「開いてる」
インターフォンの音が来客を告げる。
どうせサーフだ。
この家にこんな時間に訪れるのは
サーフぐらいである。
丁度バイトから帰宅したタイミングで
サーフが来た。
「やっぱり寒いね」
「おう上がれ」
と促し、部屋にあげる、
あげてからサーフが顔を顰めた。
「ヒート、寒い」
「・・・暖房が壊れたんだ」
新しい暖房を購入する資金はサーフへの
プレゼントに消えた。
コートを脱がなければいい、とサーフに云うと
サーフは不貞腐れた顔でベッドの毛布を掴んだ。
溜息を吐きながらサーフに暖かい珈琲を淹れる。
カップをサーフに手渡し、サーフが置いていった
資料を渡す。クリスマスに置いていったものだ。
「今日は帰るのか?」
「そうだねぇ、暖房壊れてるしね」
流石にサーフにまで風邪を引かせるリスクを
背負わせることはできない。
それならば今から大学まで送った方がマシだった。


「じゃあ、これ、渡しておく」

ぐい、と昨日買った包みをサーフに差し出す。
上品な包装のそれはサーフへのプレゼントだ。
「これは?」
サーフの問いにクリスマスプレゼントだ、と答える。
「遅れたけど・・・」
そう云うとサーフは驚いたように
ヒートを見つめ、包みを受け取った。
「見ても?」
ああ、とヒートが答えると
サーフが包みを丁寧に解いた。
流石に緊張する。
柄にもなく赤面する。
この美しい友人が気に入ってくれるかどうか、
そんなことが心配だった。
ヒートが貰った時の歓びの少しでもいい、
喜んで呉れたらよかった。
かさり、とサーフが包みを解く。

「・・・万年筆・・・」

サーフが丁寧な動作でそれを取り出す。
深緑のそれはサーフに美しく馴染んだ。
もとより何でも美しく馴染む友人だ。
使って呉れなくてもせめて机の端にでも
置いてくれたらそれでいい。
「有難う、貰えるなんて思ってもみなかった・・・」
サーフが万年筆を握り締める。
「不意打ちだよヒート」
何が?と問う前に
サーフが微笑した。
「凄く嬉しい、有難う」
その瞬間、どきり、とする。
サーフの笑顔に鷲掴みにされたような
感覚に襲われる。
サーフがヒートの選んだものを喜んで呉れた。
例えそれがヒートの歓びの数分の一に満たなくても
充分だった。
「もう遅い、送るよ」
そう云ってサーフを促すが今度はサーフが動かない。

「サーフ?」

サーフはにやりと笑い、
ヒートの腕を掴む。

「気が変わった、寒いだろ、ヒート」

うん?と頷くとサーフは一層笑みを深めて
ベッドに逆戻りをする。

「一緒に寝てやるよ」

一人で眠るより二人の方が暖かい、
そう云ってサーフはヒートのベッドにクッションを置いた。


「お、おい、ちょ、、、!!」
強引な調子で引っ張られ、
帰るのか、帰るんじゃなかったのか、と
叫ぶ唇を今度はサーフに塞がれる。


「気の迷い?気紛れ?」


微笑むサーフは美しい。
どきどきと逸る胸を押さえながら、
今度はヒートが口付けた。





「どっちでもいいさ」





この数年後もEGGと呼ばれる施設で
同じようにかつて渡した万年筆が
彼の胸ポケットに刺さっていることを
その時のヒートが知る由も無かった。

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