※後日談です。 「ワンパターン・・・」 その日、ワンパターンと云われて絶句したのは神威である。 あれから高杉との付き合いは順調である。身体の関係も良好で、どうやら高杉はビッチは卒業してくれたらしかった。 重すぎる童貞の責任を神威を自分のものにすることで高杉は取ったのだ。男らしくて実に立派であると阿伏兎は胸の内で高杉にエールを送っている。 しかしその日は勝手が違った。高杉が事後に煙草を燻らせながらぽつりと漏らしたのだ。 神威の攻め手がワンパターンであると。 「って云われたんだけど・・・」 朝食を調達してきた阿伏兎にぼんやり神威が洩らせば阿伏兎は盛大に顔を顰めた。 神威のこの手の話は大抵がノロケだが、今回はどうも勝手が違うらしい。 「そりゃなんか足んねーんじゃねぇのか・・・?わかんねぇけど、プレイ的なのとか・・・」 「縛りプレイとか?」 プレイと云えばそれしか出てこないのが神威である。大いに健全な嗜好の持ち主であった。 ちなみにマニアックなプレイを連想した阿伏兎は汚れた大人である。 「いや縛りとか、つかそういうの寧ろ高杉の方が団長を縛りそうだぞ・・・」 「それはそれで燃える・・・」 末期である。神威の高杉に対する想いは非常に重量級かつ発想が柔軟であった。 「って云われたんだけど、旦那はどうしてんの?」 阿伏兎にそういうことは師匠に訊け、と投げられたので神威は仕方無く師である鳳仙の元へ向かった。 開口一番に挨拶抜きで訊くのがこの師弟である。そしてそれが房事のことなのだが真面目に答えてくれるのもまた師弟愛と云えるのかもしれない。 「女としか寝たことがないからわからぬわ」 あっさり切られた。 だがそこは鳳仙である。夜王と云われた男の伝手は広い。 「なら呼んでやる、当人にでも訊け」 子飼いの店からホストを召還したのだ。 ちなみに名前は入山君、借金800万のうち600万を返済した勤労青年である。彼氏有りだ。 「かくかくしかじかでそういうわけで俺が晋助に捨てられたら困るからコツとかあったら教えてよ」 「そう云われましても・・・」 困ったのは入山君である。 行き成り呼び出されて何かヘマでもして沈められるかと覚悟したところでこの問いだ。心の準備もできていない。 「あ、やっぱ説明されてもわかんないから、実地でやってよ、彼氏呼んでさ」 「いや流石にそれは・・・」 遠慮したい。房事を人に見せる趣味は無い。少なくとも入山青年にはなかった。 それにアブノーマルなプレイの経験など無いのでこの夜王の秘蔵っ子、跡継ぎに教えられることなど有りようも無い。 ヘマをしたら殺されるかもしれないと思うと出来る筈も無い。 「残りの借金これでチャラにしたげる」 「よろこんで!」 入山君はお金に正直であった。 * 「まあつまり、俺が気持ち良くなるのを優先するんじゃなくて晋助を気持ちよくさせるかぁ・・・焦らすとか・・・成程・・・」 煙草が灰皿から溢れているが溢れている其処に更に煙草を捩じ込んで神威は新しい煙草に火を点けた。 「阿伏兎、勃ったー?」 傍らに青褪めた顔をして佇むのは阿伏兎である。ちなみに入山君は頑張っている。二百万チャラだから頑張っている。 「なんのゴーモンだよこれ・・・」 「うん、俺も勃たない、でもまあ晋助に置き換えればいけるかな・・・」 煙草の山だけが積み上げられていく。くしゃみをすれば灰が吹き飛びそうだ。 神威に鳳仙に訊けと促したのは阿伏兎である。だから仕方ないが、まさか生の鑑賞に付き合わされるとは思わなかった。 正直見たくない。何が悲しくて人のセックス(しかも男同士)をじっくり観なければいけないのか・・・。せめて男と女とか、女がむちむちでエロいとか、女同士とか、それで3Pに雪崩れ込むとかそういうのだったら天国だったが、現実はそうでは無い。 じっくり細部まで観ることを強制される部下の悲しみは神威にはわかるまい。 「あとでこれ報告書出しといてよ」 「勘弁してくれ・・・」 さらっととんでもないことを云う子供は我らが第七師団団長様である。 そしてその考察により、神威の腕は少しだけあがったとかあがらなかったとか。 後に高杉は語る。 ワンパターンだが、嫌いなわけでは無いと。 何せ神威は至れり尽くせりだ。意外に尽くす男だったのか高杉とは馬が合う。一途な神威に絆されたのも大きい。 それに事後の馴れ合いも不思議と嫌ではなかった。 『馴れ合う』ことなど御免だと思っていたが、中性的な神威だからこそ、そういった嫌悪が無いのか、或いは別の理由なのか、高杉はそっと寝入る神威を抱き締める。抱き締められている事実を知らないまま、神威は幸福な眠りに落ちていた。 その頃、阿伏兎は報告書を纏め、それから追記で上司に意見具申した。叶えられないとわかっていたが、書かずにはいられなかった。 『できればむっちむちの女同士とかそういうのがみたいです』と。 俺の上司はワンパターンで一途 |
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