※パラレル。年齢逆転。子高7歳、神威19歳。 ゲームをしよう、と云われたのはいつのことだったか、高杉は少し過去のことを想い返した。 戦争で何もかも疲弊して、家が焼かれ、家族は不明だった。 そんな焼け跡を彷徨っていた高杉に聲をかけたのは珊瑚色の髪の不自然な笑みを浮かべた神威という男だ。 「ねぇ、一人で何してるの?」 「・・・」 高杉は答えなかった。家族と食べ物を探していると云うことが出来なかった。 明らかにこの男は神威達の世界をこうして仕舞った側の者だと高杉にはわかった。 齢七歳の子供とてそのくらいはわかる。或いは、そんなことを同胞以外に洩らすという無様が高杉には耐え難かったのかもしれなかった。 「ゲームをしようよ、」 ぴくり、と高杉は顔を上げた。 突然何を云いだすのか、包帯を全身に巻いた気味の悪い男が云う。 高杉は首を振って拒絶を示したが、男がそれを許さなかった。 「ゲームをしよう、お前が勝ったら、お前の欲しい食べ物でもお金でもなんでもあげる。見たところ困っているようだから探し物も手伝ってあげるよ」 突然の申し出に高杉は弾かれたように顔をあげた。 それは高杉が欲していたものだ。皆失って仕舞った物、高杉が捜し歩いているものだ。 「でも」 でも、と男は続けた。 「俺が勝ったら俺と一緒においで」 光に耐性のある子がいると便利だ、とその時の高杉にはわからないことを神威は洩らす。 「俺が勝ったらお前は一生俺のものになるんだ」 神威は高杉の返事を待たない。 「百数えてあげる、隠れておいで」 ゆっくりと男が数える。その意味を反芻する前に高杉は走り出した。 かくれんぼだ。誰でも知ってるゲーム。 高杉だって少し前まではそんな遊びをしていた。 隠れるのは得意だ。 いつも最後まで高杉は見つからない。 誰も見付けられなくていよいよ、降参の聲があがってから顔を出すのが常だった。 だからこれなら勝てるかもしれない。 そして男が本当に高杉の望むものを呉れるというなら新しくやり直せるかもしれない。 疾うにいない家族を想いながら高杉は奔った。 少し離れた崩れかけの民家の奥に隠れて、或いは男はもう高杉を見限って去って仕舞ったのかもしれないとさえ思いながら息を詰めるように隠れた。 けれども結果は呆気なかった。 「見ぃつけた」 「神威・・・」 は、と高杉は顔を上げる。 「ただいま、晋助」 此処ではもう姓は不要なのだと、名で呼ばれた。 あの日高杉はこの神威という男の腕に抱かれて宇宙へあがった。 そしてこの宇宙最強といわれる夜兎という種族が陽の光に弱いのだという事を知った。 だからこそ夜兎が不得手とするようなことを高杉が担う為に連れてきたのだと知らされる。 実際のところ子供である高杉を連れてきたことによって即戦力にならないと神威は腹心の阿伏兎にこっぴどく叱られていたが。 それでも高杉はなんとか喰いっぱぐれずにこの夜兎の集団に慣れた。 彼等は星々を移動する。 夜兎の去った後は何も残らないと云われているような種族だ。 彼等の力は強い。皆高杉を丁寧に扱ったが最初のうちはちょっとしたことで骨を折られたり、加減がわからなくて、神威も高杉も互いに随分苦労したが、今はもう慣れた。 「お土産を持ってきたよ、本、好きだろう?」 「うん」 「食事にしよう」 神威に抱き上げられ高杉はそのまま神威を覆う顔の包帯を外した。 包帯の下にあるのは酷く容姿が整った男だ。美しい顔に珊瑚色の髪、白い肌に青い眼をした美貌の男。 それが神威。 夜兎最強と云われる男。 高杉の飼い主だ。 「でも人間って不便だよね、生で肉食べると死にそうになるとかさぁ、晋助も少しは仕事を覚えたけど、もう少し頑丈にならないかなぁ・・・改造するとか・・・!」 「俺は夜兎じゃねぇし・・・」 「そうそう、んな話真に受けんじゃねぇぞ」 どん、と阿伏兎が持ってきた大皿を神威の前に置いた。 質より量を取る夜兎の食事は大雑把で、高杉は未だにこれに慣れない。 何度か酷い嘔吐を繰り返したり感染症にかかって、そして漸く身体の構造そのものが違うのだと理解した阿伏兎がどうにか高杉の居た環境に近い食事を別で用意してくれるようになって生活できるようになったのだ。 「てめーと違って晋助はデリケートなんだよ、こんなんが飼い主じゃぁ苦労するよなー」 俺の子になる?と阿伏兎に撫ぜられながら高杉は行儀よくいただきますと手を合わせて出された食事に箸を伸ばした。 高杉でも食べられるように少量にわけられた食事はいくつもの種類がある。 大雑把に神威達の食事と同じようなものを出されるかと思ったが、意外に阿伏兎は高杉の環境に忠実だった。 最も何が安全で何が駄目なのかわからないから死なないように入手したレシピを忠実に再現していると云った方が正しいが高杉はその暖かさが嫌いでは無い。 「俺は神威のだからいい」 「そうそう、晋助は教育が行き届いているよねー俺のものだもんね」 「かー!惚気かよ、死んじまえこのクソ団長!」 「俺早く大きくなる」 「うんうん、そうだネ、早くもっと役に立ってよ」 「しっかり食べなよ」と神威に云われて高杉は頷いた。 少なくとも此処で生き抜くためには大きくならなければならない。 だから高杉は早く大人になりたかった。 どうせなるのなら神威のような強い男に成りたい。 あの時神威を救い上げた腕に触れられる度にそう思う。 高杉が生き延びられたのは光に耐性があるからだ。それだけ。夜兎のできないことをする為に此処に居る。 だから捨てられないように、自分を見つけてもらえるように、子供心にも必死になった。 「ゆっくりでいいんだぜ、晋助」 阿伏兎の言葉に高杉は首を振った。 「早く大きくなって俺と遊ぼうね、晋助」 それがどういう意味かわからない高杉はただ頷く。 その意味を悟って阿伏兎の怒号が響くが、神威がへらへらと笑って交わすばかりで高杉には何のことなのかわからなかった。 阿伏兎はしきりに駄目だとか、そういうのはナシだとか怒鳴り声になるのでついに神威と高杉は同時に口を開く。 『阿伏兎、うるさい』 「お前を見つけたのは俺だもんねー」 「ねー」 連れていかれた先は宇宙の只中。 異貌の者どもが集う夜の楽園だ。 08:ハイドアンドシーク |
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