※模造設定等があります。幼少の話→今の話。 高杉は最初から特別だった。 特別で何もかも違っていた。 そういう生まれの男なのだと、子供心にも思ったものだ。 高杉という子供に出逢った時、銀時も子供であったがとても同じ生き物とは思えなかった。 勿論、戦場しか知らぬ銀時にとっては先生に連れてこられたこの塾で会った子供たちが初めての同じ年頃の子供である。どんな子供でも皆銀時より身形は良かったし、とても己と同じ生き物とは思えなかったものだ。そのうち先生があれこれと銀時に世話を焼いてくれるうちに、その子供たちの幾人かとは銀時も同じような身形になったと幼い銀時にもわかった。そして数日経って先生に塾の生徒として紹介された時に、桂や高杉を知った。 桂は最初からきちんとした身形の子供だった。他の子供ともちょっと違う。戦場でも身形の良い奴は大抵馬に乗っていたが、そんな感じの子供だ。そう云った子供もこの塾には何人か居た。そして生来の生真面目さからして先生は桂に銀時の面倒を見るように云ったのだ。真面目に銀時に対して物の説明や塾生を紹介する桂に最初は呆れて付き合うのを避けたが、これが何処に行っても銀時を探し当ててあれこれと世話を焼く。仕方無いので桂のしつこさに根負けした銀時が付き合っていると、夕刻に遅れてやってきた子供が居た。 それが高杉晋助であった。 高杉を見たとき直ぐにわかった。この子供たちの中で、高杉だけは全く別のものだった。 一目見て育ちが違うのがわかる。桂みたいにちょっと恵まれた環境の子供でも無い、もっと別格のものだ。 ただの村塾に来ているというのに普段着の筈の高杉の着ている衣服が他と子供と違うのが銀時にも直ぐにわかった。 最初から違うのだ。他の塾の子供と話ながらも高杉は立場が違ってみえた。 また高杉に付き従う子供たちも、高杉とは一線おいているようだった。これが力でねじ伏せたような御山の大将だったら銀時にもわかる。けれども高杉は違った。生まれながらに違った。 その立ち居振る舞いや、躾けられた様子から、あいつは何者だと桂に問うたら「高杉晋助だ」と答えられた。 後になって塾の子供に訊けば、高杉は生まれつき官僚という偉い職に就けるような武家の嫡男だと知った。 一人息子で、大層大事にされていて、けれども祖父の反対もあるからこうしてこっそりこの村塾に通っているのだと。 或る時銀時が一人で塾に居た高杉に問うたことがある。 「お前、もっとイイところで勉強できんだろ?なんで此処にいる?」 高杉みたいな良家の子供はもっと別の学校に通わせて貰えるらしい。それを聴いた銀時はずっと不思議だったのだ。 すると高杉は銀時を一瞥してから答えた。 「あんなのただの昔の因習に駆られてるだけで何も勉強にならない」 だからこちらの方が余程益があるのだと高杉が大事そうに先生の教科書を仕舞うのでそれを聴いて銀時はそうなのか、と納得しながらも僅かに高杉に親近感を抱いたのも事実だ。 銀時からすれば高杉は全く別の生き物だ。桂は『煩い』で銀時の中で片付けられたが、高杉はどうも違う。 話をしても高杉も言葉少なだし、銀時もこんな相手とどう話していいのかもわからないし、知らなかった。 それまで銀時は高杉を遠目に見ていただけだったが、考えを改めることにしたのだ。 多分、こいつは軟弱なオヒメサマみたいなものと大差ないのだろう。最近先生が寝る前に絵本を読みなさい、と持ってきた本の絵にあったオヒメサマ。高杉はきっとそんなのだ。銀時には高杉の立場というものが想像もできなかったので想像の限界が其処だった。 だからしてオヒメサマなら弱いから銀時が何かと手伝ってやらねばならないのだろう。 思えば桂も他の塾生も高杉に対しては甲斐甲斐しく世話を焼くではないか。 だから銀時もそうするべきなのだろうと、なんとなく思っていたがこれがとんだ間違いであった。 或る時銀時が、高杉を遠目から見ていたら、普段高杉を良く思っていない(親の都合でという銀時には良くわからない対立だった)子供達三人ほどで高杉に石を投げた。慌てて銀時が駆け寄ろうとしたら高杉がより大きな石を持ってやり返しているではないか、最終的に桂が仲裁に入ったが、銀時はそれを見て呆気に取られた。あれ?オヒメサマってこんなだっけ?と。 その後高杉が相手の家に何食わぬ顔で放火しに行ったというのだから更に仰天である。 幸いにも火事には至らずぼやで収まったが流石に親に呼ばれ、高杉は今度こそ村塾にも来られないかと危惧したら、不遜にも相手が悪い、あんな子供を育てた親にも責任があるとかなんとか云い張って結局、高杉の親も、相手の親も黙り、有耶無耶にしたという。 「当然だ、あんな奴等に舐められてたまるか」 「・・・」 銀時はこの時、このオヒメサマが只者では無いと学習したのだった。 * 高杉晋助という男は神威の中で最も異質な男だった。 人型ではあるが辺境の蛮族、侍とかいう集団の一つの長である男だ。 思えば高杉は出遭いから違っていたが、縁あって神威が高杉に助けられて現在は神威が高杉に手を貸す形で共闘を結んでいる。 夜兎である神威が手を貸すのだから、当然高杉の勝利は目に見えていたし、神威は高杉が望むのならそれ以上の手さえ貸してやろうと思っていた。けれども高杉という男は非常に人を遣うのが上手い男だ。 上に立つ者というのは夜兎である神威にとっては力だ。力を持つ者だけが許されたものであり、夜兎においてはそれだけが唯一の序列を決定する本能的階級分けだった。けれども他種族においてはそれが通じないことも神威は知って居るし、また心得てもいた。 高杉を一目見た時に神威にはわかった。 この男には何かがあると、本能的に理解した。 高杉は他の者とは違う。 誰かを生まれつき遣うことに慣れた男だ。夜兎のように叩き上げでもなければ、力尽くでも無い。 生まれつき己が何かを統べることが出来る男。 神威とて随分厳しく夜王鳳仙に師事していた頃に躾けられたものだが、高杉のは質が違う。 育ちがいい。その立ち居振る舞いから、乱暴に見えて整えられた仕草に、物腰。 破壊を欲する癖に生来身に着いたそれらが返ってアンバランスで、それがまた高杉の魅力を引き立てていた。 酷く魅力的な男だと神威は高杉を見る度に思う。 一度接待で高級な女を売る店に連れていかれたことがあったが、その時見たどの女より高杉の方が優雅で品があった。 無論その時、それが何なのか理解しなかった神威が結局女を殺して終わって仕舞ったので、後始末に奔走した阿伏兎があれは苦労したと今でも云うのだから相当苦労したのだろう。それも神威にはどうでもよかったが。 云うなれば高杉は女であれば王の女になるべくして生まれたような者だ。 これが欲しいと思わせるような男。 その高杉に酒を注ぎながら、神威は酷く魅力的な男を目で見遣った 夜を共にするようになってからは尚の事、高杉に嵌っているのもわかっている。流石にこれほど高杉との夜に焦がれては神威にもその自覚はあった。 けれども身体は正直なもので止まらない。 高杉と居ると時間を忘れてしまうようだ。 これでは日の輪という女を閉じ込めた師と何も変わらないではないか。 神威は高杉の手を掴んで云った。 「いっそのことアンタを殊更丁寧に扱うのはどうだろう?閉じ込めて姫のように扱うんだ」 その手の甲に唇を寄せながら神威が云えば、何がおかしいのか高杉がくつくつと哂いを零した。 そして徐に神威の髪を掴み高杉が云う。 「やってみろよ、そうしたら、俺ぁお前を殺すぜ」 ぞくぞくする、たまらない。 この男を押し倒して俺の物にしたい。 俺の物になるべきだ。 否、必ず俺のものにする。 これは俺の獲物だ。 殺すのも、抱くのも、手にすれば全て神威の自由だ。 だから高杉を手にしたら、殊更大事にその首根っこに噛みついてやろうと思う。 抵抗するこの男に噛みついて、身体中を暴いて、抱いて、何度も己を受け入れさせて、殺すのは後でいい。 高杉の身体の隅々まで己のものだと刻み付けたい。 その乱暴な欲求のまま、己の髪を乱暴に掴む男に神威は笑みを浮かべた。 「殺してみせてよ」 ふふ、と笑う神威に、高杉から乱暴な口付けが降ってくる。 それを享受しながらも、この酷く魅力的な男との、魅力的な夜の時間をどう楽しもうかと神威は高杉を押し倒した。 高貴な男が墜ちて足を開いて、或いは己を強請る様は、堪らない。 いつか手に入れる。 手に入れるが、未だ手に入らないこの男とのこの遣り取りもまた楽しい。 「そのうちてめぇを殺してやらぁ」 「そのうち俺も殺してあげる」 高杉は最初から特別だった。 特別で何もかも違っていた。 そういう生まれの男なのだと、思ったものだ。 06:特別な男 |
お題「育ちのいい坊ちゃん」 |
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