さびしさこそはせつなけれ

いつか君に色んなことを謝らなければいけないと
思うのだけれど、
そう、思いながら日々を過ごしたのは
あの頃だ。
今では遠い昔のことのように思える。
あの頃はいつだって手が届いていた。
いつだって君は振り返れば居たように
思うし、けれども自分にとってそれは
いつだって眩しかったように思う。

ヒート=オブライエンはサーフ=シェフィールドに
取って格好の相手であり、サーフが求めていた
条件を全てクリアした。始まりこそ殺人事件という
血なまぐさいものでありながらもそれを契機に
ヒートという得難い人物を手に入れたのも事実だ。
サーフは己の野心の為にヒートを必要とした。

けれどもどうだ、
いざヒートと付き合ってみると、
どうにも、憎めない、
ヒートには切り離せない何かがあった。
それは一生懸命な様であったり、
サーフに誠実であったりするところだ。

優しいのだ。

「参っちゃうよねぇ・・・」

ぼんやり窓の外を見るとヒートが何事か
話している、次の講義のことだろうか、
お互いもう進路は決まっている。
ボーンズメンにスカウトされたのだ。
約束された将来を前にサーフはヒートを見る。
ヒートはそれに気付いたのか、
サーフに手をあげた。
まだ少し肌寒い季節だ、
いつかのクリスマスにサーフが渡したマフラーが
彼を包んだ。
その光景が好きだった。

そして確信する。
そうだ何時の間にか、
自分こそがヒートに惹かれているのだ、
多分ヒートが思っているよりもずっと、
そう思うと、居た堪れない、
こんな予定では無かったのに、と
そんなことばかりがサーフ心を巡って、
整った眉を顰めた。
いつだって誠実なヒートの心に少しも追いつかない。
だから最近ではその顔を見るのが少し辛かった。
「次、休講だろ?」
掲示板に貼ってあったのか、そう云われて、
何だ、そうなの?とサーフはヒートに返す。
「じゃあ、カフェに行こうか」
そう行って立ち上がるとヒートは頷き、
二人で大学の近くの(よく利用するところだ)
カフェに向かった。
カフェに向かいながら何気ない話をしながら
サーフは前を歩くヒートを見る。

多分自分たちはいつか、
駄目になって仕舞う、
この想いがある限り、駄目になってしまう。
敏いサーフにはそれがよくわかる。
けれども今前を行く相手から目が逸らせない、

いつだって、駆け引きだ、
駆け引きの世界で、
色んな人間を見てきたというのに、
どうして、

「どうして・・・」

お前は、そんなに、

「優しいんだ・・・」

呟きはヒートに届くこと無く、空に消えた。
そうだ、いつか、思う、
あの時、君を
好きだと云えたらよかったのだ。


好きだと云えたら、
先にどんな後悔があっても、
その手を掴めていた筈なのだ。


今にして思う、
戻らない過去への焦燥に、
或いは、輝いていたあの頃に、
拭い難い罪悪と、
謝罪、

そして君に贈りたい、
この溢れるばかりの、

「感謝を」

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