※3Z設定。ややパラレル模造設定を含みます。


夜兎高の神威と銀高の高杉晋助とは元々は敵対していた筈で、互いの面子をかけて勝負を挑むような間柄であった筈だ。
けれどもこの頃では少し勝手が違った。神威と高杉の縁は奇縁ではあったが、なんとなく続いて仕舞っている。今のところ麻雀面子という認識で大体合っているのだと高杉は思っているし、周りの認識はそうである筈だった。色々説明するのが面倒なことがあって現在の状態に収まったのだ。
故に最近では比較的頻繁に高杉は神威の家に顔を出した。
家と云っても神威はいくつか拠点を持っている。実際の家は兄弟である神楽や親である星海坊主の暮らす家であるらしいが、あまりそちらには帰っていないらしく、専ら彼の師であるらしい男が使っていないからと寄越した如何わしい店がいくつか入っている老朽化の進んだビルとマンションを兼ねた場所に居ることが多かった。最も高杉とて似たようなものである。実家との折り合いが悪く必要な時しかなるべく帰らないようにしているので高杉もこうして神威の拠点に顔を出すか万斉のマンションに入り浸るかのどちらかが多い。
高杉に関しては複雑な事情があったのだが、とにもかくにも、現状では高杉にとっては帰る家がひとつ増えたという程度の付き合いではあった。

朝方まで麻雀を打っていてそれからだらだらと神威のベッドでこれまただらだらと身体を繋げてしまった。
そのつもりは無かったが、いつの間にかこうなった。こうなったので仕方無く高杉的には宿代だと思って割り切っている。
神威がどういう腹づもりかは測り兼ねたが、とにかくこういう関係になって仕舞った。我ながら爛れた十代を送っているという自覚はあったが成って仕舞った物は仕方無い。そういうものである。
別に女では無いので失うものもそれほどない。性リスクを回避できれば良いだけの話であるしそんなもの女でもリスクはあるのだから気を付けていればいい。その点だけはきっちり神威に伝えたので神威も理解はしたのか、ゴムを使うし、痛みだけが伴う行為も嫌いでは無い。最近ではどうにか達することも出来るようになったが、正直あまり深く考えたくないので臭いものには蓋をしているという状態で、互いに深く追求せずだらだらしている。
行為を終えた後簡単にシャワーを浴びてうつらうつら神威のベッドを占領していたら起こされたのだ。
「んだよ・・・」
ねみーと高杉が洩らせば、神威が「ごめん」と謝る。
この男がこういった反応をするのは珍しいのでどうにか目を開ければ神威が高杉も起きて、と促すので矢張り只事では無い。
「どうしたよ?」
どうにか高杉が身体を起こして枕元にあった煙草を探し火を点け肺に煙を入れれば漸く目が醒めてくる。
ぼんやりと二、三吸ってから神威を見れば既に着替えているらしく、携帯で時刻を確認すればまだ朝の六時である。
寝入ってから二時間も経っていないのだ。眠い筈である。
「ちょっと出掛けるんだけど、高杉も来てよ」
「は?」
いいから急いで用意して、と云われて急かされるままに用意をする。
一階に下りれば阿伏兎が車を用意していたらしくそのまま移動だ。
そして高杉は、姿を消した。

「香港?」
「そ、今はいねぇぜ」
暫く留守にする、と高杉から連絡があったので、訝しげに思った万斉が阿伏兎の元を訪ねたのだ。
すると、今は此処には居ないと返された。ならば何処か?と問えば『香港』ときたものだ。
「確か、神威殿は香港から越されたのであったな」
「そう、んで師匠ってぇのが今向こうに来ててよ、呼び出されたんだと」
「それで阿伏兎殿は何故こちらに?何故晋助まで?」
万斉の疑問は最もである。
万斉の問いに阿伏兎は苦い顔をしながらも答えた。
「俺ぁ、赤点取って補習があったンだよ、次落としたら退学だからよー・・・高杉については向こうのご指名だ」
常なら神威に付き添う筈の阿伏兎が同行しなかったのにはそういった訳がある。云業は向こうに着いて行ったので大丈夫だろう。問題は高杉である。朝方、「今日の朝食に間に合うように顔を出せ」と無茶ブリな連絡が来て慌てて神威を起こし、それから二人の旅券をそれぞれの実家に取りに行って空港まで送ったのだ。
「当分は帰って来ないんじゃねぇの、俺も補習終わったら行くけどよ」
では晋助の様子を見てきてくれ、と万斉が頼んで、それから学校へは何と云うか、些か悩んだのであった。

一方、その頃高杉は、と云うと。
至れり尽くせりである。
行き成りちょっと出掛けると云われて行先は香港である。高杉もご指名であったので行ってみれば神威の師であるという男、夜王鳳仙である。流石に高杉でも知っている。表向きは有名な企業を取り仕切る男であったが、その裏ではキャバクラや風俗業界の一大グループを運営する正に夜の王と云われる男なのだ。
その男がまさかの神威の武芸の師であり、どう見ても堅気には見えないその様子から今でこそ教師だがかつての星海坊主も絶対まともな職じゃねぇなと高杉は確信した。そもそも神威は堅気の匂いがしないのだ。高杉が云うのも何だがそういう種類に属している。
そして少し遅めの朝食に間に合った高杉が何故俺を呼んだと問うてみれば「顔を拝んでおこうと思ってな」と一言で片付けられたので堪らない。
「おい、てめぇ俺をなんて説明しやがった?」
ぐい、と神威の胸倉を掴んで高杉が問えば神威はへらへら笑いながら「運命のヒト」と答えるので堪らない。
道理で呼びつけられるわけである。
「でも鳳仙の旦那も高杉のことが気に入ったみたいだ」
手ずから茶を淹れてるから、と云われて断るわけにもいかずその茶を高杉が呑めば、満足そうに鳳仙が頷き、それから贅を尽くした部屋に案内され、神威と香港観光をしながらもだらだら過ごす羽目になった。
その上麻雀である。
あの夜王が混ざっているのだから構えないわけにはいかなかったが、矢張り其処でも甚く気に入られて高杉は辟易した。
「年寄りの我儘だと思って付き合って」と神威に云われれば仕方無い。
「その年寄りが女子大生と結婚すンのかよ」
意外なことに鳳仙は最近結婚したのだという、しかも相手は女子大生だ。妻は日の輪と云う。これがまたしっかりした女で、高杉を見て「これなら安心」と訳のわからない太鼓判を押したので高杉にはこの状況が不気味であった。
こっちは制服で香港くんだりまで連れてこられて、訳がわからないまま神威の師とやらに接待されているのだから不気味以外の何物でも無い。
「まあイイんじゃない、俺高杉と結婚するし」
「はァ?」
神威のその言葉に聲をあげたのは高杉である。
何の話だ。
一体何の冗談か。
「鳳仙の旦那も俺より高杉の方を気に入っちゃって、学校辞めるか卒業したらこっちの仕事手伝えって乗り気みたいだし、高杉のポストも用意するって張り切ってるし」
「なんで俺がてめぇのヤクザみてぇなファミリーに組み込まれてンだよ」
ふざけるな、と高杉が云ってももう遅い。
「此処数日で色んな人に会ってお茶飲んで麻雀したじゃん、」
「おう・・・」
それは事実である。
事実であるが・・・一体どういうことか。
「あれ、高杉のお披露目だったんだよネ、鳳仙の旦那もそろそろ引退したいみたいで、俺に後を押し付ける気みたいだし」
「それに俺を巻き込むな・・・」
はあ、と高杉が溜息を吐いてももう遅い。ならば仕方無い。高杉は麻雀牌を手に鳳仙に告げた。
「俺に勝ったらな、神威てめぇもだ、ふざけたことなんざ二度と云わせねぇ」

結果、阿伏兎が着いた頃には高杉はその場をぎりぎり勝ち抜けたのであるが、それが一層鳳仙に火を点けただとか、神威が一層高杉に入れ込んでいただとか、この男なんとしてでも欲しいと言わしめただとか、或る意味伝説になったのであった。



「やっぱり流石ッス!晋助様!」
「夜王を制するなんて晋ちゃんやるーぅ!」
「しかし、鬼兵隊をないがしろにされるのは困るでござる」

「・・・んで、高杉クンよぉ、暫くぶりだけど何処行ってた?」
銀八が久しぶりに登校した高杉に問えば高杉は一言、「香港」と答えた。
「制服で香港行って何してたんだよ、最近のこーこーせーは・・・」
「麻雀だろ、帰す気配がなかったからよ、夜王っつー男と麻雀して勝ったから帰って来たんだよ」
スパーと不機嫌そうに煙草を吸う高杉に呆れるが、それ以上に銀八は頭を抱えていた。
「ウン、そんな嘘みたいな話普通信じないけど、信じるよ・・・高杉クン・・・だから帰ってもらって、この黒塗りベンツの群れを学校前から撤去して貰って・・・」
生活指導室から見える学校の校門前には何台もの黒塗りベンツだ。
勝つと思っていなかった勝負をものにした高杉に返って入れ込んで仕舞ったらしく、神威の師が寄越した護衛である。
高杉は、溜息を吐きながらも、さて、これをどうしたものかと頭を捻った。


14:交友関係がグローバル

お題「香港」

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