※夜兎に関して模造設定などがあります。

神威は高杉を待っている。
高杉の馴染みの宿に顔を出せば外出中だと云われたので畳みで寝そべりながら高杉を待っているのだ。
地球は暑い。暑い上に陽が強いのでそれだけで神威には過ごしにくい。影の強い風通しの良い部屋へ案内されたがそれでも地球の夏は神威には堪えた。こんな悪環境の中でよく妹は生活できるものだとそればかりは神威は感心する。しかし陽に慣れるということはそれだけ夜兎の力の弱体化を示す。陽に慣れた分だけ回復力が下がるのだ。どういうわけだか夜兎にはその傾向があった。勿論陽に慣れて且つ回復力も変わらないのなら、神威や他の夜兎とてそうするが、デメリットが大きい。故に神威は自分の肉体を陽には晒さない。かつての師がそうであったように、故に最強であったように。いくら陽に慣れても夜兎は結局光には勝てない。光は身を滅ぼす。だから妹のしていることは無駄なのだ。
畳に寝そべりながら邪魔な包帯を取り去り外套を畳に投げる。
そしてぼんやりと神威は高杉のことを考えた。

夜兎は直線的に物事を捉える種族だ。思考がシンプルで単純。難しく物事を考えず、悩まない。
けれども最近神威は想像力がついた。
高杉を知ってから神威は想像するということを覚えたのだ。
記憶の中の高杉の身体を思い出す。
高杉は神威にとって官能の全てだ。
えろいのである。
今までそういったことを理解しなかった神威だったが、これだけはわかる。
高杉は夜兎のそういった本能を刺激する類の男だ。
相手は別の種族だ、しかも男であるというのにこれほど情欲を覚えたのも神威にとっては初めてだった。
一度高杉の身体を知ればもう駄目だ。引き寄せられるように神威は高杉の身体に嵌った。
( 高杉のえろいとこ・・・ )
勿論全部だ。
でも見えるところなら、足首、手首、鎖骨、呼吸に上下する胸、そして何より目線だ。
口数は少ない癖に高杉は眼で語る。
その眼の動きがたまらなく神威を惹きつけた。
あのひらひらした服もいけない。獣の本能というか高杉の一挙一動に引き寄せられて仕舞うのだ。
そして想像する。
高杉の足に触れて其処から指を這わせ、上にあがる。
帯を解き下着を取り去り、脚の付け根まで指を這わせてそれから唇を寄せる。
ゆっくり高杉自身に指で触れながら唇を上半身に寄せる。
端々まで触れていないところが無いまでに口付けを振らせれば高杉が息を洩らすだろう。
堪らないと、云わんばかりに苦しげに息を洩らして、それに気を良くしながらも己は高杉を征服する為にその身体を籠絡する。
脇、首筋、耳、普段見えない眼帯の下に舌を這わせ、口付けをし、ゆっくりと高杉を煽る。
脚を抱え上げ、高杉自身を煽りながら中に指を這わせてゆっくりと追い詰めるように撫でれば高杉が悲鳴を上げる。
甘い切羽詰まったような聲、それが堪らない。
堪えるように、いつもくぐもった聲。
その聲を己が出させているかと思うともう駄目だ。
( あ、ヤベ、勃ちそう・・・ )
其処で我に返る。
熱くなってきた自身に、神威は畳に寝そべりながらも高杉が戻ったらそれを全部してやろうと思う。
押し倒して、嬲って、己自身を高杉に埋めて、熱い交わりに溺れたい。
やめろと云われても止めるものか。
高杉がいやらしいのが悪いのだ。
そう胸中で想っていると襖が開いた。

「おう、来てたか」
「高杉・・・」
相変わらず目の毒な薄い衣服だ。
こんな恰好でうろついているかと思うと神威は眩暈がする。
このまま押し倒して犯そうと思っていたら、ふいに神威の頭に影が落ちた。
「待たせて悪かったな」

一瞬の、ことだ。
高杉からの口付け。
一瞬のそれ。
触れるだけの口付け。
それだけで神威の邪な欲が散らされて仕舞った。
( 高杉からなんてずるい )
滅多にない。
自然に、何でも無く、突如降る、それ。
高杉から不意に神威に与えられるあたたかいもの。
それはいつも透明で、きらきらと輝いている。
( 本当、ずるいや・・・ )
これでは何も出来ない。
否、神威は高杉の為に何か返さなければいけない気にすらなる。
ずるい。
本当に。
「ずるい・・・」
「そりゃ、悪いな、食事の手配をしたから連れていってやる」
用意しろと促されて結局、神威はそれに従うのだ。
「ずるいなぁ、本当」
「なンだよ?」
不満か?と問う男に、神威は肩を竦めながら立ち上がった。
「アンタがイイ男ってこと忘れてた」
「褒めてんのか?貶してんのか?どっちでぇ?」
高杉の問いに神威は微笑みながら、口付けを返す。
触れるだけの、透明なそれを返す。

「褒めてるよ」
この男は、酷く悲しく、孤独で、誘う癖に、優しく、うつくしい。
記憶の彼方に捨てた、透明であたたかいものがこの男の中にある。
地獄に立って尚、この男の中に奥底にそれが、ある。
( 俺はいつもそれを捜してる )
それに触れたくて、その名前を知りたくて、神威はこの男に手を伸ばす。


18:或いはそれこそがこの男を抱く真理なのだ。

お題「想像力」

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