その後の話:

大和は本来性的にはノーマルのつもりである。本人はノーマルだと主張しているが、華弥から見るとどちらかと云うと少々マゾっぽくもあった。しかし、大和は一度スイッチが入るとSになる。
正直性的な意味で華弥はSが好みである。はっきり云うと釣った魚に餌を与えないタイプが好みである。大和の甲斐甲斐しいことこの上ない釣った魚に餌を与えまくる様は華弥を辟易とさせたが、要するにこれは傍らで二人の様子を伺っていた大地からすると世界を変えてまで行ったM寄りの大和をSにする華弥の壮大なプレイにも見えた。
大和に「殺す」と云われてから華弥は少し落ち着いた。安堵を得たのか、少しづつ穏やかになり、ジプスの仕事にも復帰している。相変わらず気紛れで暴力的ではあったがそのあたりの手綱の握り方を大和も心得たらしく、前よりもずっと関係は良好だった。
性的な相性で云えば、男同士全く以て大地からすれば不毛ではあったが相性が抜群に良いらしいので、そのあたりの心配も無用である。

「此処か?華弥」
大和が意地悪に問えば華弥はふるふると首を振り、涙を零した。
「っ・・・あ・・・・・・、」
先程から大和は緩やかにしか動いていない。
怠慢な動きでけれども大和は内から華弥を刺激し続け、苛めていた。
ベッドに腕を縛られ、華弥は自由になる足ですら大和に掴まれている。
華弥の好い処を大和はわざと外して動く。イけそうでイけないその感覚に華弥は身悶えた。
「動いて欲しいなら強請ってみせろ、足を開いて、そういい子だ」
「・・・・・・っ、う、」
涙を流しながら華弥は喘ぐ。
華弥の好みはSである。華弥自身もどちらかと云うとSではあったが、大和にこうして強気に出られるとぐらつくのは確かであった。あの後、大和という存在を華弥が認めるに当たって、大和は様々な事を考察したのだと云う。無駄に真面目で頭の良い男であるからして何を云うのかと思えば性的嗜好の話であった。大和とのセックスは『お仕置き』でなければこれ以上無い程紳士的で優しいものばかりだ。それが華弥の好みで無いと漸く理解したらしい大和は「君が望むのならやってみせよう」とわけのわからない情熱をセックスに注いでいる。これもその一環であった。
確かに華弥は酷くされるのが好きだ。
「欲しいと云え、華弥、」
大和の眼が冷たく光る。望む言葉を華弥に云わせようとする。
確かに好きだが、これは何と云うか頂けない。
実際考えても見れば大和は十七で華弥にはそれが気に食わない。プレイであっても年下に好きにされるのは限りなく屈辱的なのである。状況に酔えていればノることも出来たが、我に返れば大和を殴りたくなるほど腹が立った。
「調子、のってんなよ、大和」
思わず云って仕舞う。ふ、と華弥に影が出来たかと思うと大和は壮絶な笑みを浮かべて華弥を見下していた。
華弥はそれを見て、あ、やばい、と思った。
スイッチを入れてしまった。
何のスイッチって決まっている。大和のドSスイッチだ。
後はもう思い出したくも無い。大和の独壇場であった。
「・・・・・・あっ、ああ、やめっ、大和、ッ」
「足を広げて欲しがっておいてよく云う、淫乱」
足を限界まで広げられ、屈辱的な体位で大和がずちゅずちゅと華弥の中を突く。突かれる度に、大和の出したものが其処から溢れ、その刺激でさえ華弥を追い詰めた。胸の突起を嬲られ、舌と指で全身を責められて、息が上手く出来ない。苦しさから逃れようと霞む視界で大和を見れば、口付けを強請っていると勘違いされたのか、大和が深く舌を絡めてきた。
「・・・ん、ふ、っ、ぅ、」
抜かれていたものが再び奥へ入る感覚に華弥が鳥肌を立てる。限界が近いことを悟られたのか、大和の冷たい視線が華弥の羞恥を煽った。口端から涎が零れるのすらもう華弥には止めることが出来ない。
「もう根を上げるのか?華弥」
「やめっ、あッ、」
莫迦にしたような大和の態度に、かっとなる。けれども揺さぶりは止まらず、華弥が抗議の聲を上げる前に達せさせられて仕舞った。
「ふ、う、ッ」
ぶるぶると快感に慄える華弥を見下ろしながらも大和は動きを止めない。
「イイのか華弥、奥に欲しいだろう?」
相手は十七だ。華弥より年下でしかも最悪なことに男だ。こんな屈辱的なことは無い。蹂躙されるように縛られて、好い様にされて、好みではあっても矢張りそれは屈辱だった。複雑な感情を大和に抱いたまま、達した快感に続く快感についに華弥は刺激に負けた。
恥ずかしい、これ以上ない程無様な自分に腹が立つ。けれども詰られれば詰られるほど感じてしまう。
屈辱的な快感に華弥はぞくりとした。多分自分にMっ気は無かった筈だ。
けれども大和が堪らなく華弥を煽る。目の前の男が欲しくて堪らない。
「欲しい、欲しいから、奥に早く、、ッ」
云って仕舞った自分に自己嫌悪しながらも、大和の厳しい責めに、華弥は意識を失うまで飲まれた。
「いい子だ、お強請りは覚えたな、褒美をやろう」
「・・・あっ、アアッ、く、あ、もっと、ッ、大和、ッ」
びくびくと背を逸らし、望まれるままに強請る言葉を云えば、大和は喉を慣らし、そして一層深く華弥を責めた。
奥深くに大和を感じながら、華弥は必死で大和を乞う。痛みと快楽と少しの自己嫌悪、そしてそれを上回る充足感が華弥を覆い尽くした。

『と云うことがあってだな』
「もう何そのデレかた!やめてよ性生活暴露するの!」
俺聞きたくないんだけど、と電話口で叫んだのは大地である。
こうしてほぼ毎日大地は大和からの電話報告を聴かされていていい加減うんざりである。
大和にしてみれば、志島のクズだけど華弥の幼馴染だからまあ話してやる的な実に高圧的な態度でこうして延々と大地に華弥との関係を話すのが楽しいらしかった。一度面倒になって大地がその電話をぷっちしたら、散々電話を鳴らされた挙句、志島組本部まで来られたので、以降は電話を取るように心掛けている。面倒だけど。
「それで、今度は何スか」
『噫、あれは効いたのでな、礼と報告を兼ねて』
「あ、やっぱり効いたんだ」
あれとは先日ふらりとまた華弥が居なくなった時に、暫くは好きにさせていた大和が華弥を呼び戻す為に使った手段のことだ。
大和はもう華弥を縛りつけてはいない。何処にでも自由に行かせるし、しつこく華弥に構うこともしない。
華弥は猫のようにふらりと消えてそしてまた大和のところへ戻っていく。
以前の様に華弥も無茶はしなくなった。通りすがりで誰かを助けたり喧嘩をすることはあっても、誰かと寝るようなことは無い。何より前よりよく笑うようになったと思う。そんな華弥を見るのは大地も嬉しい。
「良かったじゃん、」
ヤマト、と云いかけて大地は電話口から華弥の怒鳴り声を聴いた。何事かと耳を澄ませばどうやら華弥は憤慨しているらしい。

『ニキビ出来たんだけど!』
『ニキビ?どうした華弥』
華弥は普段全くニキビなどと無縁であったが、かなりの不摂生が続くと極稀に出来る。と云っても些細なもので、いつも苦労している大地からすれば羨ましい限りであったが電話口の華弥はそうでは無いらしかった。
『絶対、今日朝までヤってた所為だ、昨日は無かった!』
『済まない華弥、そのぐらい直ぐ治るさ、だから』
『そのぐらいって何だよ、お前は全く出来ない体質だからそんなことが云えるんだ』
『わかった今すぐ最高の医者を用意する、こんなことで君の美貌は霞まない』
そんなやりとりが聴こえ、ついに華弥の苛々がピークに達したのか、ゴッ、と云う音が聴こえ、恐らく大和が華弥に殴られたのだと伺えた。それを必死に宥めすかす大和を見るとこの二人は相変わらずだな、と大地は思う。
「お幸せに〜」
巻き込まれるのは御免だ。ご馳走様と大地は通話を切った。後は二人でどうとでもして欲しい。そして大地を巻き込まないで欲しい。
ナントカは犬も喰わないってヤツだ。
そして当の二人はと云うと、華弥は数日分の衣服を持って出ていくところであった。
追いかけようとする大和に緊急の仕事が入る。華弥はそれに鼻を鳴らし、「じゃあ、行くから」と大和に云った。
振り返り様にその綺麗な眼を大和に流して、悪戯に微笑みながら、華弥は不遜に云う。

「帰って来て欲しかったら、鳴らせよ」
大和は華弥の言葉に一瞬目を見開き、それから微笑を浮かべ、了承した。
「盛大な花火を上げるさ」
これは今二人の合図になっている。


花火をあげて。

読了有難う御座いました。

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