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以下の文章は性描写を含む18禁描写が御座いますのでご注意下さい。
勝手ながら18歳未満の閲覧を禁止させて頂きます。
何卒宜しくお願い申し上げます。
ネタバレ、模造創作等含まれます。
尚、このシリーズはナオ主以外にも
カイドー×主人公、ロキ×主人公(×ロキ)が
ストーリー上存在しますのでご注意下さい。

ライブハウス特有の大音量が辺りに響く。
それに合わせて周囲からは歓声が上がった。

その日ミツルはバイト先に来ていた。
渋谷の裏手、細い分岐した路地の奥まったところにある地下のライブハウスである。
バイト先というからには真っ当に働いて金銭を得る為であって、遊びに来ているわけでは無い。
ミツルの家はどちらかというとリベラルだ。何事も自己責任という家である。
わりと好きにさせてくれている家風に甘えて、ミツルは夜遅くまで出歩いても咎められることは無かった。
そもそもミツルは背が高い。高校二年になった今既に180センチに到達しようかという身長だ。
故に大人として見られることが大多数であって、補導の心配も無い。父や母からしてみればミツルは
子供の頃から身長が高く、常に一番後ろに並べられていて幼いとか子供と云う単語は小学生の段階で既に連想すらされていない。高校生という点を除けばもう殆どミツルは大人の扱いだった。
ミツルは早い段階から早熟な子供であったし性的な意味でもそれ以外でも、
同じ年頃の子よりも大人と付き合うことがずっと多い子供であったのだ。
「ミツル君居ると売上あがるんだよね、」
ミツル君、と呼ぶのは店長だ。店長とはバイトをする前から既に顔見知りであったので
名字の柏木で無く他の皆が呼ぶようにミツルと呼ばれた。
今時カタカナな名前も珍しいのか、ミツルという名前は比較的受けが良い。
その店長が「もう暫く此処でバイト続けない?」と問うてきたのだ。
その言葉にミツルは丁寧にビールサーバーを拭いた後、少し困ったように微笑んだ。
「でも俺、代わりですし、」
一月だけの約束だ。このライブハウスは幼馴染の少女がわりと頻繁に顔を出す。
少し幼さの残る幼馴染の谷川柚子をミツルは放ってはおけず、遅くなる時は同じく友人の
木原篤郎と二人で迎えに来ていたことから、その伝手で此処でバイトしないかと誘われた。
「ミツル君、よく気が付くし、真面目だし、何よりイケメンだからさぁ」
少しカマっぽい口調で店長が云う様子にミツルは微笑んで仕舞った。
こういう人懐っこさはミツルは嫌いではないからだ。
四十を超えているだろう店長はどちらかというと強面なのに、どうにも女言葉が抜けない。
「うーん、でも俺未成年ですし、やっぱりバレたら不味いんじゃないですか?」
そう云いながらもミツルは目の前の女性客にビールを注いで渡した。
女性客は少しミツルを気にして、それから「またね」と名刺を置いていった。
「ほら、やっぱりミツル君居るとなんかいいのよねー」
MIKAとご丁寧にハートマークまで付いた名刺であることからその女性客の職種が伺えた。
背後では大音量でロックが流れる。此処はライブハウスなのだから当然だったが、ミツルはそれが
嫌いでは無い。殆どがインディーズとはいえタダで音楽が聴けるし忙しいのは最初と終わりだけで
後はだいたい掃除したり見回りをしたりこうして時々やってくるお客さんにビールや摘みを出すだけの
簡単な仕事だ。オールナイトの時は流石に少し疲れるがそれも慣れれば充分こなせた。
だからバイトを続けるのも苦ではないし、今此処を辞めてもまた次のバイトを探すだろう。
別にお金の為に働いているわけでも無かったがミツルは外で時間を潰すのが好きだった。
否、好きというのは的確では無い。実際そうせざる負えない状況だ。
ミツルは家に居るのをあまり好まない。両親は共働きで忙しく実家には大抵誰もいない。
そしてもう一つは・・・とミツルが思考を逸らしたところで呼ばれた。
「ミツル」
突然名前を呼ばれてミツルはびくり、とする。
静かな独特の響き、それは静謐を以ってこの大音量のライブハウスの中であってもいつも
ミツルに真っ直ぐに響く。ミツルは相手が誰かを確かめなくても直ぐ分った。
―直哉だ。
「直哉、来たんだ」
支給されているライブハウスの名前が入った黒いTシャツの長い袖をミツルが捲りながら答えると
直哉は当然と云わんばかりの顔をした。
「あら、ナオヤくんじゃない、いらっしゃい」
ビールサービスしちゃう!と店長が酷く機嫌が良さそうな聲で応対する。
その言葉に煽られるようにミツルは少しだけ溜息を洩らして、直哉に、つまりこの従兄の為に
カップにビールを注いだ。
カウンターだから明かりがあるがそれでもライブハウスの中は薄暗い。ライトはあったがそれは効果の為であって、基本的に暗かった。けれどもその暗がりの中でも直哉の顔ははっきり見える。
「今日はテストしていた音響の結果を取りに来た」
「ああ、はい、Hzの計測よね、あれ良かったわよ」
店長が直哉に渡す為に用意していたらしいファイルを取り出す。
直哉はそれをちらりと確認してからミツルが差し出したビールを呑んだ。
暫く無言で直哉は音楽を聴きながらビールを呑み、ミツルはそろそろ上がる準備として片付けを始める。
「ナオヤ君、ちょっとナオヤ君からも云ってよーミツル君月末で辞めるっていうの、
もうちょっと居てくれるようにお願いできないかしら」
直哉はちらりと顔を上げた。ミツルをじ、と熱のこもった視線で視た後、意味深に笑みを作る。
ミツルは、それを気にした風も無く緩やかにその直哉の熱い視線を受け流し奥で私服に着替えた。
「なんならナオヤ君もバイトしない?時給上乗せしてもいいから、イケメンが二人なんて
もうサイコー!」
ミツルは何も云わずに直哉を見る。直哉は心得たように笑みを見せた。
「ミツルの保護者は俺で、だから俺がこうしてミツルを迎えに来ている、ミツルが月末で
辞めると云っている以上仕方の無いことだ」
「もう意地悪なんだからぁ」
でも其処が痺れるー、と店長は言葉を追加して、「でも考えておいてね」とミツルに言葉を残した。
ミツルは今日はこれで上がりだった。

「帰るぞ」
「車で来たんだ」
直哉は何も云わずに車のロックを外した。
何処でお金を稼いだのか、だいたい想像は付くが去年この従兄はローンも組まずにこの車を
突然買ったのだ。以降ミツルはこうして度々直哉の車に乗ることも多い。
車のシートに背を沈めミツルはぼんやりこの出来過ぎた兄とも云える従兄を見つめた。
従兄の直哉は子供の時に両親を亡くしてミツルの家に引き取られた。
それから兄弟のように育った男だ。一昨年に家を出て自立したが、ミツルはそれをいいことに
実家と直哉の家を週の半分ずつ行き来している。
ミツルの両親は共働きで出張の多い仕事であったし、何より七つ年上の従兄に多大な信頼を寄せている。直哉の外面の良さは云うまでも無く、かといってミツルにとって押しつけがましくも無い。
家で一緒に育った時のように、直哉とミツルの距離は適度であった。
故に必然的にミツルの保護者は直哉になり、だから直哉の家にも半分住んでいる状態だ。
直哉はミツルの生活にあまり口を出さなかったが、こうして時々謀ったかのようにミツルを迎えに来る。
それがどういった意味なのかミツルはわかっていたがそれを口に出さないのもミツルの賢明さであった。
「バイトはどうするんだ?」
辞めるのか、とミツルに問いながら直哉はサードボードに投げ出されている煙草に手を伸ばした。
手慣れた仕草で火を点け窓を少し開けて煙を逃がす。ミツルはそれを気にした風も無く携帯を弄った。
「ん、辞めるよ、元々怪我した人の代わりだったんだし」
「暫くはフリーか」
「どうかな、また直ぐ次のバイト探すよ」
直哉はそれっきり何も云わない、運転に意識を戻したようだった。またミツルも何も云わなかった。
フリーだと云ったらどうするのか、とミツルは思う。けれども何も云わない。それはミツルの中の鉄則
であった。いくつかの交差点を曲がって暫くして車が停まる。駐車場だ。
直哉の家の近くに借りた駐車場で、直哉は手際良く車を停めて車のドアを締めた。

直哉の家、といってもアパートだ。青山の通りに面したアパートの外観こそ古びているが内装はかなり手入れされていて住みやすい。如何にも直哉が選びそうな部屋だとミツルはいつも思う。
内装はシンプルだ。機能だけを追求した結果こうなった部屋というのが正しい。
直哉好みで構成された部屋は一見直哉の外見からしてクールで綺麗かと思いきや、実際はそうでも無い。男所帯特有の乱雑とした部屋だった。直哉と実家に暮らしていた頃もそうだったので多少の汚さは別に気にもならない。
ミツルは手慣れた動作で定位置に荷物を置いてそれから携帯の充電が切れかかっていたとベッド脇の充電器に携帯を置いた。直哉はスリープモードにしていたいくつかのパソコンを立ち上げ既に仕事をする気のようだ。
ミツルは床に投げ出されていた直哉の服を手に、リビングの奥の小部屋の扉を開ける。
小部屋と云ってもそれなりの広さだったが、浴室へと続く脱衣所だ。其処に無造作に設置されている
洗濯機の中へ先程拾った直哉の服を投げ入れた。
そして自分の服も脱ぐ。自分の、というかこの服は直哉の服だ。
―ミツルと直哉の身長はほぼ同じだ。
足のサイズもほぼ同じ、だから互いの物を共有することが非常に多い。下手をすれば下着でさえ同じなんてざらだった。そしてこの家は直哉の家であって、あくまで独り暮らし用だ。
食器はかろうじて二人分揃えたが、ベッドなどは最初から一つしかない。
つまりミツルと直哉は同じベッドで生活している。
仲のいい兄弟だから従兄弟だから、とまわりには解釈されているがミツルとしてはこれが自然であったしお互いに然程人目を憚るとも思っていなかった。
まあ単純にこれがシングルサイズのベッドであったら下に布団を引いて寝ただろうが、生憎何を思ったのか直哉の拘りなのかベッドはダブルだった。
ミツルは当たり前のように直哉と同じ服を着て直哉と同じベッドで眠る。
目覚めた時直哉と自分の距離が酷く近い時があるがそれでもミツルは何も云わなかった。
直哉はよく相手の口から自分の思う通りのことを云わせようとする傾向がある。
頭が良くて実に卑怯な手だ。自分でリスクを背負い込むことをしない。なのに自分でリスクを背負い込むと決めたら直哉はとことんまで相手を追い詰める癖がある。
だからミツルは幼い頃から自然にこの意地悪で意気地の無い兄に対しての対処法を熟知していた。
これはもうミツルの才能と云っていい。直哉に対してだけでなくミツルは全方向に対してそうだった。
つまり要領がいいのだ。
だからこそミツルは直哉に対して何も云わない。云っても当たり障りの無いことだ。
学校の事だったり、付き合っている女の子の話だったり、そんな他愛もないごく普通の従兄弟同士の付き合いをしている。そんな心理戦をするくらいなら直哉が家を出た時に直哉と離れれば良かったのだがミツルは直哉と離れることは考えられなかった。直哉と離れることなど有り得なかった。
けれどもふとした時に二年前のことを思い出す。
それを思い出す度にミツルは直哉の求めることには決して応えまいと決意した。
ミツルは風呂場のドアを開けてそれからシャンプーをそろそろ買い足さないとな、と思った。


01:ミツル
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