呼び名が確定しておめでとうキャンペーン! ※以降当サークルの作品は「シンスケ」呼びへとシフト致します。 有難う有難う!おめでとうおめでとう! |
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01:朝 煙管を吸う。煙管は煙草と違って濃いので二、三口吸ったら灰入れに捨てる。そういうものだ。 高杉は煙管を吸いながら考え事をすることが多い。ゆっくり吸い、煙を燻らせ二口吸ったところで結論を出す。 「おい、万斉、あれの件だがな」 高杉が指示を出し、万斉が頷き、的確にどうするかを決定し、滞り無く謀を進める。 謀の類は高杉にとって得手不得手で云えば得意なことだった。人を動かすことは嫌いでは無い。 そして自分の思った通りの結果が出ればいい。 時として予想外の結果になるが、どんな結果になろうとも臨機応変に対応できるのもまた高杉の得意とするところであった。 * 既に習慣化しているが、カツカツと廊下に響く足音で誰だかを察して高杉は布団に横たえていた身体を起こした。 ピ、とパスコードを入力して扉が開く、高杉の旗艦の中でも最高のセキュリティを誇る此処は高杉自身の居室である。 「起きてたの?」 地球時間で朝の四時過ぎという時間に堂々と訪ねてきたのは神威である。 宇宙海賊春雨、第七師団団長という大層な肩書を持つ餓鬼は、春雨の雷槍と云われるその名の通り、戦闘種族夜兎の中でも一際強い力を持つ齢十八の男であった。 「知ってるだろ」 高杉は殆ど眠らない。眠ろうとしても眠れないというのが正しい。眠りが深くなると決まって悪夢を視る。それが高杉が殆ど眠らない原因でもあった。僅かに取る一瞬の睡眠だけで高杉はもう何年も生活している。何時の間にかこのサイクルで慣れてしまった。 神威もそのことは疾うに知っている筈である。何度も褥を共にしているのだから当然のことであった。 「うん、知ってる」 「妙な時間に来るんじゃねぇよ」 枕元の煙草盆を引き寄せ煙管に葉を詰め火を点ける。それを燻らせるのを目端に留めながら神威は慣れた様子で身体を覆う外套と包帯を脱ぎ捨てた。 「えー俺、徹夜だよ、任務終わって速攻で来たのに」 「邪魔だ」 遠慮も何も無く高杉が身を置く布団を捲ってくるのだからこの餓鬼は堪らない。 その図々しさで護衛も言い包めたのだろう。本来ならこんな時間に高杉に取り次げるわけがないのだ。 幾度もそうした図々しさで押し切っているから、止む無く通されたのだろうと推測できる。護衛を叱るわけにもいかないので高杉は矢張り沈黙のままに煙を神威に吹きかけた。 「シャワーも浴びて来たのに酷いなぁ」 全く酷いとも思っていないような口調で云うのが神威である。 寒い、と云って高杉に擦り寄ってくる癖に、温度は神威の方が暖かいのだからそれもまたわざとらしかった。 「血の匂いがすらぁ」 腰に纏わりつく神威の髪に指を通しながら云えば神威は「任務続きだったからね」と既に就寝モードだ。 徹夜と云っていたがどれだけ徹夜したのか、高杉の所へ来るなり何もせず寝付く時は大抵、酷い戦場続きで、数日から一週間以上はまともに睡眠すらとれなかった時だと、以前神威の副官の阿伏兎から聴いたことがある。今回も例に洩れずそんな戦場だったのだろう。 「でも期待したような強い奴はいなかった、退屈だったなぁ」 「寝ろ」 「晋助の方がずっといいや」 「黙れよ、餓鬼」 うとうとと、寝入り鼻にそんな言葉を洩らす餓鬼が憎らしい。 もう一言小言でも云ってやろうかと思ったが、それももう遅かった。 「寝やがった・・・」 満足そうに、眠る。数多を殺して、敵を求めて、そして傍らで幸せそうに眠る餓鬼が憎らしいのか、それとも別の感情があるのか、高杉にとって神威の位置づけはいつも難解を極めた。自分はこの餓鬼をどうしたいのか、この餓鬼を使って地獄を作る、それに代わりは無い。けれども、こうして傍らで眠る神威を見遣る時、いつも高杉は迷った。 ( 何に、迷っているのか・・・ ) 考えてはいけない。 ( 何があるのか・・・ ) 考えてはいけない。 この餓鬼と関係を続けるのは必要だからだ、それ以上でもそれ以下でも無い。互いに利益があるから利用するだけ、高杉は夜兎の力を、神威は高杉に命を助けられた借りを返すという建前とこの上ない戦場を提供して貰うための関係にしか過ぎない。 夜を共にし、幾度となく身体を繋げ、そして互いの中の何かを探ったとしても、それはこの関係を続ける為のものだ。 ( その筈だ ) その筈でなければならない。 そっと傍らの餓鬼の髪を撫ぜれば血の香りがする。 戦場の香り、高杉が嫌と云うほど嗅いだ、身に染み着いた香り。 その神威を抱き締める。 じわじわと温度が混じる感覚に、まるで互いに溶けていくようだと、高杉は苦味を感じる煙草の煙をそっと吐き出した。 策謀は高杉の得意とするところだ。 この餓鬼を抱き込むのも容易い。 阿呆提督のあの謀から即座に全てを棄てて神威を取ったのは正解だった。 高杉はこれ以上ない駒を手に入れたのだ。 それでいい筈だ。 いつものように、謀をする。策を巡らせ、嵌める。その為の道筋を考える。煙管を吸って答えを出す。 けれども近頃、答えが出ないことがひとつだけあった 神威だ。傍らで眠るこの餓鬼のことだけは何度煙管を吸っても答えが出ない。 己はどうしたいのか、この餓鬼をどうするのか・・・。 欲しがっているのは神威で与えているのは常に高杉だ。 その筈だ。 その筈だったのだ。 ( その筈だったのに ) 傍らに眠る餓鬼は綺麗な顔を晒したまま、何の疑いもせず眠っている。 けれども今此処で刀を突き立てようものなら、即座に野生の獣へと変わるのだろう。 それに惹かれないといえば嘘になる。 圧倒的な力を持つ種、陽の光を犠牲に全てを凌駕する力を手にした絶滅に程近い最後の種。 己が欲しかった、あの時欲しかった力の全てを持っている種。 それは憧憬なのか、或いは、また別のものなのか。 ( 考えては、いけない ) 煙管の先から煙があがる。 答えは出ない。 いつも、いつまでも、答えは出してはいけない。 その煙草の苦味に、高杉は自嘲気味に笑みを浮かべ、目を閉じる。 眠りは無い、答えも無い。 ただ互いだけが、此処に在る。 このぬるま湯のように、交わって溶ければいいのに、と思ってはいけないのだ。 |
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