのに簡単に『追いかけっこ』と云って仕舞える華弥はこの世界に於いて強者だ。彼は王者であり、大地達とは格が違いすぎる。大地はそんな幼馴染に溜息を零し、それからイッテラッシャイ、と華弥を送り出した。
用があって偶々エリア外を巡回していた大地に突然華弥からの連絡が入ったのだ。この二週間連絡がつかなくて、どうせ連れ戻されたか大和と修羅場になっているんだろうと思っていたら案の定そうだったらしい。
華弥は煙草を吸いながら、何処で調達したのかビンテージもののジーンズとシンプルなシャツにミリタリーコートを羽織っていた。
「ま、大和が来たら相手してやってよ」
じゃあ、と転移する幼馴染を見送って大地は盛大な溜息をひとつ吐き、渡された華弥の携帯をポケットに仕舞った。



「お取込み中だったかな」
聲に振り返れば大和だ。廃ビルの手頃な場所で、華弥は最近其処に入り浸っていた。
大きなソファがあって寝起きするのにもちょうど良い。
「八日も私から逃げ遂せるとは、油断ならない男だ」
「そう?」
云いながらも華弥の身体は上下に動いている。服はそれほど乱れてはいないものの荒い息が洩れているので何をしているのかは明白であった。
「それで、そのクズはどうした?」
華弥が上に乗っている状態なので男の顔は見えない。
何だ?と男が振り返ろうとしたが、それを華弥が阻止した。
「広さんには関係無いでしょ」
「それはそうだが、華弥くん、これは一体・・・」
華弥は関係無いと微笑み、背後の大和を気にする広岡という男を抑え込んだ。
大和が怒りに震えると知っての行為だ。相手を見れば男は年上で、矢張りインテリ層に見える。大和は微笑を浮かべながら華弥に問うた。
「そのゴミの使い心地はお前を満足させたか?華弥」
「ソファ、大きくて結構気に入ってるんだけど」
「そうか、ではゴミは必要無いな」
云うや否や大和は男の頭を潰した。まるで人間では無いような強力な力で、勿論相応のスキルを付けているから出来ることであったが、僅かに大和が力を込めただけで簡単にそれは潰れ血が周囲に飛んだ。華弥にもソファにも多量の血が飛び散る。
「汚して済まない、ゴミと交わるように君を躾た覚えは無いのだがな」
大和の眼が華弥を射抜く、殺された男は哀れではあったが、少し誇大妄想が過ぎて面倒だと思っていたところだった。
死のリスクなどこの世界では当たり前のことなのだから実力の無さを恨むしか無い。
華弥は血塗れた上着を捨て、大和を見据える。
ぞくり、とする。大和の苛烈な眼が自分に向くことが華弥には楽しくてたまらない。
こうして華弥の相手を殺す時の感情をむき出しにしている大和が一番華弥を煽った。
「俺が誰と寝ようが俺の自由だ」
華弥が大和に向かって云った瞬間、頬に痛みが走る。ぱん、と小気味良い音が部屋に響く。
大和が華弥を打ったのだ。
「いい加減覚えろ、お前は私の物だ」
抵抗らしい抵抗もしないまま華弥は大和に引き摺られ床に落とされる。ずるりと華弥の内部を抉っていた中のものが抜けて、男の首から下が倒れた。
「服着たいんだけど」
血生臭いと顔を顰める華弥の顔をもう一度大和が打った。
「不要だ、帰るぞ」


「アッ、ア、ッ、あッ、!」
激しく揺らされて華弥が呻く。
背後には大和だ。あれから大和に転移でいつもの部屋に連れ戻され、華弥は直ぐ様、浴室に投げ込まれた。冷水のシャワーを浴びせられ髪や肌についた血を落としてから大和に引き摺られるようにベッドに投げ入れられ縛られた。
問答無用の大和はそれからずっと華弥を犯し続けている。
流石の華弥もそれに腹が立った。碌に拭かれもしなかったから頭から足先まで冷えてきて寒気がする。中を抉られると熱くはなったが其処だけのことだ。両手と両足をかなりきつく縛られた所為で感覚がしない。
「や、め、やめろッ」
「やめたら仕置きにならない、身体に覚えさせないといけないようだからな」
大和の顔が近づいたので怒りのままに華弥がその整った顔を引っ掻けば大和の頬から血が流れた。
つ、と流れる血を大和は指で掬い、微笑を浮かべながらもう一度華弥に穿っていた自身を深く突いた。
「ぐ、あっ、あ、」
息がひゅう、と鳴る。あまりの圧迫感に気持ち良いとか悪いとかそんなものが全部吹っ飛ぶ。厭だ、と華弥の身体が叫ぶ、こんな風に大和に主導権を握られて犯される己の無様にプライドの高い華弥が納得出来る筈も無かった。
確かに大和を煽ったのは華弥だ。飽きたから捨て、戻され尽くされる、それに退屈を覚え、また捨てた。
その結果がこれだ。
もう何時間これが続いているのか、意識が飛びそうになっても大和に引き戻される。まだ駄目だと、揺さぶられる。ただし果てることも許されていない。華弥の局部は紐で縛っているのか、きつく戒められていて、痛みばかりが増す状況だ。
「いやだ、」
掠れる聲で華弥が云えば、大和は優しく華弥の額に口付けを落とす。
「気に入らないか?」
「気にいらな、っ、全部、っ、いやだ、アッ、」
「これも?」
ぐ、と大和が華弥の弱い一点を中から押し上げれば華弥の身体はびくびくと慄え、腰が落ちる。支えていられるだけの体力がもう無い。けれども抉られれば確かな快感を痛みの中に拾って仕舞い、華弥は聲を漏らしそうになる。
「やめろ」と掠れた聲で華弥が云う様が大和から見れば堪らなくセクシーだ。
あの華弥が細い身体を大和に晒して、手足を縛られ意に染まぬ体位で行為を強要されている。
その無様に誇り高い華弥は我慢ならないのだろう。悔しそうにシーツを噛み締める様に大和はぞくりとした。
「謝罪とお強請りはどうした?華弥」
「するか、よ、うあッあ、」
華弥の腰を掴みひたすら強く大和が打ち付ければあまりの衝撃に華弥の意識が飛んだらしい。
それを髪を強く掴むことで現実に引き戻し、大和はその首筋を舐めた。
「まだ、謝罪はなしか?我慢強い君は魅力的だが、それなら私にも考えがある」
大和は戒めていた華弥のものを指で掴み嬲りだした。それに悲鳴をあげたのは華弥だ。中心を嬲られても縛られていてはどうにもできない。増すばかりの快感と痛みに気が遠くなる。もう駄目だ。苦しくて、イきたくて堪らない。何もかもかなぐり捨てて懇願したくなる。手足が自由であれば己で何とかしたものを、完全に華弥の肉体は今、大和に支配されている。それが我慢ならないのに、身体はどんどん追い詰められる。触れられた局部が苦痛で悲鳴を上げていた。
失神してもおかしくないのに、意識を失うことは大和が許さない。背後ではずっと華弥の中を蹂躙し続け、もう精神的にも肉体的にも限界だった。縛られて、罵られ、意識すら失えず大和に嬲られる。その屈辱と痛みに怒りで慄えるのに、どうにも出来ない。殺してやる、抗ってやる、そう思っていても身体は大和に陥落し無様に喘ぐ。
華弥はついに折れた。涙を流しながら、大和の望む言葉を口にした。
「頼むから、っ、ごめんなさい、俺は大和のだから、早く、ッ」
「早く、なんだ?ちゃんと云ってくれないとわからない」
分かっているくせに大和は華弥を追い詰める。それが堪らなく屈辱だとわかっていて華弥を苛めるのだ。
「はや、くっ」
「君は我儘だからな、云ってくれないと望み通りには私も出来ないかもしれないだろう?」
私の華弥、と大和は云う。くにくにと華弥の中心を大和が再び指で弄りだして、更に中を掻き回すように突いてきた。
もう、限界だ。華弥が目を閉じ、項垂れたようにシーツに涙を落としながら云った。
「欲しい、大和が欲しい、大和だけが欲しい、」
はあ、と涙を流しながら華弥が零れるように云えば、大和は「いい子だ」と囁いてから華弥の戒めを解いた。
ずっと縛られていた華弥の其処は張りつめていて痛々しいほどだ。大和に優しく触れられても充血している所為か痛みの方が強い。
「あ、っ、痛、ぅあッ、」
「気持良くなってきたか?」
「あ・・・・・・っ!」
ゆっくりとしたリズムで大和に揺らされながら、徐々に痛みとは別の快楽が戻り、大和に内部を犯されながら華弥はやっと到達した。
「あ、う、っ、ッ」
びゅく、と吐き出されたそれは勢いが無い。あれほど戒められていたのだから当然である。けれども漸く大和に許されて、華弥は抱き留める大和の腕を感じる。びくびくと到達しながらけれども程無くして電源が落ちるかのようにすとん、と華弥は意識を落とした。


06:逃亡と捕獲
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