※現代パラレル。神威=高校生、高杉=大学生。


そのオンラインゲームで知り合った男はハンドルネームがKAMUIと云う。
モンキーハンターという世界的に有名なゲームだ。
元々あまりそういった類のものに興味は無かったが高杉がそのゲームをすることになったきっかけは意外なことに桂だった。
「モンキーハンターというゲームがあってな、これを使ってアルバイトが出来るらしい」
様々な職業を選択して、アイテムを生成できる職種に設定すれば仮想現実のアイテムを売り買いできるのだ。
たいした金額では無かったが、成程よく出来てはいる。高杉からすれば仮想のものに現金を払うなど莫迦らしかったが、桂の云う通り小遣い稼ぎにはちょうど良かった。ちょうど良かった癖して桂はその手のものが苦手だ。
だから教えろとわざわざ高杉の分のソフトまで買ってきたのだ。
大学も夏休みで丁度暇だったのがいけない。
桂に乞われるままにギルドに入り、高杉はゲームを進めていくうちにちょっとしたプレイヤーになって仕舞った。
桂が作る出鱈目な装備を流用して、ゲームを進めていくうちに高杉の取り巻きのような鬼兵隊という集団まで出来上がって仕舞い、PK(プレイヤーキル)が違法では無いこのゲームのシステムでは戦争を行うこともある。
先週二十二時に集合というメッセージのままに高杉が参加した戦争でKAMUIと出会った。
春雨というPKの中でもぎりぎりの違反スレスレの行為を行う集団がゲーム内にあったが、KAMUIは其処で一番恐れられているという第七師団のトップだ。ゲーム上でトップも何もあるものかと思うが、伝説のハンター『M』や春雨などこのゲーム内は広い。仮想現実とわかっていてものめり込むだけの魅力があった。
そのKAMUIからメッセージが来たのは昨日のことだ。
時間的に深夜で平日だったこともあるから高杉はそのKAMUIというプレイヤーは学生であろうと推測する。
云われるままに高杉はパソコンを立ち上げいくつかのメッセージを確認し、それからKAMUIが指定する場所へと向かった。
上位レベル者しかいけない領域だ。
其処で殺し合いでもするのかと高杉は少し身構えていたが、出会ったKAMUIがあまりに普通に話しかけてきたので少々拍子抜けした。
『あんたが、鬼兵隊のT?』
そうだ、と高杉が返事をすれば、神威はあっさりと、先日の戦争が楽しかったと洩らし、それから意外なことに今日これからモンハン限定のイベントに参加しようという誘いをかけてきた。
二人〜三人でパーティーを組まないと発生しないイベントだ。
それに参加しようと云われて、云われるままに高杉はKAMUIとゲーム内のイベントをこなした。
それからだ、鬼兵隊とはつるむ時とつるまない時がある。人数が必要な時は参加したが、基本的に高杉は一匹狼だ。
KAMUIはそうでは無かったが高杉のゲームスタイルに付き合うようにそれからは共にプレイすることが多くなった。
既に夏休みは終盤にかかっている。
全く何を呆けているのかと思いながらも高杉は部屋に置いたノートパソコンを操作した。

「・・・KAMUI」
メッセージが届いている。
この間丁度プライベートで使用しているアドレスを教えたのだ。
其処にはKAMUIの携帯番号とアドレスが記されている。
それ以外に何も記載されていないのがKAMUIらしかった。
高杉は自分の携帯を取出しメールを送ってやる。番号も記載しておいた。
それから煙草を吸おうと箱に手を伸ばしたところで携帯が鳴る。
知らない番号であったが確信があった。
『T?』
「KAMUIか」
KAMUIだ。思ったより若い聲だ。
『やっぱり落ち着いた聲、想像通りかな、ねぇ、東京のひとだよね?』
「そうだけど」
高杉が煙草を手にして中から一本取り出した。あと一本しかない。買い置きが無いので外に出なければならない。
オンラインゲームに没頭している所為でまるで引き籠りだなと高杉はひとりごちた。そろそろレポートの用意もしなければならない。
夏一杯が遊ぶのの限界かと高杉は目途を決めていた。
その矢先にKAMUIからの連絡だ。
煙草の火を点け、高杉はKAMUIの言葉の先を促した。
『良かった京都とかだったら行くのにちょっとかかるからさ、今俺こっちに出てきててさ、会わない?』
「こっちにって何処から?」
不思議に思って高杉が問えばKAMUIはあっさりと答えた。
『香港、しばらくこっちに居るんだ』
「日本語が達者だな」
『本当?良かった、親父の仕事の関係で日本と香港行ったり来たりしてるから、日本語は得意なんだ、じゃあ待ち合わせはベタだけどハチ公前で、大丈夫?東京って二十三区内だよね?』
「ああ、問題ねぇ」
『じゃあ今から、決まり、俺待ってるから』
「おい、時間とか服装とか云わねぇとわかんねぇだろ」
『わかるよ、多分、じゃ、後で』
あっさりと電話を切られて仕舞って高杉は溜息を吐いた。
わかるもわからないも無いが、携帯の番号を知っているのだし問題は無いだろう。
どうせ煙草が切れそうなのだ。それに渋谷は目と鼻の先である。
高杉は財布と携帯をズボンに突っ込みマンションを出た。
電車を使っても良かったが歩いていける距離だ。少し暑かったが既に日差しは緩まっている大丈夫だろう。
高杉はそのまま指定された場所に向かって足を向けた。

「初めまして、かな、T、Tって何の略?それとも好きな単語?」
成程。待ち合わせ場所に着いて高杉がKAMUIに気付く前に相手が真っ直ぐに聲をかけてきた。
人でごった返していると云うのに迷いが無い。
「高杉のTだ。手前はKAMUIで合ってるな」
「うん、神威って俺の本名。Tは高杉のTか、ファーストネームは?」
「晋助だ」
べらべらと高杉に向かって話をする男はチャイナ服を着ている。道理でわかりやすいわけだが、高杉を迷いなく見つけたのが何故なのかがわからない。
「何で、俺だってわかった?」
「ああ、高杉のこと?あ、高杉って呼ぶね、なんとなくかなぁ、多分オーラみたいなのがあるんじゃない、そういうの人に云われそうな雰囲気だし」
「よく云われる」
確かにそうなのだ。高杉には何かオーラみたいなものがあるとよく高杉は云われる。
本人にその自覚は無いが、高杉自身は目立っているつもりもなかったが目立つのだそうだ。
「それで神威、手前はなんで俺に連絡してきた?」
高杉が煙草を取り出しながら問う。どう見ても神威は高校生だ。
折角香港から来たというのなら何処か食事くらいは連れていってやろうかとそんなことを思いながら高杉が問えば神威はにこやかに笑みを見せた。
「正直ゲームの方はもうカンストしそうだったし、あんまり面白くなくなってたんだけどさ、高杉とイベントとか楽しかったし、あんたと居るとなんていうか、凄くやり易かったからさぁ、リアルでも会いたくなって」
「それで連絡してきたのか」
「ウン、そう、思い立ったら直ぐって感じで出てきちゃったから今頃親父とか阿伏兎とか卒倒してるだろうなぁ」
阿伏兎が誰かは高杉にはわからなかったが、どうやら香港から直行で来たらしかった。
そのフットワークの軽さには感心するが、さてどうしたものかと高杉は頭を抱える。
「暫くって、泊まるとこあンのか?」
そう云って仕舞うのはついだ。神威はどうも世話をしなければいけないような気になる餓鬼だった。
一見美少年のような容姿だ。明るい髪に青い眼、白い肌は目立ちすぎる。
「あるよ、ホテル取ったし、でも高杉の家に行ってもいいなら行ってみたい、パソコンみせてよ」
ずけずけと要求する神威にやや呆れながらも高杉は仕方ないと腹を括った。
何処のホテルを取ったと訊けば、ビジネスホテルのような場所では無く、高級ホテルであったから尚更だ。
ボンボンであるらしい餓鬼を放っておくことも気が引ける。
止む無く高杉は神威をマンションに案内した。
まさかその後二ヶ月も神威が其処に滞在したあげく、肉体関係にまで及ぶとは思わなかったが。

「高杉、コーラ切れてる」
「コンビニ行ってこい、ついでに俺の煙草も買ってこい」
財布を投げれば神威は頷き高杉のジーンズとシャツを着て出ていく。
なんというか、癪であったが馴染んでしまった。
高杉が大学に行っている間は何をしているのか、時折出かけているようだったが、そうした時決まって神威は纏まった食費を現金で持って来る。札束をぽん、と高杉に寄越すのだ。正直神威の食事の量を考えるとこの食費がなければ追い出していたところである。けれどもその札束を観る度に高杉は厭な予感がして詮索は止めた。
確かに神威は食事の量が恐ろしく多かったが大抵は自分で何かしら調理しているのでするに任せていると云うのが本音だ。
「あ、ちょっと待って、忘れ物」
忘れ物だと不意に神威が振り返る。
パソコンのキーを弄っていた高杉が振り返る瞬間に神威は口付けを落した。
「マセ餓鬼」
「その餓鬼によがらされてるのは誰さ、夜は鍋にする?ヅラが来るんだよね?」
「任せる」
高杉がそう云えば神威はひらひらと手をあげて玄関を出た。
その数時間後、怒号と共に、阿伏兎と名乗る男が何人かを引き連れて「捜したんだぞ莫迦団長!」と叫ぶ光景が広がるが、それはまた別の話。


02:オンラインから始まる

お題「仮想現実」

menu /