※パラレル。高杉=商家の若旦那、神威=顧客
11:それこそ狂気の沙汰である」の続き。


神威に一筆書かせて署名をさせた契約書を作成し、高杉は今回の大型注文の発注作業に取り掛かった。
こちらも最新型の巡洋戦艦を仕入れる以上やることも山のようにある。
最短でも二週間は応答にかかること、納品には二ヶ月は見積もって欲しいと神威に了承を取り、あとの発注に関しては現在の旗艦と駆逐艦に詰め込める分は運ぶように手配した。
そして、あとは神威の所望するものの納品である。
即ち、高杉と一晩。
何処でとも些か悩んだが神威の艦でというのも連れ去られては堪らないし、かと云っていつも神威を泊めるのに使っている離れというのも癪だ。自分の部屋と云うのも納得し兼ねたが、いつも神威を泊めるのに使う来客用の部屋で致すのも嫌である。結局内心がせめぎ合った末に高杉は神威を屋敷の離れにある自身の部屋へ案内した。

「最初に訊くけれど、初めてだよね?」
「男相手はな」
「そりゃ良かった、経験あるとか云われたら俺あんたの性経験を全部聞き出さないといけないところだった」
「・・・・・・俺ぁてめぇのイロになるつもりはねぇ」
情人になるつもりは無いと高杉が云えば神威はそれにさも当然のように頷く。
「勿論、高杉はそのままでいいよ、俺もさ、高杉を攫うか此処を襲うかも随分悩んだんだけどね、あんたはこうしてる方がきっとアンタらしいからさ、どっちも止めたんだ」
物騒な事を簡単に云うこの餓鬼は矢張り夜兎であり海賊である。
奪うことと殺すことを生業にする種族だ。
骨の髄までそういう生き物なのだ。
「だから商人としてのアンタと寝てみたいと思ってさ」
「そうかい」
下男に朝まで誰も近付かせるなと命じて高杉は己の部屋の襖を閉めた。
奥の障子を開ければ高杉気に入りの庭も見えたが今はそれも野暮だろう。
神威に指示を出して布団を敷かせて、それから高杉は煙管で煙草を燻らせ、吸い終わった頃に意を決して立ち上がり帯を解いた。

「で、どっちだ?」
「どっちって?」
見目だけなら可憐な少女と云っても通用するような餓鬼である。
神威はさらさらとした珊瑚色の髪を揺らしながら青い眼をぱちくりとさせ高杉を見つめた。
「てめぇが抱かれる方なのか抱く方なのかって話だ、どっちもか?」
「どっちもは考えてなかったなぁ、うん、高杉相手ならいけそうだけど、とりあえず今は俺が抱く方がいいかな」
「云うと思った」
だいたい今は、とは何だ。まるで次があるかのような神威の口ぶりに高杉は辟易としながらも灯りを少し落としてから神威にも衣服を脱ぐように指示する。
「いい身体してやがる」
脱いだ神威の身体は暗がりでもはっきりとわかる。高杉とて鍛えてはいたし、自衛の為に刀も扱える。腕も武人になれると云われるほどに相当のものだったが矢張り相手は夜兎だ。細いながらも引き締まった身体に、発展途上の若さが見えて、一体全体なんだってこんな餓鬼が己と寝たがるのかの方が高杉には不思議である。
「俺をイかせたらお終い、契約は成立」
「いいぜ、」
高杉は半ば自棄になりながらも神威の下着を下ろし奉仕するように萎えた其処に指を添え、固く起立させることに専念した。
上手く行けば神威を受け入れなくても済むのでは無いかという淡い期待もある。
しかしこれが甘かったことに高杉は後で気付く。
気付いた頃には遅かった。

「・・・っく、ぅ、」
神威のものが高杉の中を行き来する。
最初は手だけで神威のものを煽った。固くはなったが達さない。
仕方無いので口で奉仕してやればこれもまた粘る。
神威が苦しそうにしているのでこれはいけるかと思ったがこれも駄目だった。
更に口淫しようとしたところで神威が「今度は俺の番」と高杉を押し倒したからいけない。
身体を弄られ、抵抗しようにも夜兎の莫迦力であっという間に封じられ、あとは神威の独壇場だ。
高杉が止むに止まれず用意した軟膏を使って中をじっくりと解すところを見るとこの手のことには疎いのかと思えば存外場馴れしているらしかった。
「・・・ってめぇも男馴れしてンのかよ、ッ」
高杉の問いに神威は己の固く起立したものを中に宛がいながら「冗談」と否定する。
「男なんて、趣味じゃないし」
「じゃ、なんで俺なンだ、」
苦しくて悲鳴をあげそうになるのをどうにか堪えながら高杉が抗議の聲をあげると神威はその眼を悪戯に細めた。
あと二、三年もすれば周りが放っておかないようなさぞかし男前になるであろう面構えで。
「高杉の眼とか、聲とかさ、そういうのが気になって、あんたと会ってるうちに、なんとなくさ、わかったっていうか」
「は?・・・ッ」
何を云っているのか、この餓鬼は。
待て何の話だ?そもそも俺はなんでこの餓鬼とこんなことになっている?そう思うのに、ぐ、と神威に中を抉られれば駄目だった。
痛みの中に別のものがせり上がってきそうで真っ白になる。
「目線とか、あんたの動きひとつひとつが俺には好ましくて、そのうちそれが惚れたってことなんだって」
「ちょっ、待っ!」
待てという制止も聞かずに神威が追い上げてくる。
まさか、と思う前に神威が更に畳みかけてきた。
ぐ、ぐ、と押し上げられて前を弄られれば駄目だ。
高杉の頭が真っ白になって、弾ける。
その後、二度三度とイかされて、最後には「早くイけ」と神威に懇願した気もする。
ぐったりとした身体で高杉が隣を見れば満足した様子の神威が寝入っているでは無いか。
痛む身体を引き摺りながらどうにか高杉が起き上がり煙管に火を点けようとしたところで神威の衣服から高杉と先程契約した契約書が見える。

確かに見積もりだけでも高杉は通常よりは相当高い金額を吹っかけた。
けれども割に合わない。
神威はやたら粘るし、結局一度の到達では済まなかった。
神威が中に放って終わりかと思ったら、火がついたのかそこから更に追い立てられたのだ。
痛みばかりがある行為であるというのに、神威がしつこく高杉を煽るので高杉も生理的な反射で何度も達せさせられた。
これでは割に合わない上に、約束が違う。確かに神威が一度イけば終わりであったので高杉が何度イっても問題なかったが最終的に意識を失うまでに何度したのか、苛立ちのままに高杉はその契約書を取り出した。
これは割に合わない。
ならば毟ってやろうではないかと高杉は隣で寝息を立てる神威の横で、す、と筆を取りだした。



朝、神威が起きればやけに甲斐甲斐しく高杉が世話を焼いてくれるではないか。
これは落とせたかと神威は期待しながらも高杉が用意した朝食を食べ、後日また納品日の相談や仕様の相談で打ち合わせるということで実に機嫌良く高杉屋を後にした。
しかし神威は知らない。己を送り出す男が商売の達人であることに。

「何、こちらも商売だからよ」
神威を見送りながらいつ気付くだろうかと高杉は笑みを洩らした。
あの契約書に高杉は一足したのだ。契約書の前に不自然な間を設けてはいけない。
地球の商人は未だに漢数字を使うことも失念してはいけない。
高杉は1と書いていた最初の数字に横一線を足して十にしたのだ。
今頃神威は気付いただろうか?
それを想うと高杉はそっと笑みを洩らした。
さて、怒鳴り込んでくるか、それとも払うか。
あの餓鬼はどうするつもりか・・・。


「ちょ・・・団長!!一億がなんで十億になってンだよ!ちょ・・・!!しかも高杉屋の契約書はレートが地球円だぞ団長!どーすんだよこれ!」
神威が交わしてきた契約書を検めていた阿伏兎が悲鳴をあげる。
「あり?そうだっけ?」
「これ酷くね?今地球円がいくらだと思ってやがる!売り方がヤクザと変わんねぇよ!あの性悪!」
道理で高杉らしからぬ笑顔で送り出されたわけである。
しかし無体を強いた自覚もあるので神威は笑みを浮かべた。
それこそ高杉らしい、己の見込んだ男である。

「なんの一億が十億になったくらい、払うさ」
「はぁ?無茶云うなよ団長・・・!こっちのレートに直せば軽く三十億は・・・!」
阿伏兎の盛大な顰めっ面に神威は悪戯に微笑む。
「払えば、高杉に貸しになるだろう?払うって向こうは思ってないんだから、払えばサービスしてくれるさ」
そう、これは駆け引きだ。
神威と高杉の。
高杉は神威が払うとは思っていない。よしんば払っても色を付けて当初の金額の倍だ。
まさか十倍の値を払うとは思うまい。
しかし払おう。
払えば、高杉は神威に借りを作ることになる。払えないと思っているからこそ、神威は払うのだ。
その価値がある男だと神威は想っている。
「何ゆってんの、莫迦なの?莫迦になったの団長!?無理だろ!」
「さー阿伏兎、星のひとつやふたつ、みっつやよっつ、いっそのこと星系ごと落としてこようか」
そしてにこやかに今日も船は往く。宇宙を制覇する為に。


12:海賊稼業に精を出す。

お題「商売」

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