ゆらゆら暖かい。ふわふわした心地にミツルは眼を醒ました。 お湯だ。身体を動かそうと思ったけれどミツルの手はまるで鉛のように重い。 ( あれ、どうしたんだっけ )ぼんやりミツルは覚醒しない頭で考える。 しかしそれも一瞬のことだった。 「直哉・・・」 此処はバスルームだ。直哉は気絶したミツルを運んで湯船に入れてくれたらしかった。 案の定ミツルの声は擦れて仕舞っている。あれだけ喘いだのだから当たり前である。 何があったのかは明白だ。直哉と最後までした上に、ごめんなさいと 散々喘がされた揚句もっとと強請って、どろどろになるまでセックスをしたのだ。 「具合はどうだ?」 直哉に云われて、ああ自分は意識を失ったのだとミツルは悟った。 あれだけやったのだから意識くらい失う。ただでさえ体力のある二人がセックスをしたのだ。 一体何回交わったのか思い出したくも無いほどミツルも直哉もどろどろになった。 どのくらいどろどろかと云うと恐らくミツルが身動ぎすれば直哉の吐き出した精液が泡立って尻から溢れるくらいだ。もう指を動かすのも辛い。 最後の方の記憶がミツルは飛んでいたが少なくとも意識を失う寸前に、もう無理、と直哉に懇願したのに、直哉がミツルの中から溢れる自分が吐き出したものを見て火が点いたのか容赦無くまたミツルの中に入ってきた。 ミツルも鍛えているつもりだったが矢張り直哉の方が体力は上である。 成長途中のミツルと違って直哉の鍛えられた身体は二十四という年齢もあり恐らく今が一番ピークだ。逆にどれだけ鍛えればそんな身体になるのか訊いてみたい気もした。 「なんとか・・・と云いたいけど、もう身体を動かすのも辛い」 「自業自得だ」 直哉がミツルに不遜に云い放つ。確かに散々直哉を煽ったのはミツルだ。 直哉の云い分によるとミツルはこの二年、直哉を焦らして焦らして焦らしまくったのだからこうなったのは当然かもしれない。 「俺は良かった、もうお前以外とセックス出来る気がしない」 直哉に良かった、と云われるとミツルは直哉への抗議の口を閉じるしかない。 確かに良かった。直哉とのセックスは凄く良かった。 経験豊富なミツルがあんなに善がって喘いだのは初めてだ。 直哉とのセックスは正気を失うほどに気持ち良かった。 多分ミツルと直哉は相性が良い。ミツルはテクニックの上での上手い、下手というのは理解できたが本当に相性が良いとそんなものは吹き飛ぶのだと知った。 「お前はどうなんだ?ミツル?」 「どうって・・・」 どうもこうも無く良かった。滅茶苦茶良かった。けれども此処で良かったというにはどうにも癪だ。 ミツルは最中に直哉に云わされた恥ずかしいセリフの数々を思い出して顔から火を吹きそうになった。 いつもならお得意の笑みを見せればよかった。良かったか?とミツルに事後のことを問う人は多い。 だからミツルはいつもその返事として意味深な笑みをみせて話題を変える。 なのに今はそれが出来そうに無い。もう直哉を誤魔化せるとはミツルは思わない。 でも素直に良かったというのもミツルの矜持が許さなかった。 ミツルが黙っていると焦れたのか直哉がミツルの身体に触れてくる。 「なんだ、足りないのか、じゃあもっとよくしてやる」 ぐい、と直哉の身体を押し付けられてミツルは再び直哉に身体を弄られる。 ミツルとしてはいくらなんでも今日は終わりだろう、と思っていたから突然の事にミツルの身体は上手く反応できなかった。 「ちょ・・・直哉・・・!」 ミツルの抗議の声は直哉からの口付けによって掻き消される。 強引なキスだ。直哉の口付けは奪うように激しい。 「ん、んんっ・・・!」 直哉に舌を絡められ、しかし最初の襲うようなキスでは無くこれはミツルを溶かすキスだ。 歯列を割られ唾液を絡め足の指を舐められた時のようにゆっくりと嬲るような意地の悪いキス。 たっぷり二分間、咥内を余すところ無くその舌で弄られて、そしてミツルは漸く直哉から解放された。 「直哉・・・」 ミツルの抗議は直哉には通じない。ミツルに情欲を煽るような口付けをしていながらも直哉は突然「後処理をする」と云って立ち上がりミツルも釣られて直哉に促されるままにタイルの上によろめきながらも立った。あれだけ直哉と交わったというのに先程のキスで少しミツルのものが固くなっているのがミツルには居た堪れない。 「自分でできるからいい」 もう恥ずかしい。ミツルは確かに疲れているがなんとか手くらいなら動く。 だから自分でできると直哉に云うのに直哉はあろうことかボディーソープを手にするとミツルにとって最も嫌な笑みを浮かべた。 何をする気か咄嗟にミツルが悟って、浴室のドアの外に逃げようとするが遅い。 直哉はわざとミツルが傷めている右腕の方を捕らえ自らの腕の中にミツルを引き寄せた。 「っ、痛い」 「その内痛みなど感じなくなる、その様子だと何をされるかはわかってるんだな」 つまり痛みが快楽になると直哉は暗に云っているのだ。直哉にそう云われるとミツルはぞくぞくとした快感が身体に奔るのを感じた。ミツルの嗜好はノーマルである筈なのに、嫌だ。 このままでは直哉に全て染め上げられるようで、恥ずかしい。 「うるさい、変態、直哉」 「変態と罵られるくらいでお前を得られるなら俺は別に気にはせん」 そうじゃなくてお前は確実に変態だろ、とミツルは云いたいが直哉は聴く気はなさそうだった。 一度ミツルとセックスをした所為か直哉の態度に余裕が見える。 「どうせ隅々まで洗ってやるとか云うつもり?」 「ご名答」 離して、とミツルが云う前に直哉の手がミツルの身体を滑る。直哉のいやらしい手にボディーソープがたっぷり絡んでいたので文字通り吸いつくように直哉の手がミツルの肌に滑った。 「っ・・・あ、」 ミツルは疲れている、正直もう勃つのも辛いのに、直哉はおかまいなしにミツルの肌を責めた。 ミツルを嬲るようないやらしい指遣いだ。 「もう気持ちよくなってるのか、淫乱」 「それ、や、だって・・・、ッ」 直哉は言葉責めが好きらしい。生来の傾向なのか、Sッ気がある。しかし実際の処直哉はミツルに関して耐えるということに対しては自虐的であり、どちらかというと焦らされるという点ではMであった。逆にミツルは今直哉にこうされて自分がMなのかもしれないと疑いつつあるが性的な傾向を除くとミツルは割とSである。ベクトル的に双方上手く噛み合っているから問題はなかったが、矢張り少々複雑な兄弟であった。 「うあっ」 直哉の指がミツルの中を弄るととろりと、直哉の吐き出したものがミツルから溢れる。 試しにと直哉がミツルの下腹を押せば押し出されるようにそれがミツルの尻から溢れた。 排泄を見られているような感覚にミツルは喘ぐ。必死に抵抗するが直哉は強い力でミツルを押さえつけた。 「あっああっ、みるなって、、、」 「溢れているぞ、ミツル、まるで涎を垂らしているみたいにはしたなく垂れ流している」 「い、云わなっ・・・ッく、、」 直哉に、はしたないと云われる度に恥ずかしい今の自分の状態を思い知らされて ミツルは死にたくなる。もう嫌だ、ミツルは殴ってでも直哉の言葉責めを止めさせようとしたがそれも直哉の不埒な指がミツルの足の指の間に伸びたことでミツルの抵抗は不可能となった。 「んあああっ、いっ、、あッアッ、、!」 直哉に開発された足指の間を直哉の長い指が絶妙の強弱を以ってくすぐる。直哉がじっくりと撫でるとびくびくとミツルの身体が期待に跳ねた。もうみっともないとか云っていられない。 激しい快感がミツルの身体を襲い、足指を触られて直哉に触れられもせずにイってしまったあの屈辱がミツルの脳にフラッシュバックした。 「丁寧に洗ってやる」 喉を鳴らして機嫌良くミツルを苛めるのは勿論直哉だ。直哉はミツルを思う儘に弄んで愉しんでいる。 撤回しよう、直哉はSッ気があるんじゃなくてドエスだ。 「っあ、イクッ、、!」 もう我慢できない。直哉に足指の間と尻の穴の両方を掻き回されてミツルは堪え難い快感に頭が真っ白になる。意識が飛ぶような衝撃だ。 「っう、、あッ!」 どうにか悲鳴は堪えたものの、まだ吐き出すものがあったのかと驚くくらいミツルは吐精した。 べっとりと裏筋まで汚れるような達し方だ。 直哉は到達したミツルに構うことなくミツルの尻の中にある自分が出したものを掻き出していく。 イッたばかりのミツルにはそれが辛い。こうなればさっさと意識を飛ばすか、終わらせるかして欲しい。長く焦らされるように責めたてられるとミツルはどんどん自分が直哉にいやらしい言葉を云わされて、直哉に染まっていくようで嫌だった。 「イったな、ミツル、足の指だけでこんなんにしてそんなに此処がいいのか?」 「はっ、もっ、いや、だ、」 直哉に背後から抱き込まれ耳尻を噛まれ中を掻き回され足指の間まで弄ばれる感覚に、ミツルは慄えた。自然と腰が揺れて直哉を求めそうになる。 「ん、あ、っ」 くそ、こんなのじゃ自分ばかりが直哉を求めているようでミツルは悔しい。 当然ミツルを背後から抱き込んでいるのだから直哉の固く勃起したものがミツルの背に当たっている。 ( それなら )どうせなら、とミツルは後ろを振り向いた。 このままだと直哉に確実にまたヤられる。 いい加減もうミツルは限界だ。これ以上ヤられたらもう死ぬかもしれないとさえ思う。 直哉をどれだけ我慢させたらこうなるのか、ミツルは少し計算を誤ったと内心後悔しながらも兄を侮っていたと思い知らされた。 「直哉、ッ、あのさ、俺」 「どうした?欲しいか?」 「いや、ちがくて、ちょっと待って、」 ぐい、と直哉を押しのける。真剣なミツルの様子に直哉の手が止まった。 そうだそれでいい。なんとか尻を持ちあげて直哉の指を外してもらって、それからミツルは「俺がやるから、」と直哉に云った。 直哉はミツルの言葉に一瞬思考を停止したようだ。ミツルはその隙を逃さず直哉の股の間に己の顔をやり、直哉のものを舐めると意思表示した。 「いいのか?」 直哉の顔が驚きを隠せない。まだミツルとそんな行為は無理だろうとか考えていたのだろうか? ミツルは驚いている直哉を見て少し溜飲を下げた。まるで自分ばかりが直哉に弄ばれているのも癪だからだ。 「いいよ、直哉収まりそうにないし、俺もう限界だし、」 これ以上中に入れられたら擦れて痛い、と云えば直哉も納得したのかミツルの好きにさせることにしたらしい。 「舐めるよ、」 「どうせそれも初めてでは無いんだろうからな」 直哉の拗ねたような物云いにミツルは笑って仕舞った。 ああ、仕舞った、今ミツルは直哉を可愛いと思っている。 直哉の均整の取れたややミツルよりも出来上がった肉体の中心にある立ちあがった直哉の物をミツルは躊躇い無く口に含んだ。噛まないように注意しながらゆっくりとミツルが直哉にされたように 咥内と舌を遣って刺激する。 右腕が痛く、あまり体勢が上手く保てないので直哉の内腿に頭を凭れるようにして直哉を追い上げていった。 「っ・・・上手いな、、」 上手いと誉められればミツルも悪い気はしない。気を良くして少し強弱をつけて下から上へ、啜る様に直哉自身を吸ってやればたまらないのか直哉が、ぐ、とミツルの頭を強く押した。 「・・・っく、」 擦れるような直哉の声がダイレクトにミツルの下半身にクる。直哉にヤられない為に今舐めているのにその直哉にミツルが発情していればもう世話は無い。 ミツルは自分の欲望にやや呆れながらも直哉を追い詰めた。ちゅぷちゅぷと唾液を絡めればいよいよ直哉のものが張り詰めミツルに限界を知らせる。 ちゅう、とトドメに直哉の物を啜れば直哉がびくりと慄えた。 「ミツル、ッ、」 うあ、と直哉が聲を洩らして到達する。ミツルの咥内に吐き出された直哉のそれをミツルは全て受け止め残っている直哉の残滓を綺麗に啜ってから、直哉の精を床に吐き出した。 ( 不味い )正直あまり美味しいものでは無い。ぬちゃぬちゃ咥内が気持ち悪いし、ゴムもしていないから生だ。今思えば生で受け止めたのは流石に初めてである。 ( それを云ったら、直哉は喜ぶかな )どうでもいいことを考えながらミツルはシャワーを出して口を濯いだ。直哉は直哉でミツルによってもたらされた快楽の余韻に浸っている。 はあ、と直哉は色っぽく吐息を洩らしてから、その快感を隠そうともしない表情でミツルに視線を投げた。 「何処で覚えたんだ」 「多分、直哉が怒るから云わない」 「淫乱め」 「その淫乱が好きなんでしょ、直哉だって浮気者、」 ミツルが反論すれば、直哉は眉を顰めた。 自分は良くてもミツルのそれは許せないらしい。 そんな直哉の狭量でさえミツルは愛しく思える。 ( 好きだ、欲しい、もっと )互いの欲望は際限無い。 際どく誘って高みまで堕ちていきたい。 けれども今はくたくただ。ミツルはもう眠りたい。少し休ませて欲しい。 「嘘だよ、直哉が好きで好きでたまらなかったから全部直哉のこと考えながらしてた」 疲れに負けて素直にミツルが本音を洩らせば、直哉は少し気を良くしたのか肩を竦めた。 今日はもう疲れた。あとは泥のように眠りたい。ミツルは今すぐ風呂を出てベッドで眠りたくなってきた。 いい加減交わり尽くしたのだからもういいだろう。ボディーソープの泡をシャワーで流して上がりたい。 そうミツルが直哉に促すつもりで立ち上がれば、がし、と直哉に腕を掴まれた。 「まだだろ、ミツル」 嫌な汗が、つう、とミツルの背中に流れる。 「嘘だろ、もう無理だ、、って、」 しかし直哉は見逃さなかった。ミツルが先程直哉のものをしゃぶって勃起したことを。 あの直哉が見逃す筈が無い。 「中が擦れて痛いんだろう、俺が優しく診てやる」 再びボディーソープを塗りたくった直哉のものがミツルに押し入ってくる。 ミツルの抵抗も許さない一瞬の出来事だ。ベッドでも散々交わって先程ミツルがしゃぶって抜いたというのに、直哉のものは既に固い。 「ちょ、直哉・・・っ、、んッ、」 背中越しに上から圧し掛かられてミツルの逃げ場が無い。 「やだって、痛い、もう無理だって、」 雄々しい均整の取れた身体が、そしてそれに違わず綺麗に整った直哉の顔がミツルに近づいてくる。 ミツルは直哉に押し入られる感覚に甘い悲鳴を上げた。 「お前は誰の物だ?ミツル」 意地悪く背中で直哉が云う。ミツルはどうすることも出来ず床のタイルに額を擦り着けて喘いだ。 あまりの激しさに涎を拭くことも出来ない。直哉のもたらす酷い快楽がミツルを責める。 「ん、んっ、う、アッ、なおっ」 ずんずん、と抉られて、直哉の物は先程ミツルが抜いたばかりだというのに、どれほど剛直なのか、 こんなのはミツルの予想外だ。最早抵抗も許されず直哉という支配者にミツルは追いたてられていく。 ぬちゅぬちゅと奥を抉られ、床に縋りつくような姿勢でミツルは己のものから汁が漏れるのを感じた。 「誰の物だ?ミツル?」 意地悪な兄はミツルに問いかける。ミツルが誰の物なのかなんて決まってる。 わかっている癖に直哉は意地悪だ。とことんまでミツルを追い詰めて或いはこの上無い天上まで追い上げてミツルを堕としていく。 「あっ、ああああっ、なおや、なおやっ、の」 「いやらしい尻軽が、俺以外に抱かれてよかったか?」 酷い言葉で直哉はミツルを追い上げる。直哉の揺れに合わせて己の物が床に擦れてたまらない。 直哉以外が良いわけが無い。ミツルも直哉も誰と交わっていても考えていたのはお互いのことだ。 お互いのことばかりを考えて欲情していた。 直哉に決まってる。一度互いを識って仕舞えばもう、他のものなど選べる筈が無い。 ぐちゅぐちゅと直哉に中を抉られ、最奥で、或いは浅いミツルの前立腺を直哉の昂りで責められ、 ミツルは身も世も無く喘いだ。 「よくなっ、直哉しか、いらなっ、、、も、もうゆるし、、ひ、あッ、!」 「俺を考えてこんなにして、我慢汁を垂れ流していたのか、ミツル」 「ごめんなさ、あっ、ああっ、ッ、、、!」 「ッ、気持ち良くなって、そんなにこれがイイか?」 「イイっ、いいから、もっ、なお、や、あっああッ、出る、、!」 直哉の言葉に責められればもう駄目だ。意地悪な言葉に煽られるように絶頂がやってくる。 セックスのプレイにおける快楽は想像力だ。直哉はミツルのその想像力を最大限に利用し責めたて、ミツルを追い詰める。 びくん、とやや激しい頭を殴られたかのような衝撃にミツルは襲われながらびゅくびゅくと精を吐き出した。ミツルは、ああ、また沈む、とそう思いながらも、直哉の名を叫ぶ。 後ろを揺らされ、直哉の熱を感じながら、それでも貪欲にこの男を捕まえておきたいと思う。 「もっと、」と強請ったのは果たしてどちらだったのか、それさえももうわからなかった。 意識が遠のく、ミツルは揺らされながら直哉の熱が最奥に放たれるのを感じた。 けれどももう眼を開けていられない。絶頂の後の失墜はいっそ心地良かった。 あれから更に一週間の時が流れた。 つまりミツルが直哉から漸く部屋を出して貰えたのはあれから一週間後のことである。 七日間部屋に治療と称して籠って一体何をしていたのかというのは正直誰にも云いたく無い。 直哉の激しい責めと快楽はミツルを散々追い詰め、ミツルも直哉を求めた。 一体何処にこんな爆発するような性欲があったのかとミツルは我ながら感心すらした。 直哉も直哉で散々いやらしい事をミツルで想像していたのか、或いはミツルとのセックスが想像を超えてよかったのか互いに夢中になると云うのはこのことである。 朝から晩までベッドや浴室やソファ、果てまた床で交わり尽くして、直哉を強請らされて、言葉責めに追い立てられて果てた。激しい熱に浮かされたような衝動を散らして意識を失えば直哉と共に食べるのもそこそこにベッドで眠る。その繰り返しだった。 漸くその熱も落ち着いて、ミツルの右腕の筋も繋がり、回復したところで ミツルと直哉は普段の落ち着きを取り戻して行ったのだ。 「お前ヤっただろ」 開口一番に口を開いたのはカイドーである。ミツルの様子を見て察したのか、元々ミツルのセックスフレンドであったのだから流石というべきか。 カイドーにあっさり看破されてミツルは仕方なく頷いた。素直に認めるのは「本命とは寝ない」と云った手前どうにも恥ずかしい。 「まあね、逃げられなかったっていうか、」 配下の悪魔に指示を出す直哉をぼんやり眺めながらミツルは答える。 「ふうん、ま、良かったんじゃねぇの」 ヨかったんだろ?とカイドーに問われれば、これもまた頷くしかない。 カイドーがミツルに問うているのは性的な意味で良かったという意味だ。 「 秘密 」 ミツルが意味深に微笑めば、ぐあ、っといつの間に居たのかロキが悲鳴を上げた。 「嘘でしょ、ミツル君、もうナオヤ君専属になっちゃったって!」 うあああ、勿体無い!と悲鳴を上げるロキに直哉が容赦無く攻撃魔法を打ちこんだ。 勿論ロキは仮にも魔王に名を連ねる悪魔だ。その程度でダメージは受けないが、この二人が腐れ縁というのは本当らしい。ミツルはロキと直哉の遣り取りにやや感心した。 確かにあの直哉がロキに容赦無いということは利用し利用される利害関係があるからに他ならない。 「酷い、ナオヤ君、そんなことするなら洗いざらい君の過去の遍歴をミツル君にバラしてやる!」 とロキがわめいている。 「遍歴は興味あるなぁ」 「でしょ、ミツル君!ナオヤ君ね、ウチの特別会員だったんだけどもう酷いよー、人の足元見てお金踏み倒すし、やりたい放題だったよー」 サイテーだよね、と云うロキにミツルは微笑みながら応対する。 黙々と話を聴くモードになっているミツルに直哉は罰が悪そうに釘を刺した。 「おい、ミツル、本気にするなよ、そいつは嘘吐きだ」 「ナオヤ君だって嘘吐きな癖に、」 ロキの談によると直哉はロキの店で敢えて相性の悪いSの少年ばかりを指名して、力で捩じ伏せて、調教した挙句、相手が直哉に惚れたらポイしていたそうだ。確かに最低である。 しかし直哉ならやりそうではあった。 「へえ・・・」 「全く、ナオヤ君はウチの店の大事なSの子をMに変えちゃうからホント困ったよ」 「確かにやりそうだな、お前の兄貴・・・」 カイドーが煙草に火を点けながらコメントをする。ミツルもついでだからカイドーの煙草を一本貰った。 ちなみに一度冗談で封鎖前にロキがミツルに在籍を依頼した際に、名前を遣うのは別にいいとミツルに承諾を貰っていたので、直哉が来た際にカタログにミツルの写真を置いておいたら直哉は口にしていたお酒を噴き出したのだそうだ。 「それ以上云うと殺す」 「それ、人の咽喉にナイフ刺しながら云うセリフじゃないよね」 ぐさりと刺さったナイフを抜きながらロキが答える。刺したのは勿論直哉だ。 しかしロキはそれを気にした様子も無く血塗れのナイフを床に落とす。 ロキの傷はみるみるふさがった。 それを目の当たりにしてつくづく自分達は人成らざるものに成ったのだなとミツルは思う。 「篤郎には聴かせられない話だなぁ」 「おたく野郎か?」 カイドーに火を貰いながらミツルは煙草を燻らせ、マリと一緒に備品を運んでいる篤郎を見て眼を細めた。 「もし篤郎が成人してまだ誰ともセックスしてなかったら俺が篤郎を幸せにしようかなぁ」 ミツルはいい、直哉が居る。カイドーもマリが居る。この魔王の世界に人間は五人しかいない。 だから篤郎には幸せになって欲しい。何もかも友人だからと云う理由で全てを捨ててくれた友だ。ミツルにとって篤郎は聖域であった。 「それは聞き捨てならないよミツル君!僕と幸せになろうよ、愛人契約しようよ」 ずかずかと寄ってくるロキにミツルは微笑みながら背後の直哉を見遣る。 直哉は面白く無さそうに鼻を鳴らしてから、そして「篤郎は駄目だ」とミツルに釘を刺した。 「愛人契約はもう駄目です、残念ながら」 「最高の夜だったのにー」 煙草を燻らせれば直哉も吸いたいらしい。 己の火を直哉に分けながらミツルは今満たされていると感じた。 直哉が居る、カイドーがいて、マリ先生がいて、篤郎が居て、世界は終わって、新たに造り変えて、 全てが此処に在る。 「というか俺はロキ相手に勃つお前が信じられん」 お前はこれ相手に勃つのか!と、不機嫌そうに眉をひそめる直哉がミツルはたまらなく愛しい。 「まあ、俺は直哉が好きだけどね」 そう云ってミツルは、人好きする魅力的な笑みを漏らした。 11:満 |
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