神威達夜兎の地球の食についての評価は高い。
高いので偶に地球食専門の店に繰り出すこともある。
何せ質より量の夜兎だ。けれども人気があるのか稀にそういう機会があると皆こぞって地球食を堪能すべく大枚を叩いた。
普段戦場ではそんなもの食せるわけも無く、また戦場から戦場へと移動する艦の中での食生活も言わずもがな。
地球食というのは神威達夜兎にとってちょっとした贅沢なのだ。

その贅沢が近頃神威の元へよく転がり込んで来る。
高杉だ。
高杉と居ると神威は美味しい物が食べられる。
こだわりがあるのか、単純に高杉の育ちの所為か、連れて行かれる店は軒並み今まで接待で出されたどの食事よりも美味しいものばかりだ。地球はどんな食べ物も基本的に美味しいが高杉と行く店で出されるものは更にその上を行った。
お蔭で高杉に釣られているのか食べ物に釣られているのかわからないと阿伏兎に小言まで食らう始末だが、それさえも気にならない。
高杉晋助は見事に神威のハートどころか胃袋を鷲掴みしたのだった。
それに満足しながらも、蜜月とも云える高杉との鬼兵隊の付き合いは目下順調である。
順調であるが、神威にはひとつの不満があった。
高杉とは床を共にする仲だ。
互いに知った身体である。少なくとも今一番高杉と密接であるという自負が神威にはあった。
他にやるつもりもないけど。
だから、だ。
例えば打ち合わせの時、次の作戦についての時、神威は基本的に指示されることが少ない。
難しいことは夜兎には向かない。
唯一例外的に第七師団副団長の阿伏兎だけが、そういった知的なことも対応ができる。
その阿伏兎でさえ地球種は頭がいいとかなんとか頭を抱えているのだから、高杉達には神威達夜兎には無い才があるのだろう。
それ故に夜兎が使われるだけの存在に成り下がってもいけない。そういうのは塩梅だ。
戦闘は楽しいがそれに狂った結果現在の夜兎は絶滅危惧種になっている。
そういった歴史から夜兎とて、ただ誰かに使われるだけでは無い。
基本的に宇宙最強と云われる強さを持つ種なのだから状況を覆すのは簡単なのだ。
使う方もその危険を承知しているからこそ阿呆元提督の様に邪魔になれば夜兎を抹殺しようという輩が出てくる。
鬼兵隊はどうだろうか?神威は愉しければそれで良いが、どちらにせよ、己の嗅覚でのみそれを判断する。
好きか嫌いか、夜兎はシンプルだ。そして現在好意的な意味で高杉の鬼兵隊に第七師団が手を貸している形になっている。
打ち合わせをするのは阿伏兎で、何やら熱心に向こうの参謀格である、武市という男や万斉という男、そして高杉とも話をしている。
それが退屈で高杉の所に纏わりつくようにしていると高杉が、ぽん、と神威の頭に手を置いて懐から何かを取り出した。
「菓子だ・・・」
「それでも食っとけ」
仕方無いので渡された包みを開けて黙って口にする。
すると高杉はまた話の輪に入って何事か指示をする。

( あ、これわかった・・・ )
最初は嬉しかったのだ。
高杉がこうして地球の食べ物を神威に呉れるのが単純に嬉しかった。
高杉の懐からは魔法のように色んな菓子が常備されていたし、或いは呼び出されて部屋に入れば豪華な会席が用意されていたりもする。高杉は持成し上手なのだ。こうした付き合いを今まで神威は高杉以外でしたことが無かったので、新鮮かつ、大事にされているという嬉しさもあった。
が、・・・しかし最近気付いた。
( はぐらかされてる・・・ )
つまり、そういうことだ。
高杉は何らかの理由で神威に邪魔をされたくない時に、こうして菓子を寄越すのだ。
( 餓鬼じゃあるまいし・・・ )
扱いが完全に子供にするそれである。
思えば神威にも覚えがある。妹がうざかった時、適当にイカゲソを炙ったものを彼方に放り投げて自分から引き離したではないか。
一見上品に見えるが、根本はそれと同じである。
ふと、阿伏兎を見遣れば複雑そうな顔で神威を視るので周りにも子ども扱いを察せられてそれもまた腹が立つ。
怒りでは無いがこの現状に覆いに不満がある。
神威はこう見えても第七師団団長であり、宇宙最強を自負するに王手をかけているという自信もある。
高杉と夜も共にしているというのにこの扱いは何か。
ちょっと子供扱いが過ぎないか。
神威は大人である。十八は夜兎の中では大人だ。なのにあんまりだ。
ぽりぽりと懐紙の中に入った和三盆は美味であったが、そういう問題じゃない。
そうこうしているうちに、話し合いが終わったのか高杉が前を歩き出す。
咄嗟に阿伏兎を見ればお手上げというように肩を竦めてみせるので、堪らなくなって神威が高杉を追いかければ絶妙なタイミングで高杉が神威に振り返った。

「ほらよ」
「・・・っと」

投げられたのは小さな箱だ。
慌てて受け取ると、常に渡される菓子より丁寧な包装だ。
明らかに神威の為に用意しただろうそれ。
意図が解らず、開けてみろと云われて中を開ければ金平糖だ。
一度、高杉の出入りする遊郭で食べたことがある。
色取り取りで綺麗だとひとつひとつ取り出して枕元で食べていた。

「てめぇを思い出したからよ」
「・・・またこども扱い・・・」
ぷう、と頬を膨らませる神威に珍しく高杉が聲を上げて笑った。
揶揄されている気がしないでも無いが、こうした高杉は珍しいので悪い気はしない。
ふと気付けば綺麗な小箱の間に、紙が挟まっている。

― 今夜、いつもの店で ―

( 子供の扱いなのか、大人なのか・・・ )

子供扱いは止めて欲しいのに、こうして大人の扱いもして。
夜の誘いなんてしちゃってさ。
( 噫、もう全く仕様の無いひとだ・・・ )
( 俺を揶揄って・・・なのに、誘って・・・ )
仕方のないひと。
高杉は不思議な男だ。
殺意と同時にくすぐったい甘さが共存する不思議な人間。
それが堪らなくて神威はいつもこの男に夢中になる。
高杉が神威を思い出したと云う金平糖。
ひとつ手に取り口に含めば甘さが広がるそれ。

「ほんと、堪んないや」

あまい、甘い金平糖。
きらきらと宝石のように輝く色とりどりの星の菓子。
それはふわりと煙草の香りがした。


15:金平糖

お題「お菓子」

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