握り締めた手は暖かい、
終(つい)の手は暖かい。
暖かくて、初めてそれが生きているということなのだと
当たり前のことを理解した。
生きるということは己に取って無価値だった。
無限に続く生の苦痛だと思っていた。
でもそうじゃない、そうじゃなかった。
生きるということは歓びなのだ。
愚かなのは、
「愚かなのは俺だった、もういい、もういいんだ終、
俺は誰の赦しもいらないのだと思っていた。
誰の赦しなどいらないのだ、と、
だが俺はお前を赦したい、お前に赦されたい、
もういいんだ終、お前は赦されていいんだ」
真っ直ぐに終を見る。
あれ程アベルに似ていると思っていたのに、
何故だかその終の顔は違って見えた。
そっとその頬を両手で包む、
終は驚きに眼を見開いたまま、それでも直哉を真っ直ぐ見た。
( そうだ、それでいい )
( お前は )
( アベルじゃない )
「お前は生きていっていいんだ」
終は、何も云わず、
立ち尽くして、
そしてゆっくりと頷いた。
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