※主人公設定違いです。
直哉=23歳、主人公=北条 羅刹(ほうじょう らせつ)16歳からスタート。
このお話にはDV要素、無理矢理など、暴力的な描写があります。
ご注意下さい。


携帯の着信に、直哉は話していた相手の言葉を遮って
電話へ出た。
「・・・またか・・・、わかった、世話をかけた」
「どうしたの?」と今話していた女が口にする。
アヤという女だ。情報が必要だった。
「その話は今度だ、用事が出来た」
また来る、と云ってからバーを出る。
手近なタクシーを捉まえて目的地へと直哉は向かった。

カードで支払ってから、車を降りる。
指定された警察署だと確認してから窓口で名前を名乗った。
程無くしてから通された部屋には困り顔の警官と無表情の従弟が座っている。
「従弟が迷惑をおかけしました」
兄です、と名乗れば警官は安堵したように直哉へと事の顛末を話しだした。
「困ったよ、もう何癖つけられたからって相手の骨を折るまで殴る蹴るの
暴行を加えたみたいでね、相手がこれだよ」
ス、と頬に線を入れるので、相手はそういう類であるということだ。
「で、通報にかけ付けたら『北条』だろう、参ったね、これで5度目だ、
いい加減こちらでも手がまわらない」
「すみません、よく云って聞かせますんで、勘弁してやって下さい。
祖父にも便宜のことは云っておきます。」
そうしてくれると助かるよ、と警官は頷いてから
従弟を開放した。
弟は始終黙ったまま直哉の後を着いてくる。
直哉は黙って煙草に火を点けてからゆっくりと燻らせた。

「間口から電話があった、お前引き取り拒否したんだって?」
余計な事を、と舌打ちをする弟に直哉は哂って仕舞う。
「いい加減、こんなことを繰り返すのはやめろ、お前の為にならん」
「別に直哉には関係ない」
そっけなく羅刹はそう呟いて直哉を睨む。
よく見れば薄く頬に傷があった。
「顔は傷つけるな、じいさんに殺される」
「くたばれジジイ」
忌々しげに毒を吐く弟に今度こそ直哉は溜息を吐いた。
北条の家は有名な伝統芸能の一族だ。
幼いころから芸の道一筋で、
祖父は人間国宝とされている。
表の世界にも裏の世界にもよく通った名のひとで、
祖父の力は絶対であった。
幼くして両親を失った直哉に、そして奇しくも
直哉と同じく飛行機の事故で両親を失った羅刹、
二人は従兄弟であり兄弟であった。
七つも歳が離れていれば直哉の影響力は凄かったし、
祖父の力が絶対とはいえ、殆ど家には寄り付かない。
幼い頃から羅刹はこの七つ年上の従兄と
だだっ広い屋敷で手伝いの家人と共に育てられた。
そうした関係で穏やかに伝統芸能の後継と成るべく育てられた二人であったが、
直哉は伝統芸能にだけではなく、他の分野でも天才と云われる能力を発揮したので
祖父は直哉には芸能とは別の道を見出したらしい。
直哉が出て行ってからここ一年は後継ぎは羅刹ということになっていた。
そう決まってからだ、この従順でおとなしかった弟が突如反抗しだした。
反抗期というには遅い。
直哉が家にいなくなってから途端に家に帰らなくなり、
かといって直哉に連絡をするでも無い。
最近では直哉のことさえ見向きもしなかった。

そんな弟に手を焼いて、保険をかけた直哉は
さりげなく羅刹の幼馴染の柚子や、来年には役に立って貰わなければ困る、
羅刹と同じ学校に入学した篤郎に弟を気にかけるように手を回した。
そうして三日と開かず報告される羅刹の私生活に
頭を抱える羽目になっている。
結局こうして警察に迎えに来るのも、怪我をさせた相手へ
対処するのも直哉の仕事だった。
家人の誰が迎えに行っても羅刹は動かない。
頼み込んでも駄目だった。
手を焼いた家人が直哉に連絡して直哉が姿を見せて
初めて羅刹は立ち上がる。
その癖直哉などどうでもいいと、振舞うのだ。
それがただの反抗ならいいが、一歩間違えると永遠に
この弟は直哉の手を離れていって仕舞う危うさがあった。

「何処へ行く?」
「直哉に関係あるのか?」
羅刹は振り向きもせず警察の扉を開け放って行って仕舞う。
その様子を見ながら直哉は哂いだしたくなった。
否、真実面白い。

「かわいいじゃないか、羅刹」

どうせ縋るのは直哉しかいないのだ。
幼いころからずっと直哉の手しか知らない。
厳格な祖父に、しきたりと家名だけの一族、
羅刹には直哉しかいない、
直哉に羅刹しか残っていないように、
「たった二人の兄弟だろう?なあ羅刹」
世界に自分以外誰がお前を見る?と哂ってやりたい。
「しかし、思い通りになるとも限らん、か」
直哉は手にした煙草を吸いがらに捨て、
弟の後を追った。

「確り調教し直してやる」


01:わたしの獣

ドS VS ドS。

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