※3Zパラレル。お題06「14:交友関係がグローバル」の微妙に続き。


「テスト休み最高」
はあ、と神威が息を洩らす。
その神威をうざったそうに押しやったのは高杉だ。
ベッド脇に寄せられていた己の制服のポケットからどうにか煙草の箱を捜し出し、無造作に投げられていた神威のライターで火を点ける。
煙を肺に吸いこんでゆっくりと吐く。
漸く出来た一心地に、「とりあえず抜け」と高杉は神威に促した。
「ジョーダン」
絶対ヤダ、と神威が食い下がるのはいつものことだ。
高杉は煙草を吸いながら、目の前の神威に煙を吹きかけてやる。
「も、充分だろ」
ヤりすぎだ。
テスト休みだから、と神威に云われていつものようにだらだらと麻雀するつもりで(何と神威と高杉はなんだかんだで麻雀仲間になりつつある)神威の拠点の一つである、如何わしい店が沢山入った古いビルに寄ればこれだ。
高杉が神威の部屋に上がるなり押し倒されて、それからもう三度はヤってる。
いい加減下半身が怠い。風呂に入りたい。
それに先程、神威と同居している阿伏兎が帰宅しているのも確認済みだ。
そもそも神威の部屋はドアが壊れているのか最初から無い。すだれみたいなチャラチャラしたのがかかっているだけだ。
だから余計にこの状況は居た堪れない。
居た堪れないのだが神威がそれを聴く筈も無く・・・うんざりしながらも腰を揺らす神威を受け入れる羽目になる。
( 一度寝ちまったのが失敗だったか・・・ )
何の拍子か、つい、だ。朝方まで麻雀してしまって、神威のベッドで寝入っていたらそんなことになった。
怠かったから、まあいいかと赦して仕舞った高杉にも落ち度はある。
この点については不問にしよう。倫理観とかそういう意味で。
けれども神威とだらだらこの不毛な関係を続けて仕舞ったことはまずかった。
「もうちょっといいじゃん、高杉だって明日休みだろ」
泊まるのが当然と云う風に云われると「帰る」と云いたくなる。
泊まるつもりだったけど。
家の事情が複雑な高杉にとっては神威の存在は有り難い。それまで万斉や友人の家を転々としていた高杉にとって家族と生活しているわけでも無い神威の家は居心地が良い。実際、神威の父である星海坊主と妹と暮らす家も別であるらしかったが神威は専ら師である鳳仙が寄越したいくつかの場所に居ることが多いので基本的に気兼ねの必要が無い。万斉とて一人暮らしのようなものなので楽だったが、複数の人間が多数出入りする神威の家の方が滞在することに気を遣わないでいい分、楽なのかもしれなかった。
「なら明日にとっとけよ」
もう寝ねーぞ、と高杉が煙草を灰皿に押し付けながら云うと神威は拗ねたように頬を膨らませる。
見た目だけなら相当良い物件である神威だ。
その明るい色の髪を引っ張って耳元で「風呂」と高杉が云えば神威は渋々高杉から退く。
退く瞬間、神威のものが中を刺激して高杉はぴくりと肩を慄わすが、聲を上げるのはどうにか堪えた。
未だ不満そうな神威を足蹴にして高杉は適当にあった神威の衣服で下肢を拭く。
タオルは無いしティッシュの箱は空なのだから仕方無い。
神威はそれをベッドから眺めながら煙草に火を点けた。
「高杉はさ、俺と居たらいいよ」
「は?」
突然神威が云うので苛立ち交じりに下肢を拭いて返事をすれば神威がにやにやと厭らしい笑みを浮かべるので癪だ。
「鳳仙の旦那だって高杉のことはお気に入りだし、仕事手伝わせる気満々だし」
鳳仙だ。夜王鳳仙。神威の師だという男は文字通り裏社会に精通した、表向きは夜の産業で財を成した男である。
その男に先日高杉は神威と香港で引き合わされてヤケに気に入られたのは最近のことだ。
お蔭で未だに夜王鳳仙が手配した送迎の車が高杉には四六時中付いてくる。
迷惑だからやめろと伝えたが、護衛も兼ねてると強引に承諾させられた。
流石に数台の車はうざかったので一台に纏めるということで話はついたのだが、学校全体を黒塗りの車が囲んだ時には眩暈がしたものだ。
こっちは高校生である。至って普通だと思っているつもりだ。
向こうは普通でないと思っているが、高杉的にはこれが普通なのだから勘弁して欲しい。
「だから俺以外とは寝ないでネ」
冗談めかしに神威は云うが目は本気である。
「男となんざ誰が好き好んで寝るかよ」
「わかんないよ、高杉だし」
女は仕方ないけど、と神威が云う。
「どういう意味だよ、それ」
「淫乱とか?そういうの?」
「殺すぞ」
流石に腹が立ったので一発殴るかと神威を見遣れば神威の方が早い。
あっと云う間に神威に腕を引かれて再びベッドにダイブだ。
文句を云おうと高杉が神威を見上げれば思ったより真剣な顔だったので言葉に詰まる。
( あ・・・ )
唇が下りてくると思った頃には重なった。
整った顔で、さらさらとした髪が零れて、青い眼のそいつが見下ろしてくる。
「俺のもん」
「うるせ」
腹が立つ。
こんな奴に好きにされるなんて腹も立つというものだ。
なのにこいつはいつも真っ直ぐに己を求める。
そうして青の眼いっぱいに己を映す。
それが何なのか、その感情の奥にあるものが、己も本当は同じかもしれないなんて認めたく無い。
降る口付けを享受しながらも、じわじわと湧くその感情を持て余す。
それを認めたく無い。認めるわけにはいかない。
なのにこいつが、いつもいつもあんまりにも真っ直ぐだから、受け入れそうになって、唇が震えた時に・・・。

「もー俺のヨメになんなよ」
そんなことを云うから、
「ふざけんな」

やっぱり一発殴って高杉は神威の腕から抜け出したのだった。


05:認めたくない

お題「進路相談」

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