※3Zネタ。


普段高杉はあまりテレビの類は付けないのだが、その日は万斉のマンションから通学だったのでたまたま朝の占いコーナーを観て仕舞った。
切っ掛けはそれである。
「今日は午前中は雨ですが、午後からはあがります」
お天気コーナの後、結野アナが今日の占いコーナーを読み上げた。
「8月生まれの獅子座のあなた、今日の運勢は最悪です。特に8月10日生まれの男性は要注意!運はつきますが、後の運勢が最悪です。犬、鳩、自転車、車、鉄筋、水などのその他諸々に注意してください。注意しないと死にまーす!」
「ぶはっ」
あまりにも爽やかに云うので高杉は口にした珈琲を噴出して仕舞った。
「死ぬっておい・・・」
爽やかに云われても困る。しかしテレビの中の結野アナは爽やかな笑顔のまま占いを続けた。
「ラッキーアイテムは三つ編みです。必ず持ち歩いて下さいね!死にますから!」
なんて云うので、なんとなく聞き流していただ高杉も流石に意識に留めた。
何せ死ぬとまで占いで云われるのだから堪らない。
「何かあったでござるか?」
晋助、と問われて、高杉はテレビを指差し「俺今日死ぬんだとよ」とだけ答える。大して信じてはいないが、妙に意味深な占いではあった。
朝が弱い高杉はそのまま学校へ向かうという万斉の誘いを置いて「先に行け」とだけ云い、高杉はだらだらと通学の用意をし、やっと学校へ向かう気になったのは雨の上がった十一時も過ぎた頃である。
( 着くころには昼か・・・ )
昼飯何食うかななどと考えていた矢先のことだ。
「うおっ」
ぐに、と踏んで仕舞った嫌な感触に高杉は顔を顰めた。
やっちまった・・・。
乾燥しているが雨で戻ったらしい犬の糞である。
「最悪だ・・・」
ごしごしと地面に靴を擦りつけてやり過ごしていると制服に今度はぽつり、と白い跡がある。
「鳩の糞かよ・・・」
何故空から落ちてきたものが高確率で高杉に当たるのか。
舌打ちをしながらもこの段階で高杉は早くも学校へ行く気が失せてきた。
上はクリーニングに出して、靴はもういっそのこと買い直すかと学校へ向いていた足を繁華街の方へ向ける。
「運・・・ってこれかよ・・・」
最悪だ。
溜息を吐いたところで、前方から来る自転車とぶつかりそうになる。
「・・・っ!」
避けたが、水が跳ねた。雨上がりなので水溜りの水が高杉のズボンに盛大に跳ねたのだ。最悪である。
何だ今日は?厄日か?
「ちくしょ・・・っ」
その直後のことだ。角から車が飛び出してきてこれはやばいと高杉は思った。
咄嗟に避ける為に走るが今度は大きな水溜りに嵌って仕舞い結局全身ずぶ濡れである。
「ちっ・・・」
盛大に舌打ちをして高杉はなんとか身形を整え立ち上がった。
タオルなど持っている筈も無いので水を手で払えるだけ払って、とにかく何処かの店で服を調達しようとする。
その前にこの憤りを鎮めるために煙草に火を点けようとしたら今度はライターが見つからない。
何処に入れたかとズボンや上着の内ポケットを捜した為にその場で高杉が一瞬足を止めた。
その瞬間のことだ。

ガコン、と大きな音を立てて直ぐ隣の工事現場から釣り上げていた鉄筋が落下した。
高杉の目の前で、だ。
ガラガラガラと鉄柱の役割を果たす鉄筋が落ちてきて、地面にのめり込む様を目の当たりにして高杉は凍った。
大丈夫ですか?と係員が声をかけてくるがそれどころでは無い。
顔はサア、と青褪めどうにか見つけたライターも火を点けるどころか、手が動かない。
ライターを探す為に足を止めていなければどうなっていたか。
ひやりとしたものが高杉を伝った。
( やべぇ・・・俺・・・死ぬ・・・! )
そもそも只の占いだと高を括っていたが、驚異の的中率である。
8月10日生まれの男性なんて高杉を指定しているようなものだ。
犬、鳩、自転車、車、鉄筋、水・・・全てが的中しているではないか。
( だいたい、その他諸々ってなんだよ、省略すんなよ・・・ )
この不運に続く不運が省略されては堪ったものでは無い。
運が付くも犬と鳩の糞に当たっただけでは無いか。
とにかくやばい。このままだと俺は死ぬ。
それだけは確かである。
咄嗟に高杉は今日のラッキーアイテムを思い出した。

『ラッキーアイテムは三つ編みです。必ず持ち歩いて下さいね!死にますから!』

ラッキーアイテムでは無くてラッキーパーソンではあるが、 三つ編み・・・三つ編みと云えばあいつしかいない。
最早一刻の猶予もままならない。今直ぐ行動しなければ高杉は死ぬ。
そんな強迫観念から常ならば鼻で哂い飛ばすようなことだったが、高杉は占いに従った。
携帯の電話帳から直ぐ様心当たりの相手を呼び出せばものの数コールで相手が出る。
「おい、今何処だ?今直ぐ来い」
電話口の相手は夜兎高の神威である。
色々あって最近はつるむことが多いのだ。
基本的に神威の家に高杉が入り浸っていることが多い付き合いであるが喧嘩以外でもプライベートで合うことが多かった。
『今何処?』
「駅前だ、映画館側」
『えー・・・そこまでだと急いでも二十分はかかるけど』
云っておくが今は授業中である。恐らく神威も学校なのだろう。
けれども堂々と電話に出るあたりが神威である。かける高杉も高杉であったが然したることも気にしないのが神威と高杉その人であった。
「いいから早く来い!五分で来い!一歩でも動くとやべぇ、でないと俺が死ぬ・・・!」
『死ぬ?喧嘩?違うの?まあ、高杉が其処まで云うなら頑張るけどさ、今日泊まってくれるの?』
「何でもいいから直ぐ来やがれ!今日は絶対ぇてめぇから離れねぇよ」
『熱烈だなぁ、ちょっと待ってて』

その後、神威は言葉通り五分で来た。
電車で三駅はある距離をどう来たのかは流石に高杉も不明であるが、来てくれさえすれば高杉の不運は解決する気がしたので良しとする。
その日、日付が変更するまで高杉は神威の傍を離れなかったという・・・。



その翌日、例にも依って占いコーナーである。
「ふーん、高杉、今日俺死ぬってー」
「あー、そうかよ、人の身体散々好きにしやがって、さっさと死ね、クソが」
不機嫌そうに歯磨きをする高杉はさっさと神威の家を出て行こうとする。
けれども、それを神威が阻んだ。
にっこり笑顔で、逃がさないと云うようにがしり、と高杉の肩を掴んで云い放つ。

「ラッキーアイテムは眼帯の彼だってさ」


01:今日のラッキーアイテム

お題「占い」

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