※[08:ハイドアンドシーク]設定。年齢逆転。子高14歳。神威26歳。


子供の左目が駄目になった時神威は傍には居なかった。
宇宙に連れてきて七年。高杉はあれからも夜兎と共に行動したし、神威も高杉をずっと飼い続けた。
いくつかの仕事を覚えさせ、陽の光を浴びられない神威達の代わりをすることも高杉はあった。
夜兎とて破壊だけが仕事では無い。全てを破壊するのは楽であったが、仕事の内容によっては目標の奪取などもある。
だからこその高杉だった。夜兎では夜しか活発に活動できない。故に昼の時間の情報収集は限られているし全てを殺しても上手く手に入らないターゲットもある。そのあたりを高杉はきちんと理解して神威の補佐をした。
敵もまさかこんな子供が夜兎と行動を共にしているとは思わない上に、高杉がスパイのようなことをしているとも気付かない。
だから高杉が仕事を手伝うようになってから目標の破壊率は随分減ったのだ。
言い訳を考えずに済むと阿伏兎の機嫌は良くなったし神威としても自分の育てた子供が役に立つのは悪い気はしない。
その一瞬の油断だった。
順調に育てていたのに、たった一瞬の神威の油断が高杉の左目から光を奪った。
「皆殺しにしたけれど、お前の目はもう駄目みたいだ」
高杉が血塗れの状態で船に戻って激昂したのは神威だ。
怒りに呑まれた神威が高杉の首を掴み殺そうとしたのを阿伏兎が止めた。そしてその怒りのままに神威は全てを滅ぼした。
今この星には草の根一本すら無い。何も無い廃墟だ。
任務も失敗だったが、そんなことはどうでも良い。
高杉が損なわれないように、神威はずっと気を付けていた。それなのに、夜兎である自分達が七年もの歳月をかけて大事に育てた物が損なわれて仕舞った。
彼の目の修復は既に不可能だ。抉られて仕舞ってはどうにも出来ない。
新しく目を培養して入れるという手もあったが、どちらにしてもそれはあの高杉では無い。
幼いころ神威を真っ直ぐに見上げたその眼は損なわれて仕舞った。

「わかってる、仕方あるめぇよ」
「その口調、本当昔は可愛かったのに・・・」
いっぱしに虚勢を張っているのか高杉は何でもないように神威を見た。
痛みを和らげるために与えた薬入りの煙管を吸い、片目だけで神威を見上げる。
「そう思うなら手前はあの時俺を殺しゃあ良かったンだ」
なぜ殺さなかったのかと高杉に暗に問われ、神威は笑みを浮かべた。
「あれは気が立ってたんだよ、冷静になれば晋助を失うのは勿体無いしね、俺はお前のそういう眼も嫌いじゃない」
本当は自分が損なわれて一番後悔しているのは高杉の筈だった。
己が誰の物なのか高杉はよくわかっている。
そういう子供だったからこそ神威はあの戦場から高杉を拾ってきたのだ。
「お前はこの神威のものだからね」
「・・・」
高杉は何も云わずに神威を見た。
必死な子供。
いつまでも高杉はあの時拾った子供のままだ。
一瞬縋るように神威を見た。高杉はきっと気付かなかっただろう。
けれども高杉は神威を見た。
その射抜くような視線で、神威を捉えたのだ。

ああ、まいったな、と神威は想う。
思ったより自分は高杉の左目が損なわれたことにショックを受けているらしい。
あの後、高杉は感染症により死にかけた。それも怒りに拍車がかかった要因だ。
この時ばかりは阿伏兎や他の部下達も神威がこの星の全てを全滅させたことに文句を云わなかった。
可愛がっていたつもりだ。この子供を。支配していたのは神威で、他の何者にもそれを侵せる筈が無い。
許せる筈が無い。思ったより自分は自分のものに執着するのかと神威は驚いた。
高杉と居ると神威は驚くことが多い。それはこの船に居る多くの夜兎も同じだろうとは思うが、だからこそ神威はもう我慢をするのを止めることにした。
高杉の腕を掴み引き寄せる。
薬品の匂いのする包帯は普段の高杉の匂いとは違って嫌だった。
大切にしてきた。高杉を己と同じ部屋で生活させても、床を共にしたことすらない。
あの時高杉はまだ小さかった。だから寝ている間にうっかりその子供を殺して仕舞うことを神威は危惧したのだ。
今も部屋は同じだが別々に寝ている。元々生活する時間がずれているのでそれで問題は無かった。
けれどももうそれを止める。
手を出すな、と阿伏兎には散々云われたが、高杉もいつまでも子供では無い。
こうして神威が目を離した隙に失明して仕舞うほど、弱くてまだ神威の庇護が必要だったが、それほど子供でも無い。
だからこそ高杉は必死に神威達の役に立とうとする。それがこの子供の存在意義であり決意だからだ。
神威は高杉の身体を抱き締め云った。
「俺はお前を抱くよ、晋助」

答えの代わりに高杉は神威の背に手を回した。
床に転がった煙管からは一筋の煙があがっていく。
その失った左目に口付けながら神威は想う。

そうだ、次の星に行ったら己の遺伝子から目を培養しよう。
そして高杉の失った部分に入れるのだ。
蒼い、夜兎の眼を高杉の左目に入れる。
高杉はその眼でまた神威を見るだろう。
その考えは悪い気はしなくて、神威は笑みを浮かべながらその子供を貪った。


13:失った左の蒼穹

お題「星図」

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