※お題02「02:オンラインから始まる」続き。現代パラレル。神威=高校生、高杉=大学生。 「捜したんだぞ莫迦団長!」 時は二ヶ月前に遡る。 神威だ。 神威は阿伏兎にとっての非常に不本意ながら上司である。 その『上司』である神威を探して奔走していたのだ。 阿伏兎があらゆる情報網を駆使して神威の居場所の算段が着いたのが一週間ほど前、帰還して直ぐに居場所は国外だと踏んで手を打った。そして漸く此処二ヶ月の情報や画像データを拾って神威の潜伏先を突き止めたのだ。 潜伏先のマンションは学生向けのマンションだ。部下を二名ほどつけて残りは別の車に待機させ阿伏兎は建てられてそう年数も経っていない綺麗な廊下を憤りのままずかずかと歩き目的の部屋のドアを蹴り開けた。 文字通り蹴り開けたのだ。 ガシャンとロックが壊れる嫌な音が響きドアが完膚なきまでに壊されて、其処から顔を出したのは高杉から見れば見知らぬ強面の男だ。阿伏兎を先頭にごつい男が三人。 鍋を突いていた桂は止まり、そして煙草を手にしていた高杉はそれを無言で見つめ返した。 「団長って、え?」 しかしその一瞬の静寂を破ったのは阿伏兎だ。 何せ目当ての人間がいない。確かに神威が此処に潜伏していると裏を取った筈だ。 その筈だが神威がいない。 間違えたかと焦るが、この部屋の主である高杉は確かに此処に居るので間違い無い筈だ。昨日写真付きで詳細を取り寄せたので間違ってたまるか。 再び阿伏兎が口を開こうとしたところで後ろから聲があがった。 「何してんの?阿伏兎」 阿伏兎が振り返れば神威だ。この二ヶ月腸が煮え繰り返る思いで神威の後始末をしながら捜した男その人である。 「団長!手前!何処に・・・!」 「飲み物と煙草買ってきたんだよ、あーあ、ドア壊しちゃって、修理しときなよそれ」 神威は我関せずでさっさと靴を脱いで部屋に上がって仕舞う。 そして何でもない様に、煙草を高杉に手渡し、それから自分の分のコーラの缶についたプルトップを勢いよく開けた。 沈黙に耐えきれなかったのは高杉だ。 家の前でこうして大男達に屯されるのも趣味では無い。 「おい、用があんなら入れよ、鍋でも食ってくか?」 高杉のその言葉に阿伏兎達は「すみません」とごくごく一般的な礼を述べいそいそと壊したドアをとりあえず玄関に立て掛け、好意に甘えさせて貰うこととなる。 「それで・・・」 それで、と口火を切ったのは桂である。 鍋の具を甲斐甲斐しく全員に取り分けながら問うた。勿論阿伏兎達の分も平等に取り分ける。阿伏兎達は机の端にでかい図体を縮こませ礼を述べながらそれを受け取った。 ちなみに神威の分は鍋が一つ分別である。 「何がどうなっているんだ?高杉」 「そらぁ俺に聴くことじゃあるめぇ、なあ、神威」 話題を振られた神威は肩を竦め食べることに没頭するばかりで話にならない。 それに苛々したように缶ビールを飲み干したのは阿伏兎だ。 「だいたい手前の所為だからな!団長!」 「団長とは何だ?」 「俺が知るわけあるめぇ」 こそこそと言葉を交わす高杉と桂を無視して阿伏兎は憤りのままに神威にがなり立てた。 「まあ落ち着きなって阿伏兎」 「これが落ち着いてられるか!てめぇはふらっと居なくなっちまうし、その所為で俺がどれだけ迷惑被ったと思ってやがる!」 「へーそりゃ大変だ」 他人事のように神威が云うので尚更性質が悪かった。 何よりも高杉達から見れば不思議なのは阿伏兎が明らかに神威より年上であるのに神威の方が偉そうという点だ。 団長と云っていたのだから何かの長なのだろう。阿伏兎はどうやらその部下であるらしい。 「任務は放りだすわ、二ヶ月連絡つかないわ、携帯は置いていくわ・・・」 阿伏兎が取り出したのは四台の携帯電話だ。全て別の機種でからなるそれは神威のものであるらしい。 「ああ、携帯はこっちに来て直ぐ新しいの用意したからね」 ご心配なくと鍋を啜る神威に阿伏兎が「俺に云わなきゃ意味ねぇだろう!」と騒ぎ立てる。 何だか阿伏兎と名乗る男が哀れにも思えてきた。 「手前の携帯全部鳴らしてGPSで場所を特定してロッカーに辿りついたらあるのは手前の携帯『だけ』だったんだぞちくしょう!」 「まあ、ビールでも」 見兼ねて桂が差し出したビールを阿伏兎は「あ、どうも」と受け取り涙ながらに苦労を語る。 今日の鍋の主役はどうやら阿伏兎という男に決定しそうだと、高杉は灰皿を手元に引き寄せ煙草に火を点けた。 「その後手前の居場所を探そうにもトンズラした後だ。仕事は詰まってるし、キャンセル出来ない分は全部俺達で片付けたんだからな」 「そりゃあ凄い、もう独立したら?」 あっさりと酷いことを云うのは神威である。 「出来るか、莫迦野郎!手前の所為で俺ぁ高校生の振りをする羽目になったんだぞ、どんだけ無理があると思ってんだ!」 「あはは、それ面白いね、写メとかある?」 つくづく云うが神威は酷い。 「その上仕事を片付けて手前を捜し当てれば手前は日本とキた。ジャパニーズマネーは高いんだぞチクショウ!」 「円高だからねー」 「挙句この男の家に居候してるっつーんだからどういうつもりだ団長?」 「見ての通り俺今高杉にぞっこんなんだ」 聴いてねぇよ!と今度こそ阿伏兎は悲鳴を上げた。 余程の苦労だったのだろう。高杉が手にした煙草を一本薦めれば「あ、どうも」と阿伏兎は煙草を受け取った。 「つまりだ、阿伏兎と云ったか、手前は神威を捜してわざわざ日本に来たと」 高杉は煙を吐き出しそれから灰を少し灰皿に落して今度は神威を見る。 「それで、神威、てめぇは何の団長なんだ?」 本題だ。これこそが高杉が知りたいことでもある。 この二ヶ月神威が高杉の家に居候してからも確かに神威は不自然な札束を高杉に食費として寄越すことがあったが、どうやらそれは神威が『団長』であることに関係しているらしい。オンラインゲームの第七師団のことかとも思ったが、どうも阿伏兎との遣り取りを聴いているとそうでもないらしかった。 「うん、ウチ傭兵業やっててさ」 さらっと云われた言葉に高杉は眼を見開いた。 今聴き慣れない単語が聴こえた気がする。 「傭兵?」 「そう、傭兵、俺の親父も師匠も結構有名でさぁ、餓鬼の頃から色んな場所を転々としてたんだけど妹が出来て香港に定住したんだよ、だから俺も高校生なわけ」 「それで傭兵もしてるってぇのか?」 高杉の言葉に神威は頷き、それから鍋に残った葱と春雨を一気に掻きこんだ。 「そ、連休とか夏休みとか、そういう時にネ、戦場行ったり、私兵に雇われたり要人のボディガードしたり、まあ色々だよこいつらは俺の部隊の部下、そんで移動時間が長いからさぁ、暇な奴集めてオンゲ始めたんだ。こいつら俺の『第七師団』なんだけどオンゲの方でも師団作って遊んでてさ、俺が団長ってわけ。あ、俺も煙草」 神威が強請るので高杉が一本差し出せば神威は慣れた手付きで煙草を口に運びすかさず阿伏兎がライターでそれに火を灯した。 仕方無くという様子でも無いので条件反射なのだろう。改めて目の前の神威という餓鬼はこの大男達の上司であるということだ。 「何せリアルで俺より強い相手なんて滅多にいないからさ、ゲームなら皆レベル1からデショ、だからいいかなぁって、まあ結局カンストしちゃったし飽きたんだけど高杉が居たからさ、リアルで会ってみたくなって」 来ちゃった、と可愛らしく小首を傾げるように云われても如何せん彼を取り巻く環境と本人の中身が凶悪である。 高杉は内心頭を抱えたくなったが実際頭を抱えているのは神威の部下である阿伏兎であろう。 外見だけなら天使のような神威であったが、これだけ好きにされては阿伏兎の心痛は計り知れない。 黙々と鍋に具を追加する桂を横目に高杉は煙草の煙を吐き出した。 「それで手前はどうする?神威」 「俺別れるつもりないから」 どうする?と聴いて別れるつもりはない、という返答も妙であったが、その言葉だけで阿伏兎には充分であったらしい。 「まさかこのまま此処に居着くつもりじゃねぇだろうな、団長」 「勿論そのつもりだけど」 「莫迦云ってんじゃねぇぞ団長!どれだけ仕事溜まってると思ってやがるんだ!これ以上駄々を捏ねやがったら鳳仙の旦那を呼ぶからな!ほら行くぞ!莫迦団長!」 ずるずると神威が阿伏兎に引き摺られていく。 「じゃあちょっと行ってくるーまた来るねー」 晋助、愛してるーと云いながら鍋ごと引き摺られていくのがなんともシュールな光景であったが高杉と桂はそれを見送り、机に置かれたドアの修理代らしき札束を前にとりあえず銀時と坂本を呼び出しそして追加でピザとビールを注文した。 その一ヶ月後。 「やあやあただいま高杉!」 にこにこ笑顔で高杉を迎えたのは神威である。 見れば隣の部屋と高杉の部屋の壁が打ち破られている。 「こらぁどういうこった・・・」 「引っ越してきたんだ、仕事しながら俺こっちに住むから」 噫という溜息と共にどたどたと奔る音。 そして高杉が煙草を取出し火を点ければドアを蹴破り怒りの声が室内に響く。 「こぉんの莫迦団長ー!」 それを尻目に高杉は笑みを洩らした。 悪くない。破天荒だが神威のそれを高杉は嫌いでは無い。 「今度はこれがこっちのリアルになりそうだな」 「オンラインより退屈しなくて素敵でショ」 神威は酷く機嫌が良さそうに高杉の口元の煙草を奪い、そしてその唇に口付けた。 09:現実はオンラインより奇なり |
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