「あちー!」
ヒートは思わず聲をあげた。
小児科の悪戯坊主が蝋燭の火を自分に向けたのだ。
「こら!」
子供達を抱えしかる。
愉しそうに笑う彼等をサンタの扮装をしながら
追いかける。
彼等が笑い疲れたところで
クリスマス会はお開きになった。
残ったケーキを貰い、帰路につく。
ぼんやりと今頃パーティーで慌しいであろう友人を
思い浮かべながら雪を踏んだ。
「ホワイトクリスマス、ぴったりだな」
呟き、辺りに響くジングルベルの音楽を口ずさみながら
アパートの前の鉄柵に人影を見た。


「サーフ・・・」

呆然とする。
だって彼は今頃パーティーだ。
コネクションが将来を左右するこの社会で
大事なパーティーだ。
サーフは高そうなコートとマフラーを羽織り
どれくらい待っていたのだろう。
肩には少し雪が積もっていた。
「メリークリスマス」
彼は俺を見ると少しはにかんで笑った。


「ばっか!風邪引くだろうが!」
うん、ごめんね、と珍しく素直に謝る友人を
ストーブの前に立たし、暖かいココアを淹れる。
小児科で貰ったものだ。
「パーティーじゃなかったのかよ」
「パーティーだったよ」
は?とヒートが首をかしげる。
「いいのかよ」
サーフは少し困ったように笑い
「大事なところへの挨拶が終ったからね、」
退屈なんだよ、とサーフは云い
ヒートに包みを差し出した。
「プレゼント・・・」
包みを開けると中から上品な肌触りのマフラーと
手袋が現れたシックな色合いで、ヒートにあつらえたかの
ように馴染んだ。
わ、わー・・・と内心動揺に陥ったのはヒートである。
無論逢う予定も無く、まさかプレゼントなど毛頭夢にも
思っていなかった。だからこの予想外の友人の行動に
どうしようも無く照れた。柄にも無く照れた。
「わり、俺・・・何も・・・」
思えば男が男の友人にプレゼントなど冷静に考えれば
子供時分ならともかく今時分では非常に珍しいことでは
あったがヒートは律儀だった。
「別に、ただ、たまたまいいのが目についたから」
いらなかったら捨てて、とサーフが云う。
ヒートは握り締めながら、しっかり使わせてもらうと宣言した。
サーフは目を丸くして、一瞬詰まったかと思うと
盛大に笑った。
「笑うな」
「だって・・・」
「笑うなって」
睨んでも駄目だ、サーフは笑いをやめない。
彼は何か糸が千切れたかのように笑った。
だからヒートはサーフの頬に手を伸ばし、
引き寄せられるように
3度目の口付けをした。


困ったように目を細める
サーフは
綺麗だった。
ヒートは祈るようにもう一度
キスをした。





「4度目だ」




4度目の気の迷い、は
もう一度5度目の迷いへと
いざなった。
祈るように
願うように
今この時に
ただ、美しい友人を想いながら





クリスマスのイルミネーションがちかちかと光った。



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