※連作の方の設定に乗っているので神威が童貞だった設定です。


彼を無理に奪い、番ったのは神威だ。
最初は抵抗されるかと思ったものだが、案外組み伏せれば高杉は簡単に力を抜いた。
何故抵抗しないのか問うてみれば意外とあっさりとした口調で彼は「無駄なことはしない」と云ったのだ。
それからはなし崩し的に彼の褥に神威は訪れている。
そうして高杉の夜に闇に紛れるようにして神威はこの不思議な魅力を持つ男を抱くのが常だった。
「此処?」
「・・・っ」
ひゅ、と息を漏らしたのは高杉だ。
神威は慣れた仕草で高杉を揺らした。
何もかも、高杉に教えられたことだ。
抱きたいのだと云えば、童貞を棄ててこいと云われ、それでも高杉が良いのだと襲えばついに許された。
彼が酷くそういった最初だとかそういうことに対して思うところがあるのを神威は承知しているつもりだ。
恐らく、これは神威の想像だが、高杉が最初に神威と寝るのを拒んだ理由として「初めて」であるからだと云った。高杉は以前そういう相手と、これも神威の勝手な憶測だが、恐らく桂とかいう男とそういう関係になっている。時間が経つにつれそれが面倒だと彼なりに結論を出したのだろう。だから拒まれたのだと神威は思っている。
故に、こうして高杉との夜を過ごせるようになった時、神威は細心の注意を払った。
夜兎である神威の力では高杉の骨を折ることなど簡単だ。
高杉を傷付けてはいけない。
ゆっくりと羽根に触るように、神威は常らしからぬ慎重さを以って高杉を抱いている。
それも高杉にとっては意外だったのだろう。
奪うのなら強者らしく奪えばいいのに神威は決してそうはしなかった。
まるで高杉に仕えているかのように高杉を扱う。
そもそも神威は高杉を力で奪えば簡単だったのに長く高杉に手を出さなかった。
まるで高杉が高杉のままであって欲しいと願うように、それを象徴としているかのように、神威はそういう風に高杉を扱うことがある。手を出したいのに出せない。壊したいのに壊せない。欲しいのに、欲しがらない。けれども手を伸ばさずにはいられない。
それが高杉には不思議らしく、神威が優しく高杉に触れる度に、その片方しかない目を細めた。
「他の誰かとも寝るの?」
「必要があればな」
「あるいはあなたの気が向けば?」
高杉は何も云わずに煙管に火を点ける。神威はそれを見届けてから、一度休憩だと中から自身を引き抜いた。
高杉との夜でがっついてはいけない。それは最初の方で教えられた。
前後不覚になるほどすれば高杉は具合を悪くしたし、神威も神威であまり気持ちの良いものでは無いと途中で気付いたからだ。
だから高杉のペースに合わせる。それが一番神威にとっても気持ちが良くなるのだとわかってからは神威は高杉のペースに付き合うことにしたのだ。
それに褥での会話も悪くは無かった。
この時だけは高杉も常より少し饒舌になる。そんな高杉のする様々な話を知るのが神威は好きだ。
一度作戦の話を房事の最中に延々とされて流石にそれには辟易したが、概ね高杉の時間を独占するというこの行為は神威にとっては心地が良い。
「高杉が他の誰かと寝てるなんてぞっとするな」
「お前はそういうの気にしないと思っていたがな」
「惜しくなったんだ、気にしてなかったけど、やっぱりいい気分じゃない、仮に目の前で自分の好い相手が誰かとどうにかなってたら流石の俺も殺すでしょ、相手ごと高杉を殺しちゃうかも」
「まあ確かに、わからなくもねぇな」
「じゃあ、俺以外とは寝ない?」
悪戯に笑みを浮かべて神威が高杉に近付きながら問えば、高杉は意味深な笑みを浮かべて煙を吐き出した。
「そういう縛り方が望みか?」
「いいや、俺は奔放な高杉が好きなんだ」
「なら、口を出すんじゃねぇ」
そう云われると神威としては腑に落ちない。この年上の大人に好い様にされている気分になる。
「そういうところがあんたはずるいよね、俺騙されてるみたいな気になるよ」
「騙されてたらどうする?」
珍しく興が乗ったのか高杉が口を開いた。
神威はいよいよ気分が良くなって高杉に口付ける。

「騙されてたらそうだなぁ、鬼兵隊なんてやめて俺のところの副官になってもらおうかな」
「阿伏兎はどうすんだ」
「阿伏兎は雑用係りで置いといてさ、高杉と宇宙を征服するんだ」
いいでしょ?と神威が問えば高杉はその子供じみた回答に気を良くしたようで、再び神威が侵入しても何も云わなかった。
つい、と細められた高杉のその眼に確かな熱を確認して神威はぞくりとする。

その眼がいい。
誘うようなその眼。
片方しかないのが本当に悔やまれるけれども、それでもその眼は存分に神威を煽った。
「・・・っ」
聲を堪えながら高杉は呻く。
その低い聲がダイレクトに自身の腰にキて堪らない。
身体中を緩く噛み、或いは彼の身体の至るところにある古傷を舐めれば高杉は堪らないと、吐息を漏らした。
その吐息すら飲み込みたくて神威は彼の手にある煙管を奪い、それから彼に口付ける。
舌を絡めあからさまな情欲を隠しもせずに、高杉が好むであろう角度で、神威は彼に乞うように口付ける。

欲しい。この男が欲しい。
何度達してもこの男を手に出来ない。
この男を殺せば自分のものになるだろうかという欲望はある。
欲望はあるが、神威は行為の時その欲からいつも目を背けた。
失って仕舞えばもう二度とこの男は手に入らない。
この男の吐息も、哀れな生き様も、蝶のように飛ぶ様もその何もかもが神威を捕えてやまない。
だから殺しては駄目だ。今高杉を殺せばこの男は永遠に己の地獄に逝って仕舞う。
高杉の地獄では駄目なのだ。高杉は神威を見ない。神威など欲していない。それがわかるからこそ、高杉の抱えた地獄のまま高杉を死なすのは逃避でしかなかった。
高杉を殺すなら神威の地獄が良い。
「ねぇ、騙してよ」
騙してくれたのなら、高杉を連れて、地球などと云うくだらない檻から解き放って、神威は高杉に全てを与えられる。
己の地獄を存分に味わいながら神威はこの至高の男を殺して真に得られる。
「騙してくれたなら、俺はあんたを此処から解き放てる」
高杉は答えない。
答えの代わりに高杉は腰を動かし神威を誘った。
「いやらしいひと」
神威は目を閉じてその感覚に呑まれることにする。
今この瞬間高杉に欲されているのは確かなのだ。それに悪い気はしない。
だから彼を高みに導くために教えられた手順で、神威は高杉を貪った。
「眩しくていけない」
いっそ繋いでしまえば傍に居てくれるのかという問いはどうしても云えなかった。
高杉をこの獣のような男を己から離れないように、繋いでしまいたい。
そうしてずっとこの男と暗闇を歩めればいい。

此処に光がある。
きらきら光る暗闇に灯るひとつの煌めき。
夜兎には得ることの出来ない光。
手を伸ばしても得ることの無い光のかけら。


「だまして、よ」


決して掴んでくれることは無いのだと、わかっていても、その光は神威を照らし、魅了して止まない。


06:きらきらひかる。

お題「宵闇」

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