「君子危うきに近寄らず、って云うけどさぁ、俺は危ないとわかってても手を出したい派だし、そもそも我慢できないし」 唐突に神威が云い出した言葉に高杉はうんざりとした顔をしながら煙管から煙を吐きだした。 神威の指は既に高杉の襟を掴んでいて不埒な動きをしている。 それを叩きながらも高杉は事に及ぼうとする餓鬼を諌めた。 「しかたのねぇ餓鬼だな、しかも凶悪ときたもンだ。それが本能だってか」 高杉が煙を吸いながら問えば神威は肩を竦めて見せる。 「かなり気を遣ってるんだけどね、これでも。俺高杉は他よりずっと特別扱いしてるつもりだし、ね、いい?」 いい、と云われて頷けるものか。だいたいこの状況で事に及ぶ方が狂ってる。 場所こそ上空に待機させている高杉の旗艦の一室であったが、そもそもそんなことに興じている場合では無い。 「いやだと云ったら?」 けれどもこの餓鬼には通じないらしい。 一度欲せば貪欲な餓鬼だ。 それが夜兎の特性なのか、神威の性格なのかは計りかねたが、とにかくこの餓鬼は一度執着すると相手を滅ぼしかねない悪食である。 「らくにシてあげようと思ったけど、朝までコースかな」 「なら、もう少し殊勝にしろ、俺だって都合があらぁ、せめてあれぇ片付けて来い」 神威の頭を押しやり高杉が外を指差す。 神威を動かすには褒美が必要だ。 そして今はそうするのが一番だと高杉とてわかっている。 「いい加減焦らすの上手いよねぇ、高杉は、じゃあ俺が片付けてきたら朝までしても?」 仕方ない、頷いてやれば神威はひらりと身を翻して窓から飛び降りる。 外は戦場だ。 派手に暴れまわる餓鬼を見遣りながら高杉は焦らされるような心地に、或いは身体の端から焼け焦げるようなその感覚に酔い痴れる。 07:しりとり |
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