※お題02「14:お伽噺より」と微妙に繋がっています。 高杉の旗艦と共に本部に帰還したのは神威だ。 第七師団の連中にも暫くは休暇と伝えているので船の整備が終われば奴等も何処か近くの星まで遊びに行くだろう。 いつもならそれに混じって休暇を堪能する神威であったが今回は違う。 折角高杉と一緒に居られるのだ。この機会を逃す手は無かった。 当然の様に高杉の背をドックで見付けて神威は後を追う。 高杉の腹心も胡散臭げな顔で神威を横目に見つめたがそれを気にする神威では無かった。 邪魔者なのはいつものことだ。 高杉の部下達から必要以上に歓迎をされていないことを神威は知っている。 全く侍というのは厄介だ。強さだけが物を云う世界では無い。 作戦を考える奴や根回しする奴が居て、それに目くじらを立てる奴や、賛同する奴、様々である。 そしてそれを束ねているのが高杉だ。 鬼兵隊の頭である男。 最後の侍。 目下この男を知ることが神威の最大の目的である。 いつもなら殺してる。 とっくに殺して仕舞ってサムライというものを堪能してそれで終わりだ。 けれども高杉は違った。 殺したいのに殺せない。己のものにしたいのに、己のものにはならない。 できない。何故なら神威が欲しているのは有りの侭の高杉だからだ。 この男が己の地獄でもがく様が神威には堪らない。だからこそ壊せない。 己のものにしてしまいたいという欲を押し留め神威はいつも高杉を伺う様に見るのが常である。 横から見るこの男もミリョクテキだ。 神威は高杉の隣を歩きながら思う。背後から刺すような視線があるがそれも神威は気にならない。 黒い髪は指を通すとさらさらとしているし、いつも吸っている煙管の匂いが高杉のそこかしこに染み込んでいる。 その匂いが好ましいと思うようになったのはいつからだろうか。安堵を覚えるようになったのは一体いつのことだったか。 片方しか無い眼も好きだ。高杉は答えの代わりに目を動かすことがある。 誘う様に横に流れる様がいつも堪らない。高杉の背は高くない。ちょうど神威と同じ。それが少し神威には癪だ。 自分は成長期だから直ぐにこの男を追い抜くに違いない。そうなるとこの男を見下ろす形になってきっと見え方もまた変わるのだろう。それを想像すると神威は酷く機嫌が良くなった。 指も、ちらちらみえる脚も、高杉の何もかもが神威を惹きつける。 「ねぇ、」 高杉、と名を呼ぼうとした瞬間、阿伏兎の聲があがった。 「団長!てめぇ!また仕事放っぽりだしやがって!」 「あーあ、見つかっちゃったか・・・」 通路の先には阿伏兎だ。報告の為に先に出ていたが見つかって仕舞ったらしい。 神威は肩を竦め隣の高杉を見遣った。何か報告があったのか阿伏兎は小言を云いながらも高杉の腹心の河上万斉と話している。 それを眺めながら神威は不意に高杉に口付けたくなった。 ( 噫、でも駄目だって云われた ) 高杉の部下が高杉に釘を刺したのだ。 無暗矢鱈に外でするな、と。高杉はそれを察して神威の口付けを外では許さない。 以前はそれでも傘の中で隠れてしたけれど、今は室内だから傘は不自然だ。 此処は往来で高杉の部下が沢山居る。 だから神威は少し考えた。 考えた末に、己で最も最良と云える答えを出した。 「高杉、」 不意に神威は高杉の手を取り、其処に口付ける。 唇は駄目だがこれは駄目だとは云われていない。 勿論神威はそれがどういう意味かも知りもしなかった。 一瞬の沈黙のあと、それを遠巻きに見つめていた万斉が呆れた聲を上げる。 「拙者、腹がいっぱいでござる。あとは勝手にするでござる」 続いて阿伏兎も云った。 「俺も腹ぁいっぱいだ。食堂行ってくらぁ」 方々に散っていく面子に神威だけが頭上にいくつものはてなマークを浮かべ高杉を見た。 「お腹一杯なのに、なんで食堂なんだろうね?」 「・・・さァな・・・」 高杉からすれば意味はわかってるが一々神威にこの何も知らない餓鬼に返事をするのも面倒だ。 面倒なのである。 未だに高杉の手から指を離さない餓鬼を果たしてどうしたものか、高杉は天井を見遣りながら、後でまた万斉にどやされらぁ、と半ば諦め気味に天井を見上げた。 07:お手をどうぞ |
お題「スキャンダル」 |
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